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十二指腸腫瘍の新しい手術治療(腹腔鏡・内視鏡合同手術:D-LECS)

十二指腸腫瘍の新しい手術治療(腹腔鏡・内視鏡合同手術:D-LECS)

最終更新日 : 2021年4月23日

1. 十二指腸腫瘍について

十二指腸は胃からつながる消化管で、胃から送られてきた食物を消化して次の空腸へ送ります。十二指腸腫瘍はまれな消化管腫瘍ですが、最近では内視鏡検査での検診も普及しており、発見される機会が増えています。

十二指腸腫瘍の多くは、粘膜の表面にできる腺腫や癌ですが、その他にも粘膜の下にできる「十二指腸粘膜下腫瘍」があり、良性から悪性のものまで様々な種類の腫瘍があります。神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor:NET)や消化管間葉系腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)は手術治療が薦められる病気です。

早期に発見された十二指腸腫瘍の場合は、自覚症状がありません。さらに、リンパ節に転移することもほとんどなく、腫瘍のみを切除すれば根治できることが知られています。一方で、粘膜下層にまで広がった癌はリンパ節転移をきたすこともあり、リンパ節郭清(周囲のリンパ節を十分に取る)を伴った膵頭十二指腸切除(膵臓と十二指腸を切除し、総胆管と膵管を小腸とつなぎ直す手術)が推奨されます。

われわれのチームで行う手術は、主にリンパ節転移がない早期の十二指腸腫瘍を対象としており、リンパ節郭清が必要と判断された患者さんには肝胆膵外科チームでの膵頭十二指腸切除をお勧めしています。

2.十二指腸腫瘍の治療について

内視鏡治療(内視鏡を用いて十二指腸の内腔から腫瘍を切除する方法)

近年の内視鏡治療技術の進歩により、食道・胃・大腸の早期癌に対して積極的に行われるようになり、現在では標準的な治療として確立しています。十二指腸も大きな腫瘍でなければ、内視鏡治療により比較的安全に切除することが出来ます。一方で、広範囲に広がる大きな腫瘍に対しては、十二指腸壁の薄さから、穿孔(壁に穴があく)する率が高いことが知られています。十二指腸穿孔は、十二指腸内の膵液や胆汁、胃液などの消化液が腹腔内に漏れることで腹膜炎を起こし、命にかかわる重篤な状態に陥る危険性があります。そのため、大きな十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療はいまだ標準的な治療としては確立していません。

外科治療(十二指腸の外側から腫瘍を切除する方法)

早期の十二指腸腫瘍を外科的切除する場合、腫瘍の正確な位置を十二指腸の外側から見つけるのが難しいという問題があります。そのため、小さい腫瘍でもきれいに切除ができないことや、逆に切除範囲が大きくなると合併症のリスクが高くなってしまいます。

このように、広範囲に広がる大きな十二指腸腫瘍に対しては、安全で負担の少ない治療方法がこれまでありませんでした。当院では胃外科と上部消化管内科がチームを組み、内視鏡医による内視鏡手術と、外科医による腹腔鏡手術の合同手術(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery:LECS)により腫瘍を切除することで、この問題を克服しています。

3. 十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術 (Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery for duodenal tumors; D-LECS)

LECS手術とは、内視鏡医による内視鏡手術と、外科医による腹腔鏡下局所手術の合同手術として、内科と外科の協力で行う手術をいいます。LECSは2006年に当院で考案され、その手技が世界に報告されました。胃粘膜下腫瘍に対して行われることが多く、内視鏡と腹腔鏡を併用することにより必要最小限の切除範囲で腫瘍の完全切除が得られる術式として、国内外で広く普及しております。この術式を十二指腸に応用することで、十二指腸腫瘍の局所切除を必要最小限の切除範囲で済ませることができ、腹腔鏡側からの縫合により切除部を補強することで術後の十二指腸穿孔などの合併症を回避することができます。

実際の手技としてはまず腹腔内(腹腔:お腹の壁の内側で、十二指腸などの臓器の外側の空間)に炭酸ガスを入れて膨らませ、おへそから細い腹腔鏡を挿入します。それに加えて、手術操作に用いる器具を挿入するために5〜12ミリの小さな傷を左右に合計4ヶ所に開けます。

十二指腸腺腫や癌の場合は、まず十二指腸の内腔側から内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)手技により腫瘍を切除し、ESDにより脆弱になった十二指腸壁を腹腔鏡側から補強する手術を行います。

図1A:十二指腸下行部。約20mm程度の早期十二指腸癌です。
図1B:十二指腸の内腔側からESD手技により腫瘍を切除します。
図1C,D:ESDにより脆弱になった十二指腸壁を腹腔鏡下に縫縮することで、しっかりと補強します。
図1E:内視鏡にて縫合不全や出血がないことを確認します。

十二指腸粘膜下腫瘍の場合は、十二指腸の内腔側から粘膜下腫瘍の周囲粘膜の切開を行うことで切除範囲を決定します。その後、十二指腸壁(全層)を腫瘍とともに切除します。腫瘍切除後は、腹腔鏡により開放部の縫合閉鎖を行います。

図2A:十二指腸上十二指腸角。約30mm程度の粘膜下腫瘍です。従来であれば、膵頭十二指腸切除のような大きい手術を必要としていた腫瘍です。
図2B:十二指腸の内腔側から内視鏡手技により粘膜下腫瘍の周囲粘膜の切開を行います。
図2C:十二指腸壁(全層)を腫瘍とともに切除します。
図2D:腫瘍切除後は、腹腔鏡により開放部の縫合閉鎖を行います。
図2E:内視鏡にて縫合不全や出血がないことを確認します。

手術による身体への侵襲も最小限で済むため、経過が順調であれば術後早期に経口摂取を再開し術後7日前後で退院が可能です。

本術式は令和2年度より、腹腔鏡下十二指腸局所切除術(内視鏡処置を併施するもの)として保険収載されましたが、内視鏡治療の経験を積んだ内科医と、腹腔鏡手術の経験を積んだ外科医の双方が必要であり、この手術を安全に施行することができる施設は限られているのが現状です。当院では胃のLECSでの治療経験を活かし、十二指腸においても適応のある疾患に対してはD-LECSを積極的に導入しています。

関連リンク

腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)研究会のURLはhttp://plaza.umin.ac.jp/lecs/ です。

LECS研究会の活動が公開されており、より具体的な知見を得ることができます。

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