がんに関する情報
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膵臓がん

膵臓がん

最終更新日 : 2024年11月21日
【肝胆膵外科(手術)】
外来担当医師一覧
【肝胆膵内科(化学療法など)】
外来担当医師一覧

がん研有明病院の膵臓がん診療の特徴

がん研有明病院の膵臓がん診療の特徴

診療

1.チーム医療

肝胆膵内科、肝胆膵外科、画像診断部や病理部などを含めた“チーム肝胆膵”として、患者さんに適切と思われる治療を考え、提供します。特に内科と外科は同じ病棟に勤務しており、常に情報交換しながら診療を行っています。

2.診断、治療

膵臓がんは進行の早い悪性腫瘍の代表であり、早急に進行度の評価を行い、手術もしくは化学療法の方針を決定します。手術可能であっても化学療法を先行することが一般的となっており、迅速な病理検査の上で化学療法を開始できるようにしています。一方、初診時に手術不能と判断された患者さんに対しても、化学療法を積極的に行いながら、奏功した場合には手術の可能性を追求しています。

3.研究と臨床の架け橋

がん診療の向上のために、患者さんの自主的な協力による臨床研究は不可欠です。診断・治療にあたるとともに、同意のいただけた患者さんに関しては、新しい治療法、手術手技などの臨床研究も積極的に行っています。

内科

1. 様々な手法による診断、胆管閉塞・消化管閉塞に対する治療

内科では、主として、診断、黄疸・消化管閉塞に対するステント治療、手術以外の治療としての化学療法を担当します。診断においては、膵がんの可能性が疑われた時点から診療を行い、通常行われる腹部超音波検査やCT検査、MRI/MRCP検査に加え、超音波内視鏡(EUS)検査およびEUS下穿刺吸引生検(EUS-FNA)を行っています。膵がんにより胆管が詰まる閉塞性黄疸に対しては、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)による胆管ステント治療を迅速に行っています。ERCPによる胆道ドレナージが困難な症例や十二指腸閉塞などの併存する病態によっては、EUSを用いた経消化管的な胆管ステント治療も行っております。また、膵がんにより十二指腸が詰まる消化管閉塞に対しては、内視鏡的に十二指腸ステントを留置し、患者さんの生活の質の向上および早期の化学療法導入に努めています。

2.より有効な化学療法の追求

膵がんに対する化学療法は、徐々に進歩しているとはいえ使用可能な薬剤の種類もその成績も十分とは言えず、新たな治療法開発のために、多くの病院が協力して大勢の患者さんの参加のもとに行われる臨床研究が不可欠です。私たちは、常に患者さんに適した標準治療を大切にするとともに、多施設共同臨床試験や治験(企業主導臨床試験)にも積極的に参加し、お一人の治療を通じて、より早く、多くの患者さんに新たな治療法を還元することを目標としています。

外科

1.あきらめない外科

内視鏡で診断可能な消化管の悪性腫瘍と異なり、肝がん・胆道がん・膵がんの進展を画像だけで判断することは時に困難なことがあります。また手術適応も施設により異なるのが現状であり、ある病院で手術ができないといわれても別の病院では手術ができるということもまれではありません。手術の経験や技量のほか、医師の考え方も大きく手術適応に影響するのが肝胆膵外科の領域です。我々は難治がんであっても外科的な立場から手術の可能性を最後まで追求します。“あきらめない外科”をモットーとし、患者さんとともに、がんに立ち向かって参ります。

2.出血の少ない手術を心がけています

肝がん・胆道がん・膵がんはおなかの中の最も複雑な部位にでき、手術が非常に複雑で切除が困難であり、出血量も多くなりがちです。私たち外科医の習熟した手技にさまざまな医療機器を組み合わせることで、手術中の出血をできるだけ少なくなるよう工夫しています。出血のすくない手術は安全かつ正確な手術につながります。血管を一緒に切除する拡大手術から腹腔鏡手術という非常に小さい傷でできる手術まで過不足のない術式を選択しています。

