がんに関する情報
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皮膚がん

皮膚がん

最終更新日 : 2023年4月7日
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がん研有明病院の皮膚がん診療の特徴

皮膚がんは一つの病気ではない

皮膚がんの治療は、悪性黒色腫(メラノーマ)、有棘細胞癌、乳房外パジェット病、皮膚付属器癌、血管肉腫、基底細胞癌により異なります。

皮膚がんは「希少がん:人口10万人あたり6例未満の稀ながん」に当てはまります。そのため標準治療が確立されていない疾患が多く、患者さんに適切な医療を提供していくために、個々の治療法を多職種で検討していきます。もちろん個々の患者さんの状況に応じた納得のいく治療を提案したします。

皮膚がんは、年々増加傾向にありますが、皮膚がんに関することを調べても、記載されている書物が少なく、自分がどういう皮膚がんになったのか、また治療方針はどうなるのか不安になることがあると思います。以下に、当科における皮膚がんの診断・治療内容を記載していますので、一読してください。

「皮膚がん」について知りましょう

皮膚のどこから発生したかによって、病気も治療法も異なる

「このメラノーマは、皮膚がんですか?」

「皮膚がんや悪性黒色腫(メラノーマ)」という言葉を耳にされたことがあるかと思います。ただ、その言葉の意味はというと、多くの方はあまりご存知ないのではないでしょうか。実は、「皮膚がん」というのは、特定の病気の名前ではなく、皮膚にできるさまざまながんの総称なのです。「メラノーマ」「基底細胞がん」「有棘細胞がん」などというものが、病気の名前です。外来診療では、例えばメラノーマと診断された患者さんに、病気や治療について説明をし、今後の治療方針について考えていきます。一通りの説明が終わったところで、患者さんから「ところで、このメラノーマって、皮膚がんなのですか?」「これは、悪性なのですか?」という質問がよくあります。一般には「皮膚がんとは何か」があまり知られていないのですが、悪性の腫瘍であり、治療をしなければ大きくもなりますし、転移もします。

「取れば治る?」皮膚がんの誤解

皮膚がんは、発生当初はちょっとした皮膚の変化だけで、痛みやかゆみなどもほとんどありません。そのため、皮膚の変化に気がついても「皮膚がん?まさかね」と思いながら放っておいてしまう人も少なくありません。また、「皮膚がんは、取ってしまえばすぐに治る」と考えている人も多いようです。皮膚がんが、皮膚の表面、わずか0.2mmほどしかない表皮にとどまっているうちならば、悪性度が高いといわれる皮膚がんのなかの「メラノーマ」であっても、切除するだけで治療は終わります。しかし、病気が進行してがん細胞が表皮の下にある真皮に入り込むと、転移する可能性が出てきます。

その理由は、皮膚の構造にあります。

  • 皮膚の構造

    皮膚は表面に近い部分から、表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっています。表皮は平均約0.2mmと非常に薄く、それが角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4層に分かれています。その95%が角化細胞で構成されています。角化細胞とは、表皮の最下層の基底層(基底細胞)で分裂して順次、皮膚表面へ移行し、最後は垢(アカ)となる細胞です。

    表皮の下にあるのが真皮です。部位によって異なりますが、平均約2mmの厚さがあります。真皮は、コラーゲンなどのタンパク質から構成されていて、汗を分泌する汗腺や皮脂を分泌する脂腺、毛を取り囲む毛包、血管やリンパ管などが存在しています。

皮膚がんが転移するしくみ

表皮には血管がありません。がん細胞は血液やリンパ液に運ばれて転移します。ですから、がんが血管のない表皮にとどまっているうちは、転移しません。しかし、その下の真皮には血管やリンパ管が存在します。がんが真皮に入りこむと、血管やリンパ管を通じてがん細胞がからだに散らばり、脳、肺、肝臓、腎臓などに転移する可能性が出てきます。皮膚がんによって命を脅かされることもあるのです。また、転移はしていなくても、がんが広がってくると切除範囲は大きくなります。そうなると機能的にも整容的にも障害が大きくなりますし、切除したところを修復するために、ほかの部位から皮膚を移植するなど、体の負担も大きくなります。ですから、内臓にできるがんと同じく、皮膚がんにおいても早期発見、早期治療が非常に大切です。

このような症状には要注意

以下のような皮膚の変化があったら、すぐに皮膚科を受診したほうが良いでしょう。

  • ここ数ヵ月で急に、ほくろが大きくなった、盛り上がってきた、出血した
  • シミが急に大きく(6mm以上)広がってできた
  • 左右非対称で縁がギザギザのほくろができた
  • 爪に黒い線が入った
  • 顔や手、お尻などにできた湿疹が、ステロイド軟膏を使っても2週間以上治らない
  • 昔やけどをしたり怪我をした部分に湿疹のようなものができて治らない
  • 陰部や肛門周辺などに、赤い斑点や皮膚の一部が白くなったような湿疹ができた
  • 最近、頭をぶつけたところの、あざが治らない
  • 以前リンパ節を郭清し、リンパ浮腫があった腕や足にあざのようなものができた

受診の結果、皮膚がんが疑われる場合は、さらに詳しい検査・診断ができるよう皮膚腫瘍の専門家がいる病院を紹介してもらいましょう。紹介先については、日本皮膚科学会が皮膚悪性腫瘍に関する診療技術と知識をもつ医師を認定する「皮膚悪性腫瘍指導専門医」という制度があり、これも手がかりになります。

ほくろと皮膚がん、どう違う?

皮膚が黒や褐色に変化するものとして、ほくろやシミ、脂漏性角化症(老人性いぼ)、基底細胞がん、メラノーマなどがあります。これらは、皮膚科医でも肉眼で見ただけでは区別がつかないことがあります。その場合、ダーモスコピーという拡大鏡で細部を詳しく観察して、はじめて診断がつきます。それでもわからないときは、皮膚の組織を取って検査する「皮膚生検」を行う必要があります。10年前からあるほくろでも、この数力月で急に大きくなってきた場合は、皮膚がんを疑います。しかし、これはほくろががん化したということではありません。 10年前からあったものが、今メラノーマと診断されたとしても、発生当時からメラノーマだったのです。ですから、「これはずっと前からあったほくろだから」と自己判断せずに、急に大きくなった場合は皮膚科でしっかりと調べてもらうことが重要です。

さまざまな性格をもつ、皮膚がん

「皮膚がん」とは、表皮のなかにある細胞ががん化したものを指します。それに対して、真皮から下にある組織ががん化したものを「肉腫」と呼びます。同じように皮膚にできたように見える病気でも「がん」と「肉腫」では、発生した組織が異なります。さらに「皮膚がん」はどの細胞から発生したのかによっても、性格が異なり、それぞれ発症数も異なります。

