がんに関する情報
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転移性肝腫瘍の手術と成績

転移性肝腫瘍の手術と成績

最終更新日 : 2020年6月24日

転移性肝腫瘍の手術と成績

転移性肝腫瘍は、どこか別の部位の原発腫瘍(たとえば胃癌や大腸癌など)から肝臓への転移ですので、その原発腫瘍の病期ではステージWに該当します。肝転移は、癌細胞が主に血液の流れに乗って肝臓にたどり着き、そこで増殖することによって起こります。治療は全身性化学療法(抗がん剤の全身投与)が一般的ですが、原発腫瘍の性質によっては手術などの局所療法がよい治療法になる場合があります。

転移性肝腫瘍の中で最も多いのが大腸癌の肝転移です。様々な原発腫瘍からの肝転移のうち、外科的切除をすることで生命予後の改善が見込めるのが大腸癌と神経内分泌腫瘍の肝転移で、当院では積極的に手術を行っております。一方、腫瘍の数や原発臓器の癌の状況によっては肝切除手術が患者さんのメリットになるのが、胃癌・乳癌・腎癌・卵巣癌、そしてGISTとよばれる消化管の特殊な腫瘍からくる肝転移です。これらの転移に対しては、以前は切除が否定的であった時代もありましたが、我々の施設は積極的に切除を行ってきました。その結果、すべての患者さんというわけにはいきませんが、十分に腫瘍の状況を評価した結果で肝切除にメリットのあると判断した患者さんにおいては、切除が予後を改善することがわかってきています1,2 3。さらに、膵癌・胆道癌・肺癌など非常に進行が早く肝転移が見つかったとしても切除できることのほとんどなかった癌に対しても、近年の化学療法の進歩により、化学療法が良く効いた場合など限定的ではありますが、切除が可能となる患者さんが徐々に増えてきています。

図:原発巣からみた転移性肝がん肝切除の頻度

大腸癌肝転移の治療について

当院では毎年160件程度の転移性肝腫瘍手術を行っております。大腸外科グループでの手術件数が多いことから、大腸癌肝転移に対する外科治療を数多く行ってきました。2009年までは全ての患者さんにできるだけ早く切除を行うという方針で治療を行ってきましたが、やはり腫瘍の状況(数や大きさ)によってはかなり再発率が異なることが明らかになりました。それら症例のまとめから4、2010年からは治療成績が良くなかった腫瘍個数4個以上または腫瘍サイズ5cm以上の肝転移を切除可能境界域肝転移と定義し、これら切除可能境界域肝転移を持つ患者さんに対してはまず術前化学療法を行ってから切除を行うという方針に切り替えました。その結果、再発率の高かった切除可能境界領域の患者さんの5年生存率が術前化学療法を行わない切除可能肝転移(3個以下かつ最大5cm以下)の患者さんとほぼ同等となるまで治療成績が向上しました5(5年生存率 切除可能肝転移:74.0%、切除可能境界域肝転移:66.6% ※2010年以前の切除境界域:<43%)。また、切除境界域肝転移症例は、術後の5年間で約78%の症例で再発しますが(切除可能症例では5年での再発率:約54%)、再発した患者さんでも約半数は肝臓だけの再発であり、切除可能であれば再発部位に対しても積極的に(5回でも6回でも)切除を繰り返すことで、予後の改善・治癒が見込めることが分かってきました6

図:転移性肝がん切除件数

大腸癌肝転移の切除が可能かどうかは癌の個数や大きさだけでなく、患者さんの肝臓の持つ予備能力に加えて、どれだけ正常な肝臓を残して手術ができるかにかかっています。肝切除後に残る予定の肝臓の大きさが限界よりも小さい場合は切除不能と判断せざるを得ませんが、化学療法により腫瘍が小さくなることで切除が可能となることがあります(症例@)。また、手術前に切除する側の肝臓に流れる門脈という血管を閉塞させて残る予定の肝臓を大きくする門脈塞栓という処置や、手術を2回に分けて切除する方法(2期的肝切除)を選択することで、切除困難とされる肝腫瘍も切除できることがあります(症例A)。

症例@ 69歳 男性

2015年4月にS状結腸癌同時性肝転移(切除不能肝転移)と診断。2015年5月にS状結腸切除後、化学療法の後に2016年6月に初回肝切除(図)。その後、肝転移再発に対し3回の肝切除を追加し、2020年5月現在、無再発生存中。

症例@ 69歳 男性

 

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症例A 61歳 女性

前医にて、2017年1月にS状結腸癌同時性肝転移と診断。術前化学療法の後、2017年6月にS状結腸切除術を施行。肝転移は切除不能の診断であり、化学療法を行っていたが(3rd lineまで)腫瘍増大制御が不能となり2018年8月に当院紹介。計32個の肝転移に対し、2018年9月と10月の2回に分割して肝切除を施行した。1期目:左肝の腫瘍17個切除+右門脈遮断、2期目:右肝切除(下図)。2020年5月現在、1年半無再発生存中。

症例A 61歳 女性

現在のところ、大腸癌の肝転移を治す唯一の方法は手術と考えています。大腸癌の肝転移は、積極的に切除することで予後の改善が望めます。また近年では化学療法を組み合わせることで治療成績はより向上しています。最近、大腸癌肝転移に対しラジオ波治療という腫瘍に電極針を刺しジュール熱により癌細胞を壊死させる方法を行った報告もあります。しかし、今のところ当院は、切除できる大腸癌の肝転移に対してラジオ波治療を行う事に否定的です。

肝転移が切除できるかどうかの判断は、施設・医師によって大きく差があります。もし大腸癌肝転移の診断で切除が難しいと言われた場合でも、肝切除経験の豊富な専門施設にセカンドオピニオンを求める事で、治療の選択肢が広がるかも知れません。 

当院は、腹腔鏡での肝切除に積極的に取り組んでいます。転移性肝腫瘍の患者さんにも行っています。再肝切除であっても、できるだけ腹腔鏡下肝切除を行うように取り組んでいます。

関連リンク:腹腔鏡下肝切除

参考文献

  1. Takemura N, Saiura A, Koga R, et al. Long-term results of hepatic resection for non-colorectal, non-neuroendocrine liver metastasis. Hepatogastroenterology. 2013;127(60).
  2. Takemura N, Saiura A, Koga R, et al. Long-term outcomes after surgical resection for gastric cancer liver metastasis: an analysis of 64 macroscopically complete resections. Langenbecks Arch Surg. 2012;397(6):951-957.
  3. Takemura N, Saiura A. Role of surgical resection for non-colorectal non-neuroendocrine liver metastases. World J Hepatol. 2017;9(5):242-251.
  4. Saiura A, Yamamoto J, Hasegawa K, et al. Liver resection for multiple colorectal liver metastases with surgery up-front approach: bi-institutional analysis of 736 consecutive cases. World J Surg. 2012;36(9):2171-2178.
  5. Ichida, H., Y. Mise, H. Ito, T. Ishizawa, Y. Inoue, Y. Takahashi, E. Shinozaki, K. Yamaguchi and A. Saiura (2019). "Optimal indication criteria for neoadjuvant chemotherapy in patients with resectable colorectal liver metastases." World J Surg Oncol 17(1): 100.
  6. Saiura A, Yamamoto J, Koga R, Takahashi Y, Takahashi M, Inoue Y, et al. Favorable outcome after repeat resection for colorectal liver metastases. Annals of surgical oncology 2014;21(13): 4293-4299.
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