がんに関する情報
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卵巣がん

卵巣がん

最終更新日 : 2024年3月26日
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がん研有明病院の卵巣がん診療の特徴

がん研有明病院の卵巣がん診療の特徴

がん研有明病院婦人科は、化学療法部や放射線治療部の助言を得つつ、婦人科医が責任を持って手術・化学療法・放射線療法などの治療手段のなかから、患者の皆様の状況に応じて、適切な治療方針を決定し、それを安全に実施するシステム(集学的治療)を構築しています。

特徴

  1. 個別化治療―個々の患者さんのがんの特徴、身体的精神的状況、要望に合わせた治療。
  2. 細胞診断、組織診断に立脚したがん治療。
  3. 治療後の検診―再発の早期発見。
  4. がん治療に伴う後遺症・合併症によるQOL低下を予防(内分泌・骨外来、リンパ浮腫予防外来、また脱毛などに対応する帽子クラブなど)。

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卵巣がんについての知識

はじめに

卵巣にできる悪性腫瘍には、若い世代(10-20才代)を中心に発生する"卵巣胚細胞腫瘍"と中高年女性(40-60才代)を中心に発生する"上皮性卵巣癌"があります。前者は、頻度はかなり低く、若年発症という性格から子宮温存を求められるなど、後者とは治療体系が全く異なる疾患であるといえます。ここでは、卵巣がんの大多数を占める"上皮性卵巣癌"について解説します。

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卵巣がんの症状

腫瘍が小さい場合でも婦人科検診などで早期に発見されることもありますが、卵巣が腫れている状態であっても、かなり大きくなるまで無症状で、進行して発見されることが多いことが特徴です。大きくなると腹壁から自分の手で腫瘍を触れたり、あるいは腫瘍による圧迫症状がみられるようになります。腹水を伴うと、その量に応じた腹部の腫大と腹部膨満感が出現します。腹水が増量し胸水も認められるようになると、呼吸苦が出現します。胸腹水は良性卵巣腫瘍でも発生しますが、悪性の場合により多く見られます。卵巣腫瘍は悪性、良性に関わらず、捻れたり(卵巣腫瘍茎捻転)、破裂したりすることがあり、この場合は激痛を伴います。

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卵巣がんの治療

卵巣がん(上皮性卵巣癌)は、婦人科がんの中でも最も化学療法(抗がん剤治療)の感受性が高く、その治療は"手術療法と化学療法の組み合わせ"によって形成されます。初診時の進行期(腫瘍の広がり)が重要で、これによって治療法が大きく異なります。

I期卵巣がんの治療

I期卵巣がん(がんは卵巣に限局)では、原則として、子宮全摘、両側付属器切除(両側の卵巣・卵管切除)、大網切除術(胃下部の脂肪組織切除)に加えて、骨盤リンパ節、傍大動脈リンパ節の郭清が根治手術となり、開腹手術で大きな皮膚切開が必要となります。手術後は再発予防に化学療法を施行するか否かを検討することとなります。手術だけでよいか再発予防の抗がん剤が必要かは難しい問題ですが、卵巣からがんが全く出ていない状態(腫瘍が皮膜に覆われた状態で、なおかつ他の部位に転移がない)では手術だけでよいと考えられ、それ以外は原則として抗がん剤が必要となります。卵巣がんの手術では、開腹時に腹水細胞診(腹水を採取し、その中に悪性細胞がいるかどうかを判定すること)も行われますが、これが陽性の場合も抗がん剤が行われることが多くあります。

腫瘍が卵巣に限局するのに、なぜこれだけの広範囲なリンパ節郭清まで必要かと疑問に思われるかもしれませんが、この手術の切除範囲はいずれも卵巣がんが転移をおこしやすい部位で、これら全てに腫瘍がないことが確認されて初めて、"腫瘍は卵巣に限局していた(I期)"といえるのです。しかし、発症が若年齢の場合は、リスクを検討しつつ、子宮及び反対側の卵巣の温存を計ることもあります。

II期卵巣がんの治療

II期の卵巣がん(がんは子宮、卵管、直腸、膀胱に広がる)では、I期の根治手術に加えて、がんが広がっている部位を併せて切除することとなります。つまり、 II期でも子宮、卵管などI期の根治手術の範囲内への進展であれば問題ありませんが、直腸表面への浸潤するケースも多く、この場合は直腸合併切除が行われる事となります。ほとんどの場合腸管吻合が可能で、後遺症も少ないため当科では積極的に行っています。また、膀胱側にがんが広がる場合でも、膀胱表面の腹膜切除を行います。これらの方法により、II期の多くの症例で腫瘍は完全切除が可能です。しかし、I期よりもがんが広がっているため、殆どのケースで術後抗がん剤治療が必要になります。

