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頭頸部がんの低侵襲治療について

頭頸部がんの低侵襲治療について

最終更新日 : 2024年4月1日
外来担当医師一覧

頭頸部がんの低侵襲治療について

頭頸部がん低侵襲治療センターでは、下咽頭、中咽頭および喉頭の早期がん(表在がん)のTis、T1およびT2症例の治療を担当しております。近年、内視鏡機器の進歩および頭頸科(耳鼻科)医および内視鏡医の意識向上もあり、早期がん(表在がん)が発見されることが多くなりました。この領域の表在がんに対する標準治療は外科手術および放射線治療ですが、嚥下および発声機能の温存を重視した内視鏡切除を含む経口的切除等の低侵襲な外科的療法の適応拡大がなされています。当センターで担当する表在がんに対する経口的切除は、食道がんや胃がんの治療での豊富な経験を応用し行っています。

現行版の頭頸部癌取扱い規約および頭頸部癌診療ガイドラインで経口的切除術として記載されている方法のうち、当センターでは以下の治療を行っております。

  • 内視鏡的切除術(EMR, ESDなど)
  • 内視鏡的咽喉頭手術(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery: ELPS)
  • ビデオ喉頭鏡手術(transoral videolaryngoscopic surgery: TOVS)

当センターでは、頭頸科と上部消化管内科との合同治療(seamless collaboration)として、上記治療を個々の症例に合わせて選択し、全身麻酔下で手術を行っております。

なお、上記以外の治療法としてロボット支援手術(transoral robotic surgery: TORS)が2022年4月に保険収載されました。中咽頭がんのT1およびT2症例に特に適しています。この手術の最大の利点は、従来の手術よりも繊細かつ正確な手術が可能であることです。また、従来の放射線治療と比較して、中咽頭がんのロボット手術は放射線による副作用を避けることができます。放射線治療は、副作用として嚥下機能の低下や誤嚥性肺炎のリスクがありましたが、ロボット支援手術によってこれらの問題を軽減できる低侵襲かつ効果的な治療法となります。当院では咽喉頭がん治療の低侵襲化のためにロボット支援手術を積極的に行っており、2022年11月に導入し、2023年は25例施行しました。

以下に当センターで行っているEMRおよびESD手技およびロボット支援手術につき解説します。

全身麻酔下に特殊な喉頭鏡(佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡(図1.))を用いて喉頭展開を行うことは、EMRおよびESDともに共通な手技です。

EMRの代表的な手法の1つに透明プラスチックキャップを用いたEMR( Endoscopic Mucosal Resection-using a Cap fitted endoscope; EMR-C)法があります。病変が小さい場合に用いられる治療法で、簡便、短時間に安全かつ確実なEMRが可能な方法です。ただし、この方法では大きい(広範囲な)病変を一括して切除することができないことが難点です。

大きい病変に対しては、ESD(Endoscopic submucosal dissection; 内視鏡的粘膜下層剥離術)法で治療を行い、当科でも症例に応じて選択しております。また、EMR後の遺残・再発の問題もあることから、近年では、ほぼ全例でESD法により治療が行われています。

佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡
(図1.佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡)
特殊な形状により内視鏡下で良好な視野を確保可能な喉頭鏡である。

ESD法の実際

当院では,Dualナイフを用いて行っています。Dualナイフを用いた切除手技の実際は以下の通りです。

  • 図1. 通常観察像です。病変は発赤と一部白色粘膜として認識されます。
  • 図2. ヨード染色を行うと病変範囲はヨード不染帯として描出されます。
  • 図3. ヨード染色後に切除範囲にマーキングを行います。
  • 図4. 生理食塩水を用いて、マーキングの外側近傍に局注を行い、Dualナイフで粘膜切開を行います。粘膜切開を病変の全周に行ったのちに、上皮下層に局注を追加します。引き続きDualナイフで粘膜下層を、高周波電流を流して剥離します (上皮下層剥離)。
  • 図5. 経鼻内視鏡を用いて細径把持鉗子で上皮下層の把持を行い、視認性を向上せ剥離を継続し、病変の切除を行います。
  • 図6. 切除後の人工的な潰瘍です。喉頭浮腫や高度な出血などの有害事象なく手技が終了しました。
  • 図7. 切除後の喉頭です。高度の浮腫がなく声帯が視認可能です。
  • 図8. 切除後の標本です。ヨード染色を行い病変範囲の確認を行います。その後、病理組織学的検索を行います。
  • 図1
    図1
  • 図2
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  • 図3
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  • 図4
    図4
  • 図5
    図5
  • 図6
    図6
  • 図7
    図7
  • 図8
    図8

