がんに関する情報
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ペインクリニック・がん以外の痛みの治療

ペインクリニック・がん以外の痛みの治療

最終更新日 : 2015年4月23日

目次

Chapter.1:ペインクリニック

ペインクリニックとは

ペインクリニックは麻酔の応用から始まりました。局所麻酔の手技を応用し、痛みを治療しようとする診療科であるため、神経ブロックが主体となりますが、通常の薬物療法、漢方薬治療、通電鍼治療、低出力レーザーによる治療なども併用し治療を行っています。

対象疾患はがん性疼痛のみならず、帯状疱疹による痛み、三叉神経痛、頭痛、五十肩、腰痛などの痛みのほか、顔面神経麻痺、顔面けいれん、反射性交感神経萎縮症(RSD)、バージャー病などの疾患の治療も行っています。

神経ブロックにはどのようなものがあるか

神経ブロックのなかでよく行われるものとして、星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、三叉神経ブロックなどがあげられます。これらのブロックは神経を局所麻酔剤により麻酔してしまうため、短時間のうちに劇的な変化が現れるものが多くあります。症状が劇的に改善することはよいことですが、同時に種々の副作用が起こる場合もあります。多くの副作用はなんら処置をしなくてすむものですが、まれに緊急な処置を必要とする副作用が発生する場合もあるため、ブロック後は慎重な観察が必要です。このため、神経ブロック施行後は少なくとも15〜30分ベット上で安静にしていただきます。

神経ブロックを1回行っただけで治癒してしまう場合もありますが、急性期の患者の多くは集中的なブロックを必要とします。その後、症状が緩和していくに従い、神経ブロックを行う間隔はあいていくようになります

星状神経節ブロックとは

星状神経節ブロックとは、局所麻酔薬により頸部にある交感神経をブロック(遮断)するものです。これにより、顔面・頭部・上肢への血管を拡張させ血液の循環を良くし、生体にとって必要な酸素や栄養を充分に供給することを目的とした注射です。この注射を受けると次のような症状が出現します。

  1. まぶた(眼瞼)が重くなったり、下垂する。
  2. 顔面がほてる。
  3. 眼が赤くなり(結膜充血)、ものが見えにくくなる。
  4. 鼻がつまる。
  5. 汗がでにくくなる。
  6. 手が暖かくなる。
    これらの症状が、いつもすべてでるとは限りません。また、以下の症状がでることもありますが、心配はありません。
  7. 声がかすれたり、息苦しくなる。
    このような場合は飲食しますとむせますので、症状がなくなるまで、飲食しないで下さい。
  8. 注射部位の痛みや内出血、手のシビレや脱力。
    このような症状は数時間でかならず元に戻りますので、心配ありません。ただし、車の運転はしないで下さい。

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Chapter.2:頭痛

一番多い頭痛はどういうもの

頭痛のなかで一番の多いものは緊張型頭痛で、慢性頭痛6〜7割を占めるといわれています。緊張型頭痛とは国際頭痛学会で分類されたという呼び名で、それまで緊張性頭痛、筋収縮性頭痛、本態性頭痛、ストレス頭痛などと呼ばれていたものの総称と言えるものです。

緊張型頭痛は精神的なストレスや身体的ストレス、つまり不自然な姿勢や疲労などにより身体の筋肉が緊張し、さらに血液の循環が悪くなるために起こります。年齢的には中高年に起こりやすいもので、肩から背中にかけて広がる僧帽筋が緊張し、それが頭の後頭筋や側頭筋に伝わります。そのため後頭部を中心に起こり頭を鉢巻で締めつけられているような痛みとなって現れ、側頭部や首筋にかけても痛みが起こります。ジワジワと続く鈍い痛みで、頭痛とともに肩や首筋のコリを伴うこともあります。また、筋肉の緊張が目の奥にまで影響し、目の疲れや、めまいが生じることもあります。

原因は姿勢の悪さ(うつむき姿勢など)、長時間のデスクワークや運転、枕の高さが合わないといった身体的ストレスのほか、不安や緊張、抑うつ状態といった精神的ストレスも大きく関与します。夕方に痛みが起きたり増強したりするのも特徴で、仕事などによる精神的・身体的ストレスが蓄積されることが原因だと考えられています。近年、パソコンの普及により患者は増える傾向にあります。