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膵臓がんの治療の実績

進行膵がんに対する集学的治療

近年の化学療法の進歩により、膵がんの治療は手術と化学療法を組み合わせることが標準となっています。当院では、2000年代より手術後の補助化学療法(再発予防のための抗がん剤治療)に積極的に取り組み、大侵襲手術と言われる膵がん切除後も安全な補助化学療法を提供してきました。

2015年以降、膵がんに対して新たな抗がん剤が保険承認となったのを契機に、さらなる治療成績向上のため、主要脈管への浸潤が疑われる、切除可能境界域(Borderline resectable, BR)膵がんや、腫瘍マーカーであるCA19-9値が高値の患者さんに対して、術前化学療法(ゲムシタビン・ナブパクリタキセル;GnP療法)→切除→補助化学療法(S-1療法)による集学的治療を実施しています。GnP療法は、原発巣に対して十分な腫瘍縮小効果を期待でき、4コースの化学療法後に比較的短期間で膵頭十二指腸切除や膵体尾部切除が安全に施行可能であるという、安全性と有効性の双方の条件を満たす治療と考えています。実際に、本治療を開始してからの切除率は良好で、8割以上の患者さんが安全に切除まで施行可能であり、治療成績の向上に寄与すると考えています。現在までに同戦略で120例以上の治療実績があり、以前の切除先行時代と比べて2倍近い長期生存成績を得ています。

一方、近年の化学療法の進歩に伴い、初診時点で局所の癌の浸潤や遠隔転移等で切除不能と診断された膵癌であっても、化学療法が長期奏効して腫瘍が縮小したり遠隔転移が消失したりして、切除が可能となる患者さんが少しずつ増えてきていました(Conversion切除といいます)。このデータは、初診時に切除不能と診断されても、最終的に切除に持ち込める可能性があると信じて集学的治療に取り組む患者さんの大きな希望となっています。

また、比較的早期に小さく発見され、主要脈管への浸潤がない切除可能膵癌の中にも、再発リスクの高い患者さんが存在することもわかってきています。2019年からは、このように切除可能と判断された患者さんに対しても、術前化学療法 (ゲムシタビン+S-1, GS療法) を導入しています。常に最新・最良とされる治療戦略を早期に導入し、最難治癌である膵癌と闘う患者さんをサポートして参ります。

外科治療の実績

過去10年間に行った膵切除手術件数を示します。当院では、ほかの病院で手術不可能と診断されてから来院される方も多く、そのような患者さんに対する手術も数多く手がけてきました。現在では年間200件前後の膵切除術を行っています。手術の安全性を保ちつつ、可能な限り根治を目指した手術を行うとともに、内科・放射線科・緩和ケア科とも連携したチーム医療を行うことで、膵がんの克服を目指していきたいと考えております。

膵がんの手術の合併症には、膵液瘻・神経性の下痢・胃内容排泄遅延(術後しばらく胃の動きが悪くなり食事ができなくなる事)・出血・感染や、膵頭十二指腸切除を行った際の胆汁漏・胆管炎などがあります。当科で手術を受けられた方の合併症による膵がん周術期死亡率は0.5%以下です。

内科診療の実績

1.膵がんに対する化学療法

2014年から2023年までの膵がんに対する化学療法の導入件数の推移を示します。2019年に術前化学療法の有用性が示され、術前治療の件数が増加しています。術前には、ゲムシタビン+S1(GS)療法やゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法を、術後の再発予防目的の補助療法としてはS-1療法を行っています。一方、切除不能・再発がんに対しては、一次治療としては、イリノテカン+オキサリプラチン+フルオロウラシル+レボホリナート(FOLFIRINOX)療法またはGnP療法を行ってきましたが、最新の臨床試験の結果により主としてGnP療法を用いるようになってきました。二次治療としては、リポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+レボホリナート(nIRI+FL)療法を中心に行っています。

2.膵がんに対する内視鏡診療

膵がんの確定診断のためには組織の採取が必要です。膵臓は胃の裏側にあり、十二指腸に隣接する臓器ですので、内視鏡の先端に超音波装置の付いた超音波内視鏡(EUS)を用いて胃・十二指腸から腫瘍を穿刺する、EUS-FNAが一般的です。