III期卵巣がんの治療

III期の卵巣がん(がんは上腹部またはリンパ節に広がる)の治療は、上腹部にがんが存在している場合と、リンパ節にがんが存在している場合と区別して考えなければなりません。後者は通常、根治手術がなされた場合に切除されたリンパ節に、術後検査の結果がんの存在することがわかった場合が多く、この場合は術後抗がん剤治療を再発防止に行います。がんが最初から上腹部にまで広がっている場合は、多くの場合腹腔内全域にがんがあり、この状態は"がん性腹膜炎" あるいは"腹膜播種"とよばれます。この場合、手術治療と化学療法を組み合わせた治療が必要になります。手術治療においては、初回手術で残存腫瘍を限りなくゼロに近づけることが予後の改善に重要とされており、最大残存腫瘍径を1cm未満(optimal surgery)にすることで予後が改善するとされています。肉眼的残存腫瘍のないcomplete surgeryにできた場合にはoptimal surgeryよりもさらに予後の改善が見込めます。当院では、大腸外科・肝胆膵外科・泌尿器科など他科との連携により積極的に他臓器合併切除を行うことで、高い確率でcomplete surgeryを達成しています。特に、直腸合併切除は今日、卵巣がん治療では欠かせない手技となっています。一時的な人工肛門は2〜5%ですが、術後半年程度で多くは元に戻します。稀に永久人工肛門造設が必要になる場合もあります。術前の画像評価でoptimal surgeryが不可能と考えられる場合は、可能な限り腹腔鏡手術で腹腔内の正確な評価と腫瘍組織採取を行い、化学療法を先行して腫瘍の縮小を図った後に手術を行い、complete surgeryを目指します。

IV期卵巣がんの治療および治療のまとめ

IV期卵巣がん(がんは肺、肝臓、頸部や鼠径部のリンパ節などの遠隔部位に広がる)では、腹腔内はIII期の状態になっていることが多く、治療の形式はIII期と根本的には変わりません。遠隔転移の存在のため、必要であれば腹腔鏡手術で腹腔内の正確な評価と腫瘍組織採取を行った後に化学療法を行うことが多く、この消失に成功した場合はIII期と同様に手術治療を行い腹腔内の病変切除を目指していくことになります。

卵巣がん治療をまとめると、I 期、II期ではまず手術で腫瘍の完全摘出を目指し、その後再発のリスクの高いケースで再発予防の抗がん剤治療を行います。 III期、IV期では、"手術療法と化学療法の組み合わせ"によって治療が行われ、抗がん剤治療によりまず完全摘出可能な範囲まで腫瘍を縮小させてから手術摘出し、その後再発予防の化学療法を行うことが原則となります。再発予防の化学療法は維持療法と呼ばれ、2024年1月現在、PARP阻害薬による内服治療と、ベバシズマブによる点滴治療、両者を組み合わせた治療がありますが、どの治療が適応となるかは、遺伝子検査の結果や病状によりますので、担当医にお尋ねください。

卵巣癌はどのステージ、組織型であっても、腫瘍を完全に摘出することが予後の改善につながります。

下に当院のV・W期卵巣がんにおいて手術により残存腫瘍がない群とある群の5年生存率の比較のグラフを示します。手術により残存腫瘍をない状態にする(complete surgeryを達成する)ことが、より良い予後を反映しているということがわかります。そのため当院では、腫瘍が子宮、卵巣以外の臓器に浸潤していれば、上腹部であっても他科の医師の協力も得ながら積極的に完全切除を目指した手術を行うよう努めています。

 

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卵巣がんのリンパ節郭清

リンパ節郭清とは、あるがんにおいて"がんの転移が多いと予想される領域"のリンパ節(所属リンパ節といいます)を全て取るということです。これに対して、その領域のリンパ節を一部取る(例えば大きいものだけ)ことを、リンパ節生検(サンプリング)といいます。"がんの転移が多いと予想される領域"は、それぞれのがん種ごとに異なり、卵巣がんでは、骨盤リンパ節および傍大動脈リンパ節(腹部大動脈及び腹部大静脈の周りのリンパ節)とされます。