緊張型頭痛の予防法と治療

緊張型頭痛の予防法として、日常生活でできるだけ肩こりを起こさないようにすることが大切です。そのためには、デスクワークの際に肩や首に負担のかからない姿勢をとるように心がけるほか、長時間同じ姿勢をとらないようにし、1時間に1回程度を目安にストレッチなどで筋肉をほぐすようにすることです。また、精神的なストレスを解消することも重要です。原因となっている問題を具体的に把握するだけでも精神的ストレスはかなり改善されます。

これらの予防法でも頭痛が改善しない場合には、医師の診断のもとに薬の内服やマッサージ、低周波療法などの理学的治療が必要になります。内服薬は通常の消炎鎮痛薬のほか、筋肉の緊張をやわらげる筋弛緩薬や精神的ストレスをとる抗不安薬などが一般に処方されます。

片頭痛とは

緊張型頭痛は筋肉の緊張などにより血管が収縮し血液の流れが悪くなることが誘因となる頭痛ですが、片頭痛は何らかの原因で頭蓋骨の内や外の血管が拡張することにより、血管の周りにある神経が刺激されるために起こる頭痛です。

血管が拡張するメカニズムは不明ですがいくつかの説が考えられています。動脈を収縮させているセロトニンという物質が何らかの原因により突然に減少しその結果動脈が拡張するという血管説、三叉神経の末端から何らかの原因により痛みの物質が大量に放出され、その刺激で脳の血管が拡張し炎症を起こすという三叉神経血管説などが有力です。いずれにしてもその根本的な原因は不明です。片頭痛は比較的若い年代に多く、年をとるに従い症状は軽くなる傾向にあります。また女性に多いのも特徴です。遺伝的要因もあると考えられ、特に母親からの遺伝性が強いとされています。

片頭痛は血管が拡張するために起こるため、ズキンズキン拍動する激しい痛みが起こります。緊張型頭痛のように徐々に痛みがくるのではなく、急に激しい痛みが襲ってきます。片頭痛と言いますが多くは頭の両側が痛みます。数時間から数日続く痛みが1ヵ月に数回繰り返されるのが特徴で、しばしば吐き気や嘔吐を伴い音や光に敏感になることもあります。 頭痛発作の起こる2〜3時間前にあくびやイライラ感が出現したり、お腹が空いて甘いものが食べたくなるなどの気分や体調の変化が起こることがあります。さらに一部の人には頭痛発作の起こる30分位前に目の前にチカチカした光が広がり、その後中心部から見えにくくなる現象が起こります。

睡眠不足や運動は片頭痛を引き起す誘因となります。またストレスは片頭痛の誘因になるばかりかしばしば片頭痛を悪化させます。人ごみや騒音、強い光などの物理的刺激も誘因になります。さらに一部の飲食物の摂りすぎも誘因になります。例えばお酒(特に赤ワイン)、チョコレート、チーズ、ソーセージ、柑橘類、ナッツ、香辛料、味の素などによって片頭痛が起こることがあります。女性ホルモンの変化も誘因になり、生理の前後はホルモンが急激に変化するため片頭痛が起こりやすくなります。逆に妊娠中はホルモンが安定するため起こりにくくなります。

片頭痛の予防と治療法

片頭痛が起きた場合にはいくつかの自衛策があります。まずは安静を保つことです。特に暗い静かな部屋で横になるのが効果的です。緊張型頭痛では頭や首を暖めると症状が緩和しますが、片頭痛では逆に痛む部分を冷やすと血管が収縮し痛みが緩和します。また、適度な睡眠をとると拡張した血管が正常に戻るため症状が緩和します。カフェインには血管を収縮させる作用があるためコーヒーが効果的な人もいます。

痛みが軽い場合は通常の消炎鎮痛薬や市販の鎮痛薬の服用で痛みがほとんどなくなります。ただしこの際は他の痛み同様に痛みが強くなってからでは薬はあまり効かないので、なるべく早めに服用することが重要です。片頭痛の治療薬は発作時の薬と発作を予防する薬があります。頭痛発作時の薬は従来エルゴタミン製剤(商品名ジヒデルゴット、カフェルゴット、クリアミンなど)が使用されていましたが、近年はセロトニン作動薬であるトリプタン系製剤(商品名イミグラン、ゾーミック、レルパックスなど)が効果的で副作用も少ないことからよく使用されています。片頭痛の予防薬にはいろいろなものがありますが、カルシウム拮抗剤のロメリジン(商品名テラナス、ミグシスなど)や消炎鎮痛薬、β遮断薬が有効とされています。

