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頭頸部表在がんの内視鏡的治療

唾液腺がん

最終更新日 : 2022年3月16日
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頭頸部表在がんの内視鏡的治療

近年、内視鏡機器の進歩および内視鏡医の意識向上もあり、頭頸部表在癌が発見されることが多くなりました。この領域の表在がんに対する標準治療は外科手術および放射線治療ですが、嚥下および発声機能の温存を重視した内視鏡切除を含む経口的切除等の低侵襲な外科的療法の適応拡大がなされています。内視鏡切除は、食道がんや胃がんの治療での豊富な経験を応用して行うことが可能です。

現行版の頭頸部癌取扱い規約および頭頸部癌診療ガイドラインの記載では、経口的切除術として下記が記載されています。

  • 内視鏡的切除術(EMR, ESDなど)
  • 内視鏡的咽喉頭手術(ELPS)
  • ビデオ喉頭鏡手術(TOVS)
  • レーザー手術

当科では、当院頭頸科との合同治療(seamless collaboration)として、全身麻酔下で上記EMR、ESDおよびTOVSを行っております(ただしTOVSは、頭頸科がメインに行う治療法です)。

下記に当科で行っているEMRおよびESD手技につき解説します。

全身麻酔下に特殊な喉頭鏡(佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡(図1.))を用いて喉頭展開を行うことは、EMRおよびESDともに共通な手技です。

EMRの代表的な手法の1つに透明プラスチックキャップを用いたEMR( Endoscopic Mucosal Resection-using a Cap fitted endoscope; EMR-C)法があります。病変が小さい場合に用いられる治療法で、簡便、短時間に安全かつ確実なEMRが可能な方法です。ただし、この方法では大きい(広範囲な)病変を一括して切除することができないことが難点です。

大きい病変に対しては、ESD(Endoscopic submucosal dissection; 内視鏡的粘膜下層剥離術)法で治療を行い、当科でも症例に応じて選択しております。また、EMR後の遺残・再発の問題もあることから、近年では、ほぼ全例でESD法により治療が行われています。

ただし、内視鏡切除手技に伴う偶発症および合併症の危険性は0(ゼロ)にはならないのが現状です。より安全な手技を行うために、当科では頭頸科と協力しながら、日々、研鑽を積み治療を行っています

佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡
(図1. 佐藤式彎曲型咽喉頭直達鏡)
特殊な形状により内視鏡下で良好な視野を確保可能な喉頭鏡である。

ESD法の実際

当院では,主にDualナイフを用いて行っています。Dualナイフを用いた切除手技の実際は以下の通りです。

  • 図1. 通常観察像です。病変は発赤と一部白色粘膜として認識されます。
  • 図2. ヨード染色を行うと病変範囲はヨード不染帯として描出されます。
  • 図3. ヨード染色後に切除範囲にマーキングを行います。
  • 図4. 生理食塩水を用いて、マーキングの外側近傍に局注を行い、Dualナイフで粘膜切開を行います。粘膜切開を病変の全周に行ったのちに、上皮下層に局注を追加します。引き続きDualナイフで粘膜下層を、高周波電流を流して剥離します (上皮下層剥離)。
  • 図5. 経鼻内視鏡を用いて細径把持鉗子で上皮下層の把持を行い、視認性を向上せ剥離を継続し、病変の切除を行います。
  • 図6. 切除後の人工的な潰瘍です。喉頭浮腫や高度な出血などの偶発症なく手技が終了しました。
  • 図7. 切除後の喉頭です。高度の浮腫がなく声帯が視認可能です。
  • 図8. 切除後の標本です。ヨード染色を行い病変範囲の確認を行います。その後、病理組織学的検索を行います。
  • 図1
    図1
  • 図2
    図2
  • 図3
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  • 図4
    図4
  • 図5
    図5
  • 図6
    図6
  • 図7
    図7
  • 図8
    図8

EMR(EMR-C)法の実際

  1. 頭頸部表在がんは、食道がんと同様に、ルゴール(ヨード)を撒布することにより、ヨードで染色されない不染帯として、病変の範囲がより明瞭となります。ヨード不染帯を指標にして、病変の周囲に切除すべき範囲の印付け(マーキング;図1・矢印)を行います。
  2. 次に、病変下に生理食塩水を注入(局所注射;局注)して病変を膨隆させ(図2)、内視鏡の先端に取り付けた透明な筒(Cap)に膨隆させた病変を吸い込み、基部をスネアと呼ばれるワイヤーで絞扼します(図3)。
  3. 絞扼後、高周波電流で通電切除します。
  4. 切除後の咽頭粘膜には人工的な潰瘍ができます(図4)。潰瘍周辺には最初につけたマーキングはなく、目的の病変が完全に切除できたことがわかります。また、切除標本をヨード染色すると、病変を肉眼的に確認できます(図5)。
  5. 切除後に、この標本を病理組織学的に調べ、病変の拡がりや深達度などを診断します。
  • 図1
    図1
  • 図2
    図2
  • 図3
    図3
  • 図4
    図4
  • 図5
    図4

内視鏡切除における偶発症・合併症について

2008年9月〜2018年3月に当科で行ったESD症例260症例260病変中、偶発症・合併症を、43症例43病変(16.5%)に認めました。主なものは喉頭浮腫と出血で、緊急的に気管切開が必要になる場合もあります(図1.)。また、その内訳を下記に示します(表1.)。

図1. 主な合併症

  • 喉頭浮腫
    喉頭浮腫
  • 出血
    出血

表1. 偶発症・合併症の内訳

表1. 偶発症・合併症の内訳

当科の内視鏡治療における特色

  • 内視鏡治療症例
    年間約70例の内視鏡治療症例があり、総数では480例を超える症例数となります。また、治療後の偶発症・合併症にも症例経験に基づき対応が可能です。
  • 頭頸科とのseamless collaboration
    当院頭頸科スタッフと良好な関係を保っており、当科と頭頸科内での情報共用も十分になされており,迅速な対応が可能です。
  • 治療困難例にも対応
    部位的に手技が困難な咽頭食道接合部の近傍の症例や放射線照射後の再発症例,また 異時性多発症例における瘢痕合併症例などの治療困難例に対しても適切な治療を提供しています。
  • 臨床研究
    「AMED頭頸部表在癌全国登録調査」に基づいた頭頸部表在癌に対する診断・治療法の開発に関する研究」グループにおける研究(頭頸部表在癌に対する経口的手術の第U/V相試験)へ積極的な参加および症例登録を行い、先進的な医療開発に貢献しています。

治療成績

最近5年間の内視鏡治療症例数です。

近年増加傾向であり、2021年は年間71例まで増加しています。

頭頸部内視鏡治療件数

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