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進行直腸がんに対する放射線治療、抗がん剤を駆使した集学的治療

進行直腸がんに対する放射線治療、抗がん剤を駆使した集学的治療

最終更新日 : 2023年4月17日

進行直腸がんに対する放射線治療、抗がん剤を駆使した集学的治療

肛門に近い進行直腸がんは、大腸がんの中でも予後が悪く、手術後の局所再発率や肺転移再発率が高いことが知られています。さらに、肛門に近い直腸がんを取り除く手術では、人工肛門となることもしばしばあります。

当院では、肛門に近い進行した直腸がんに対して、手術前に化学放射線療法(1.8グレイの放射線量を計28回照射することに加え、放射線照射日にカペシタビンという抗がん剤を内服)を行って、がんの広がりを小さくしてから手術をしています(図1)。短期放射線といって、5グレイという放射線量を5回のみ照射する方法もあります。手術前にがんの広がりを小さくすることにより、手術後の局所再発率は低くなります。さらに、従来の手術だけの治療法では人工肛門になっていたケースでも、がんの広がりを小さくすることによって、人工肛門を作らず肛門を温存できる可能性が高くなります。

図1: 術前化学放射線療法の肉眼的効果
がんの広がりを縮小させて、手術後のがん再発を減らし、人工肛門を回避します。

図1: 術前化学放射線療法の肉眼的効果

肛門に近い進行直腸がんに対する術前(化学)放射線療法は、ヨーロッパやアメリカ、韓国などでは標準治療であり、手術だけによる治療法にくらべて優れた治療成績が報告されてきました。しかし、日本では、伝統的にがんを広く切除する手術(直腸間膜全切除+側方リンパ節郭清)が標準治療とされ、術前(化学)放射線療法を行う施設は多くはありません。

当院は、日本では早い時期から、肛門に近い進行直腸がんに対する術前(化学)放射線療法に取り組んできました。これまでに800人以上の進行直腸がんの患者さんに術前(化学)放射線治療を行い、全生存率・局所再発率とも下記グラフのような治療成績となっています(図2)。

図2: 当院で術前放射線治療を行った進行直腸癌患者さんの治療成績

最近では、進行直腸がん患者さんの治療成績をより向上させるため、術前放射線治療に加え、これまで術後に行っていた全身化学療法(FOLFOX療法やXELOX療法など)をすべて術前に行う方法(Total Neoadjuvant Therapy; TNTと呼ばれています)が世界的に広く行われるようになってきました。当院ではこの治療にも早い時期から取り組み、これまでに300人以上の患者さんにこの治療を行っています。

TNTを行うと、がんの状態にもよりますが、30%-50%程度の確率で肉眼でがんが消失した状態(臨床的完全奏効)となります。この場合、すぐに手術を行わずに慎重に経過観察を行う「Watch and Wait療法」も積極的に行っています。

「Watch and Wait療法」は手術に伴う合併症や人工肛門、排便障害、排尿・性機能障害などの後遺症を回避でき、自然肛門を温存できる点で患者さんにメリットが大きい治療ですが、臨床的完全奏効の判断が難しく、20-30%の確率でがんが再増大してくることから、十分な経験のある施設で行われるべき治療と欧米のガイドラインでは記載されています。当院では「Watch and Wait療法」の十分な経験を持ったスタッフが揃っています。

このような直腸がんに対する術前の抗がん剤、放射線治療に加えて、腹腔鏡手術・ロボット支援下手術などの低侵襲手術を組み合わせることにより、がんの再発を減らすだけでなく、より身体への負担が少なく、快適な術後生活を送っていただけるよう配慮しています。

文責:大腸外科 秋吉高志

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