発作の予防薬は漫然と長期間にわたり使用するものではなく、できる限り使用量を減らすことが重要です。通常、発作が頻発する場合や発作の頻度は少なくても発作が重症の場合などに限定されるものであり、医師の指示に従い服用するように心がけて下さい。

群発頭痛とは

片頭痛に似ている群発頭痛という頭痛があります。群発頭痛は片頭痛と同じように血管の拡張が原因で起こると考えられていますが、比較的まれであるため片頭痛や三叉神経痛と間違えられることがあります。片頭痛が女性に多いのですが、群発頭痛は20〜30代の男性に多い頭痛です。

突然に目の奥やこめかみのあたりをえぐられるような非常に激しい痛みが起こります。片頭痛は4〜72時間程度持続しますが、群発頭痛は1時間程度で自然におさまります。群発頭痛は年に1〜2回、あるいは2〜3年に1回程度現れ、発作が起こっている間は毎日のように起こり、これが6〜12週間程度続きますが、その時期が過ぎれば全く頭痛は起こりません。このように群発的に頭痛が起こるため群発頭痛という名前がつけられました。頭痛は夜間の睡眠中に起こりやすく、明け方に痛みで目を覚ますこともあります。また発作中に頭痛のある側の目が充血したり、涙が出る、鼻が詰まる、鼻汁や汗が出るなどの症状を伴うことがありますが、片頭痛のように吐き気や嘔吐が起こることはほとんどありません。

群発頭痛の予防と治療法

治療は頭痛発作を起こりにくくする予防療法と、発作が起こったときに痛みを止める頓挫療法に分けられます。群発頭痛の予防で重要なことは日常生活での注意です。発作の全くない時期での飲酒は問題ありませんが、群発期間中は飲酒により頭痛が誘発されるためお酒を控えるようにします。

気圧変化や海抜1500メートル以上の高地では酸素が低下し発作の誘因となるため、群発期間中は飛行機の搭乗や登山を控えるようにします。睡眠中に発作が起こることが多いため昼寝をしないことも大事です。ストレスや疲労、睡眠不足が誘因になる場合もあるので注意が必要です。また、入浴後に発作が起こる場合もあり、このような人は入浴せずにシャワーで済ませるようにします。

もし発作が起こりそうになったら窓を開けて深呼吸すると発作が起こりづらくなります。また、薬の服用も予防効果があります。片頭痛の際に使用されるエルゴタミン製剤(商品名ジヒデルゴット、カフェルゴット、クリアミンなど)や消炎鎮痛薬のほか、ステロイド(副腎皮質ホルモン)、カルシウム拮抗剤などが使用されます。

群発頭痛の発作時には酸素吸入が最もよい治療法です。酸素吸入は発作の初期ほど効果的で7割程度の人が数分以内に痛みが改善します。群発頭痛は夜中に起こることが多いので酸素ボンベを自宅に用意しておくと良いでしょう。片頭痛同様、エルゴタミン製剤や近年発売されたセロトニン作動薬であるトリプタン系製剤(商品名イミグラン、ゾーミック、レルパックスなど)はかなりの予防効果があります。

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Chapter.3:腰痛

腰痛は現代病の代表?

頭痛と同様に腰痛を訴える方は多いと思います。人類が二本脚で歩行するようになったことは進化として重要な過程ですが、これにより私たちは腰痛という病気から逃れられない宿命を背負ったといっても過言ではありません。重い頭は脊椎に負担をかけ、特に前屈姿勢になったり重いものを持った場合にはその負担はかなりのものとなります。さらに現代社会では腰に負担のかかることが沢山あるのです。

例えば、人の第3腰痛の椎間板にかかる圧力を調べた報告があります。立っている場合に加わる圧力を100%とすると、仰向けに寝た場合には25%に軽減されます。しかしイスに座ると140%、顔を洗うときのような前屈みでは150%になり、前屈みで座ると185%もの負担がかかるのです。会社でパソコンに向かってデスクワークをしたり、自動車の運転をしたりするのも同様です。現代社会で私たちがしている姿勢の多くは腰にかなりのダメージを与えているのです。

