がんに関する情報
がんに関する情報

疾患別の薬物療法

疾患別の薬物療法

最終更新日 : 2019年3月13日

目次

Chapter.1: 乳がんに対する薬物療法U

抗がん剤療法の有効性

乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異なります。

大きく分けて3つの状況があります。

  1. 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
  2. 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
  3. 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。

抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。

転移・再発乳がんの抗がん剤療法

アンソラサイクリンの代表薬剤はアドリアマイシンとエピルビシンです。アドリアマイシンを含むCAF療法(またはFAC療法) またはエピルビシンを含むFEC療法(またはCEF療法)が現在の標準的治療であり、その奏効率は50〜60%です。

チューブリン阻害剤であるタキサンの有効性も確立されています。タキサンにはドセタキセルとパクリタキセルがあります。タキサンの奏効率は30〜50%を期待できます。アンソラサイクリンが効かない場合にもタキサンの効果は期待できます。反対にタキサンが効かない場合にはアンソラサイクリンの効果が期待できます。アンソラサイクリンとタキサンは乳がんの治療の中心となる薬剤と考えられています。

そのほかの抗がん剤には S−1、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、ビノレルビンなどがあります。

HER2陽性の乳がんに対してはトラスツズマブの有用性が証明されています。HER2陽性乳がんに対する薬剤には、ペルツズマブ、トラスツズマブ・エムタンシン、ラパチニブなどがあります。

抗がん剤の使用による不快感

抗がん剤で気持ち悪くなったり、食欲が落ちてしまうのはつらいものです。現在は、抗がん剤による吐き気、おう吐を予防する薬が発達してかなりおさえられるようになりました。

アドリアマシンやエピルビシンを含む治療はもっとも吐き気を起こす可能性があります。

アドリアマシンを投与して数時間はなんともないことが多いのですが、投与日の夜や翌日になってから吐き気がでることがしばしばあります。吐き気は普通、 2〜4日間ほど続きますが、その後、徐々に回復し1週間もたてばなんともなくなります。吐き気が1週間以上も長びくのは非常に敏感な方の場合ですがまれなことです。アドリアマイシンは通常3週間に1回の頻度で行う治療ですので、最初の1週間は調子が悪くなりますがそのあとは普通に食欲も戻ります。

従って、延々と気持ち悪い、食べられないわけではありませんので、やせ衰えて体力がなくなってしまうことはまずありません。反対に、がんばって食べ過ぎて太ってしまう方もいらっしゃいます。アドリアマイシン以外の抗がん剤では吐き気はずっと軽く、楽な場合が多いと予想されます。

吐き気はひとによってかなり個人差があります。全くなんともないひともたくさんいます。吐き気があっても軽い人も多いですし、ひどい吐き気を起こす方はむしろ少ないのです。このような個人差をあらかじめ科学的に予測することはまだできません。はじめから吐き気が強いと思いこんで治療を受けないで、病気を良くするチャンスを逃すのはもったいないことです。

抗がん剤の使用による脱毛

ある種の良く効く抗がん剤、例えばアドリアマイシン、エピルビシン、ドセタキセル、パクリタキセルでは頭の髪の毛はほとんど抜けます。抗がん剤を注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め、3週間目になるとバサバサとぬけます。4〜5週間たつとほとんど抜けてしまいます。

治療をどのくらいの期間、続けるかは病状と副作用の様子によって違ってきますが、通常は数ヶ月続けることが多くなります。従って、治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。

しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのが良いでしょう。

髪の毛が抜けることはショックですが、治療効果を最大限にあげるときは、このような抗がん剤をどうしても使わなければならないことがあります。もしどうしても脱毛が嫌なかたは、髪の毛が抜けにくい他の治療があなたにとって適切な治療かどうか主治医とよく相談してください。

抵抗力の低下

抗がん剤を注射したあと1〜2週後には血液の白血球が低下することが一般的です。

抗がん剤の種類や量にもよりますが、白血球の減少がひどいときに発熱した場合は注意する必要があります。

白血球が少ないとばい菌に対する抵抗力が弱くなり、風邪をひくとすぐに発熱することがあります。高い熱がでたときになにもしないでいると、こじらせて肺炎になってしまうことがあります。肺炎を予防するために、もし熱が37.5℃以上になったときは抗生物質の薬をすぐに飲み始めてください。いったん、飲み始めたら最低3日間は内服を続けて下さい。

そのときのためにあらかじめ抗生物質のお薬を処方しますので、お手元に置いていつでも飲めるようにしておいてください。もし、抗生物質の内服を開始して翌日になっても熱が下がる傾向がないときや、そのほかに心配な症状があるときは、主治医の先生に電話でご連絡ください。ご様子を伺ったうえで、早急に抗生物質の点滴や白血球を上げる注射などを行う必要があるかを判断します。場合によっては入院が必要な場合もあります。

実際に肺炎になってしまうのは珍しいですが、このように、あらかじめ入念な対策をとることで肺炎はほとんど未然に防ぐことができます。風邪をひかないように気をつけていただくことは大事ですが、あまり神経質になる必要もありません。人混みで風邪を拾わないように気をつけることは望ましいことですが、どうしても人混みのなかに出なくてはならないこともあると思います。たとえば、通院のとき混んだ電車に乗ってこなくてはならないとか、自分で買い物をしなくてはならないとか、生活のうえで必要なことは仕方がありません。しかしその際、他人のつばや、せき払いが直接かかることに注意して下さい。

マスクをつけていただくと、つばや、せき払いのような濃厚な感染を防げます。マスクで風邪をすべて防げるわけではありませんが、治療直後から白血球が低下している間の時期(治療のあと1〜2週間まで)に人混みに出るときはマスクをすることをお勧めします。可能ならば、予定を治療の影響のない時期に延期していただいたほうが無難でしょう。

