胃がん
がん研有明病院の胃がん診療の特徴
当院では消化器内科、消化器外科が協力して「消化器センター」として診療を行っています。
がん研有明病院の胃がん診療の特徴
1.初診から治療まで2週間以内を目指しています。
がん研有明病院の胃がん診療では、内科(消化管内科・化学療法科)・外科が協力して胃がん診療にあたっています。必要時には初診当日に、内科、外科両方の診察を受けることも可能です。初診から1週間で必要な検査を終えて診断を行い、適切な治療方針を提示できるよう努めています。
■早期の胃がんに対しては上部消化管内科で内視鏡治療を積極的に行っています(「胃がんの内視鏡治療と成績」の項目をご覧ください)。
■外科では手術適応となる患者さんに低侵襲手術を行っております。初診日当日から1週間以内に手術前の主要な検査を行い、2週間以内の手術を目指しています(「胃がんの手術治療成績(診療実績)」の項目をご覧ください)。
■化学療法科では薬物を用いた治療を行います(抗がん剤治療)。治療は、点滴や内服薬による方法があり、患者さんの体調や病気の進行度に応じて選ばれます(「胃がんの化学療法と成績」の項目をご覧ください)
2.内視鏡科・外科・化学療法科による専門性の高いチーム医療を行っています。
当院消化器センターの胃グループでは、内視鏡科、外科、化学療法科のメンバーによって構成された胃がんカンファレンスを毎週行っており、それぞれの患者さんに最適な治療方針を決定しております。さらに、症例によっては消化器センターの各診療科、コメディカルも含め、患者さん個別の治療方針を十分に検討する消化器キャンサーボードが行われます。
3.さまざまな臨床研究に参加しています。
診断・治療にあたるとともに、同意を頂けた患者さんに関しては、新しい治療法、診断法などの臨床研究も積極的に行っています。また、日本臨床腫瘍グループ(JCOG)などが行っている国内有数の大規模臨床研究にも協力・参加しています。
がん研有明病院の胃がん治療
胃がんについての知識
胃がんとは
胃がんは胃の粘膜から発生します。
大腸がんや食道がんと同様に粘膜から発生するので、胃の内側から見ると早期に診断することができます。胃がんはポリープ状に隆起したり、潰瘍の様に陥没したりする場合が多く、内視鏡検査で胃の内部の異常な凹凸や、色の変わったところを詳しく見ることで診断ができます。
消化器のがんの中で胃がんは大腸がんと並んで治りやすいがんのひとつです。内視鏡検査の診断レベルが向上して、早期の胃がんがたくさん見つかるようになったことと、手術が安全にできるようになったからです。抗がん剤を用いた治療も進んできており、手術などで治せない場合や再発した胃がんの治療に成果を上げつつあります。また、現在では早期の胃がんのみならず進行胃がんに対しても、患者さんにとって負担の少ない傷の小さな低侵襲手術が行われております。
胃がんの治療を受けても、ほとんどの方は立派に社会復帰できます。胃がんという病気を良く理解し、最も適切な治療方法を主治医と相談することが大切です。
胃の形と働き
胃の壁は粘膜(表面の粘膜とその下の粘膜下層にわけられます)、その下の厚い筋肉層、一番外側の薄い膜(漿膜といいます)でできています。表面の粘膜をM、粘膜下層をSM、筋肉層をMP、漿膜をSといいます。
胃がんの原因と予防
胃がんの発生に最も大きな原因として、ヘリコバクター・ピロリという細菌が胃に感染することが知られています。また、生活習慣としては塩分や喫煙も胃がんのリスクとして考えられています。幼少期にピロリ菌に感染することで胃の粘膜に持続的な慢性炎症を引き起こし、発がんにつながるケースが多いです。ピロリ菌を薬で除菌することで胃がんの発生をある程度抑制することはできますが、完全に0にすることはできませんので、40歳を過ぎたら胃がんの検診を受けた方が良いでしょう。
胃がんは検診で早期に発見することができますし、早期に発見すればそれだけ簡単な治療で治るからです。
発生と進行
胃がんは胃の内側の粘膜に発生しますが、大きくなると胃の内側にせり出したり、胃の壁を深く進んで行ったりします。そして胃の壁を突き抜けると、近くの大腸や膵臓など他の臓器に広がったり、お腹全体にがん細胞が散らばったりします。また、リンパ管や血管に入り込んで、リンパや血液にのって離れた場所に散らばって行くこともあります。このような飛び火を医学的には転移といいます。
血液に乗って肝臓や肺などに転移することを血行性転移、リンパ管に入ってリンパ節に転移することをリンパ行性転移といいます。
お腹の中に種を播いたように広がることを腹膜播種性転移といい、この3つの転移が胃がんにおける3大転移です。転移したがんはそこで大きくなり、肝臓の働きが落ちたり、お腹の中に水が貯まったり、腸が狭くなったりして、がんの患者さんの死亡する原因になります。