腰痛の原因は老化のほか、激しい運動や労働、悪い姿勢、ストレス、他の疾患などがあります。老化が原因のものとして変形性脊椎症、骨粗鬆症など、脊椎の構造異常として脊椎分離症、脊椎分離すべり症、脊柱管狭窄症など、椎間板の障害として椎間板ヘルニアなど、外傷性のものとして腰椎捻挫、圧迫骨折、腰部打撲などが挙げられます。このほか不良姿勢が原因のもの、がんの転移、炎症、他の疾患の影響などいろいろあるので適切な診断をしてもらうことが重要です。

筋・筋膜性腰痛とは

腰痛で一番多いのものはいわゆる腰痛症といわれる筋・筋膜性腰痛で筋肉疲労が原因です。脊柱を支えている筋肉や靱帯は年齢と共に衰えていきます。ある程度年齢がいった人がパソコン作業のように長時間不自然な姿勢をすると、筋肉に疲れがたまり腰痛として感じられるようになります。腰部の筋肉が痛むと交感神経が緊張し腰部に行く血液の流れが悪くなり、そのために痛みが増強し血液の流れがさらに悪くなるという悪循環が起こり始めます。長時間の車の運転、重い物を取り扱う職種、腰部に過度の負担のかかる仕事に従事している人たちは要注意です。

筋・筋膜性腰痛はあまり強くない慢性の痛みです。「だるい」「重い」などの鈍い痛みで、同じ姿勢でいると痛みは増強しますが動くと緩和されます。横になると楽になり、もんでもらったり叩いてもらったりすると気持ちが良く、入浴や湿布も症状を緩和させます。

マッサージなども良いのですが一番重要なことは予防です。両足を揃えて立つのは腰に負担がかかります。立っているときは片足を前に出したり、片足を低い台に乗せるなどして腰の負担を軽減させるようにして下さい。座る際は肘掛けのあるイスに腰掛け、膝が90度程度曲がるようにします。柔らかいソファーやあぐらは腰に負担がかかります。ベッドなどの横たわる場合には横向きになるか、膝を少し曲げて上を向くのが理想的です。うつ伏せになって本を読むような反り返った姿勢は良くありません。また重い荷物を持つときはできるだけ身体に近づけて持つようにしてください。

通常、マッサージ、低周波療法などの理学的治療、湿布で症状はかなり改善しますが、痛みが強い場合には鎮痛剤の内服や痛い部分の注射などが行われます。

ぎっくり腰とは

ぎっくり腰は急性の筋・筋膜性腰痛やごく軽度の椎間板ヘルニアの状態です。通常は安静にして横になっていると数日で緩和します。この場合も、うつ伏せや仰向けよりも横向きが良いでしょう。湿布や鎮痛薬の内服で良くなりますが、痛みが非常に強い場合や痛みがなかなか良くならない場合には、神経ブロックが非常に効果的です。

ヘルニアとは臓器や組織が飛び出すことを意味する言葉で、椎間板ヘルニアは軟骨である椎間板の一部が破れて飛び出し神経を圧迫した状態を言います。腰痛だけでなく足の痛みやしびれ、筋力低下などを起こし、さらにひどい場合には排尿ができなくなることもあります。事務職、運転手、営業などの働き盛りの軽作業の人に多く見られます。また余談ですが、犬にも椎間板ヘルニアはあるとのことです。

近年、MRIという検査法でヘルニアがどの程度のもので、また神経をどのくらい圧迫しているかなどが容易に分かるようになりました。しかし、MRIの所見と症状は必ずしも一致するものではなく、また数カ月のうちにヘルニアが縮小または消失するケースも多くみられるため、ヘルニアがあるから手術というものではありません。まずは日常生活の改善、薬物療法、温熱や牽引などの理学療法、神経ブロックを行うのが良いでしょう。

多くの場合、手術をしなくても症状が緩和しますが、数ヶ月間治療していても症状が改善しなかったり、むしろ悪化したり再発を繰り返す場合や、足の筋肉の力が著しく落ちてきた場合、排尿・排便が上手くできず失禁状態になった場合には手術が必要です。手術は背中から行い、椎骨(椎弓)の一部を削ってヘルニアを取り除く方法が一般的ですが、最近では皮膚から針を刺しヘルニアの一部だけを摘出する経皮的髄核摘出術なども一部の医療機関で行われています。椎間板ヘルニアといっても個人個人で異なりますので整形外科の専門医の診察を受けることが重要です。