EMR(EMR-C)法の実際

  1. 頭頸部表在がんは、食道がんと同様に、ルゴール(ヨード)を撒布することにより、ヨードで染色されない不染帯として、病変の範囲がより明瞭となります。ヨード不染帯を指標にして、病変の周囲に切除すべき範囲の印付け(マーキング;図1・矢印)を行います。
  2. 次に、病変下に生理食塩水を注入(局所注射;局注)して病変を膨隆させ(図2)、内視鏡の先端に取り付けた透明な筒(Cap)に膨隆させた病変を吸い込み、基部をスネアと呼ばれるワイヤーで絞扼します(図3)。
  3. 絞扼後、高周波電流で通電切除します。
  4. 切除後の咽頭粘膜には人工的な潰瘍ができます(図4)。潰瘍周辺には最初につけたマーキングはなく、目的の病変が完全に切除できたことがわかります。また、切除標本をヨード染色すると、病変を肉眼的に確認できます(図5)。
  5. 切除後に、この標本を病理組織学的に調べ、病変の拡がりや深達度などを診断します。
  • 図1
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  • 図2
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  • 図3
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  • 図4
    図4
  • 図5
    図4

ロボット支援手術

当院では2024年3月現在、4台の手術支援ロボットda Vinci Xiを導入しており手術を行っております。

da Vinci Xiについて

da Vinciシステムはペイシェントカート・サージョンコンソール・ビジョンカートの3つの器械で構成されています。

  1. ペイシェントカート

    サージョンコンソールで捜査している医師の手の動きを正確に再現し手術を行います。ペイシェントカートに手術に必要な鉗子を装着して使用します。人の手より大きな可動域をもつため、鉗子動作の制限がなく、手ブレ補正機能を搭載しており、人の手の動きを緻密に再現するため、正確かつ安全な体内での操作が可能です。

  2. サージョンコンソール

    サージョンコンソールを医師が操作し手術を行います。モニターには患者さんの体内がリアルな3D立体画像で見る事が可能です。

  3. ビジョンカート

    da Vinciシステムの監視を行います。手術を行う上で必要な映像システム・カメラの角度などをディスプレイを操作し設定します。

ロボット支援手術は、従来のTOVSと同じ視野で行われ、操作がより愛護的となり、TOVSで到達できないさらに深い層までの切除が可能な治療法です。また、舌根部など内視鏡切除術での佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡で視野展開が困難な部位も良好な視野が得られ、治療が可能です。開口障害がないTOVS適応と考えられるT1およびT2症例の中咽頭病変には積極的にロボット支援手術を行っております。

内視鏡切除における有害事象について

2008年9月〜2018年3月に当科で行ったESD症例260症例260病変中、有害事象を、43症例43病変(16.5%)に認めました。主なものは喉頭浮腫と出血で、緊急的に気管切開が必要になる場合もあります(図1.)。また、その内訳を以下に示します(表1.)。

図1. 主な有害事象
  • 喉頭浮腫
    喉頭浮腫
  • 出血
    出血
表1. 有害事象の内訳
表1. 偶発症・合併症の内訳

当センターの経口的切除術における特色

  • 豊富な治療症例数
    年間約150例の経口的切除症例があり、総数では800例を超える症例数となります。また、治療後の有害事象にも症例経験に基づき適切な対応が可能です。
  • 頭頸科と上部消化管内科のseamless collaboration
    両科スタッフ間は良好な関係を保って連携しており、それぞれの科内での情報共用も十分になされており,迅速な対応が可能です。
  • 治療困難例にも対応
    部位的に手技が困難な咽頭食道接合部の近傍の症例や放射線照射後の再発症例,また 異時性多発症例における瘢痕合併症例などの治療困難例に対しても適切な治療を提供しています。
  • 臨床研究
    「AMED頭頸部表在癌全国登録調査」に基づいた頭頸部表在癌に対する診断・治療法の開発に関する研究」グループにおける研究(頭頸部表在癌に対する経口的手術の第U/V相試験)や頭頸部癌根治照射後の表在性の局所遺残再発に対する経口的手術の第II相試験へ積極的な参加および症例登録を行い、先進的な医療開発に貢献しています。

治療成績

最近5年間の経口的切除症例数です。
近年増加傾向であり、2023年は年間153例まで増加しています。

直近5年間の経口的切除症例数
頭頸部内視鏡治療件数
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