胃がんの進み具合(病期、ステージ)
胃がんの進み具合のことを病期(ステージ)といいます。がんが胃の壁のどの深さまで進んでいるか、リンパ節にどの程度転移しているか、肝臓やお腹の中など遠くへ転移しているかなどを総合してきめます。病期は1から4までありますが、数字が大きいほど、またAよりもB、BよりもCの方が、がんが進んでいることを示します。
N0 (リンパ節転移がない) |
N1 (胃の周囲のリンパ節に1-2個転移がある) |
N2 (胃の周囲のリンパ節に3-6個転移がある) |
N3a (胃の周囲のリンパ節に7-15個転移がある) |
N3b (胃の周囲のリンパ節に16個以上転移がある) |
|
---|---|---|---|---|---|
T1a,M (胃の粘膜に限局している) |
1A | 1B | 2A | 2B | 3B |
T1b,SM (胃の粘膜下層に達している) |
|||||
T2 MP (胃の表面にがんが出ていない、 主に胃の筋層まで) |
1B | 2A | 2B | 3A | 3B |
T3 SS (筋層を越えているが胃の表面には出ていない) |
2A | 2B | 3A | 3B | 3C |
T4a SE (胃の表面に接しているかまたは 露出している) |
2B | 3A | 3A | 3B | 3C |
T4b (胃の表面に露出しさらに 他の臓器にもがんが続いている) |
3A | 3B | 3B | 3C | 3C |
肝、肺、腹膜など 遠くに転移している |
4 |
症状
胃がんに特徴のある症状があるわけではありません。
そこで、胃部の不快な感覚や空腹時や食後の腹痛、異常な膨満感などがある場合には、胃の検査を受けるようにしましょう。場合によっては、貧血を指摘された場合の精密検査で胃がんが発見されることもあります。
胃がんの検査と診断
胃X線検査
胃がんの検診で、最もよく用いられている方法です。バリウムを飲んで検査をします。
検診でチェックされますと、精密検査を奨められることになります。病院では、さらに精密X線検査で、胃がんの胃の中での正確な広がりを診断します。
内視鏡検査
内視鏡検査は、一般に「胃カメラ」とも呼ばれ、胃の内部を直接観察する方法です。この検査では、胃がんを疑う部分から組織を少量採取する生検を行います。採取した組織は、がん細胞が存在するかどうかを調べるために病理検査を行います。
胃がんと診断された場合、さらに詳細な内視鏡検査を実施してがんの広がりや深さを精密に診断します。この情報は、治療計画を立てるうえで非常に重要です。また、手術が必要と判断された場合には、手術前に内視鏡を使ってがんを切除する範囲を特定し、その安全なラインにマーキングする検査を行うこともあります。
超音波内視鏡検査
胃がんの診断がついて、その胃の壁のなかでの深さを診断する目的でこの検査が行われます。胃がんの深さは治療方針の決定に重要な因子です。
腹部超音波検査・腹部CT検査
この2つの検査は胃がんそのものというよりも、周囲の肝臓、胆嚢、膵臓の異常や胃がんとそれらの関係、あるいは胃の周りや少し離れたリンパ節の状況などの診断を目的としています。
治療
内視鏡治療
最近では早い時期に胃がんが発見され、リンパ節転移がないと考えられる胃がんの患者さんが増えてきました。リンパ節転移がなければ、内視鏡で胃がんを完全にとれれば治ることになります。
胃の壁の粘膜の浅いところにある胃がんで、潰瘍所見のない分化型(顕微鏡で見て胃の正常の粘膜によく似た固まりを作るがんのこと)、潰瘍所見がある3cm以下の分化型、潰瘍所見のない未分化型であれば、今までの経験から、胃がんがリンパ節に転移することはほとんどないので内視鏡で治療します。ただし、内視鏡で切除した結果、深いところまでがんがある場合や、血管やリンパ管に入り込むタイプでは、リンパ節に転移している可能性が高くなりますので、手術を追加して行います。
内視鏡治療適応の病変であっても、内視鏡でがんが見にくい場所にあったり、技術的に難しかったりする場合は手術になることがあります。また、高齢の方や手術ができない方の場合には、内視鏡治療適応の病変でなくても、内視鏡で治療することもあります。
方法にはいろいろありますが、それぞれの施設で得意とするやり方で行われます。内視鏡治療はお腹を切る必要はありませんが、深く取りすぎて胃の壁に穴が空いたり、取ったあとから出血したりすることがあります。その場合には、手術しなければならないこともあります。
- がん研有明病院の内視鏡治療については「胃がんの内視鏡治療と成績」の項目をご覧ください。