変形性脊椎症とは

高齢者に起こる腰痛としては変形性脊椎症、骨粗鬆症、脊柱管狭窄症などが挙げられます。変形性脊椎症は脊椎の老化により体を支えている脊椎が変形することが原因でいろいろな症状が現われます。加齢とともに椎間板の老化が進むと椎体と椎体の間が狭くなり脊柱が不安定になります。このような状況を回避しようとして椎体は骨棘と呼ばれる出っ張った骨を出し身体を支えようとします。骨棘は棘のように突き出ているためしばしば脊髄神経や枝分かれした神経を圧迫し痛みを始めいろいろな症状がでます。

変形性脊椎症は男性に多いとされ、頚椎、胸椎、腰椎どこにでも起こりますが、ここでは腰椎に起きた変形性脊椎症(変形性腰椎症)についてお話します。腰椎が変形するため徐々に背中や腰が鈍く痛み、足のしびれ感や運動時の痛みをが起こることもあり、体を曲げたりねじったりすることが不自由になります。

レントゲン写真ですぐに診断はつきますが、骨の変形の程度と症状は必ずしも一致しません。痛みやしびれが強いときには脊椎の安静が必要です。しかし症状がほとんどとれたら腰痛体操で予防すると効果があり、マッサージや温熱療法も良いでしょう。

脊柱管狭窄症とは

歩くと足に痛みとしびれが起こり力も入らなくなって立ち止まってしまう。しかし、しばらく休むとまた歩けるようになるという状況を間欠的跛行といいます。この間欠的跛行は、両脚の動脈硬化などによる血行障害でも起こりますが、腰部の脊柱管狭窄症でも起こる症状です。脊柱には頭からお尻まで連続して空洞があり脊髄神経が通っていますが、高齢になると椎間板が出っ張って空洞に出てきたり、また靱帯と呼ばれる組織が厚くなって空洞に出てきたりと、しばしば空洞を狭くします。

このような状況が脊柱管狭窄症で、神経が圧迫される部位により症状は異なります。腰部の脊柱管狭窄症には下肢やお尻が痛んだりしびれる神経根型、下肢やお尻、陰部などに異常感覚がでたり排尿・排便障害などがでる馬尾型、両者が合わさった混合型があります。

背中を後ろに反らすと脊柱管はさらに狭くなるため症状は悪化します。杖を持ったり買い物車を押しながら歩くように、前屈みの姿勢になると脊柱管が開くので楽になります。しかし、脊柱管狭窄症は根本に狭窄があるため症状が回復する可能性は低い病気です。日常は前屈みになるようにコルセットをしたり、血流促進剤などの薬物療法を行います。これで改善しない場合には神経ブロックを行うのが良いでしょう。神経ブロックを数回行っても症状が改善がみられず、症状が重い人は手術の適応になります。

腰痛の治療法は

腰痛が強い時はまず安静が重要です。一番楽な姿勢を見つけ、痛みがひくのを待つのが基本です。まっすぐ仰向けになるのよりも、ひざの下に枕を入れて仰向けになったり、横向きになって背中を丸めると楽になります。痛む場所を最初は冷やし1?2日経ってから温めるのが一般的ですが、最初から温めた方が気持ちが良い場合には温めて下さい。

痛みがある程度落ち着いたのち牽引や温熱療法などの理学療法が行われます。牽引には神経への圧迫をとったり椎間板や関節にかかっている圧力をとる効果のほか筋肉の緊張をとる効果もあります。しかし、病気の状況によっては牽引で悪化する場合もあるので注意が必要です。温熱療法にはホットパック、超音波、マイクロ波などがあり、血液の流れを改善して筋肉をリラックスさせる作用などがあります。ほとんどの腰痛に有効ですが、炎症が起こり患部が腫れたり熱を持っている場合には行わないでください。

コルセットは体重や身体の動きを支えたり身体の変形を予防・矯正するためにつける装具で、痛みが強い急性の時期には非常に効果があります。痛みが強い間は横になっている時以外はずっとつけていて結構ですが、痛みが緩和してきたら作業をするときだけ使うようにします。コルセットを常時使用していると天然のコルセットである腹筋や背筋がかえって弱くなってしまいます。