表皮の基底層から発生したものが「基底細胞がん」です。皮膚がんのなかでは一番発生が多く、転移することはほとんどありませんが再発が多いがんです。「有棘細胞がん」は、表皮のなかの有棘層ががん化したものです。高齢者の顔や手足などに発生することが多く、加齢とともに罹患者が増えていきます。昔のやけどの傷あとに発生することもあります。また、このがんは、特有の臭気を伴うのも特徴の1つです。「乳房外パジェット病」は、汗腺の1つである「アポクリン腺」に由来するといわれています。外陰部や肛門周囲に多く発生し、ときに、脇の下などにも発生します。見えづらく、また人に相談しにくい部位だけに受診が遅れ、診断されたときには大きく広がっていることも少なくないがんです。そして、基底層にある色素細胞から発生したがんが「メラノーマ」で、爪にも発生します。ほくろと区別がつきにくく、病気の進行が早い、悪性度の高いがんです。皮膚科で診るがんとして「血管肉腫」があります。正確な分類では「皮膚がん」ではなく「肉腫」に含まれ、血管の内側の細胞から発生します。高齢者の頭の怪我を契機に発症することがあり、非常にまれですが、悪性度は高く注意が必要ながんです。

自分の「がん」を知ることが治療への第一歩

このように、「皮膚がん」は、それぞれ発生母地が異なっており、皮膚のなかの何ががん化したかによって、病気の経過も治療も異なります。ですから、これからがんに立ち向かっていくにあたっては、自分は何の皮膚がんなのかを知ることがとても大事なのです。

悪性黒色腫(メラノーマ)

あくせいこくしょくしゅ Malignant Melanoma
悪性度の高いがんではあるが 新薬登場で治療に期待

どんながん?

  • 特徴

    メラノーマは、皮膚のメラニン色素を作る色素細胞ががん化した腫瘍と考えられており、一見、ほくろのように見えます。「悪性黒色腫」とも呼ばれ、非常に悪性度の高いがんです。

    病気の進行が極めて早く、手術をしても早い時期に再発や転移することが少なくありません。1〜2ヵ月で全身状態が変わるため、メラノーマが疑われる皮膚の異常を見つけたらすぐに受診することが大切です。

  • 発症頻度・発症年齢

    以前は欧米人に多く、日本人にはまれながんだといわれていましたが、日本人のメラノーマによる死亡数は、この40年間で4倍ほども増加しています。これは、紫外線による影響に加えて、高齢化も要因の1つだと考えられています。ただし、発症が多い年齢には、30〜50歳代と60〜70歳代の2つのピークがあります。ほかの皮膚がんが高齢者の発症が多いのに対して、メラノーマは若い人の発症も多いのが特徴です。

  • 治療

    治療は手術による切除が基本です。所属リンパ節以外のリンパ節転移や内臓転移があった場合は薬物療法となりますが、日本では、長い間「インターフェロンβ」と化学療法の「ダカルバジン」を用いた治療しかありませんでした。しかし、日本で開発され世界に先駆けて発売された抗PD-1抗体薬「ニボルマブ」をはじめとして、抗PD-1抗体「ペムブロリズマブ」や抗CTLA-4抗体「イピリムマブ」、またBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」など新しい薬物が次々に出てきており、進行期メラノーマや術後補助療法に対する治療は大きく変化しはじめています。

症状と検査

【症 状】
  • 次第に大きくなるほくろ様のふくらみ。足の裏にできることも

    一見ほくろに見えますが、メラノーマはほくろとは異なり、次のような特徴があります。

    • 初期はほとんど盛り上がりがなくシミのように見える
    • 大きさは6mm以上
    • 非対称性で境界がギザギザと不規則になっている
    • 1つの病変のなかで、淡褐色から真っ黒まで、さまざまな色調が混在している

    「ほくろが急にできた」、「ほくろだと思っていたものが、1〜2ヵ月で急に大きく広がってきた」というときに、メラノーマが疑われる場合があります。発症部位で日本人に最も多いのは足の裏で、約30%が足の裏に発症します。そのほか、顔や体幹にできることもあります。

  • メラノーマの病型は4タイプ

    メラノーマは、形やできやすい部位によって、4つのタイプに分類されます。

    • 結節型

      固く盛り上がった塊がだんだん大きくなってくるタイプです。 40〜50歳代の発症が多く、全身のどこにでも発生します。

    • 表在拡大型

      全身のどこにでも発生する、平たく広がったタイプです。幅広い年齢で発生します。

    • 悪性黒子型

      不規則な形のシミが徐々に拡大し、やがて中央が膨らんで大きくなってきます。高齢者の顔面に発生しやすいタイプです。

    • 末端黒子型

      足の裏や手足の爪に発生する、日本人に最も多いタイプです。シミの中央に盛り上がった塊ができます。一般に40〜50歳代に多く発生するといわれています。

    • 粘膜型

      4タイプには含まれませんが、数%の頻度で粘膜に生じることがあります。症状が現れて初めて診断されるので進行していることが多いとされています。

【検 査】
  • ダーモスコピーで診断がつかなければ生検を

    診断の基本は視診です。ダーモスコピーで患部を拡大して症状を見て診断します。ダーモスコピーで診断がつかないものは生検します。メラノーマの文献には、「転移を助長する恐れがあるため、生検には注意を要する」と記載されているものもありますが、その根拠は明らかではなく、生検を必要とすることも少なくありません。

    またこのほか、「生検を行う場合は、患部全体を切除した上で行うべき」とする文献もあります。しかし、顔に大きな病変がある場合、ほくろや基底細胞がんとの区別がつきにくい場合など、単なるシミかメラノーマかを調べるために、病変全体を切除して調べるのは、現実的ではありません。そこで、部分生検を行うにしても、万一、メラノーマと判明したら、すぐに全体を切除できるよう準備を整えておく必要があります。

    メラノーマと診断されたら、CTやMRIでリンパ節や内臓への転移の有無を調べます。

  • リンパ節への転移を調べるためにセンチネルリンパ節生検を行う

    メラノーマは、センチネルリンパ節への転移の有無が生存期間に影響を及ぼす重要な因子であることが明らかになっています。「皮膚悪性腫瘍ガイドライン」によれば、CTでリンパ節腫大がないことが確認されている、原発巣の厚さが0.8mm以上のメラノーマに対しては、センチネルリンパ節生検を実施することが推奨されています。センチネルリンパ節生検によって、顕微鏡で見ないとわからない早期の転移が発見できた場合は、現在はリンパ節郭清を行わず、術後補助療法として抗PD-1抗体「ニボルマブ」「ペムブロリズマブ」、またはBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」の使用を検討します。

  • BRAF遺伝子変異を調べる

    進行期にBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」、または術後補助療法「ダブラフェニブ+トラメチニブ」を使用する場合、BRAF遺伝子変異が陽性であることが条件となります。このため、手術後にセンチネルリンパ節転移が判明したときに、検体からBRAF遺伝子変異有無を検査する必要があります。

【ステージ分類】

腫瘍(がん)の厚さ、潰瘍の有無、リンパ節や内臓への転移によるステージTからWに分けられます。以下に簡便に記載します。

・ステージT  腫瘍の厚さが2mm以下で潰瘍に有無は問わない
・ステージUA 腫瘍の厚さが1〜2mm、潰瘍あり
腫瘍の厚さが2〜4mm、潰瘍なし
UB 腫瘍の厚さが2〜4mm、潰瘍あり
腫瘍の厚さが4mm以上、潰瘍なし
UC 腫瘍の厚さが4mm以上、潰瘍あり
・ステージV  腫瘍の厚さに関わらず、リンパ節や皮膚転移がある
・ステージW  腫瘍の厚さに関わらず、内臓への転移がある
【治 療】
  • リンパ節転移があるステージVでは術後補助療法へ

