がんに関する情報
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胃がんの内視鏡治療と成績

胃がんの内視鏡治療と成績

最終更新日 : 2022年3月16日

胃がんの診断

1.胃がんの存在診断

胃がんが存在する背景の胃粘膜は、ほとんどがピロリ菌による慢性胃炎です。この慢性胃炎の存在がときに胃がんの発見を困難にします。このように胃炎に紛れて、見つけにくい胃がんを“胃炎類似型胃がん”と言います。また、5mm以下の“微小胃がん”も発見が困難な胃がんです。がん研内視鏡チームでは、このような見つけにくい胃がんを発見するために、内視鏡医の教育システムを導入しています。内視鏡検診の全国集計での胃癌の発見率は0.28%(平成23年度)ですが、当院での新規の胃腫瘍の発見率は約3%と非常に高率です。

写真:微小胃癌
胃角大彎の2mmの早期胃癌(印環細胞癌)。
写真:胃炎類似型胃癌
胃体下部後壁の2cm大の早期胃癌。背景の胃炎が強く、癌の発見が難しい。

2.胃がんの範囲診断

手術前には正確な胃癌の範囲診断が必須ですが、背景の胃炎により癌の範囲が分かりにくいことがあります。正確な範囲診断を行うために、青い色素(インジゴカルミン)の散布を行っています。インジゴカルミンは病変の微細な凹凸を際立たせるため、粘膜表面の構造が観察しやすくなります。また、がんが広がっている部位ではインジゴカルミンは時間がたつと落ちていくため、病変の範囲が明瞭になります。

写真:通常の内視鏡では癌の境界が不明瞭であるが、インジゴカルミンを散布するとがんの境界が明瞭となる。

また、新しい技術である拡大内視鏡とNBIシステムを用いた内視鏡診断も範囲診断に有用です。NBIとはNarrow Band Imagingの略語であり、狭帯粋フィルターを電子スコープのシステムに組み込み、拡大内視鏡と併用することにより、80倍でがんの表面を観察することができます。このシステムを用いることで、当院ではがんの範囲を通常の倍率でみた場合に比べ、より正確に診断することができます。より正確に診断することで、がんを必要以上に大きく切除しすぎることや、逆に小さく切除しすぎてがんを取り残す危険を防ぐことができます。当院内視鏡チームでは常に新しい技術を取り入れ、患者さんの治療に反映させています。

写真:写真左の通常内視鏡では、癌の存在診断、範囲診断が難しい。写真右のように80倍に拡大して、NBIシステムを用いることにより、癌の範囲診断が明瞭となる。

3.胃がんの深達度診断

治療方針を決定するうえで、癌の深さ(深達度)の診断が必要です。通常の内視鏡だけでは判断が難しいときに、内視鏡の先から超音波を出す機械(超音波内視鏡)を使用し、癌の深達度診断の精度の向上に役立てています。

写真:体上部大彎の早期胃癌。超音波内視鏡を用いると、癌が粘膜下層まで浸潤していることが分かる。

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早期胃がんの内視鏡治療

早期胃がんに対する内視鏡治療は、内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection, EMR)と内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection, ESD)の2種類があります。

EMRでは治療手技は比較的容易ですが、2cmより小さな病変でも1回の切除で取りきれない場合があり、治療後の再発の頻度が5-10%程度認めます。ESDは2cmを超えるより大きな病変でも、1回の切除で完全な切除ができますので、治療後の再発はほとんどありません。2006年4月から早期胃がんに対するESDは医療保険の適応となり、日本国内では広く行われるようになっています。

ESDの手技により、未分化型がんを含む病変もESDの適応とされています。しかし現在のガイドラインにおいても(胃癌治療ガイドライン第6版、2021年7月改訂)、ESDの適応でない病変も存在します。

当院は有明病院開院以来、約5000例の早期胃がんに対するESDを行ってきました。ここでは、早期胃がんに対する内視鏡治療の適応、具体的な治療方法、治療成績、偶発症などについて説明します。

1.早期胃がんに対する内視鏡治療の適応

早期胃がんに対する内視鏡治療は、局所的な治療なので、胃壁外のリンパ節に転移がない病変が対象となります。具体的には「潰瘍のない、あるいは3cm以下で潰瘍を有する分化型粘膜内がん、潰瘍のない2cm以下の未分化型粘膜内がん」(写真1)が胃癌治療ガイドラインの内視鏡治療の絶対適応病変です。

過去に国立がん研究センターと当院における外科切除例を検討した結果、以下の3つの条件にあてはまる場合は、リンパ節転移を伴う可能性が極めて低いため、内視鏡治療の適応が拡大されています。