腰痛にも消炎鎮痛薬が有効です。通常、内服薬のほか湿布剤や軟膏などが使用されます。さらに筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬、筋肉や神経の代謝や血液の流れを良くするビタミン剤が使用されます。これらの治療でも痛みが緩和しない場合には神経ブロックが行われることがあります。神経ブロックは一時的に痛みをとるだけでなく血液の流れを良くすることで痛みの悪循環を断つことができる場合があり、また痛みを起こしている場所や状況を診断するためにも行われます。

腰痛に対しては腰部硬膜外ブロック、仙骨硬膜外ブロック、トリガーポイントブロックなどの神経ブロックが行われます。通常は局所麻酔薬で神経ブロックが行われますが、ステロイド薬を併用することで炎症の治癒を促進させることもあります。

これらの治療法では改善しない場合や、さらに悪化する場合には手術となることがあります。筋力も落ち歩行ができない、尿が出ない、痛みが激しく日常生活ができないなどの状況で、手術により症状の改善が期待できる場合には通常手術がおこなわれます。

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Chapter.4:がん以外のその他の適応疾患

帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛とは

帯状疱疹の痛みは強く、また帯状疱疹後に引き続き起こる神経痛はなかなか治りづらく、ペインクリニック科を受診する患者はかなりの数にのぼります。帯状疱疹はヘルペスとも呼ばれ、ヘルペスウイルスの1つであり水痘(水ぼうそう)を引き起こす水痘・帯状疱疹ウイルスにより引き起こされます。

ほとんどの人が小児期に水痘になりますが、それを引き起こしたウイルスは脊髄や三叉神経の神経節に潜んでしまいます。多くの人はこのまま一生を終えますが、全身の免疫力が落ちるとチャンスとばかりにウイルスが活発になり帯状疱疹を引き起こします。高齢になると免疫力・抵抗力が低下するため帯状疱疹は高齢者によく発症します。また若い人でもストレスや過労時、がんなどの全身疾患が合併している時などに起こることがあります。

帯状疱疹は湿疹と同時に痛みが起こりますが、通常は身体の片側に起こります。このウイルスは脊髄や三叉神経の神経節に潜んでいるため、脊髄神経や三叉神経が支配している部位によく起こります。特に顔の額の部分(三叉神経の第1枝)と胸のあたりに発症しやすく、神経に沿って帯状に湿疹が起こるため帯状疱疹と呼ばれています。

帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の治療法

帯状疱疹が起こった場合の治療法は病状の程度により異なりますが、基本は坑ウイルス薬の投与、痛みの治療、湿疹の治療です。現在ヘルペスウイルスに効果がある薬が開発され(商品名ゾビラックス、アラセナAなど)症状の緩和に役立っています。痛みが軽度の場合には通常の消炎鎮痛薬が投与されますが、これでも痛みがコントロールできない場合や高齢者には積極的に神経ブロックを行うことが重要です。また帯状疱疹が重症の場合には入院し全身的な治療が必要となります。

坑ウイルス薬が開発され、多くの帯状疱疹は重症にならずに治癒するようになりましたが、湿疹が消えたあとも痛みが長い間持続する帯状疱疹後神経痛になる患者は減っていません。実際、坑ウイルス薬が帯状疱疹後神経痛の発症を防ぐという明らかなデータはないのです。

ペインクリニック科を受診する患者はいろいろな原因で痛みを訴えていますが、治りにくい痛みの代表としてまず帯状疱疹後神経痛が挙げられます。帯状疱疹に罹った患者の一部が帯状疱疹後神経痛になりますが、そのメカニズムははっきり分かっていません。

神経は傷害されると治癒しようとする力がありますが、その際誤った過程で修復が行われたために、帯状疱疹後神経痛が起こるのだろうと考えられています。そのため、ただ触れただけなのに脳に痛みとして伝えてしまうのです。帯状疱疹後神経痛の患者の多くは湿疹があった部位の知覚が低下したり麻痺していますが、物が触れただけで非常な痛みが起こるという不思議な状況が起こります。しかもこの痛みは弱くなることはなく、一生続く人も稀ではありません。