    手術後、リンパ節や皮膚転移があるステージVに対して、術後補助療法としてBRAF遺伝子変異が陰性なときに抗PD-1抗体「ニボルマブ」「ペムブロリズマブ」、またはBRAF遺伝子変異が陽性であれば抗PD-1抗体もしくはBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」を1年間使用することになります。メラノーマの進行度は、がんの横への広がりでなく厚さで評価します。大きく広がったメラノーマでも、がんが薄く表皮内にとどまっていれば、転移がないことが多く、切除だけで治療は終了します。一方、小指の頭くらいの大きさのメラノーマでも、盛り上がっているような場合は、かなりの確率でリンパ節転移を起こしているといわれています。

  • ステージUB、UCにも術後補助療法が拡大

    上記に記載したようにステージVに対して術後補助療法が行われていますが、近年リンパ節や皮膚転移のないステージUBならびにUCに対して、「ペムブロリズマブ」が術後補助療法として1年間の投与となりますが承認をされました。このように悪性黒色腫の治療はステージの早い段階から薬物療法を行う方向性になっています。

  • 進行期の治療は新薬を

    内臓への転移があったとき、今までは「ダカルバジン」が使用されていました。しかし、「ダカルバジン」の効果については、単剤での奏効率は5〜20%とされているものの、ほとんどが部分奏効(PR)であり、生存期間の延長効果もほとんど認められていません。化学療法に大きな効果は望めない状態が長年続いていました。そうしたなか、2014年9月に抗PD-1抗体薬「ニボルマブ」が世界に先駆けて本邦で承認され、その後様々な新薬が登場してきました。現在、免疫チェックポイント阻害は「ニボルマブ」以外に、抗PD-1抗体「ペムブロリズマブ」、CTLA-4抗体「イピリムマブ」が使用され、現在では抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体「ニボルマブ+イピリムマブ」も投与できます。一方、BRAF遺伝子変異が陽性であれば、分子標的薬のBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」が切除不能進行例に使用されています。

    BRAF遺伝子変異が陽性であれば免疫チェックポイント阻害薬ならびに分子標的薬の両方が治療選択肢となりますが、どちらを先に使用するかについては議論があり、個々の患者さんの状況を参考に治療方針を決めていきます。

悪性黒色腫で使用される薬剤の適正使用

〇 : 適用されている
【放射線治療】
  • 脳転移や骨転移が生じたときに活用

    メラノーマが脳に転移している場合は、放射線治療が選択されます。脳の血管には血液脳関門といういわば関所があって、薬剤などが到達しにくくなっているのです。しかし、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の脳転移への効果が報告されており、放射線治療と合わせた治療法なども検討されます。また骨に転移した場合も、放射線治療が行われます。脳転移や骨転移に対しての放射線治療は、局所の症状を制御するという症状緩和の目的をもちます。脳転移によって現れた頭痛や吐き気、またしびれや麻痺といった神経症状や、骨転移で起きる痛みなどを軽減します。

再発・転移に備える

  • 小さくても転移する確率が高いので、早め早めの対処でより納得のいく治療を

    メラノーマは、血管を通ってがんが転移する「血行性転移」と、リンパ管を介して転移する「リンパ行性転移」が同時に起きやすいという性格をもっています。治療にあたってはセンチネルリンパ節生検を行い、転移があれば薬物を使用した術後補助療法も行います。しかしリンパ節転移が見つからなかったら安心なのかといえば、手放しでは喜ぶことはできません。がんの厚さがある程度(3.0mm以上)厚いと、血管を通って内臓に転移する確率が高くなるためです。メラノーマは、ほかの皮膚がんと異なり、診断された時点で厳しい状況を覚悟しなければならないがんです。ですから、その認識をもって治療や生活への対処をしていかないと、対応が間に合わないということもあります。たとえば、治療効果が思う以上に期待できなかったとき、いずれは緩和ケア病棟で療養したいという希望をもっていたとしても、緩和ケア病棟に入るには時間がかかります。手続きを進める間に病状が進み、希望する緩和ケアを受けられないまま亡くなるということもあります。しかし、メラノーマと診断されたからといって悲観することはありませんが、病状がほかのがんと比べて急速に進むことがあるため、先へ先へと対応を考えておくことが必要です。

有棘細胞がん

ゆうきょくさいぼうがん Squamous Cell Carcinoma: SCC
紫外線の影響で顔にできやすいがん 手術、放射線、化学療法からベストな選択を

どんながん?

  • 発生・部位

    表皮の中間にある「有棘層」を構成する細胞から発生するがんです。高齢者に多く、加齢とともに罹患者が増えていきます。紫外線を浴びやすい顔や手足などに発生することが多い一方、何十年も前に受けたやけどや傷の痕や、放射線治療を受けた部位に発生することもあります。また、女性の外陰部に発生することもあり、これは子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していると考えられています。男性で亀頭部分に発生するケ−ラー(Queyrat)紅色肥厚症はHPVが関与すると考えられており、これは有棘細胞がんの前駆症状とされています。

  • 症状

    初期の有棘細胞がんは、一見すると湿疹に見えます。湿疹だと思ってステロイド剤を塗って2週間以上たっても治らず、調べてみたら有棘細胞がんだったということが少なくおりません。また、お尻にニキビのような「おでき」がたくさんできて、それが破裂したり治ったりを繰り返す、「慢性膿皮症」という皮膚病があります。これが治らず、「今回は長引くな」と思っていたら「実はがんだった」ということもあります。進行すると、浸出液の多い、ぐじゅぐじゅした潰瘍になったり、カリフラワーのように盛り上がったりします。盛り上がった腫瘍のなかでがん細胞が増殖を続け、血管を破壊して突然出血することもあります。
    有棘細胞がんは、いわゆる「垢」になる一歩手前の細胞ががん化したものであり、膿のような細胞がたまりそれに細菌が付着して、独特の臭気を発します。この、例えて言えば、「ずっと洗わなかった足の裏」のような臭いが、しばしば患者さんや家族を悩ませます。

  • 経過

    がんが表皮内にとどまっていれば、転移することはほとんどありません。しかし、表皮から真皮に浸潤してくるとリンパ節に転移しやすく、さらに肺や肝臓、ときには脳に転移することがあります。ほかの皮膚がんと同じく、有棘細胞がんも表皮内にとどまっているうちに見つけて切除してしまえば、それで治療が終了します。

症状と検査

【症 状】
  • 擦り傷のようなものから大きなものまで、見た目はさまざま

    有棘細胞がんは、表皮内がん(前がん病変)と、表皮の下にある基底膜を破って進行した浸潤がんとに分類されます。紫外線が原因で発生する「日光角化症」や、ヒトパピローマウイルスが発症の一部に関与しているのではないかと考えられている「ボーエン(Bowen)病」は、浸潤がんになる一歩手前、がんがまだ表皮内にとどまっている状態です。どちらも湿疹や擦り傷のような見た目で、「日光角化症」は日焼けしやすい顔や手足に生じ、「ボーエン病」は日に当たらない部分にも発生します。放っておくと浸潤がんに進行する可能性が高く、初期に診断して治療することが重要です。また、白板症が有棘細胞がんの前駆症になる場合もあります。症状はさまざまで、擦り傷程度にしか見えない患者さんもいれば、まるで手におまんじゅうが乗ったような大きな腫瘍ができる人もいます。これまでの経験から、おまんじゅうのような派手ながんより、擦り傷程度に見えるがんのほうが、その後の経過が悪い傾向があります。大したことがなさそうに見える傷や湿疹でも、なかなか治らない場合、実はがんだったという場合があるのです。真皮内にがんが浸潤するとリンパ節転移を起こしやすくなります。