パクリタキセルの副作用について

パクリタキセルではくすりのアレルギーを起こすことがあります。

もし、いままでに他の薬で強いアレルギーを起こしたことのあるかたはパクリタキセルを使用できません。

アレルギーを予防するために、抗がん剤投与の30分前に抗ヒスタミン剤を内服した後、ステロイドと抗セロトニン剤を点滴注射します。実際に強いアレルギー症状をおこすことは極めてまれですが、軽いアレルギー症状はときにあります。パクリタキセルの治療では頭の髪の毛はほとんど抜けてしまいます。

しかし、注射してすぐに抜けるわけではありません。通常は投与後、約2週間経ってから抜け始め4〜5週間たつとほとんど抜けてしまいます。

治療を続けている間は髪の毛は抜けた状態が続きます。しかし、治療が終了すれば抗がん剤の影響はとれて、必ず髪の毛は生えてきます。抗がん剤が終了してから3ヶ月たつと短い毛は生えそろい、6ヶ月もするともとの髪の毛に戻ります。

残念ながら、脱毛を予防する薬や方法はありません。髪の毛が抜けている間はかつらを利用して頂くのも良いでしょう。パクリタキセルの治療で気持ち悪くなることはほとんどありません。軽い吐き気や、食欲低下がみられることがありますが、強いものはないだろうと予測しています。

むしろ、食欲が増えて食べ過ぎてしまうこともあります。念のため、吐き気予防の薬は点滴で使用します。点滴回数が増えるにつれて、手の指先、足の指先にピリピリとしびれを感じることがあります。症状が強いときは治療を休む場合もあります。

ときには、体が疲れやすい、関節痛、筋肉痛、口内炎、味覚の変化、爪の変化、便秘、むくみ、めまい、肝機能異常などがありますが、程度は軽いことがほとんどです。まれな副作用としては血圧低下、不整脈、間質性肺炎が報告されています。

分子標的薬剤としてのトラスツズマブの意義

HER2(ハーツー) (Human Epidermal Growth Factor Receptor Type 2)はヒトがん遺伝子のひとつです。その産物であるタンパク質は膜蛋白質受容体です。

トラスツズマブはHER2受容体に対するモノクローナル抗体です。

HER2過剰発現をした転移乳がんの治療薬、再発予防薬と有用です。

一般的にはHER2存在の有無は簡便な免疫組織法(ハーセプ・テスト)で判定します。3+の陽性の場合またはFISH陽性の場合トラスツズマブは適応となります。全乳がんの約20%がHER2陽性です。治療の効果をあらかじめ正確に予測し、治療計画をたてることは重要です。例えば、ホルモン・レセプター陽性の場合にはホルモン療法の有効性は高いことが予測されますのでホルモン療法が適応となります。

しかし、抗がん剤ではその有効性を確実に予測する方法は未だに確立されていません。抗がん剤は様々な作用機序を有し、単一の標的ではありません。モノクローナル抗体であるトラスツズマブはHER2のみを標的とする薬剤であり、鍵(key)と錠(lock)の関係となります。HER2が存在して始めてトラスツズマブが効く可能性があります。

このようにHER2を検査することにより、治療方針を明確に決定できるようになりました。個人、がんの個性にあった治療が可能となりました。分子標的薬剤は抗がん剤ほど広域ではなく、対象は限られますが標的の有無により治療の選択ができるのが最大の利点です。

トラスツズマブの副作用について

最も現れやすい副作用は発熱です。10人中4-5人の割合で38度以上の発熱が見られます。

この発熱は2-3日以内に落ち着くことがほとんどです。発熱があったときは解熱剤が有効ですので適切に対処します。その他、悪寒(さむけ)全身倦怠感(だるさ)熱感、戦慄(ふるえ)、吐き気、嘔吐、食欲低下、頻脈(どきどき感)、肝障害、などが10人に1-2人の割合で見られます。

その他、骨痛、ほてり、頭痛、筋肉痛、胸部痛、上腕痛、しびれ、咳、目やに、耳鳴りなど報告がありますが頻度は低いものです。いずれの副作用も一時的な症状でおさまると予想されます。まれな副作用として注意しなくてはならないのは心臓への副作用です。通常の状態では現れないと予測されますが、以前に心臓の病気をしたことのある方、アドリアマイシンのような抗がん剤をたくさん受けた方、胸部に放射線治療をたくさん受けた方では注意をして行う必要があります。

もし、心臓の機能が落ちている場合はトラスツズマブが使用できません。安全に治療を行うために、前もって心臓の機能の検査を受けて頂きます。具体的には内科 (循環器)の心臓の専門の先生の診察を受けた後、心臓の超音波検査(エコー)で心臓の機能を調べます。最近、胸部レントゲン撮影、心電図の検査をしていない場合は、内科受診の前にそれらの検査を受けてください。その結果を心臓の先生が見て、超音波検査(エコー)を行います。

その他、ショック、呼吸不全、肝不全、白血球減少、腎障害、昏睡、敗血症などの副作用の報告がありますが、その頻度は稀です。これらは全身状態が極めて悪いときには起こるかもしれませんので、全身の体力、臓器の機能が保たれているときにトラスツズマブの治療を受けるようにお勧めします。体力が十分あるときはまずおこらないと予想しています。狂牛病(伝染性海綿状脳症)がトラスツズマブにより伝播したという報告はありません。トラスツズマブの製造過程で牛のひ臓由来成分を含む培地を使用していますので、可能性が絶対ないとは言い切れません。