また、膵臓の右側(膵頭部)にできた膵がんはしばしば胆管に浸潤して黄疸を併発します。この場合、胆管にステントを留置して胆汁の流れを確保する必要があり、特に膵がんにおいては、口径の太い金属ステントが有用です。この10年間のEUS-FNAと胆管金属ステント件数の推移を示します(膵がん以外のデータも含みます)。

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がん研有明病院の膵がん治療

膵がんについての知識

膵がんとは

膵臓は胃の後ろ側に位置する長さ20cm くらいの左右に細長い臓器で、CT の画像でみるとひらがなの「へ」 の字に似ています。膵臓の右側は頭部と呼ばれ、左端の細長い部分は尾部、頭部と尾部の中間の部分は体部と呼ばれます。膵臓には食べ物を消化する分泌液(膵液)をつくるはたらき(外分泌)とインスリンなどのホルモンをつくるはたらき(内分泌)があります。膵液の流れ道を膵管といい、膵管には川でいう本流に相当する主膵管と、支流に相当する分枝膵管があります。外分泌を担当する細胞(腺房)からしみ出した膵液は分枝膵管から主膵管に注ぎ込まれ、尾部から頭部へと主膵管を流れて、最後に十二指腸に分泌されます。一般に膵がんと呼ばれているのはこの膵管から発生したがんで、専門的には浸潤性膵管癌、慣習的には通常型膵癌とも呼ばれています。膵臓にできる腫瘍には、このほかに、膵管内でゆっくり育った後に進行し始める、膵管内乳頭状粘液腫瘍(IPMN)、腺房から発生する腺房細胞癌、内分泌細胞から発生する膵神経内分泌腫瘍、嚢胞(水分を含む袋)の形態をとる漿液性嚢胞腫瘍・粘液性嚢胞腫瘍・充実性偽乳頭状腫瘍、発生源の不明な退形成膵癌などがあります。健診等で比較的よく指摘される膵嚢胞とIPMNについては、こちらを参照ください。

膵がん

膵がん罹患者数

我が国における膵がんの死亡者数は、肺がん・胃がん・大腸がんについで4番目に多く、2014年には約32,000人が膵がんで亡くなっています。年齢別では60歳ごろから増加し、高齢になるほど多くなります。近年の高齢化社会の進行とともに非常に増加しており、罹患者数(新たに診断される患者数)数と死亡者数はほぼ等しいのが特徴で、膵がんの生存率は主要ながんの中で最も低くなっています。

膵がんの危険因子

膵がんの危険因子として、喫煙・糖尿病・膵がんの家族歴(親・兄弟に膵がんの方がいること)、膵嚢胞、慢性膵炎などが知られています。喫煙は明らかな危険因子ですが、禁煙から10年程度で膵発癌のリスクは健康な人と同じ程度まで下がるといわれていますので、今からでも禁煙は遅くありません。糖尿病に関しては、小さな膵がんが引き金となっている場合があり、糖尿病の診断時には膵がんの検査も受けるようにしましょう。近親者に膵がんの方がいる場合、特に複数名の場合には、自身も膵がんになる可能性が高くなりますので、定期的な検診をお勧めします。膵嚢胞や膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を指摘された方も定期的に画像検査を受け続けるようにして下さい。

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症状

膵頭部にできた膵がんは小さくても胆汁の流れ道(胆管)をつぶして胆汁の流れを悪くして、黄疸を引き起こすことがあります。このような黄疸(閉塞性黄疸といいます)は膵がん発見のきっかけになります。黄疸以外の症状は、胃のあたりや背中が重苦しいとか、なんとなくお腹の調子がよくないとか、食欲がないなどという漠然としたものが多く、膵がんが疑われることなく経過することが少なくありません。糖尿病の急な悪化は膵がんを疑う症状のひとつです。おなかやせなかの痛みや体重の減少などがみられます。診療所や病院で「胃が痛い」と訴えると、内視鏡検査(胃カメラ)のみが行われ、たまたま見つかった慢性胃炎や軽度の逆流性食道炎などの治療を数ヶ月された後に、症状が改善しないことで胃以外を調べて膵がんの診断に至るということが多々ありますので、お腹のいたみを胃の痛みと自己判断しないよう注意して下さい。