【検 査】
  • 生検後、浸潤性なら転移しているか調べる検査を

    確定診断のためには、局所麻酔をして皮膚病変の一部を切り取り、顕微鏡で組織を調べる生検が必要です。浸潤癌であることがわかれば、CT検査でリンパ節や内臓への転移の有無を調べます。

  • センチネルリンパ節生検のエビデンスは確立していない

    有棘細胞がんでのセンチネルリンパ節生検は、がんの詳しい進行度を知るためには有用です。近年、保険適用となりましたが、センチネルリンパ節生検を行うことが予後を改善するかどうかについては、データは出ていません。

治 療

  • V期までは切除し、手術できない場合は放射線治療を

    手術ができる場合と、手術ができない場合によって、治療が異なります。手術ができるのは、基本的にV期までです。V期は、がんが皮下組織を越えているか、リンパ節転移が生じていても、遠隔転移はない状態です。ただし、有棘細胞がんのリンパ節転移は周囲の組織を取り囲むように転移をする性質があるために、V期でもがんが大きいとなかなか手術で取りきれないという状況も起こりえます。がんが大きい場合、手術の前に放射線治療と化学療法を行い、がんを小さくしてから切除する方法をとることがあります。再発・転移のリスクは、がんのできた部位と大きさによって分類されます。がんと正常な皮膚との境界が不明瞭なものや、急速に大きくなってきたがん、痛みなど自覚症状を伴うがんは高リスクに分類されます。リスクの高低によって、切除の際の距離をどのくらいとるかなど、治療が変わってきます。手術ができないがんに対しては、放射線治療が比較的効果的です。転移があった場合には化学療法が選択されますが、有棘細胞がんに対してはあまり有効ではないといわれています。

【手術】
  • 再発リスクに適した距離を保ち、最大10mm離して切除

    内臓への転移が起きていないV期までの場合は、手術でがんを切除します。切除後は大きさにもよりますが、縫縮、または植皮、もしくは皮弁による再建をします。がんが深部まで浸潤していて、筋肉まで切除しなければならないときは、遊離皮弁が必要な場合があります。

    原発巣は最低限4mm離して切除する必要があります。切除の大きさは、リスクによって変わります。高リスクの領域にできたがんや、皮下に浸潤しているがんは、がんから6〜10mm離して切除します。

    • 術前化学療法・術前化学放射線療法
      • 化学療法で腫瘍を小さくしてから、手術を行うことも

        ほかの皮膚がんでは、術前化学療法を行うことはほとんどありませんが、有棘細胞がんは化学療法で腫瘍縮小効果を望めることがあり、術前化学療法を行う場合があります。顔や手など人目につきやすい部分に大きながんがあり、切除すると変形が大きかったり機能が失われるなどの恐れがある場合、放射線治療と化学療法を組み合わせてがんを小さくしてから手術を行うことで、切除範囲を小さくすることができます。

    • 術後放射線療法
      • 術後に放射線を照射する場合もある

        一方、切り取ったがんの端にがん細胞が残っていた場合(切除断端陽性)や、がんを切除できていても神経まで浸潤していた場合など再発の危険性が高いと考えられる場合は、手術後に放射線治療を行うことがあります。

【放射線治療】
  • 化学療法を併用する場合もある

    W期で内臓に転移のある場合は、手術が適応になりません。また、W期であっても転移を起こしているリンパ節が血管を巻き込んでいる場合も、手術が適応にならないため、放射線による治療などを行います。照射は、がんの大きさによって異なりますが、概ね総照射量50〜65Gyを4〜6週間かけて照射します。放射線の効果を増強させる目的で、化学療法を併用することもあります。

【全身化学療法】
  • 症状を和らげることを目的に行う

    日本では、「ペプロマイシン単剤」か「シスプラチン+アドリアマイシン」、もしくは「シスプラチン+5-FU」が併用されることが多いです。手術困難な進行原発巣や所属リンパ節転移に対して、こうした化学療法を使用した全身化学療法は、がんを小さくして症状を和らげる効果が期待できます。一方、生存期間を延長させる効果は乏しいといわれています。また、内臓などへの遠隔転移に対しても、有用性は不明とされています

【外用の化学療法】
  • 塗り薬で症状を緩和する

    手術や放射線治療、化学療法の適応とならない患者さんに対して、保険適用されている治療法として、「ブレオマイシン硫酸塩製剤」と「フルオロウラシル外用剤」があります。どちらも患部に塗る、外用の化学療法剤です。がんが進行し治癒は目指せない状態のなかで、がんによる症状を緩和する目的で行う局所化学療法という位置づけで使用されます。増大したがんによる出血は、「モーズ軟膏」で止血を行うことがあります。

再発に備える

有棘細胞がんは、再発はほとんどみられないがんですが、真皮内に浸潤するとリンパ節転移を起こしやすいという性質をもっています。リンパ節への転移を早期に発見するためには、患者さん自身のセルフチェックが大切です。リンパ節転移を生じた症例の60〜80%は手術から2年以内に発見されたとの報告もあり、可能であれば、毎日または毎月1回、日を決めてリンパ節を触って腫れや異変がないかチェックします。自分で触れることのできるリンパ節は首、脇の下、脚の付け根の3ヵ所です。がんのできた部位によってどこのリンパ節に転移しやすいかが決まりますので、あらかじめ医師にチェックすべきリンパ節を聞いておくと良いでしょう。異変を感じたら、すぐに医師に報告してください。

乳房外パジェット病

にゅうぼうがいぱじぇっとびょう Extramammary Paget’s Disease
発見が遅れやすいがん 疑わしいと思ったら早めに皮膚科受診を!

どんながん?

  • 発生・部位

    乳房外パジェット病は、皮膚に分布する汗腺の1つである「アポクリン腺」に由来するといわれる皮膚がんです。「アポクリン腺」は乳頭や乳輪にも多く、乳房に発生すると「乳房パジェット病」と呼ばれ、乳がんの一種とされます。一方、乳房以外の、外陰部や肛門周囲、脇の下などアポクリン腺が多く存在する場所に発生した場合は、「乳房外パジェット病」といわれ、皮膚がんに分類されます。初期の乳房外パジェット病は、赤い斑点や、皮膚の色が白く抜けたような、湿疹の一種のように見えます。かゆみを伴うこともありますが無症状なことも多く、発生の多くが外陰部ということもあり、発見が遅れることも少なくありません。医療機関に行くのをためらい、診断がついたときにはかなり進行していたということもあるがんです。

  • 経過と治療

    がんが表皮内にとどまっているうちは転移もなく、手術だけで治療は終了します。ただし、発見が遅れるとがんが広い範囲に広がるため、切除範囲も大きくなります。見た目にも、機能的にも、広い範囲を切り取ることで障害が起こりやすくなります。また、2個以上のリンパ節転移が見つかると、その後、内臓に転移する確率が高くなるといわれています。内臓に転移があった場合は化学療法を行いますが、内臓などに転移した乳房外パジェット病に対して、抗がん薬の効果はまだ確認されていないのが現状です。