しかし、この危険よりも治療を受けて得られる利益のほうがずっと大きいと考えられます。

ホルモン療法の種類

乳がんに対するホルモン療法は、がん細胞への女性ホルモンの影響を何らかの仕組みで抑えるものです。

一般に使用されているホルモン剤は以下のように分類されます。

LHRH アゴニスト:ゴセデリン酢酸塩、リュープロレリン酢酸塩
中枢神経を介して卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、閉経を人工的に起こします。
抗エストロゲン剤:タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント
 
女性ホルモン(エストロゲン)が乳がん細胞に作用して刺激するのを抑えます。
アロマターゼ阻害剤:アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン
 
閉経後の方で脂肪、がん組織等でエストロゲンが作られるのを抑えます。
プロゲステロン剤: メドロキシプロゲステロン酢酸エステル
女性ホルモンの一種ですが、エストロゲン産生を抑えるなど種々の作用があります。
ホルモン治療と併用する最近の分子標的薬剤としては、パルボシクリブ、エベロリムスなどの薬剤があります。

ホルモン療法の副作用について

ホルモン療法は抗がん剤療法に比較すると副作用は軽度で安全ですが、次のような副作用が考えられます。乳がんに対するホルモン療法はほとんどが女性ホルモン(特にエストロゲン)の作用を抑えるものですので、自然に女性ホルモンが減少する更年期と同じような症状が出る可能性があります。とくにのぼせ、顔の紅潮、そして膣(ちつ)分泌物の異常、月経異常が多くなります。

特にLHRH アゴニストは卵巣からの女性ホルモン分泌を減少させ、更年期と全く同じような症状を起こす可能性があります。また抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤、プロゲステロン剤も同じような症状をおこします。例えばタモキシフェンクエン酸塩の臨床試験では強いのぼせ・顔の紅潮が約17%、膣分泌物の異常が約8%、偽薬より多かったと報告されています。

なお、うつ状態、うつ病についてはホルモン療法による明かな増加は報告されていません。強い吐き気を伴うことはまずありませんが、アロマターゼ阻害剤では時に吐き気のために薬を飲み続けられない方がいらっしゃいます。プロゲステロン剤は食欲亢進、肥満をしばしば来たし、抗がん剤による食欲低下やがん悪液質 (進行がんによる痩せ、体力低下)の治療薬として使われるほどです。

タモキシフェンクエン酸塩も食欲亢進、肥満を来すと考えられていますが、偽薬との比較では差がなかったとされています。プロゲステロン剤は血糖上昇、血圧上昇を来すことがあり、糖尿病、高血圧症の方は注意が必要です。タモキシフェンクエン酸塩は血中コレステロールを10%程度低下させる良い作用がありますが、凝固機能(血液を固まらせる働き)を亢進させる作用もあります。心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症の病気の方は注意が必要ですので主治医と良くご相談ください。

タモキシフェンクエン酸塩は子宮内膜にたいしては刺激的に働きますので、子宮体がんの発生を約2.5倍に増やすことが知られています。しかし日本女性の子宮体がんの発生率は一万人に2人程度なので、それほど大きい危険ではないと考えています。

念のためにタモキシフェンクエン酸塩服用時は定期的に婦人科検診を受けられることをお薦めします。
当院では婦人科での半年毎の検診をお願いしています。また、月経の異常、異常な膣からの出血があれば婦人科を受診してください。

他のホルモン剤では今のところ二次性のがんの発生は報告されていません。女性ホルモン(エストロゲン)は骨を保護する働きがあるので、LHRHアゴニスト、アロマターゼ阻害剤は骨粗鬆(そしょう)症(骨が薄くなる病気)を発症・進行させる可能性があり、現在どのような薬によってこれを予防できるかが検討されています。タモキシフェンクエン酸塩は骨に対しては保護的に働き、骨粗鬆症の進行を抑えるのではないかと考えられています。

その他の副作用としてタモキシフェンクエン酸塩による網膜症、白内障が報告されています。

術前抗がん剤療法

乳がん手術の前に抗がん剤療法を先行する場合を術前化学療法(術前抗がん剤療法)といいます。

術前抗がん剤療法の意義は次の3点です。

  1. 術前抗がん剤療法により乳房温存の可能性が高くなります。
  2. 術前抗がん剤療法の効果をみることにより、予後の予測を行うことができ、術後の治療方針を最適なものに選択できます。
  3. 抗がん剤療法を術前に行っても、術後に使用する場合に比較して治癒率や生存期間が劣ることはありません。

一般的にはがんの大きさが大きい局所進行乳がんにおいては術前抗がん剤療法が標準治療となっています。

手術後のがんの状態について

手術によって明らかな「がん」は取り除かれます。

ただし、手術では取りきれない、肉眼では見えないがん細胞がまだ残っている可能性があります。それらのがん細胞は通常の検査をしても見つけることはできません。顕微鏡でも分かるか分からないかぐらいのわずかなものです。

また、わずかながん細胞でも時間が経つと再発となって現れます。再発を抑えて乳がんが治る確率をできるかぎり上げるためには予防治療が必要です。手術だけで高率に治ってしまう場合には強い抗がん剤治療は必要ありませんが、ある程度以上の再発の危険がある場合にはしっかりとした再発予防治療が必要です。
治療が必要となるもっとも重要な指標(目安)は乳がん周囲のリンパ節へのがん転移の個数です。手術のとき周囲のリンパ節は取り除かれますが、それらのリンパ節の1個にでも乳がん細胞が存在した場合には抗がん剤治療が必要です。

一般にがん細胞が見つかったリンパ節の数が多いほど再発の危険が増します。また、リンパ節に転移がなかった場合でもその他に、がん細胞の顔つきが悪いとき、がんがリンパ管のなかに入っているときなど、再発の危険が予想される場合は抗がん剤治療を行うこともあります。