帯状疱疹後神経痛の治療法は神経ブロックと薬物療法が主体となります。湿疹が治ってからまだ日が浅い場合には積極的に神経ブロックが行われます。顔面や頚部では星状神経節ブロックが行われ、他の部位では硬膜外ブロックが行われます。神経ブロックが無効であったり、かなり時間が経過している場合には抗うつ薬 (商品名トリプタノール、アモキサンなど)や坑けいれん薬(商品名テグレトールなど)などの薬物療法が中心となり、低出力レーザーの照射なども行われます。

三叉神経痛と治療法

顔面におこる三叉神経痛の痛みは「死ぬほどの痛み」「地獄のような痛み」といわれるほど激しい痛みです。多くは食事、会話、洗顔などの刺激により誘発され、その痛みは電撃的で刺すような鋭いものです。しかし、発作は短時間で発作のないときは何の症状もありません。年間10万人あたり4〜5人が発症し、 50歳以上の女性に多い疾患です。

顔面の運動は顔面神経が司っていますが、顔面の知覚は三叉神経が担っています。三叉神経は第1枝の眼神経、第2枝の上顎神経、第3枝の下顎神経の三つに分かれるため、このような名前が名付けられました。三叉神経痛は必ず顔の片側に起き、多くは第2枝か第3枝に起こります。神経繊維は1本1本が絶縁されているため、1つの神経繊維が興奮してもそれが他の神経繊維に伝わることはありませんが、神経繊維の絶縁が悪くなると他の神経に興奮が伝わることがあります。これをエファプス伝達と呼びますが、三叉神経痛は神経を血管が圧迫したために絶縁が悪くなり、エファプス伝達が起き激痛が起こると考えられています。

三叉神経痛の治療法は薬物療法、神経ブロック、手術療法の3つの治療法が一般的です。まずは薬物療法が行われますが、三叉神経痛の特効薬と言えるものがカルバマゼピン(商品名テグレトール)です。この薬はてんかんのけいれんの治療に使用されるものですが、三叉神経痛に対し初回治療で8割の人に効果があるものです。

薬物療法で痛みをコントロールできない場合には三叉神経ブロックという神経ブロックが行われます。この神経ブロックは痛みを感じる神経を長期にわたり破壊するもので、アルコールや局所麻酔薬が使用されます。また神経節を高周波の熱で凝固させてしまう方法も行われはじめています。これらの方法でも痛みが取れない場合や神経ブロックを望まない場合などには手術が行われます。手術は顕微鏡を使用し三叉神経を圧迫している血管を剥がすもので、1980年代以降積極的に行われている方法です。

尿路結石症と治療法

尿は腎臓で造られ、尿管を通って膀胱に貯まり、尿道から排泄されます。腎臓から尿道までの一連の経路は尿路と呼ばれ、ここにできた結石を尿路結石症と呼びます。尿路結石症は非常に強い痛みが波状的に襲ってくるのが特徴で、このような痛みは疝痛と呼ばれています。尿路結石症は日本人の4〜5%が生涯中に経験するといわれるほど多いうえ再発の頻度も高く、一度起こった人の40%近くが再発すると言われています。

腹部に疝痛が起こり尿に血が混じっている場合は尿路結石症が疑われます。尿管は腸と同じように蠕動運動をして尿を輸送していますが、例えば尿管に結石が引っかかると結石を押し出そうとして圧力がかかり尿管は急激に伸展します。この圧力や伸展・収縮が痛みとして感じられるのですが、特に結石が移動するときに強い痛みが起こります。またこの時に関連痛も起こり陰部や太股の内側などにもしばしば痛みを感じます。

尿路結石症の発作が起こった時にはまず痛みのコントロールを行います。尿管などの強い収縮をおさえる鎮痙剤や消炎鎮痛薬が通常使用されますが、一番効果的なのは硬膜外ブロックという神経ブロックです。この方法では痛みがなくなるだけでなく、尿管の収縮も弱まるため結石の排出が容易になります。しかし、硬膜外ブロックはどの病院でもできるというものではないため、発作時にこの恩恵を受ける人は少ないのが実状です。

