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直腸癌に対するWatch and Wait療法(手術しない治療)

直腸癌に対するWatch and Wait療法(手術しない治療)

最終更新日 : 2023年4月17日

直腸癌に対するWatch and Wait療法(手術しない治療)

術前放射線治療には、手術後の排便障害や性機能障害が放射線治療を行わない場合と比べ悪くなる傾向があるなど、デメリットもあります。一方で、別項で述べさせて頂いたように、放射線治療と全身抗がん剤治療を術前に組み合わせて行うことで、約1/3の患者さんでは切除した組織にがん細胞が認められなくなります。このような患者さんではすぐに手術を行わずに慎重に経過をみる治療(積極的経過観察、Watch and Wait療法)が、術後排便障害など生活の質低下を最小限にする治療として世界的に注目されています。

図1: 直腸がんに対するWatch and Wait 療法の一例
この患者さんは治療後5年半無再発で元気にされています

 “Watch and Wait療法”の一番のメリットは、手術に伴う合併症や人工肛門、排便障害、排尿・性機能障害などの後遺症を回避でき、自然肛門を温存できる点です。海外では比較的広く行われつつあり、欧米の治療ガイドラインにも選択肢の一つとして記載されています。一方日本では、術前放射線治療を行う施設が少ないこともあり、ほとんど行われていません。当院では2016年以降、症例を選んで慎重にWatch and Wait療法を開始し、現在までに50人以上の患者さんに行ってきました。

Watch and Wait療法は「臨床的完全奏効」と言われる、肉眼でがんが消失したと考えられる患者さんが対象となります。明らかにがんが遺残している場合は、手術を受けていただく必要があります。また、放射線の治療効果を事前に予測する研究は当院も含め世界的に盛んに行われていますが、残念ながら現時点ではその効果を予測することはできず、Watch and Wait療法を最終的に受けることができるかどうかは、放射線治療や抗がん剤治療を行ってみなければわかりません。

内視鏡やMRIなどの検査で「臨床的完全奏効」かどうかを判断するため、Watch and Wait療法を行った患者さんのうち、約20〜30%の患者さんは検査で検出できなかった微小ながん細胞が再び増えてきてしまい(局所再増大といいます)、手術が必要になります。局所再増大の多くは治療後2年以内に起こるとされています。再増大したがんの多く(約90%)は切除できますが、がんが広い範囲に広がっている場合は、肛門や隣接臓器(泌尿・生殖器)も切除しなければならなくなる可能性があります。このため、積極的経過観察を行う場合は、がんの再増大を早めに拾い上げるために、定期的な外来通院と慎重な経過観察(最初2年間は内視鏡・MRI・直腸診を3か月毎)を行います。がんが再増大しても適切な時期に切除できれば、通常通りの手術治療を行った場合と同等の生存率であることが報告されています。

海外のガイドラインでは、Watch and Wait療法は進行直腸がんに対する放射線治療やWatch and Wait療法の十分な経験を有する施設で行われるべきと記載されています。当院では大腸外科・放射線治療部・消化器化学療法科・下部消化管内科に、Watch and Wait療法の十分な経験を有した医師が揃っています。

ただし、Watch and Wait療法は新しい治療法であり、海外の報告がほとんどです。本邦でも今後、さらなるデータの積み重ねが必要です。そこで当院では、Watch and Wait療法の有効性と安全性を評価する前向き臨床試験(NOMINATE試験)を行っています。また、術前化学放射線治療の治療効果を予測する研究に取り組み、成果を上げています(【ニュースリリース】進行直腸がんの遺伝子発現解析により術前化学放射線療法の効果を予測する 新たなバイオマーカーを発見|お知らせ|がん研有明病院 (jfcr.or.jp)。Watch and Wait療法に興味のある患者さんは、ご相談ください。

 

文責:大腸外科 秋吉高志

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