当科では、I期がんでも原則として、骨盤および傍大動脈リンパ節郭清を施行しています。これらのリンパ節には、実際どれほどの確率で転移をおこしているのでしょうか。当科の1995年より2004年までの、骨盤および傍大動脈リンパ節郭清施行症例におけるリンパ節転移率は、I期12.8% (20/156)、II期48.6%(18/37)、III期60%(9/15)でした。I期がんでは、リンパ節転移率が高くはないため、全例にリンパ節郭清を施行しても治療成績に差がでにくく、術後の抗がん剤治療が残存するリンパ節転移の治療に期待できることなどから、卵巣がんのリンパ節の取り扱いについては、施設間の差が大きいと思われます。現在、LION studyという研究において、進行卵巣がんでのステージングのためのリンパ節郭清は行っても予後に寄与しないと報告されています。腫れているリンパ節は転移の可能性があり郭清しますが、腫れていないリンパ節については、進行がんでは当院においても郭清を行わない方向になりつつあります。リンパ節郭清は術後にリンパ浮腫、リンパ嚢胞などの合併症を引き起こす可能性があることや、抗がん剤治療に入るタイミングが遅れることがあり、我々は基本的には不要なリンパ節郭清はさける必要があると考えております。

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卵巣がんの組織型と遺伝子検査

組織型と治療戦略

卵巣がんには、主として4つの組織型があり、それぞれ抗がん剤の効果が異なります。漿液性癌、類内膜癌、明細胞癌、粘液性癌の4つですが、前2者は抗がん剤がよく効き(特に漿液性癌)、後2者は抗がん剤が効きにくいとされています。頻度的には、漿液性癌、明細胞癌、類内膜癌、粘液性癌の順とされています。現在のところ組織型に関わらず、初回の抗がん剤治療は、通常TC療法(パクリタキセル・カルボプラチン併用療法)を行います。この治療は一日で治療を終えることができ、初回は2泊3日の入院ですが、2回目以降は基本的には外来日帰りで使用可能で、治療する側、治療を受ける側双方に有益性が高くなります。この他には、ドキシル・カルボプラチン併用療法、ドセタキセル・カルボプラチン併用療法などを選択しています。

進行卵巣癌は、抗がん剤治療のみで治療を終了すると、高率に再発するため維持療法が必要となります。維持療法はベバシズマブとPARP阻害薬が保険適応となっています。ベバシズマブもPARP阻害薬もいわゆる抗がん剤ではなく、分子標的薬といわれる薬剤です。

ベバシズマブは、新しい血管を作るためにがん細胞が分泌する物質に結合して、血管新生を阻害し、がん細胞が増えるのを抑えます。3週間に1回の点滴治療で、副作用が許容されれば21回を目標に行います。ベバシズマブ特有の副作用としては高血圧、タンパク尿、消化管穿孔などが挙げられ、毎回採血検査や尿検査で投薬が可能かどうか慎重に判断しています。

PARP阻害薬は内服薬で、2018年から日本でも保険適応となった新しい薬剤です。初回進行卵巣癌の維持治療としては、2019年6月よりBRCA遺伝子変異陽性卵巣癌に対してオラパリブが、2020年9月からはIII期以上の進行卵巣癌に対してニラパリブが、2020年12月からは相同組み換え修復欠損を有する進行卵巣癌に対して、オラパリブとベバシズマブの併用療法が保険適応されております。
これら分子標的薬治療を効果的に行うためにも、初回手術での残存腫瘍を限りなくゼロとすることが重要であり、当院では肉眼的残存腫瘍のないcomplete surgery 達成のため積極的に他臓器合併切除を行っています。

再発卵巣がんについては、一部の症例で再発腫瘍切除手術を行いますが、化学療法が基本となります。前治療で最後にプラチナ製剤(カルボプラチン)を使用してから病状が悪化するまでの期間(プラチナフリー期間)により、次治療の選択が変わります。一般的にはプラチナフリー期間が6ヵ月未満であればプラチナ抵抗性再発として、カルボプラチンを使用しない治療を選択します。6ヵ月以上であればプラチナ感受性再発として、カルボプラチンを使用した多剤併用治療を選択します。再発の維持療法に関しては、ベバシズマブはプラチナ感受性、抵抗性にかかわらず承認を得ていますが、PARP阻害薬はプラチナ感受性再発にのみ保険適応があります。実際にベバシズマブを使用するかPARP阻害薬を使用するかは、病状や状況によって異なりますので、担当医にお問い合わせください。