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診断

膵がんを疑った場合、まず行われるのは腫瘍マーカーを含めた血液検査と腹部超音波検査や腹部 CT 検査、MRI/MRCP検査などの画像診断検査です。

膵がんの代表的な腫瘍マーカーは CA19-9です。CA19-9が高値の場合、膵がんを疑って画像検査を行いますが、CA19-9はしばしば癌以外でも高値を示すことも覚えておいてください。腹部超音波検査やMRCP検査では、膵がんそのものの存在のほか、膵がんの存在を示唆する主膵管の拡張の有無なども重要な所見です。造影CT は膵がんの存在診断にとても役に立ちます。このほか、小さな膵がんをみつけるために、胃・十二指腸内から膵臓をくまなく観察する超音波内視鏡(EUS)検査も非常に有用な検査です。

これらの画像で膵がんが疑われた場合は、超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)による病理検査を加えることにより、確実な診断に迫ることが可能です。画像で捉えられない小さながんを疑う場合には、内視鏡的逆行性膵管造影(ERCP)による膵液細胞診検査を行うこともありますが、時に合併するERCP後急性膵炎が重症化することもあるため、安易な検査は避けなければなりません。

(リンク:胆膵IVR

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病期診断

膵がんの病期分類には、国際分類(国際対がん連合:UICC,第8版)と国内分類(膵癌取扱い規約,第7版)があります。いずれも、基本は 膵がんそのものの拡がり(T因子)、膵臓近傍のリンパ節転移の有無(N因子)、遠隔転移の有無(M 因子,M1:転移あり)から構成されます。2016年にUICC基準に合わせる形で膵癌取扱い規約が第7版に改訂されたものの、その後にUICC基準が第8版に改訂され、T分類の定義や、N因子の取り扱いなど、再び両者が一致しない部分が出てきてしまいました。例えば、膵臓の表面近くにできて膵外に拡がる1.5cmの膵がんは、国際分類ではT1でStage IAになりますが、国内分類ではT3でStage IIAとなります。ステージの話をするときは、どの分類法を用いているかに注意が必要です。

一方、膵癌取扱い規約第7版では、手術できるかどうかに着目した「切除可能性分類」という分類が新たに加わりました。この分類は膵癌の進行度が非常にイメージしやすく、治療方針にも直結するので、日常診療においては多くの施設でこの分類が用いられていると思います。

UICC TNM分類(第8版)によるTNM分類
  T N M
Stage 0 Tis N0 M0
Stage I A T1 N0 M0
Stage I B T2 N0 M0
Stage II A T3 N0 M0
Stage II B T1〜3 N1 M0
Stage III T1〜3 N2 M0
T4 N0〜2 M0
Stage IV T1〜4 N0〜2 M1
Tis: 上皮内癌
T1: 2cm以下, T2: 2〜4cm, T3: 4cm超
T4: 腹腔動脈、上腸間膜動脈、および/または総肝動脈に浸潤する腫瘍
N0: 領域リンパ節なし, N1: 同1〜3個, N2: 同4個以上
膵癌取扱い規約(第7版)による進行度分類
  T N M
Stage 0 Tis N0 M0
Stage I A T1 N0 M0
Stage I B T2 N0 M0
Stage II A T3 N0 M0
Stage II B T1〜3 N1 M0
Stage III T4 N0〜1 M0
Stage IV T1〜4 N0〜1 M1
Tis: 上皮内癌
T1: 膵内限局, 2cm以下, T2: 膵内限局, 2cm超
T3: 膵外進展あるも、腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ばないもの
T4: 腫瘍浸潤が腹腔動脈もしくは上腸間膜動脈に及ぶもの
N0: 領域リンパ節に転移なし, N1:領域リンパ節転移あり
切除可能性分類
R (Resectable, 切除可能)
BR (Borderline resectable, 切除可能境界)
 BR-PV: 上腸間膜静脈/門脈に180度以上の接触・浸潤 (十二指腸下縁を超えない)
 BR-A: 上腸間膜動脈あるいは腹腔動脈に180度未満の接触・浸潤
総肝動脈に接触・浸潤あるが、固有肝動脈/腹腔動脈に接触・浸潤なし 
UR (Unresectable, 切除不能)
 UR-LA (局所進行): BRの基準を超えるもの
 UR-M (遠隔転移): M1