1: 2cm以上で、潰瘍のない、分化型、粘膜内がん (写真2)
2: 3cm以下で、潰瘍のある、分化型、粘膜内がん (写真3)
3: 2cm以下で、潰瘍のない、未分化型、粘膜内がん (写真4)

1―3のいずれも、2021年7月に改訂された胃癌治療ガイドラインでは絶対適応病変となりました。内視鏡治療を行った病変は、病理結果を詳しく検討して、完全に切除できたかどうかを判定します。大きな病変の場合など、EMRでは一括切除できない可能性がESDよりも高いです。そのため、早期胃癌に対する内視鏡での治療法としては、原則的にEMRではなくESDで病変を一括切除することが重要です。

  • 写真1:絶対適応病変
    胃体下部後壁 10mm 0-Ua 高分化型腺癌
    深達度M 潰瘍なし 
  • 写真2:絶対適応病変
    胃体上部小彎 30mm 0-Uc 高分化型腺癌
    深達度M 潰瘍なし 
  • 写真3:絶対適応病変
    胃体下部前壁 15mm 0-Uc 高分化型腺癌
    達度M 潰瘍あり
  • 写真4:絶対適応病変
    胃体下部前壁 12mm 0-Ux 低分化型腺癌
    深達度M 潰瘍なし 

2.早期胃がんのESD手順

早期胃がんに対するESDの治療手順を以下に示します。治療時間は病変部位、大きさなどで異なりますが、2cm以下の病変で30-60分、2cm以上の病変で60-120分程度です。潰瘍を伴う病変や出血の多い病変では2時間以上かかる場合もあります。

  1. 病変範囲の確認 (色素散布、NBI拡大内視鏡などを使用) (写真5)
    インジゴカルミンや酢酸の散布、Narrow Band Imaging併用拡大内視鏡を用いて病変の範囲を
    確認します。
  2. 病変の周囲にマーキング (写真6)
    アルゴンプラズマ凝固法で病変の3-5mm外側にマーキングをします。
  1. 粘膜下局注(ヒアルロン酸ナトリウム液)(写真7)
    局注針を粘膜下層に刺入し、インジゴカルミン(青色の色素)を混ぜたヒアルロン酸ナトリウム液を注入し、粘膜下層を隆起させます。
  2. 粘膜のプレカット (写真8)
    針状の高周波メスで、粘膜の一部を切開します。青く見えている部位が粘膜下層です。
  1. 粘膜の周囲切開 (写真9)
    ITナイフ2を用いてマーキングの外を全周にわたって切開しています。
  2. 粘膜下層剥離 (写真10)
    ヒアルロン酸の局注を粘膜下層に追加注入し、ITナイフ2を用いて粘膜下層を剥離します。
  1. 病変切除後 (写真11)
    切除後の潰瘍に血管が残っていれば、止血鉗子で血管の焼灼を行い、治療が完了します。
    この処置をすることで、治療後の出血予防になります。

実際のESDを動画で提示します。(動画参照)

症例1:
胃体上部小彎 30mm
0-Ua型高分化型腺がん 絶対適応病変

症例2:
胃角部大彎 30mm
0-Ub+Uc型中分化型腺がん 絶対適応病変

3.当院の早期胃がんESDの治療成績

当院で2005年6月から2021年12月の期間にESDを施行した早期胃がん、胃腺腫5848例の治療成績を示します。

一括切除率
(病変が一括で切除された症例)
99.2% (5,803/5,848)
一括完全切除率
(病変が一括切除され、かつ切除断端が陰性の症例)
96.6% (5,652/5,848)
治癒切除率
(病変が一括完全切除され、かつ適応拡大条件に一致した症例)
86.8% (5,077/5,848)
治療時間中央値
(内視鏡挿入から止血処置完了までの全体の時間)
70分
偶発症 後出血 2.6% (139/5,848)
穿孔 0.7% (40/5,848)

ESDを行うことで病変の一括切除(病変をひとまとめにして切除すること)率は高く、これにより詳細な病理所見の検討が可能となります。

最終病理診断から判断した治癒切除率は86.8%ですので、およそ15%は治癒切除が得られず、リンパ節郭清を伴う胃切除術(外科手術)が必要となります。これは、内視鏡治療前の診断で、病変の深達度が粘膜内にとどまる浅い病変で、ガイドライン適応内病変や適応拡大病変と判断しても、ESDを行った後の病理診断で、一部のがんが粘膜下層に浸潤していたために、内視鏡治療では取りきれていないと診断される場合があるためです。