次頁に進行卵巣癌治療における手術・化学療法・各種維持療法の位置づけのイメージ図をお示しします。

遺伝子検査と相同組換え修復欠損(HRD; homologous recombination deficiency)とPARP阻害薬

現在卵巣癌で行うことのできる遺伝子検査は2つあり、BRACAnalysisは卵巣癌と診断された患者さん全員が受けることができ、my Choice診断システムは進行卵巣癌の患者さんが受けることが可能です。

BRACAnalysisは血液検査でBRCA遺伝子変異の有無を調べることと、my Choice診断システムでは摘出した腫瘍組織で腫瘍のBRCA遺伝子変異の有無、相同組み換え修復欠損の有無を調べることを目的としています。BRCA遺伝子変異に関しましては、次項をご参照ください。

がん細胞では遺伝子(DNA)修復に関係する仕組みのひとつが働いていないことが多くあります。これを、相同組換え修復欠損(HRD; homologous recombination deficiency )といいます。BRCA遺伝子変異もHRDの原因の一つです。残った一方の仕組みでDNAを修復することできれば、がん細胞は生き残ることができます。この残ったDNA修復の仕組みの1つを働かないようにする薬をPARP阻害薬といいます。オラパリブ、ニラパリブもPARP阻害薬の一種です。PARP阻害薬が正常な細胞に作用しても、正常な細胞ではDNA修復の仕組みが片方残るため、細胞は生存できます。片方しかDNA修復の仕組みが働いていない卵巣がん細胞にPARP阻害薬が作用した場合には、DNA修復の仕組みが両方とも働かなくなるため、DNAの傷は修復されずに細胞死に至ります。オラパリブに頻度の高い副作用は吐き気、貧血、疲労などで、まれに間質性肺疾患が現れることがあります。ニラパリブも概ね同様ですが、オラパリブと比較し血小板減少が高頻度でみられるといわれています。

遺伝性乳がん卵巣がんの診断、またはPARP阻害薬が効果を示しやすい卵巣がんかどうかを判定するため、以下のような検査を施行します。

  • my Choice診断システム:摘出した腫瘍組織でゲノム不安定性の状態(GIS; genomic instability status)とBRCA遺伝子変異を調べ、HRDを評価する。
  • BRACAnalysis:血液検査で患者さんご本人のBRCA遺伝子変異を調べる。

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遺伝性乳がん卵巣がん

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、誰でも持っている遺伝子ですが、そのいずれかに生まれた時から「がん発症と関係する変異」を持っていることを遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC; Hereditary Breast and Ovarian Cancer)と言います。卵巣がんの約10-15%の患者さんはHBOCであると言われています。また、生まれながらにBRCA1 又はBRCA2 遺伝子に「がん発症と関係する変異」を有する場合、乳がん及び卵巣がんを発症するリスクが非常に高くなり、70 歳までに乳がんを発症するリスクはBRCA1遺伝子変異46-57%、BRCA2遺伝子変異で38-84% 、卵巣がんを発症するリスクはBRCA1遺伝子変異で39-63%、BRCA2遺伝子変異で16.5-27% まで上昇するといわれています。

BRCA遺伝子の検査は血液検査(BRACAnalysis)で行います。BRACAnalysisを保険で施行できるのは以下のような患者さんです。

  1. 乳がんを発症している患者さんで45歳以下の方、60歳以下でトリプルネガティブ乳がんの方、2個以上の原発性乳がんの方、第3度近親者内に乳がんまたは卵巣がん発症者が1名以上いる方
  2. 卵巣がん・卵管がん・腹膜がんにかかったことのある方
  3. 男性乳がんの方
  4. PARP 阻害薬使用の適格基準を判断する場合。腫瘍組織の検査で、BRCA1 または/ かつBRCA2 遺伝子のがん発症と関係する変異を保持していると疑われる場合

2020年4月から、HBOCと診断された乳がん患者さんのサーベイランス、リスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)には健康保険が適用されています。当院でも臨床遺伝医療部を中心にHBOCの診療を行っており、乳腺外科や婦人科が参加するHBOCカンファレンスを定期的に行っております。RRSOは婦人科で対応をしており、年間30-50例程度の実績があります。乳腺外科や形成外科との合同手術も可能です。HBOC患者さんの診療に関して詳しくは臨床遺伝医療部のホームページをご参考ください。

 

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