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治療法

手術療法

手術療法は、根治(病気を完全に治すこと)を目指す唯一の治療方法であり、病気を治す第一歩と言っても過言ではありません。切除の方法は、病気の発生した場所によって、以下のような方法が選択されます。

膵頭十二指腸切除術

膵頭部に腫瘍がある場合に、十二指腸・胆管・胆嚢を含めて膵頭部を切除する方法です。がん病巣のみならず、転移する可能性のあるリンパ節が十二指腸や胆管周囲にも存在するため、これらの臓器ごと一緒に切除します。胃は出口の一部を切除する方法と温存する方法があります。膵頭部周囲は解剖学的にも複雑で、高度な技術を要します。また、がんが周囲に広がっている場合には、周囲にある血管や腸管などを合併切除することもあります。消化器外科領域では大きな手術と考えられます。その分、術後の合併症の頻度も高く、時に生命の危険もある重篤な合併症につながる可能性があることをよくご理解頂く必要があります。「膵癌診療ガイドライン」では「膵頭十二指腸切除術など膵癌に対する外科的切除術では、手術症例数が一定以上ある専門医のいる施設では合併症が少ない傾向があり、合併症発生後の管理も優れていると推察される」とし、「膵頭十二指腸切除術を年間20例以上施行している施設をhigh volume center」として、治療を受けることを推奨しています。

尾側膵切除術

 

膵尾部側に腫瘍がある場合、膵臓の体尾部および膵臓に付着する脾臓を切除する方法です。良性疾患であれば脾臓を温存することもありますが、膵癌の場合は病変の切除だけでなく、周囲にあるリンパ節の切除(リンパ節郭清と言います)が必要になりますので、脾臓も摘出する必要があります。

膵全摘術

病巣が膵臓内を広汎に占拠する場合、膵全摘術が必要になることがあります。しかし、膵臓が有する外分泌機能(消化酵素を分泌する)および内分泌機能(主にインスリンによる血糖コントロールする)が失われるため、手術後には、膵消化酵素剤の内服や、血糖値をコントロールするためにインスリンの注射が一生必要になるなど、術後の生活の質に支障をきたすことも多い術式です。しかし、高力価膵酵素剤(パンクレアリパーゼなど)や、持続型インスリン製剤の開発により、術後の生活の質がさほど低下しなくなってきており、局所進行癌でも術前治療がしっかりと奏効した患者さんでは、積極的に膵全摘を行って根治切除を目指すことが多くなってきています。

バイパス手術

癌が切除できない場合でも、胃・十二指腸や小腸が狭くなったり、閉塞して食事が通らなったり、肝臓でできる胆汁が流れなくなる(黄疸)ことを回避するために、迂回路(バイパス)を新たに造る手術です。通常の手術と異なり、根治は期待できませんが、体に加わる負担が少なく、早期に次の治療(全身化学療法など)に移行することができます。内視鏡治療の進歩により、内視鏡を用いたステント治療を行うことが多くなっています。