そのためESDによって内視鏡のみで切除できる病変が多くなりましたが、その治療前の診断を正確に行うことが、より重要になっていることを示しています。

当院では内視鏡治療前に、ガイドライン適応病変と診断した症例の治癒切除率は約95%で、適応拡大病変と診断した症例の治癒切除率は約80%で、全体で86.4%です。ESDによって内視鏡のみで切除できる病変が多くなりまいたが、その治療前の診断を正確に行うことが、より重要になっていることを示しています。

当院では、通常の内視鏡診断に追加して、Narrow Band Imaging併用拡大内視鏡、超音波内視鏡などを行い、術前診断の精度を高める工夫を行うとともに、個々の担当医の診断だけなく、消化器センター内科・外科が合同でカンファレンスを行うことで、より正確な診断とそれに基づいた治療が行えるように日々務めています。

4.早期胃がん内視鏡治療後のピロリ菌除菌治療

胃がんの一番大きな原因はピロリ菌です。ピロリ菌は5歳以下の時期に感染し、胃に持続的な炎症を惹起させ、胃がんの発生に関与します。胃がんは多発することも多く、胃がんの10-20%に同時期に複数の病変を認めます(同時性がん)。また、胃がんを内視鏡治療した患者さんの経過を見ていくと、毎年約3%に新しい胃がんが見つかります(異時性がん)。当院も参加したJapan Gast Study Groupではピロリ菌を除菌することにより、胃がんの発生を抑制できるかという研究を行いました。この研究では早期胃がん内視鏡術後にピロリ菌を除菌することにより、異時性多発がんの発生が1/3になることが明らかになりました。当院でも以前から早期胃がん内視鏡治療後の方に、ピロリ除菌を推奨しています。ピロリ除菌により、異時性がんの発生が少なくはなりますが、ある程度の頻度でがんの発生は認めますので、必ず1年に1回の内視鏡による検診をお勧めしています。

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胃がんの内視鏡治療の成績

当院での胃がんおよび胃腺腫の内視鏡的切除術(EMR/ESD)の治療患者数は、2006年241例、2007年257例、2008年272例、2009年350例、2010年369例、2011年305件、2012年377件、2013年415件、2014年461件、2015年444件、2016年458件、2017年455件、2018年452件、2019年527件、2020年460件、2021年417件です。この中には他の病院で手術をしましょうといわれて、当院へこられ、内視鏡的切除でがんを取り除くことができ、胃を切りとらなくて済んだ方も多くいらっしゃいます。患者さんの増加に対応するため、スタッフの増員、内視鏡室の増設を行い、初診から治療まで約1ヵ月程度となっています。

胃がん、胃腺腫のESD・EMRの件数の推移

早期胃がんといってもすべての早期胃がんが内視鏡で治療できるわけではありません。しかし当院では早期胃がんの病期、組織型(顕微鏡でみたがんの顔つき)、などを治療前に全症例をカンファレンスで十分に検討し、内視鏡的治療を行うかどうかを決定しています。当院においては、全早期胃がんのうち、ほぼ半数が内視鏡的に切除されています。早期胃がんと診断され、治療法などについて不安な方や手術以外の治療法があるのではないかと思っている方は、ぜひ消化器センター内科の専門医にご相談ください。

十二指腸内視鏡治療と実績

十二指腸は、胃と小腸をつなぐ短い臓器で、同部に発生する十二指腸上皮性腫瘍(腺腫、がん)は、内視鏡検査で約0.03〜0.5%程度の確率で発見されます。比較的まれな疾患ではありますが、近年、発見される頻度が増加しており、それに伴い内視鏡治療の頻度も増加しています。当院では積極的に十二指腸内視鏡治療を行っており、その数は2019年58件、2020年56件、2021年75件と右肩上がりで推移しています。その一方で、十二指腸は他の臓器に比べて腸管壁が薄い上に、内視鏡の操作性が悪いため、内視鏡治療の難易度が高く、穿孔・術後出血などの治療による偶発症がおきやすいことが報告されています。当院では、患者さんの状態と各治療の利益/不利益を総合的に判断して治療方針を決定しています。
内視鏡切除方法については、従来の内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection, EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection, ESD)という切除法以外にも、腸管壁のダメージが少なく、安全性が高い切除法であるコールドポリペクトミー(Cold Snare Polypectomy, CSP)が開発されました。穿孔の危険性はなく、術後出血も非常に少ないのが特徴です。当院でもCSPを積極的に採用しておりますが、これまでに偶発症の経験はなく、従来と比べて短期間の入院で治療が可能な患者さんも増えてきています。内視鏡治療が難しい場合には、内視鏡・腹腔鏡の合同手術(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery, LECS)を含めた外科手術が考慮されます。当院では、必要に応じて内視鏡治療の適応を外科と話し合い、内視鏡治療を行うか、あるいは外科手術を行うかを決定しています。

外来担当医師一覧 外来担当医師一覧

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