がんに関する情報
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内視鏡治療の成績

内視鏡治療と成績

最終更新日 : 2024年4月23日

食道表在がんの内視鏡的治療

食道における内視鏡的治療の代表的な方法は、ESD (Endoscopic submucosal dissection; 内視鏡的粘膜下層剥離術)です。当科では基本的にESDで治療を行っており、年間の治療件数は300件以上に上ります。食道がんに対するESDは2008年4月に保険収載されてからまだ10数年ですが、当科では数千件の治療経験があり、安定して安全に良い治療を行うことができております。治療に伴う有害事象は0(ゼロ)にはなりませんが、より安全に行うために、日々研鑽を積んでおります。

病変が小さい場合に用いる治療法として、EMR ( Endoscopic Mucosal Resection-using a Cap fitted endoscope; EMR-C)があります。簡便で短時間に安全に行うことが出来る治療法ですが、広範囲の病変を一括に切除することができないことが難点です。

また、広範囲の病変を切除した際には、創傷治癒過程において瘢痕狭窄(管腔が狭くなること)が生じ、嚥下障害をきたしてしまう場合があります。当科ではステロイドの局所注射を用いた瘢痕狭窄予防を行っており、良好な成績を得ています(狭窄の頻度が、予防以前の1/2以下になりました)。また、食道の亜全周、全周に及ぶ病変に対する広範囲切除後は、ステロイド局所注射療法に加えてステロイド内服療法を行い、狭窄予防に努めています。

ESDの実際(図1.〜6.) 

当院では,主にDualナイフやSBナイフおよびITナイフnano を用いて行っています。SBナイフを用いた切除手技の実際は以下の通りです。

  • 図1. 食道がんは赤い領域として認識されます。
  • 図2. ヨード染色後に切除範囲に目印をつけます。
  • 図3. ヒアルロン酸を注射して、目印の外側に粘膜切開を行います。
  • 図4. 粘膜切開を全周に行ったのちに、粘膜の下(粘膜下層)にもヒアルロン酸を注射します。粘膜下層を把持して、高周波電流を流して病変を剥離します。
  • 図5. 切除後はちょうど癌を含めた粘膜が切除されてなくなっています。出血や穿孔などの有害事象がなく治療が終了しました。
  • 図6. 切除後の標本です。ヨード染色を行うと黄色く見える範囲ががんであり、十分な範囲で取れていることが分かります。この後、顕微鏡で確認する病理学的評価を行います。

EMR(EMR-C)法の実際

  1. 食道がんは淡い発赤として見え(図1・矢印)。ヨード染色により、範囲が明瞭となります(図2・矢印)。
  2. 病変の周囲に切除すべき範囲の目印を付けます(図3)。
  3. 粘膜下に生理食塩水を注射して粘膜を膨隆させ(図4)、内視鏡の先端に取り付けた透明な筒(Cap)に吸い込み、基部をスネアと呼ばれるワイヤーで絞扼します(図5)。
  4. 絞扼後、高周波電流で通電切除します。
  5. 切除後は人工的な潰瘍ができます(図6)。最初につけた目印は残っておらず、完全に切除できたことがわかります。また、切除標本をヨード染色すると、十分な範囲で取れていることが分かります(図7)。
  6. この標本を顕微鏡で確認して病理学的にがんの拡がりや深達度を診断し、追加治療が必要かどうか判断します。

広範囲切除後の狭窄予防法の実際(ステロイド局所注射療法)(図1.〜4.)

ESD法による切除範囲が広範囲におよんだ場合には、切除後の人工的な潰瘍底にステロイド(トリアムシノロン)液を局所注射し、狭窄予防を行う方法です。

  • 図1. ヨード染色を行い、切除範囲に目印を付けます。
  • 図2. ESD後の潰瘍。切除範囲が約5/6周性と広範な粘膜を切除しました。
  • 図3. ESD後の潰瘍の辺縁および潰瘍底にステロイドを注射します。
  • 図4. ESDより6ヶ月後の内視鏡像です。狭窄なく治癒しています。

3.食道がんESD/EMRの治療成績

当院で2019年から2023年にESD/EMRを施行した1363例1708病変の治療成績を示します。

一括切除率 99% 1689/1708
(病変が一括で切除された割合)
有害事象 穿孔(食道壁に穴があく) 0.3% 5/1708
狭窄(食道が狭くなる) 2.0% 27/1363
後出血(後日に出血する) 0.3% 5/1708

有害事象が生じた上記の事例では、全て内視鏡による治療で軽快しております。

当科の内視鏡治療における特色

  • 多い内視鏡治療件数
    近年では年間約300件と日本有数の内視鏡治療件数であり、豊富な治療経験に基づいて最善の治療方針を立てて有害事象の予防にも努めています。また有害事象が起きた際も迅速に対応しています。まだ日本で多くないバレット食道腺癌の治療件数が豊富であることも特徴です。
  • 治療困難例にも対応
    治療が困難な食道入口部の食道がんや放射線治療後の再発がん、また、食道がんを繰り返している方における以前の治療痕がそばにあるがん(瘢痕合併例)などの治療困難例に対しても適切な治療を提供しています。半周以上に広がる周在性の広いがんも多くの経験しており積極的に内視鏡治療しています。全周に近いがんも内視鏡治療を行っていますが、他治療法とのメリットデメリットをご説明した上で良い治療選択ができるよう努力しています。
  • カンファレンスによる十分な検討
    主治医の判断に偏ることなく、上部消化管内科全体でもすべての治療例を術前にカンファレンスで供覧して治療方針の確認、検討を行っています。また、内視鏡治療以外の治療選択肢がある場合や追加治療を検討する場合には、内視鏡医だけではなく、腫瘍内科医、食道外科医および放射線治療医が週1回集まり開催している「食道カンファレンス」で検討して治療方針を決定しています。
  • 臨床研究
    日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)における研究への積極的な参加だけではなく、当科主体の研究も積極的に行っています。そういった研究により先進的な医療開発に貢献し、治療精度や治療成績の向上に努めています。また、その成果を積極的に日本国内だけでなく世界に発信しています。

治療件数の推移

最近10年間の内視鏡治療症例数です。コロナ感染時期に一時的に減っていますが徐々に増加しています。

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