ごくわずかな微小ながん細胞を根絶するには全身的な薬による治療が適しています。抗がん剤またはホルモン剤は血流に乗って全身にいきわたり、その効果を発揮するからです。

再発予防のための抗がん剤の必要性

乳がんに対する抗がん剤療法の有効性は確立されています。しかし、乳がんの置かれた状況によって期待できる抗がん剤療法の効果も異なります。

大きく分けて3つの状況があります。

  1. 転移・再発乳がんでは症状の緩和と延命が期待できます。
  2. 手術の前に抗がん剤療法先行する場合(術前化学療法といいます)にはがんの縮小に伴い、温存手術、縮小手術が期待できます。
  3. 手術後の補助療法では予防的抗がん剤療法により治癒する確率が高くなります。

抗がん剤以外に乳がんの治療には副作用が軽微なホルモン療法という選択があります。抗がん療法の治療効果には限界があり、少なからず副作用を有することから、抗がん剤をいつどのような目的で行うのか、適切な判断をするのが重要です。

再発予防に使用される抗がん剤

治療の中心となる抗がん剤はアドリアマイシン(A)またはエピルビシン(E)です。アドリアマイシン(またはエピルビシン)に加えて、他の抗がん剤、シクロホスファミド(C)・フルオロウラシル(F)を同時に行う併用抗がん剤療法が標準的方法のひとつ英語の頭文字をとってCAF療法またはFAC療法またはFEC療法またはCEF療法と言います。フルオロウラシルを含まないAC療法, EC療法もあります。また、腋窩リンパ節転移が陽性の場合はタキサンを追加することによりさらに再発を減らすことができます。AC療法4サイクルの治療後にパクリタキセル週1回を毎週12回またはドセタキセル3週毎4回を行います。

脱毛をおこす原因の抗がん剤はアドリアマイシン(またはエピルビシン)です。しかし、この薬は治療効果を挙げるうえでもっとも重要です。アドリアマイシン (またはエピルビシン)を含まない治療方法も従来から行われていますが、それらの治療方法に比べてアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療法の効果は10年生存率で5%優れることが分かっています。

2人に1人の方には閉経前の方では卵巣機能を低下させ生理を止める作用があり、長く続く場合もあります。これらの副作用は確かに無視できるものではありませんが、それ以上に抗がん剤療法による治癒率が改善することが証明されています。抗がん剤を行うことにより再発を半分近く減少させることが証明されています。

稀な副作用としては1,000人に1-2人の割合で抗がん剤によって白血病などの別のがんができることがあります。
もし乳がんが再発した場合、その後に抗がん剤療法を受けてもかなり効果はありますが、最終的にがんを治しきるのは大変難しくなります。抗がん剤を後にとっておこうと思わないで、より早い段階で抗がん剤を十分に使い、治しきると言う目的に力を注いだほうが良いと考えます。

従って、手術直後に十分に抗がん剤治療受けられることをお勧めします。

5%の改善とは少ないようにも思えますが、1,000人のうち50人の命が助かるという数字です。従って、一般にはアドリアマイシン(またはエピルビシン)を含む治療を選択することをお勧めします。なお、アドリアマイシン(またはエピルビシン)には心臓への影響がありますが、予定している薬の量は安全な範囲内のものです。心臓の検査をして安全を確認してから開始します。

再発予防のためのホルモン治療

ホルモン療法を行う必要のある場合は、ホルモン・レセプター(エストロゲン・レセプターまたはプロゲステロン・レセプター)が陽性の場合です。ホルモン剤はがん細胞のホルモン・レセプターと結合してがんの増殖を抑えます。

ホルモン・レセプターは手術で取り除いたがん細胞で検査します。ホルモン療法は副作用が少なく、安全な方法です。ホルモン療法は再発を半分近く減少させます。タモキシフェンは5〜10年間毎日内服します。

閉経前で生理がある場合はゴセレリン酢酸塩またはリュープロレリン酢酸塩を4週間に1回皮下注射し、2〜5年間続けます。閉経後の方はアロマターゼ阻害剤であるアナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタンが有効です。アナストロゾール、レトロゾールを5年間内服します。タモキシフェンクエン酸塩を2-3年または5年内服後アロマターゼ阻害剤に変更して継続する治療方法も有用です。

これらのホルモン療法では脱毛もなく、吐き気もありませんが、更年期症状と似た、ほてり、紅潮、のぼせ、めまい、発汗などの症状が一時的にでることがあります。

長期的な副作用としてはタモキシフェンクエン酸塩によって子宮内膜がんが発生の危険が増えますがその頻度は1,000人のうち1-2人と稀な現象ですので、タモキシフェンクエン酸塩の利益のほうが遙かに大きいのです。アロマターゼ阻害剤は骨密度が低下し骨そしょう症の傾向になることがあります。1年に1回骨密度の検査をすることをお勧めします。

このページのTOPへ

Chapter.2: 血液腫瘍に対する薬物療法

悪性リンパ腫について

リンパ組織は、その中に白血球の一種であるリンパ球がつまった豆状のリンパ節とそれを結ぶ細い管(リンパ管)よりなりますが、扁桃腺、胸腺、脾臓なども含まれ、全身に分布しています。リンパ組織はリンパ球を中心に免疫をつかさどり、感染やがんに対する防御機能の中心となります。

悪性リンパ腫はこのリンパ組織から発生する悪性腫瘍で、ほとんど全てリンパ球が悪性化したものと考えられています。悪性リンパ腫は、図1のように、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫に分けられ、その割合はおおよそ、ホジキンリンパ腫が10%、非ホジキンリンパ腫が90%といわれています。すなわち悪性リンパ腫といえば、大半が非ホジキンリンパ腫であり、更に非ホジキンリンパ腫はB細胞性リンパ腫、T細胞性リンパ腫、NK/T細胞リンパ腫に細分化されます。