  • 類似疾患(二次性乳房外バジェット病 一肛門がんと肛囲パジェット病を区別して治療を)

    一方、肛門、腟、尿道に発生したがんが、皮膚にまで及んできたものは、「二次性乳房外パジェット病」と呼ばれ、原発性の乳房外パジェット病とは区別し、治療法も異なります。

    腟、尿道、肛門に発生したがんが、皮膚にまで及んできたものは、「二次性乳房外パジェット病」と呼ばれます。問題となるのは、肛門のがんと乳房外パジェット病との区別です。乳房外パジェット病には、肛門のまわりにだけ発生する「肛囲パジェット病」も少なくありません。これが、肛門の外側に乳房外パジェット病(肛囲パジェット病)が発生したものなのか、内側に発生した肛門がんが外側にまで広がってきたものかを区別することが大切です。肛門の内側から発生した肛門がんの場合は、外側の皮膚を切除するだけでは不十分で、肛門を含め、がんが広がっていれば直腸も切除する可能性があります。そのため、必ず大腸内視鏡検査を行い、肛門の内側にがんがないかどうかを確認する必要があります。また、切除したがんの免疫染色を行うことで、皮膚原発の乳房外パジェット病なのか、肛門の内側から発生したがんなのかがわかります。これも肛囲パジェット病の場合は必須の検査です。

  • パンツ型浸潤−リンパ液が足のつけ根で逆流して生じる

    非常にまれですが、乳房外パジェット病では「パンツ型浸潤」という症状を示すことがあります。これは、文字通り、下着のパンツで隠れる部位の皮膚にがんが出てきた症状を指します。通常、がんはリンパ液の流れに沿って転移します。しかし、がんがリンパ節に転移すると、その部分でリンパ液の流れがせき止められ、がん細胞が末梢のリンパ管に逆流することによって、皮膚にがんが及んでくることがあります。乳房外パジェット病は外陰部に生じることが多く、脚のつけ根(鼠径部)に転移したがんがリンパ液の逆流により下腹部に広がり、あたかもパンツをはいたようなかたちで、がんが皮膚へと出てくるのです。パンツ型浸潤はリンパ節を含めた深い組織の変化が皮膚に出てきたものであり、原発巣の単なる再発、拡大ではありません。手術療法の適応ではなく、化学療法か放射線治療が適応となります。進行期のなかでも非常に予後が厳しい状況です。

症状と検査

【症 状】
  • 外陰部の赤みやただれ。湿疹や感染症と見分けにくい

    最初は、赤い斑点や皮膚の色が白く抜けたような湿疹に見えます。やがて赤い斑点が大きく広がってきて、表面がただれたようになることもあります。さらにがんが進行すると、結節(皮膚が固く盛り上がること)を生じることもあります。発生場所は、その大半が外陰部ということもあり、発見や、受診が遅れることも少なくありません。また、無症状のことも多いですが、かゆみを伴うこともあります。市販のかゆみ止めなどで治まることもあるため、それが受診を遅らせる一因ともなります。皮膚科にかかったとしても、感染症や湿疹との鑑別が難しく、それらの治療を行っても治らないという経過を経て、最終的に乳房外パジェット病を疑い、診断されることも少なくありません。乳房外パジェット病は、60歳以上の高齢者に発生することが多いがんです。外陰部に湿疹ができて、市販の薬を使っても2週間以上治らなければ、皮膚科を受診しましょう。

【検 査】
  • 皮膚生検で診断が確定すれば、CT検査とセンチネルリンパ節生検を
    • 皮膚生検とCT検査

      まず病理検査を行います。局所麻酔をして、がんだと思われる場所の組織を、3mmほど丸くくり抜いて採取し、顕微鏡で検査します。その結果、乳房外パジェット病と診断されれば、CT検査を行ってリンパ節や内臓に転移がないかを確認します。

    • センチネルリンパ節生検

      乳房外パジェット病において、センチネルリンパ節生検を行い、リンパ節への転移の有無を明らかにすることは、病気の経過を見通すうえで重要な因子となります。治療方針を決定するうえでも、重要です。センチネルリンパ節に転移がない、もしくは転移があっても1個だけなら、5年生存率はほぼ100%です。その他の所属リンパ節への転移も否定できるので、予防的リンパ節郭清は不要です。一方、2個以上のリンパ節に転移があると、その後内臓に転移を起こす確率は高いと考えられ、注意が必要です。最近発表された研究によると、乳房外パジェット病が見つかったときにリンパ節が腫れていなかったとしても、センチネルリンパ節生検を行うと、少ないながらも転移が見つかる可能性があるということが示されました。

治 療

  • 手術と、リンパ節転移があればリンパ節郭清を考慮

    遠隔転移例は化学療法になりますが、乳房外パジェット病の治療は、基本的に手術が主体となります。がんが皮膚の表面だけにとどまっている場合、また真皮まで進行していてもリンパ節転移がない場合は、手術でがんを切除した後は、経過観察となります。リンパ節に転移があっても内臓などへの遠隔転移がない場合は、がんを切除するとともにリンパ節郭清を考慮します。ただし、高齢者に多い疾患であることから、患者さんの状況を加味した治療方針となります。遠隔転移があれば、手術はせず、化学療法や場合により放射線治療を行います。


【手 術】
  • 事前のマッピング生検により、広がったがんをもれなく切除する

    乳房外パジェット病の手術に際しては、マッピング生検が非常に重要となります。通常、がんはひとかたまりとなっているものですが、乳房外パジェット病は、かたまりがいくつも発生し、離れた位置にある(スキップしている)ことが多いからです。また、がんと正常な皮膚の境界がわかりにくく、正常にみえる周辺部分にもがん細胞が存在していることがあることも、このがんの特徴です。そのため、がんがあるところを把握し、その場所を確実に切除することが必要で、がんを残してしまうと、再発や転移につながります。そこで、乳房外パジェット病は、手術の前にがんのありそうな場所を生検してがんの境界を見極めて、切除のための地図(マップ)を作ってから手術を行います。

手術後の身体

  • 女性 ―排尿時の工夫や皮膚の保護が大切  

    乳房外パジェット病は、がんが広範囲に広がることが多く、それに応じて切除範囲も大きくなります。女性の場合、尿道のまわりまでがんが及んでいたときには、腟粘膜や陰唇を合めて切除する必要があります。そうすると術後は、尿道口や腟口が露出しますが、陰唇がないために、排尿時に尿がシャワーのように広がってしまいます(放散尿)。慣れるまでは、太ももにかかったり、下着を濡らすなどの不便が生じます。これは、トイレットペーパーを丸めて尿道口に当てながら排尿することで防ぐことができます。また、腟が露出することで下着とこすれて痛みが生じたり、腟炎になることもあります。ワセリンを塗って緩衝材にすることで、症状を軽減できます。腟や陰唇の切除により、腹圧をかけることでまれに膀胱脱や子宮脱を起こします。そのような場合は、症状に応じてサポート用のガードルを着用して対処したり、手術をする場合もあります。