手術治療
1. 手術方法
手術の方法には、開腹手術と腹腔鏡手術があります。開腹手術は従来の手術方法で、胃がんの場合みぞおちから臍下まで縦に切開し、直接目で見ながら手術を行います。一方で、腹腔鏡手術はおなかに5か所前後、それぞれ5mmから12mm程度の穴をあけて、そこから腹腔鏡(カメラ)や鉗子などの器具を挿入し、腹腔鏡が映す映像をモニターで見ながら器具を操作して行う手術方法です。このような腹腔鏡手術は早期胃がんを中心に行われてきましたが、近年では進行がんにも行われるようになっています。また現在では、腹腔鏡手術と同様に傷の小さな手術としてロボット手術も保険診療として行われており、当院でも2019年よりロボット手術を導入し順調に症例数を蓄積しております。
2. 切除範囲
胃がんに対する手術は、全身麻酔下に胃とその周囲のリンパ節を切除する(リンパ節郭清といいます)治療法です。病気の場所や進行度により適切な手術の方法を選択しますが、胃癌を治すため(根治)の手術には大きく分けて定型手術と縮小手術、拡大手術の3つがあります。
「定型手術」とは胃がんに対する標準手術で、胃の2/3以上の切除とリンパ節郭清を行う手術です。胃の出口2/3の切除を行う幽門側胃切除術と胃を全部切除する胃全摘術がこれにあたります。
「縮小手術」とは胃の切除とリンパ節郭清の範囲を小さくする手術であり,術前検査にてリンパ節転移がない早期胃がんと診断された症例に限り行われる手術です。胃の上部1/3と幽門(出口)の一部を残す幽門保存胃切除術や噴門を切除し、胃の下部およそ2/3が温存可能な噴門側胃切除術がこれにあたります。詳細は、「機能温存を目指した胃を残す取り組み」の項目をご覧ください。これらの術式は胃の機能を温存することで、術後に予想される後遺症の発生を抑えることが期待されるため、機能温存手術と呼ばれることもあります。
「拡大手術」とは進行胃がんで他臓器へ病気が進行していることが疑われる場合や通常取るべき範囲以外のリンパ節(遠くのリンパ節)への転移が疑われる場合に、切除範囲を広げて行う手術です。ただしこれまで日本で行われた複数の臨床試験の結果では、拡大手術を行うことでの生存期間の延長は得られていないこと、また術後合併症が増えることもあり慎重に選択する必要があります。
3. リンパ節郭清
リンパ管に入ったがん細胞は、リンパ管を通って胃のすぐ近くのリンパ節に流れ込んでそこに止まります。そこでがん細胞が増えるとリンパ節転移ができあがることになります。さらに進むとより遠いリンパ節に次々に転移していくことになります。最終的には背中を走る大動脈の周りのリンパ節にまで達し、そこから胸管という太いリンパ管に入り胸の中を通って、鎖骨のところの静脈に合流します。ある程度進行した胃がんでは、近くのリンパ節にがん細胞が飛び火(転移)している可能性が高いのです。そこで、胃がんの手術では胃を切り取るだけでなく、近くのリンパ節や少し離れた部位のリンパ節を予防的に取ることが行われます。これをリンパ節の「郭清」と言います。
4. 再建方法
胃がんの手術で胃を切除した後は、食事や消化液が通るようにつなぐ(再建といいます)手術も同時にしなければなりません。
幽門側胃切除のあとは、残った胃と十二指腸をつなぐビルロートI法や、十二指腸を閉鎖して残った胃と空腸をつなぐRoux-en Y(ルーワイ)法という方法で再建しています。胃が全摘された場合は食道と空腸を、噴門側が切除された場合は食道と残った胃をつなぎ、食事がとおる道筋を作ることになります。
5. 手術の合併症
手術そのものによる合併症には、出血や縫合不全(縫合した部分の治りが不完全)、あるいは感染(術後の肺炎やお腹の中の膿のたまり)、膵液漏(膵臓についた傷から膵液が漏れ出ること)、腸閉塞などがあります。
- がん研有明病院の治療実績は「胃がんの手術治療成績(診療実績)」の項をご覧ください。
6. 後遺症
- 腸閉塞:
食べ物の流れが閉ざされて、便やガスが出なくなってしまうことです。
手術した後、お腹の中では腸がお腹の壁などにくっついてしまう(癒着といいます)ことがあります。その癒着が原因で腸が急に曲がったり、狭くなったりしてしまうことがあります。そこに食べ物がつまると、便もガスも出なくなります。しばらく食事を止めると腸のむくみが取れて治ることが多いのですが、時には癒着を剥がし、ねじれを治す手術が必要なことがあります。痛みが強い場合には医師の診察を受けて下さい。 - ダンピング症候群:
胃を切除すると食物が急に腸に流れ込む状態になります。そのために起きる不愉快な症状をまとめてダンピング症候群と呼びます。