図1 悪性リンパ腫の分類と主な初回治療
図1 悪性リンパ腫の分類と主な初回治療
悪性リンパ腫の症状

悪性リンパ腫の多くは、首の周りや縦隔(両方の肺の間)、腹腔内(お腹の中)、鼠径部(足のつけ根)を中心としたリンパ節が痛みを伴わず腫れるものですが、時に肝臓、骨髄、肺など全身に広がることもあります。また発熱、びっしょりするくらいの寝汗、急な体重減少、全身の皮膚の発赤、かゆみなどの症状が出る場合もあります。

悪性リンパ腫の診断

悪性リンパ腫の診断は、腫れているリンパ節などを取り出して(生検といいます)顕微鏡で調べる病理検査によります。この検査が、今後の治療方針を決定するうえで、最も重要な検査と言えます。正確な病理診断をつけることは、その後の最適な治療方針決定につながります。悪性リンパ腫はその進行具合の速度によって、おおまかに以下のように分類されています。

インドレントリンパ腫(一般に年単位で進行する低悪性度リンパ腫)

  • B細胞 
    • 慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫 
    • リンパ形質細胞性リンパ腫 
    • 脾辺縁帯リンパ腫
    • 粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)
    • 節性辺縁帯リンパ腫
    • ろほう性リンパ腫
    • マントル細胞リンパ腫
  • T細胞
    • T細胞大型顆粒リンパ球性白血病
    • 成人T細胞白血病/リンパ腫(くすぶり型)
    • 菌状息肉症/セザリー症候群
    • 原発性皮膚未分化大細胞型リンパ腫

アグレッシブリンパ腫(一般に月単位で進行する中悪性度リンパ腫)

  • B細胞 
    • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫
  • T細胞
    • 末梢性T細胞リンパ腫・非特定型
    • 腸症関連T細胞リンパ腫
    • 未分化大細胞リンパ腫
    • 肝脾T細胞リンパ腫
    • 成人T細胞白血病/リンパ腫
    • 節外性NK/T細胞リンパ腫・鼻型
    • 血管免疫芽球性T細胞リンパ腫

高度アグレッシブリンパ腫(一般に週単位で進行する高悪性度リンパ腫)

  • B細胞 
      • バーキットリンパ腫
      • Bリンパ芽球性白血病/リンパ腫
  • T細胞
    • Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫
    • NKリンパ芽球性白血病/リンパ腫
悪性リンパ腫の主な初期治療

悪性リンパ腫の主な初回治療は図1にしめした通りです。図1は、あくまで標準的なものであり、治療法、薬剤投与量、投与方法などは患者さん個人の状態にあわせて最適なものを選択、調節いたします。治療についての疑問点がある場合は、主治医、担当医、医療スタッフにいつでも遠慮なくご質問ください。

参考文献

  • 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年版 一般社団法人 日本血液学会 編

白血病について

白血病は主に急性骨髄性白血病 慢性骨髄性白血病 急性リンパ性白血病 慢性リンパ性白血病に大別されます。いずれも骨髄で血液細胞の異常増殖がおこることで発症する疾患であり、採血、骨髄検査、遺伝子検査により診断されますが、各疾患で病気の性状や治療方針が全く異なります。特に急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病については骨髄移植の適応について検討が必要ですが、当院では骨髄移植は行っておらず、骨髄移植が必要な方につきましては、国立がん研究センター中央病院や虎ノ門病院といった近隣施設と連携をはかり紹介させていただきます。

1. 急性骨髄性白血病(AML)

病態
骨髄で骨髄芽球とよばれる幼若な細胞が増加し、成熟白血球や赤血球、血小板が減少する疾患です。発熱、倦怠感、紫斑などが初期症状ですが、急激な経過をたどり、生命に関わる状態となるため、迅速な診断、治療導入が望まれます。

治療 
アンスラサイクリン系抗がん剤とシタラビンの組み合わせを用いた強力な寛解導入療法を行い、骨髄検査で寛解を確認したのち地固め療法を4コース行います。予後不良因子を有する65歳以下の方へはその後骨髄移植を推奨いたします。

2. 慢性骨髄性白血病(CML)

病態 
BCR/ABLとよばれる染色体異常(Philadelphia染色体)が原因となり、骨髄で異常な血球増殖がおこります。慢性期、移行期、急性転化期に分類されますが、慢性期はほとんど無症状で健診にて発見されることも多い疾患です。
治療 
BCR/ABLを抑制するチロシンキナーゼ(TKI)阻害剤である分子標的薬を使用します。TKI阻害剤の効果は非常に良好であり、内服継続しながら日常を過ごせる方がほとんどです。耐性遺伝子出現の報告もありますが、カバーできる第二世代、第三世代のTKI阻害剤も使用できるようになっています。

3. 急性リンパ性白血病(ALL)

病態 
骨髄でリンパ芽球とよばれる幼若な細胞が増加しますが、CMLと同じBCR/ABL遺伝子が原因で発症するPhiladelphia染色体(Ph)陽性ALLとBCR/ABL遺伝子陰性のALLに大別されます。リンパ芽球増殖スピードは非常に早く、迅速な診断、治療導入を必要とします。

治療 

  • Ph陽性ALL CMLと同様のTKI阻害剤併用のもとアンスラサイクリン系抗がん剤、アルキル化剤、ビンカアルカロイド、Lアスパラキナーゼ、プレドニゾロンなどの組み合わせを用いた強力な寛解導入療法を行い、骨髄検査で寛解を確認したのち地固め療法、維持療法へ移行します。
  • Ph陰性ALL Ph陽性ALLと基本同じですが、TKI阻害剤は併用しません。

難治症例が多く、積極的に骨髄移植を推奨します。
再発難治性ALLについてはイノツズマブオゾガマイシン、ブリナツモマブといった新規分子標的薬が使用可能となりました。