膵がんの化学療法・化学放射線療法

遠隔転移を有する不能の膵がんに対する一次治療としては、2014年以降、主としてイリノテカン+オキサリプラチン+5-FU+ロイコボリン(FOLFIRINOX)療法、もしくは、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法が行われてきました。両者はほぼ同等の治療効果と考えられていましたが、当院も参加して行われた両者の比較試験において、GnP療法の成績がより良好である結果が2023年に示され、現在では、FOLFIRINOXの効果が期待される一部の症例を除いて、GnP療法が第一選択となっています。体力的にFOLFIRINOX療法やGnP療法が対象とならない場合には、ゲムシタビン療法やS-1療法などの単剤療法が用いられます。GnP療法の副作用としては、悪心や倦怠感、下痢・便秘などがありますが、多くの場合日常生活に大きな支障が出ない範囲にとどまります。一方、治療を重ねるにつれ、しびれが強くなってくることがあります。また、時に感染症などの重篤な副作用が見られることもあるため注意が必要です。GnPに限らず、化学療法は副作用に耐えるのではなく、辛くないように投与量やスケジュール、併用薬などを工夫していくものであり、治療後の症状は遠慮せず担当医に伝えるようにしてください。一般には、効果があり、副作用が軽度であれば、治療を継続します。効果が見られなくなった場合、体調が安定し、他に有望な治療法がある場合には、次治療に移行します。

病期診断で T4M0(局所進行がん)と診断された場合、抗がん剤治療に放射線照射を併用する化学放射線療法も選択肢となります。膵がんは非常に転移しやすいがんであり、放射線治療のみでは延命効果が得られないことが示されています。また、放射線照射と併用する抗がん剤としては、ゲムシタビンもしくはS-1などの単剤が用いられます。これらの弱めの抗がん剤を併用した放射線療法とFOLFIRINOX療法やGnP療法などの強めの全身化学療法のどちらが良いかは結論が出ていません。なお、近年、膵がんに対して陽子線治療や重粒子線治療も保険が適用されるようになりましたが、いずれも化学療法の併用が必要です。放射線照射を行う場合、治療後1ヶ月以上経ってから放射線障害が出てくることがあり、時に治療に難渋することもありますので、注意が必要です。

GnP後の二次治療としては、体力が十分にある場合には、リポソーム型イリノテカン+5-FU+ロイコボリン(nIRI+FL)療法またはFOLFIRINOX療法が行われます。nIRI+FL療法は、FOLFIRINOXからオキサリプラチンを抜き、イリノテカンをリポソーム型イリノテカンに代えた治療法で、二次治療として臨床試験で有用性が示され、標準治療となっています。一次治療としてFOLFIRINOXを行った場合には、二次治療としては主にGnP療法が行われます。

一方、国内で切除可能+切除可能境界膵がんを対象に行われた術前ゲムシタビン+S-1(GS)療法の臨床試験において、最初から手術を行った場合に比べ、術前GS療法を行った群でその後の経過が有意に良好であったことから、現在は切除可能と判断したがんであっても、術前に化学療法を行うことが一般的になっています。当院では、切除可能がんに対してはGS療法を、切除可能境界がんに対しては、より強い抗腫瘍効果を期待してGnP療法を用いています。

また、手術後には、経口抗がん薬のS-1療法を半年間行うことで再発率や生存率の改善が見られたことから、術後の体力回復を待って半年間のS-1療法を行っています。

これらの化学療法の進歩により、当初切除不能と判断したがんであっても、化学療法が著効した場合に手術可能な状態になることもあります。このような手術をコンバージョン手術とよび、近年注目されています。頻度的には10%前後と決して高いものではなく、初めからコンバージョン手術を前提として化学療法を行うわけではありませんが、転移が完全に消失した場合や腫瘍マーカーが正常化した場合には、担当医から提案があるかもしれません。コンバージョン手術により長期に病状が安定する場合もある一方、安易な手術により早期に再発し化学療法が再開できないままがんが進行してしまい、手術が完全に裏目に出てしまうこともありますので、専門医の意見を聞くことをお勧めします。

・化学療法の成績

切除不能膵がんの化学療法の成績は、FOLFIRINOX療法やGnP療法の登場により、それまでの6-10ヶ月程度から2倍以上に延長してきました。伸び率としては非常に大きいですが、実数としてはまだまだ満足できるものではなく、さらなる治療法の開発が望まれます。