ダンピングとはもともとダンプカーが土砂や荷物などを一気に投げ下ろすことをあらわす言葉です。腸の中に一気に食べたものが流れこんでしまうイメージです。
冷や汗が出たり、脈が速くなったり、動悸がしたり、体がだるくなったりします。食後30分以内に起きることが多いのですが、食後2〜3時間して起きてくるダンピング症状もあります。血液中の糖分が低くなるためにおこる、頭痛、汗が出る、脈拍が多くなる、めまい、脱力感などの症状です。糖分の多い内容が腸に入り、急に血糖が上がり、それを下げようとしてインスリンが出て逆に血液の糖分が下がりすぎるためにおこることです。
このような場合、糖分を上げるために、あめ玉や氷砂糖など甘い物を摂取して下さい。 - 貧血:
胃を切除すると貧血が起きることがあります。鉄分やビタミンB12が吸収されにくくなり不足しておこってきます。胃全摘や切除範囲が大きな場合に発生率は高くなります。とくに胃全摘を行った方は、年に2回ほどビタミンB12の注射が勧められます。。 - 逆流性食道炎:
術後に苦いものが上がってきたり、胸やけ等の症状が見られることがあります。
これは胃の入り口(噴門)の逆流防止の機能が損なわれたためにおこります。特に胃全摘や噴門側胃切除の術後に多くみられます。上半身を高くして寝るとか、粘膜保護剤、制酸剤、酵素阻害薬など様々な薬が投与されることがあります。 - 術後胆石症:
胆のうは肝臓でできた胆汁をためたり濃縮したりしますが、食物が十二指腸に流れてきたときに、ためていた胆汁を出して消化を助けます。
胃の手術では、胆嚢に行く神経や血管が切れることがあります。そのために胆嚢の動きが悪くなり、胆嚢に炎症を起こしたり結石ができたりすることがあります。無症状の場合がほとんどですが、まれに手術が必要なこともあります。リンパ節を郭清して、胆嚢への神経や血管が完全に切られた時には予防的に胆嚢を切除することもあります。
7. 食事療法
胃の手術の後は、食事のとり方が問題になります。
基本的には、胃の役割を口で補う必要があること(よく噛んで柔らかくすること)、ゆっくりと食べること、1回の食事量を少なく回数を多く食べること、食べたあとすぐに横にならないこと、水分をとることなどです。栄養士さんに相談することも大切です。
化学療法
1.補助療法
ある程度進行した胃がんの場合、手術後の再発を予防するために抗がん剤治療(術後補助化学療法)を行います。一般的に1年間、抗がん剤治療を行うことが薦められています。場合によっては内服だけでなく点滴の抗がん剤と組み合わせることがあります。手術で完全に切除することが難しいがんに対して、手術前に化学療法を行う方法など、現在、補助化学療法について様々な臨床試験が行われております。
2. 切除不能例や再発時の化学療法
胃がんに効果のある抗がん剤はありますが、薬だけで完全に胃がんを消滅させることは難しいのが現状です。手術ができないほど進行した胃がんでは、抗がん剤等(直接がんをやっつける抗がん剤の他分子標的治療薬など)の投与が選択肢の1つになります。最近では手術ができないほどに進んだ場合でも抗がん剤等の効果が持続して長期に生存されている方もいますし、とても抗がん剤等が効いて、その後手術が可能となり、長期に生存されている方もいらっしゃいます。
3.副作用
抗がん剤はがん細胞だけでなく正常の細胞も攻撃します。そのため貧血、白血球減少、嘔気、下痢、脱毛などの副作用があります。抗がん剤や個人によっても出方は異なります。抗がん剤の治療を受ける場合には、主治医から副作用についてよく説明を受けてください。一方、分子標的薬は抗がん剤のような副作用はありませんが、薬ごとに特徴的な副作用がありますので、主治医からの説明をよくご理解の上治療を受けてください。
- 詳細は、「胃がんへ化学療法と成績」の項目をご覧ください。
参考書籍
胃がん治療ガイドラインの解説
日本胃癌学会/編集 金原出版
日本胃癌学会では他の学会に先駆けて胃癌治療ガイドライン第1版を2001年に発刊し、その後2004年には第2版、2010年には第3版、2014年には第4版、2018年には第5版と版を重ね、2021年には第6版を刊行しました。これに対して、患者さん向けのガイドラインとしては2004年に「胃がん治療ガイドラインの解説」を発刊して以来、改訂がされないままとなっていました。この度、「患者さんのための胃がん治療ガイドライン2023年版」が金原出版から1540円で発売されています。患者さんだけでなく、ご家族にも読んで頂きたい本です。
関連リンク
日本胃がん学会のURLはhttp://www.jgca.jp/です。
胃がん治療ガイドラインが公開されており、どなたでもダウンロードして読むことができます。