4. 慢性リンパ性白血病(CLL)

病態 
骨髄で成熟したリンパ球細胞が増加します。採血では白血球が20,000/µL以上となることが多く、リンパ球が5,000/µL以上となります。初期はほとんど無症状であり、検診で診断されることも多い疾患です。リンパ節腫大、肝臓、脾臓の腫大を伴うこともあります。増加しているリンパ球によりB-CLLとT-CLLに分類されます。慢性に緩徐に進行する疾患であり、低リスクの場合、無治療経過観察を選択されます。中〜高リスクになった場合治療導入を考えます。

治療 
従来使用されてきたのはフルダラビンとシクロフォスファミドの併用療法ですが、B-CLLではCD20抗体であるリツキシマブを併用します。、BTまた近年ではベンダムスチンK阻害剤であるイブルチニブなどがCLLに適応されるようになりました。

骨髄異形成症候群(MDS)について

骨髄異形成症候群(MDS)は骨髄細胞の増殖障害により造血の過程で異型性のある血球が産生され、正常な血球が成熟形成しにくくなる疾患です。慢性的に白血球、赤血球、血小板が低値となります。赤血球、血小板の重度の減少例は輸血が必要になります。従来高齢者に多いと考えられてきましたが、若年発症の報告も増えています。また抗がん剤を長期に使用したあとなど二次性の発症もあります。完治は難しく、急性白血病へ移行する場合もあります。65歳以下であれば骨髄移植が唯一完治する方法と考えられています。

治療 
低リスクで輸血適応がなければ経過観察されます。白血球減少のみで芽球増殖などのリスクが低い場合はG-CSF製剤を使用しますが、効果は一時的です。免疫抑制剤シクロスポリンも適応と考えられています。二系統以上の血球抑制が強くなった場合などはアザチジンが第一選択薬と考えられています。アザチジンは有効であれば中止することなく継続します。
経過の中で芽球増殖が認められ、白血病に移行した場合は白血病に準じた抗がん剤治療を行います。

**その他骨髄増殖性疾患、骨髄線維症(MF)、真性多血症(PV)、本態性血小板血症(ET)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などについても治療を行っております。

多発性骨髄腫について

多発性骨髄腫とはどんな病気?

多発性骨髄腫は血液細胞の中の「形質細胞」という細胞が悪性化してどんどん増殖していく病気です(図1)。患者さんは高齢者に多く、女性よりも男性に多い傾向があります。血液細胞を作り出す工場のような役割をしているのが「骨髄」ですが、骨髄で形質細胞ばかりを作るので、他の細胞(赤血球、血小板、形質細胞以外の白血球)が作られなくなり、様々な症状(貧血、倦怠感、息切れ、紫の痣、浮腫みetc・・)が起こってきます。また、「形質細胞」は「免疫グロブリン」を作っている細胞なので、異常な免疫グロブリンが多量に産生されます。増えすぎた免疫グロブリンは、一種類のみなのでMonoclonal protein(M蛋白)と呼ばれます(図2)。M蛋白は血液の中に増えすぎると、血液がドロドロの状態になったり、腎臓に沈着して「骨髄腫腎」と呼ばれる腎障害を起こしたりします。骨髄の中で固まり(腫瘍)を作ってくると、溶骨性変化といって、骨が弱くなり、ささいな力で折れやすくなります。腰椎圧迫骨折(いつの間にか骨折)や長引く骨の痛みで整形外科を受診したら多発性骨髄腫だった、ということは診断の契機としては多いパターンになります。

ただし、健康診断を定期的に受けている人であれば、血液の異常(高たんぱく血症、ZTT/TTT異常、貧血、Cr上昇)で異常を指摘されて病院を受診し、症状の出る前に見つかることも多いでしょう。

多発性骨髄腫のステージとは?

多発性骨髄腫にも、他の悪性腫瘍同様にステージ・病期があり、それによって治療方針、予後が変わってきます。従来使われていたDurie-Salmon分類、ISS(表1)の他に、最近は染色体異常を検査できるようになり、新国際病期分類(R-ISS)が使われるようになりました。また多発性骨髄腫の症状が出てくる前の早期に、「くすぶり型骨髄腫/無症候性骨髄腫」(Durie-Salmon分類の病期1)や、さらに早期としてMGUS「意義不明単クローン性ガンマグロブリン血症」として診断される患者さんもいます。このような診断の方は、すぐに化学療法開始するのではなく、個人個人の病状を精査して、治療開始が必要な時期を見極めていきます。症状があるかどうかも大事な点で、症状というのは “CRAB(クラブ)”と略されますが、Cはカルシウム(calcium)値の上昇、Rは腎臓(renal)の障害、Aは貧血(anemia)、Bは骨(bone)病変です。

骨髄腫の国際的な団体としてIMF(International myeloma foundation)があります。IMF発行の日本語版のパンフレットもありますので、こちらも参考にして下さい。

https://www.myeloma.org/sites/default/files/images/publications/International/PDF/japanese/jp-cr.pdf

表1-1: Durie-Salmon分類
病期  
 1 次のすべてを満たすこと; ヘモグロビン値>10g/dL、血清カルシウム値正常または<10.5mg/dl骨X線写真で正常、または孤発性形質細胞腫、M蛋白量が少ない
 2 病期1、3の定義に当てはまらない
 3 次の一つでも満たすこと; ヘモグロビン値<8.5g/dL、血清カルシウム>12mg/dl進行した溶骨性病変、M蛋白量が多い
表1-2: 多発性骨髄腫のステージ:病期分類、新旧の比較
病期 国際病期分類(ISS) 新国際病期分類(R-ISS)
 1 血清β2ミクログロブリン<3.5mg/L
血清アルブミン≧3.5g/dL
遺伝子変異(FISH)*が標準リスク
かつ血清LDHが正常値より低い
 2 病期1、3の定義に当てはまらない 病期1、3の定義に当てはまらない
 3 血清β2ミクログロブリン≧5.5mg/L 血清β2ミクログロブリン≧5.5mg/L
かつ、遺伝子変異(FISH)ハイリスク*か、血清LDHが正常値より高い

*FISH : fluorescent in situ hybridization
ハイリスク = del(17p), t(4;14), t(14;16) 
 新国際病期分類(R-ISS分類)による全生存率 (海外の臨床試験データです)

Palumbo et al. JCO 61,2267. 2015

 

多発性骨髄腫の治療は?