  • 男性 ―リンパ液を滞らせないため、切除や植皮に工夫

    がんが陰嚢から陰茎の根元に存在する場合、その周辺の皮膚を切除するだけでなく、亀頭の環状溝のところから皮膚を切除します。陰茎のリンパ液の流れは、亀頭の先端から陰茎の根元に向かって流れています。そのため、陰茎の根元で皮膚を切除するとリンパ液がたまって陰茎の皮膚がブクブクと膨らむほどむくみます。それらを防ぐため、がんの存在しない部分の皮膚も切除します。また、陰茎への植皮によって、放散尿や勃起障害を起こすことがあります。

分層植皮
  • メッシュ状に伸ばした皮膚で広範囲をカバー

    小さながんならば、切除のあとは縫い合わせるだけで終わりますが、乳房外パジェット病では広範囲を切除することも少なくありません。その場合、太ももなどから皮膚を薄く剥いできて植皮する「分層植皮」を行います。ただ剥いだ皮膚を植皮するだけでなく、1枚の皮膚にメッシュ状に切り込みを入れて伸ばして使用します。これは、1枚の皮膚を効率的に使えることと、メッシュ状にした皮膚は非常に生着しやすいためです。ただし、生着後にメッシュ状の痕が残るため、人目につく部分には使いづらい再建法です。ただし、陰茎はメッシュを入れない皮膚を植皮します。皮膚が固く締まり、陰茎に用いると痛みが生じることがあるためです。分層植皮で広い部分を植皮した場合、5日間はベッド上で安静にする必要があると言われています、高齢者の場合は、足腰が弱ってしまうのを防ぐために翌日から歩行するようにしています。


【放射線治療】
  • 手術ができない人、望ましくない部位に行う

    乳房外パジェット病は基本的には手術療法を中心とした治療法が選択されます。しかし、高齢者が多い疾患だけに、合併症のために切除ができない場合、機能や整容面において切除が望ましくない場合、手術後の再発例などでは、放射線治療が選択される場合もあります。

    放射線治療は、20〜94%の症例で治癒が期待できるという報告がある一方、真皮まで進行した段階のがんに対しては、放射線治療の治癒率は約20%であるという報告もあります。化学療法との併用なども試みられていますが、その有益性は明らかではないのが現状です。
    一方、痛みや神経症状、皮膚浸潤などの改善を目的に、放射線治療を行うことは意義があるとされています。

【化学療法】
  • 遠隔転移のある場合にタキサン系薬剤が効果的

    内臓転移など遠隔転移があった場合は、化学療法が選択されます。ただし、乳房外パジェット病に保険適用となっている化学療法はありません。これは乳房外パジェット病の患者さんが少ないために臨床試験を行うことができず、申請のためのデータが集まらないことが一因です。実際の治療では、「5-FU+シスプラチン」や「ドセタキセル」が使われていましたが、最近の解析結果により、「ドセタキセル」のほうが腫瘍を小さくする効果(奏効率)が高く、生存期間を延ばす効果(全生存期間中央値)も大きいという結果が出ています。

再発に備える

  • 再発しやすいがんとして、手術後は頻繁な検査を

    乳房外パジェット病は、同じ場所にいくつものがんが発生するという特徴があります。そのため手術の取り残しも少なくなく、また再発しやすいがんといえます。手術で治療してから5年以上経過した後に、外陰部や脇の下に新たながんが現れることがあるため、注意が必要です。

血管肉腫

けっかんにくしゅ Angiosarcoma
頭にあざができていたら要注意 まれではあるが、非常に悪性度の高いがん

どんながん?

  • 発生部位

    肉腫とは、全身の骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生するがんの総称です。血管肉腫は、血管内側の細胞(血管内皮細胞)が、がん化したものです。肉腫自体がまれな病気ですが、血管肉腫は全肉腫のなかでも1%程度と非常にまれな病気です。血管肉腫は、肝臓、乳房、心臓など全身どこにでもできますが、なかでも皮膚に生じるものが最も多く、全体の半数を占めます。

  • 新しい治療

    日本人では、1年間に50人くらいがこの病気にかかると推定されています。血管肉腫は進行が早く、日本では以前に5年生存率は9%という報告がありました。しかも患者さんが非常に少ない病気のため、標準的な治療が確立されておらず、医療施設ごとに治療方針が異なっているのが現状です。ただし、ここ数年で血管肉腫の治療方針が劇的に変わり、生存率がかなりあがってきています。以前は、手術と放射線が治療の主体でしたが、最近、放射線に抗がん薬を併用する治療法で良い成績が得られたという研究成果が発表されました。

    日本においても、まだすべての施設でこの治療が行われているとは限りません。治療を行う場合は、どのような方針をとるのか医師に確認する必要があります。

症状と検査

【症 状】
  • 頭にあざができるほかに、リンパ浮腫後の皮膚に起こることも

    初期は、どこかにぶつけたようなあざや内出血のように見えます。病気が進行すると、あざが広がってくるもの(斑状型)のほか、皮膚がえぐれてくるもの(潰瘍型)、患部が盛り上がって潰瘍ができ出血するもの(結節型)など、状態はさまざまです。

    髪の毛を剃ると頭部全体に病変が広がっていることも少なくありません。初期には自覚症状もなく、病気が進行して出血してくると痛みを伴う場合があります。皮膚に生じる血管肉腫は、発生部位やその要因によって、@頭部に生じる血管肉腫、Aリンパ浮腫が誘因となる血管肉腫、B放射線照射後に生じる血管肉腫の3つに分けられます。

    • 頭部に生じる血管肉腫

      頭をぶつけたなどの外傷をきっかけに発生することが多いといわれます。血管肉腫のなかで最も発症頻度が高く、特に高齢者の頭の怪我がなかなか治らない場合はこの病気を疑います。皮膚科でもそれほど遭遇する機会がない病気だけに診断がつきにくく、顔に出た場合は帯状疱疹が疑われ、帯状疱疹の治療を行っても治らないため調べてみたら血管肉腫だったということもあります。

    • リンパ浮腫が誘因となる血管肉腫

      別名スチュワート・トレヴス(Stewart-Treves)症候群といって、リンパ浮腫(むくみ)が続くと、そのリンパ管や血管の内皮細胞ががん化して生じる血管肉腫です。

      特殊なタイプで、まれな血管肉腫のなかでも発生が少ないです。乳がんの手術後から生じることがあり、発症までの期間は長く、平均11年と報告されています。乳がん以外でも、子宮がんの手術で骨盤内リンパ節(お腹のなかのリンパ節)を切除したことによる足のリンパ浮腫に続いて起こるものもあります。リンパ浮腫のある部位に生じた腫瘍は、血管肉腫を考える必要があります。

    • 放射線照射後に生じる血管肉腫

      非常にまれですが、放射線照射の影響によって生じる血管肉腫です。ただし、近年乳がんの治療で乳房温存治療を選択することが増え、それに伴って放射線照射を受ける患者さんが増加し、患者数が以前より増えています。放射線照射から血管肉腫が発生するまでの期間は、ばらつきはありますが平均10年くらいです。