尿路結石症は再発率が高いため予防対策が必要になります。尿路結石のある部位、結石の種類により多少異なりますが、飲水指導、食事療法、薬物療法が行われます。食事以外に1日2リットル以上の水分摂取を行いますが、この場合は水道水やお茶類を飲み、清涼飲料水、甘味飲料水、コーヒー、アルコールの過剰摂取を避けることが大事です。また尿がアルカリになると一般に結石はできにくくなるため、野菜、果物、海草などのアルカリ食品を多く摂り、肉類、魚類、卵、穀類などの酸性食品を控えることも重要です。

尿管の直径は2〜3mmであるため、直径2mm以上の結石は尿管を塞ぐ可能性がありますが、結石の大きさが5mm以下のものの多くは自然に排出されます。自然排出が望めないうえ腎機能障害などが出始めた場合には、開腹手術、体外衝撃波や内視鏡による破砕摘出術などが行われます。

むち打ち症と外傷性頭痛とは

むち打ち症という言葉は1928年にサンフランシスコで開かれた整形外科学会でクローが初めて用いたものですが、この言葉は論議を呼びました。「むち打ち症と診断された患者の多くは、裁判により賠償請求が解決すると症状がなくなる」と意義を唱える医師たちは、これらの患者の症状は心因性のものであると決めつけました。そのため災害神経症、賠償神経症などと呼ばれたり、仮病であろうとまで主張するものもいました。

実はこれより50年前から論議がありました。イギリスでは1840年頃から鉄道輸送が活発となり衝突事故や急停車による人身事故が増え始めていたのです。患者の訴えに対し、「検査で異常がなくとも脳や脊髄が損傷されている」という考えと、「これらの症状は精神的なショックによるものだ」という考えが対立していましたが、多くの医師たちは後者の考えで、賠償金目当ての仮病として取り合ってもらえない状況でした。

しかし第2次世界大戦やベトナム戦争での経験から、むち打ち症という概念が信じられるようになったのです。航空母艦からジェット機が加速して離陸する際にむち打ち症になるパイロットが増えはじめたのですが、座席のヘッドレストを改良し頭部を保護することによりむち打ち症が減ることが分かったのです。

車が停止しているときに後方からぶつけられると身体は前方に移動しますが、頭部は後方に反り返ってしまいます。そして直後にその反動で頭部は前方に大きく移動します。つまりぶつかった瞬間に第5、第6頚椎を軸として首と共に頭は大きく回転するのです。衝突により車は一時的に加速しその後止まるのですが、止まるときに首と頭は今と反対の動きを強いられるのです。これらの力により、関節、靱帯、筋肉などが傷害され、場合によっては脳や脊髄が損傷することもあります。この際の損傷の程度は衝突した車が大きく加速度が大きいほど大きなものになります。

むち打ち症と似たものに外傷性頭痛があります。これは何らかの事故後に頭痛が起こるもので、多くは交通事故や労災事故のような第三者事故によるものです。外傷の程度は軽いのですが、めまい、イライラ感、意欲低下などのいろいろな症状が現れます。なかなか治りづらいのですが、多くは示談が成立すると症状は快方に向かいます。むち打ち症も外傷性頭痛も仮病ではありませんし、患者が意識をして病状を悪化させているものでもありません。緊張型頭痛でもお話ししたようにともにストレスが大きな悪化因子になっているのです。

むち打ち症は受傷後しばらくはネックカラーをして安静にすることが基本です。また、むち打ち症で症状が安定した時や外傷性頭痛に対しては「痛みの悪循環」を絶つことが重要です。頭や首が痛い→筋肉が収縮する→血液の流れが悪くなる→痛みの物質が産生される→頭や首が痛い→ストレスが貯まる→筋肉が収縮する…という悪循環を絶つことが症状を快方に向かわせるのです。

非常に筋肉が凝っている部分への局所麻酔薬の注射、神経ブロック、筋弛緩薬、消炎鎮痛薬、循環改善薬などの投与と共に精神安定薬・抗不安薬などの投与もしばしば行われます。多くの痛みにはストレスが関わり症状を悪化させていますが、むち打ち症や外傷性頭痛などは被害者という大きなストレスがさらに症状を修飾しているものです。医学的治療と共に事故の問題解決も症状改善に必要であることがお分かりいただけると思います。



説明文にて掲載している諸症状で思い当たる節があった場合など、 がんについての疑問・不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

自己判断で迷わず、まずは専門家である医師の検診を受けることをお勧めします。

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