多発性骨髄腫の治療はこの10年で目覚ましい進歩を遂げました(図2)。以前は「治癒しない病気」のため、ずっと病気と一緒に生きていかないといけない、というお話をしていましたが、新規薬剤を最初から使うことで、最近は「治癒する患者さん」も出てきているのではないか、と期待されています。

多発性骨髄腫の化学療法の進歩
図2

「治癒」を目指して、初回に多剤併用(3-4種類の抗がん剤を使う)して、若くて元気(<70歳)な患者さんには可能な限り、自家末梢血幹細胞移植を行っています。

当院で初発多発性骨髄腫に使用している化学療法レジメンは以下の通りです。

  • 移植適応患者
    VRD (ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾン)
    VCD (CyBorD) (ボルテゾミブ、サイクロフォスファミド、デキサメタゾン)
  • 移植非適応患者
    VMP (ボルテゾミブ、メルファラン、プレドニゾロン)
    VCD(CyBorD) 減量レジメン
    VRD-Lite (ルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾンの減量レジメン)
    Rd (レナリドミド、デキサメタゾン)

再発時にはさらに、ダラツムマブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ、パノビノスタット、エロツズマブ、ポマリドミドなどの新規薬剤を組み合わせたレジメンがあり、患者さん一人ひとりの病状、病態に応じて治療を選択していきます。

また、当院では積極的に新規薬剤を採用し、条件があえば「臨床試験」で日本では保険未承認の薬剤を試験として使うこともあります。患者さんの選択肢を広げられるように、可能な限り、多くの情報を提供するようにしています。

このページのTOPへ

Chapter.3: 頭頸部がんに対する薬物療法

当科では頭頸部領域のがんに対して化学療法を行っています。

従来から、外科医(耳鼻科、頭頸部外科、口腔外科)が化学療法も行う事が多いがんですが、当院では腫瘍内科医(化学療法専門医)が化学療法あるいは分子標的療法を行い、よりきめの細かい高度な治療や欧米での評価が高いと報告されている治療が期待できます。

この領域のがんの特徴としては総合腫瘍科(腫瘍内科)、頭頸科(外科)、放射線治療科の3科が合同で治療を行う事が多いのが特徴です。

例えば、最も多い頭頸部扁平上皮癌の場合、進行した腫瘍に対しては先ず総合腫瘍科が化学療法を行って腫瘍の縮小をはかり、その後放射線科と総合腫瘍科が共同で放射線治療と化学療法を同時に行い、その後に腫瘍が残存する場合には頭頸科で外科的処置をする事があります。

最も多いのは放射線科と総合腫瘍科が共同で放射線治療と化学療法を同時に行って治癒を目指す化学放射線療法です。また、頭頸部外科医が手術を行ったあと再発を予防するために化学放射線療法を行う場合もあります。

どの治療方法を選択するかは総合腫瘍科、頭頸科、放射線科、更に放射線診断医や看護師らが参加するCancer boardにおいて議論され、患者さんに十分説明して決定されます。
頭頸部扁平上皮癌の治療方針の大略を図に示します。

主な頭頸部扁平上皮癌に対する主な薬物療法を以下に示します。これらは大規模な比較試験により評価が確立している標準治療であり、患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • 導入化学療法:DCF(またはTPF)  3-4週毎に3サイクル
  • 化学放射線療法(CCRT):CDDP 3週毎に3サイクル投与、放射線は毎週5回(月曜−金曜)照射で33-35回
  • 生物学的放射線療法(BRT):Cetuximab 毎週、放射線は毎週5回(月曜−金曜)照射で33-35回
  • 転移再発症例に対する化学療法:FP+Cetuximab 3-4週毎

以上の治療で効果がない場合にはCancer boardで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

比較的稀な疾患としては唾液腺がん、悪性黒色腫、成人の横紋筋肉腫、神経芽細胞腫などがあげられます。特に後ろのふたつの疾患は成人では稀な疾患であり、がん研有明病院ではこのような稀な疾患の患者さんが全国から集まってきています。

 

このページのTOPへ

Chapter.5: 原発不明がんに対する薬物療法

当科では原発不明がんの診断、治療も行っています。

原発不明がんとは、病理学的に(腫瘍のサンプルを取って顕微鏡で)悪性と確認された転移性(全身的に広がっている)腫瘍で、通常の血液や画像検査で原発が分からないものを言います。頻度は意外に高く、一般的には悪性腫瘍全体のうち数%を占めると言われます。

診断はまず病理組織検査を詰めることで、以下のような免疫組織染色によって特定の原発巣を推定できる場合があります。

表.原発不明癌の病理診断によく用いられる免疫染色
組織型 抗原(抗体)
癌(上皮性悪性腫瘍) CK (cytokeratin), EMA, CEA
肺癌 Napsin-A, TTF-1
乳癌 GCDFP-15
胚細胞腫瘍 PLAP, c-kit, Oct4, CD30, AFP, hCG
神経内分泌腫瘍 Chromogranin, synaptophysin, CD56
肉腫(サルコーマ) Vimentin, CD34, desmin, myoglobin
SMA (smooth muscle actin), S-100
悪性黒色腫 S-100, HMB-45, melan-A
中皮腫 Calretinin, D2-40, mesothelin, WT-1
中枢神経系腫瘍 GFAP, neurofilament protein