【検査】
  • 病理検査で診断する

    患部の組織の一部を採って顕微鏡で見る、病理検査で診断します。血管肉腫は、その大きさが病気の経過に深く関わります。欧米では5cm以上だと予後が悪いといわれています。日本人の場合、髪の毛が黒く、また高齢になっても脱毛する人が少ないため、発見が遅れる傾向があります。診断の際には、患部の広がりを判断するため髪の毛を剃る必要があります。

治 療

基本の考え方
  • 生存期間を大きく延ばす新しい治療 「放射線治療+化学療法」を行う

    血管肉腫は、目に見えるかたちでがんが頭などの皮膚に存在していますが、治療の本当のターゲットは、血管を通って全身に広がる恐れのあるがん細胞です。血管の内側の組織ががん化する病気だけに、血管を通じてがん細胞が体中に流れてしまうからです。従来行われてきた治療は、患部を切除し植皮をして、そこに放射線を照射するというものでした。しかし、治療成績は非常に悪く、1年以内に転移を起こして亡くなる方がほとんどでした。2012年、抗がん薬のパクリタキセルが血管肉腫に保険適用となり、放射線照射と同時に抗がん薬を投与する治療が行われるようになりました。また、放射線治療後は、「パクリタキセル」を定期的に投与することで転移を防ぐ維持療法が大切であることがわかってきました。治療成績は非常に良く、7〜8割の方が1年半を超えて生存しており、長い人だと4年近く治療を受けている方もいます。

【放射線治療+化学療法】
  • 放射線治療

    放射線治療では、患部に総照射線量70Gyという、治療に使う最大限の量を照射します。血管肉腫は皮膚の下にも広がっていることがあるため、見た目よりも広い範囲に照射することがあります。患部がまぶたに到達している場合、眼球に放射線が当たると白内障や失明のリスクがあります。ただし、治療を行わないと命にかかわるため、治療のリスクを十分医師と話し合ったうえで治療を決定する必要があります。血管肉腫では、頭部という弯曲した部位に生じた、面積の比較的広い病変に放射線を当てることになります。こうした病変に向いているのが、「トモセラピー」という放射線治療装置です。「トモセラピー」は、複雑な病巣や、一度に複数の腫瘍に対応できるメリットがあります。しかし、導入されている医療施設は限られています。「トモセラピー」のほか、放射線治療装置はさまざまな種類があります。放射線治療を受ける際には、その施設ではどのような機器を使って治療をするのか、そのメリット、デメリットなどについて説明を受けて、理解してから治療を行ったほうが良いでしょう。照射回数は、2Gyを5日間連続(月曜〜金曜)+2日休み(土曜・日曜)を1週間とし、7〜8週間で35回行います。照射量が多いため、最終週ころになると皮膚へのダメージによって強い痛みが生じます。感染症に配慮して保湿を含めた皮膚ケアをしても、照射終了後、落ち着くまでに2〜3週間かかります。

【化学療法】
  • タキサン系薬剤を中心とした治療へ

    基本的には、週1回(例えば、月曜)の「パクリタキセル」投与を3週連続して行い、1週休むというペースで投与します。高齢者や肝機能障害などで副作用が心配される場合は、2週連続投与で1週休み、もしくは1週投与して2週休みという変則的な投与法を選択することもあります。放射線治療が終わっても、化学療法は続けます。悪化しない状態を維持するためにはパクリタキセルの投与を続けていく必要があり(維持療法)、投与を止めると再発や転移を起こす危険性が否定できないからです。現在のところどれくらいの期間続けたら、抗がん薬治療を止めてもいいのかについては、まだわかっていません。

    また、「パクリタキセル」等のタキサン系抗がん薬で効果が得られなかった方の2次治療に「エリブリン」も治療選択肢の一つになります。「エリブリン」を2週連続投与して、1週休むという方法です。国内の多施設が集まって「パクリタキセル」で効果が得られず、「エリブリン」を使用した場合の効果と安全性を目的とした臨床試験が行われ、2次治療として十分な効果があると報告されています。

【分子標的薬治療】
  • パゾパニブによる2次治療へ

    放射線治療+化学療法の治療でも、残念ながら2〜3割の患者さんは効果がないという結果が出ています。しかし、その次の手として、「パゾパニブ」という分子標的薬が血管肉腫の治療として保険適用になっています。副作用として、高血圧、肝機能障害、倦怠感、下痢があり、高齢者に投与する場合は注意が必要です。現在、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で、「パクリタキセル」等のタキサン系抗がん薬で効果が得られなかった方の2次治療として「パゾパニブ」の効果ならびに安全性を評価する臨床試験が行われています。

【手術療法】
  • 行われなくなりつつある治療

    以前は血管肉腫に対して手術を行っていましたが、最近は手術をしないという考え方が主流になりつつあります。医療施設によっては、手術という方針をとっているところもありますが、現在のところ切除よりも「放射線治療+化学療法」のほうが奏効率、生存率ともに良い成績が出ています。主治医から手術という方針を出されたときには、「放射線治療+化学療法」という方法もあるがその治療は行わないのか、などよく相談することが重要です。

再発・転移に備える

  • 肺への転移で引き起こされる「気胸」「血気胸」に注意

    血管肉腫は、肺や肝臓、リンパ節に転移を起こしやすく、特に肺に転移すると、嚢胞という風船のような袋を作ります。これが破綻すると、風船に穴が開くのと同じように、肺の空気が抜けてしぼんでしまう「気胸」になります。「気胸」では、空気を取り込めないため呼吸困難となりますし、血流が豊富な嚢胞が破綻すると、血液が胸腔内にたまる「血気胸」となり、止血困難のため亡くなることもあります。肺の表面に嚢胞がある状態で「パゾパニブ」を使い、治療効果が得られた場合、肺のがん細胞が死滅するので気胸を起こすことがあります。「パゾパニブ」を服用していて、胸が急に苦しくなった、胸の痛みなどが起こったら、早急な治療が必要です。気胸が起きた場合は、肺に管を入れて肺を膨らませる処置をとります。

基底細胞がん

きていさいぼうがん Basal Cell Carcinoma : BCC
皮膚がんのなかで世界で一番多いがん、転移しにくいけれど、再発に要注意

どんながん?

  • 見た目

    黒色から黒褐色のほくろのようながんです。盛り上がっていたり、中心に潰瘍ができるタイプや、シミのような平面状のタイプがあります。皮膚がんのなかで日本人のみならず世界で一番多いがんです。

  • 性状

    基底細胞がんは、表皮の最下層である基底層や毛包などを構成する細胞ががん化したものです。内臓やリンパ節に転移を起こすことは非常にまれながんですが、再発を起こしやすく、放っておくと皮膚から筋肉、骨など、深い組織へと広がっていき、組織を破壊します。

  • 発生要因・発生場所

    紫外線によって引き起こされる可能性が非常に高いと考えられており、70%が紫外線にさらされる頭や顔に発生します。そのほか、腕や足、体幹にも発生することがあります。熱傷や外傷などの瘢痕や、放射線による皮膚炎の痕にも生じるといわれています。また、高齢者に多くみられるがんで、年齢とともに発生数も増加しています。

症状と検査

  • 3つの性質の異なるタイプがあり、それぞれ治療が異なる。基底細胞がんは、主に3つのタイプ(病型)に分類されます。それぞれ性質が異なり、治療や再発率が変わってきます。
    • 結節・潰瘍型