最近は腫瘍組織の遺伝子プロファイルを見て原発推定、治療方針決定を行う試みも行われていますが、まだ研究段階です。

原発不明がんの中の一部は予後良好群(特定の治療方針によって長期の生存が期待できる群)と呼ばれる患者さんがいます。この場合、原発は確定しなくとも推定されるがん種に応じた治療を行えば治癒、あるいは数年以上の生存が得られる可能性があります。それ以外の場合は、治癒は困難になり、病状の進み方によっては半年も持たない場合があります。

病理・画像・検査所見により予後良好群を見つけ出し、それ以外の場合は化学療法の適応評価(効果がある程度期待できるかの判定)と今後早めに必要になるかも知れない緩和治療の準備を進めていく事が必要になります。

予後良好群と治療方針
・縦隔・後腹膜正中未分化癌 -- 胚細胞腫瘍に準じて
・未分化神経内分泌腫瘍 -- 胚小細胞癌に準じて
・腹膜癌 -- 卵巣癌に準じて
・女性の腋窩リンパ節転移、腺癌 -- 乳癌に準じて
・頚部リンパ節転移、扁平上皮癌 -- 頭頚部癌に準じて
・鼠径部リンバ節転移、扁平上皮癌 -- 婦人科癌に準じて
・男性の硬化性骨転移、PSA上昇 -- 前立腺癌に準じて

原発不明がんに対する主な薬物療法を以下に示します。原発不明がんはそれ程症例が多くなく、また非常に不均一なので大規模な比較試験により評価が確立している標準治療はなく、施設により種々の治療が行われていますが、一番良く行われているのはプラチナ製剤+タキサンと抗がん剤の組み合わせで、当院では外来で投与可能で患者さんのQOLが比較的保てるTC療法(カルボプラチン+パクリタキセル)を通常行っています。

患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • TC療法:原発不明がん(特に腺癌)3週ごと
    Carboplatin (カルボプラチン) d1
    Paclitaxel (パクリタキセル) d1
  • IP療法:小細胞癌、神経内分泌癌、4週ごと
    I: Irinotecan (イリノテカン) d1, 8, 15
    P: Cisplatin (CDDP;シスプラチン) d1

以上の治療で効果がない場合には総合腫瘍科カンファレンスで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

このページのTOPへ

Chapter.6: 肉腫、希少がんに対する薬物療法

当科では肉腫を初めとする希少がんに対して化学療法を行っています。

肉腫は発生部位によりその部位を扱う外科医(整形外科、消化器外科、呼吸器外科、耳鼻科・頭頸部外科、泌尿器科、婦人科など)が化学療法も行う事が多いがんですが、当院ではサルコーマセンターを開設し、肉腫を種々の臓器を専門とする医師や多職種の医療従事者が共同で治療する体制を作っています。その中で腫瘍内科医(化学療法専門医)が化学療法あるいは分子標的療法を行い、よりきめの細かい高度な治療や欧米での評価が高いと報告されている治療を行っています。

肉腫の特徴としては希少な上にバラエティに富み、診断が難しいことがあります。従って、肉腫の患者さんは2週間に1度開催され総合腫瘍科医師、担当する外科系医師、放射線科医師、更に病理医、基礎研究者らが参加するサルコーマカンファで議論され、正確な診断に基づいて治療方針が議論され、最終的に患者さんに十分説明して決定されます。

肉腫の大部分を占める軟部肉腫は、まず小円形細胞肉腫とそれ以外の軟部肉腫に分けられます。

  1. 小円形細胞肉腫:主にユーイング肉腫と横紋筋肉腫で、共に成人では稀な腫瘍です。
    どちらも化学療法に対する感受性が高く、小児に準じて強力な化学療法+局所治療(手術、放射線)の組み合わせで治療されます。
  2. 非小円形細胞肉腫:化学療法あるいは放射線療法に対する感受性は低く、たとえ転移があっても可能ならば手術を行う事を考えます。化学療法剤としては未だにアドリアマイシンおよびイフォマイドが標準治療ですが、最近新たな抗がん剤が開発されています。

軟部肉腫に対する主な薬物療法を以下に示します。これらは大規模な比較試験により評価が確立している標準治療であり、患者さんの全身状態、病変、これまでの治療経過などにより実際の治療は異なる場合があります。

  • VDC療法:Ewing肉腫、2-3週ごと
    V (ビンクリスチン) d1
    D/A (アドリアマイシン) d1
      6サイクル目以降 → アクチノマイシンD d1
    C (サイクロフォスファミド) d1
  • VAC療法:横紋筋肉腫、3-4週ごと
    V (ビンクリスチン) d1, 8, 15
    A (アクチノマイシンD) d1
    C (サイクロフォスファミド) d1
  • ADR療法:非小円形細胞肉腫、3週ごと
    Doxorubicin (アドリアマイシン) d1
  • イフォスファミド療法:非小円形細胞肉腫、3-4週ごと
    Ifosfamide (イホマイド) d1-5
    MESNA (ウロミテキサン) d1-5

以上の治療で効果がない場合にはサルコーマカンファで検討し、手術療法、放射線療法などの局所治療に移行するか、あるいは別の化学療法(2nd line以降)を行うか、あるいは新薬の治験等を試みるかについて相談して決定します。

その他の希少がんとして当科では悪性黒色腫(主に粘膜原発)、肺外小細胞癌・神経内分泌癌、悪性中皮腫(主に腹膜原発)、褐色細胞腫/傍神経節細胞腫、さらに原発不明癌の治療を行っています。

このページのTOPへ