      日本人の基底細胞がんの約80%と、1番多いのがこのタイプです。
      初期は、小さな黒いほくろのようですが、だんだん大きくなり盛り上がってきます。中心部がへこんで潰瘍になり、そこから出血することもあります。

    • 表在型

      シミのように平面に広がったタイプで、色は淡い紅色で、正常な皮膚との境界がはっきりしています。体幹や腕、足にできることが多いがんです。欧米人に多く、がんの厚さが薄いため、欧米ではレーザーや液体窒素で治療することもあります。

    • 斑状強皮症型

      表面に光沢のある淡い紅色〜肌色で、硬く盛り上がったタイプです。皮膚から体の深部へと広がる性質をもち、またがんと正常な皮膚との境界がわかりにくいため、切除の際には取り残しがないよう、がんの周囲を大きく切り取る必要があります。前述の結節・潰瘍型、表在型と比べて、再発を起こしやすいという性質があります。

【検 査】
  • 視診を中心に必要があれば病理検査を基本的にダーモスコピーで皮膚病変を診て診断します。ダーモスコピーで判断が付かないものは、局所麻酔をして皮膚病変の一部を切り取って顕微鏡で調べる病理検査を行って判断します。内臓に転移することはほとんどないため、基本的にCT検査はしません。

治 療

  • 手術が基本 再発リスクと整容面で放射線などを検討

    基底細胞がんは、表皮という血流やリンパの流れのない組織で発生するがんです。そのため、転移している可能性は低く、表皮内にとどまっているがんの場合は、手術等による切除だけで治療が終了します。大きさや部位、進行度によって、再発リスクが分類されており、リスクの高低も考慮して治療方針が決定されます。低リスクであれば4mm、高リスクであれば5〜10mmがんから離して切除することが推奨されています。

    しかし、顔に生じることが多い腫瘍であり、この切除範囲が正しいかどうかを検証する臨床試験がJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で行われており、今後、切除範囲が大幅に見直される可能性があります。

【手 術】
  • 生検が必要な場合は、二期的手術を

    手術ができる部位であれば、切除をします。切除だけで治療できるがんとはいえ、再発を起こしやすいがんであるため、切除の際には取り残しがないよう注意を要します。顔に発生した場合などは、できるだけ切除範囲を小さくして侵襲を少なくしたいところですが、小さく切除してがんを取り残してしまうと再発を招き、数年後にさらに大きな切除が必要になることもあります。がんを切除した後は、小さいものはそのまま縫い合わせますが、大きい傷は植皮や皮弁など、整容面にも配慮した再建が必要になります。また、病変が大きい場合や斑状強皮症型のときには、取り残しを避けるために、切り取った組織の端にがん細胞があるかどうかを調べるための検査(病理検査)をして、がん細胞が取り切れているかどうかを確認します。病理検査の結果が出るまでには約1〜2週間かかります。そのため、1回目の手術でがんを切除した後は、切除した場所に人工真皮をかぶせるなどして、いったん手術を終了します。病理検査でがんが確実に切除できたと確認できたら、2回目の手術で切除部位を再建します。このように切除と再建を2回に分けて行うことを二期的手術といいます。上記のように再発を起こしやすい斑状強皮症型では特に、「二期的手術」を行います。万一、病理検査でがんの取り残しがわかったら、再び手術を行い、がんを切除します。

【放射線治療】
  • 局所制御率は比較的高い。機能面を考慮する場合などに選択を

    がんが大きく、目や鼻、唇など機能的・整容的な問題があって手術ができない場合や、切除後の再発のリスクが高い場合に、放射線治療が選択肢となります。電子線、あるいはX線が用いられますが、電子線のほうが照射の範囲を狭く設定することができ、確実に病巣だけに放射線を当てることができます。がんの大きさや部位にもよりますが、一般に1回線量2Gyで、総線量40〜70Gyの照射が行われます。進行期基底細胞がんに対する放射線治療の局所制御率(がんが再発または再燃しない割合)はおおむね90%前後といわれます。

【化学療法】
  • シスプラチンを用いた併用療法を

    再発を繰り返した場合、転移を起こした場合などは、抗がん薬治療を行うことがあります。基底細胞がんには、日本では「シスプラチン」と「アドリアマイシン」の併用療法が行われていますが、保険適用になっていません。海外では、「カルボプラチン」、「パクリタキセル」が使われており、「ビスモデギブ」という分子標的薬も承認されています。この薬については、局所の進行例では奏効率が43%、転移があった場合の奏効率は30%という結果が出ています。近年では、免疫チェックポイント阻害薬の抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)はTMB(遺伝子変異量)が多いときに、使用できるようになりました(本邦保険適用)。

【レーザー・液体窒素・イミキモド ―その他の治療法】
  • 表在型の場合に用いる治療

    基底細胞がんをレーザーや液体窒素で治療する方法は、海外では表在型に対して行われていますが、日本人は結節・潰瘍型が多く、この型のように盛り上がったタイプの基底細胞がんでは効果が低いため、日本ではほとんど行われていません。「イミキモド」は、日本では日光角化症や尖圭コンジローマで保険適用が認められている外用薬です。表在型の基底細胞がんには米国や欧州で約80%の病理的消失率が確認されていますが、結節・潰瘍型では42〜76%と効果が落ちます。

再発に備える

  • 初発時に再発リスクを抑える切除範囲を確保したい

    基底細胞がんの再発は、ほとんどの場合、元のがんがあった場所、つまり切除した場所に起こります。表面のがんは、最初の切除のときに切り取っているため、再発はより深い組織から起きることがほとんどです。ですから、再発したがんが表面に出てきたときには、皮膚のより深部へ増殖する危険性が高まります。そのため、再発手術の際は、初発のときよりも、切除範囲はかなり大きくなります。最初の手術のときには、「顔にできた小さながんなのに切除範囲が意外に大きい」と感じられる場合もあるかと思いますが、十分な範囲を切除してがんをしっかりと取りきることが重要なのは、このような再発のリスクを抑えるためなのです。

    初発の境界明瞭な基底細胞がんで、大きさが20mm以下の場合、がんから3mm離して切除したときの治癒率は87%です。4〜5mm離して切除すると治癒率は95%になります。

    また、再発例では、4〜5mm離して切除した場合の治癒率は83%でした。ただし、初発でも再発でも、高リスク部位での発症率斑状強皮症型だった場合、再発率は高くなります。

    いずれにしても、再発のリスクを軽減するに病変から距離を離して切除したほうが良いと考えられますが、顔にできることが多いがんだけに、大きく取れば問題が解決するわけではありません。整容面や機能面まで考えて、主治医と良く話し合って納得できるかたちで切除範囲を決める必要があります。上述したように、この切除範囲が正しいかどうかを検証する臨床試験がJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で行われており、今後、切除範囲が大幅に見直される可能性があります。

    再発までの期間については、2年以内に再発する人が再発した人全体の50%です。3年以内に再発する人が再発した人全体の66%、5年以内に再発する人が再発した人全体の80%とされています。つまり、治療から5年を過ぎたら再発のリスクは小さくなると考えられます。術後は、セルフチェックを欠かさず、何か変化があった場合はすぐに主治医に報告しましょう。何もなくても、3年間は半年〜1年に1度は医療機関で診察を受けることも大切です。

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