以下に代表的な薬物療法に関する臨床試験の成績を示します。

レジメン名 治療法 臨床試験成績*
奏効割合 無増悪生存期間
(中央値**)
全生存期間
(中央値**)
試験名
一次治療(遠隔転移例)
ゲムシタビン 1コース4週間
1,8,15日目に点滴
13% 4.1ヶ月 8.8ヶ月 GEST
S-1 1コース6週間
1-28日目に内服
17% 4.2ヶ月 9.0ヶ月 GEST
mFOLFIRINOX1) 1コース2週間
1-3日目に持続点滴
32% 5.8ヶ月 14.0ヶ月 JCOG1611
GnP2) 1コース4週間
1,8,15日目に点滴
35% 6.7ヶ月 17.1ヶ月 JCOG1611
一次治療(局所進行例)
S-1併用放射線療法 放射線照射28回
(週5回)
照射日に内服2回
  10.1ヶ月 19.0ヶ月 JCOG1106
mFOLFIRINOX 1コース2週間
1-3日目に持続点滴
31% 11.2ヶ月 23.0ヶ月 JCOG1407
GnP 1コース4週間
1,8,15日目に点滴
42% 9.4ヶ月 21.3ヶ月 JCOG1407
二次治療
nIRI+FL3) 1コース2週間
1-3日目に持続点滴
16% 3.1ヶ月 6.1ヶ月 NAPOLI-1
術後補助療法
S-1 6週間 x4コース
1-28日目に内服
  無再発生存期間
22.9ヶ月
46.5ヶ月 JASPAC 01
術前補助化学療法(切除可能+切除可能境界例)
GS4) 3週間 x2コース
1,8日目に点滴
1-14日目に内服
    36.7ヶ月 Prep-02/JSAP-05
BRCA変異陽性例に対する維持療法
オラパリブ【PARP阻害薬】 連日内服 23% 7.4ヶ月 19.0ヶ月 POLO
  1. mFOLFIRINOX:イリノテカン+オキサリプラチン+5-FU+ロイコボリン
  2. GnP:ゲムシタビン+ナブパクリタキセル
  3. nIRI+FL:リポソーム型イリノテカン+5-FU+ロイコボリン
  4. GS:ゲムシタビン+S-1

*臨床試験の成績は、対象や時代背景などの条件が異なるため、この数値をもって相互の成績を比較することはふさわしくありません。私たちは各試験の様々なデータから病態に応じた治療法を個別に検討しており、この一覧表を以て治療法を決定してはおりません。

**中央値:対象者の50%がこの値を上回る/下回る値。効果には個人差があります。また、中央値が短くても長期の生存割合が高い場合もあり、中央値のみで効果を測ることも適切とはいえません。

ゲノム医療

近年、がんに対する新たな治療戦略として、がん遺伝子パネル検査等のゲノム検査によりがんの原因となる遺伝子異常を同定し、これを標的とした分子標的薬を投与する、がんゲノム医療が注目されています。

膵がんの場合、90%以上でKRAS変異が検出さます。KRAS変異にはいくつかのサブタイプがあり、KRAS-G12C変異を有する肺がんにおいては、KRAS阻害薬のソトラシブの有効性が示され、適応を取得しています。残念ながら、膵がんではG12C変異は1-2%程度と極めてまれで、膵がんで多く見られるG12DあるいはG12V変異については、2024年3月時点で効果が確認された薬剤がなく、開発が待たれます。

一方、KRAS変異を認めない膵がん(全体の10%以下)では、治療標的となる遺伝子異常が検出される頻度が高いことが知られています。BRAF変異に対しては、がん種を問わず、BRAF阻害薬(ダブラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメチニブ)が投与可能です。

このほか、膵がんの3%程度の患者さんにおいて、生殖細胞系列(親から子へ受け継がれる遺伝子)のBRCA1/2遺伝子変異がみられることが知られています。この場合、プラチナベース(オキサリプラチンなど)の化学療法が有効な可能性が高く、通常の化学療法の治療薬選択においても重要な情報になります。プラチナベースの化学療法が有効な場合、その後の維持治療としてPARP阻害薬であるオラパリブの有効性が示され、適応を取得しています。BRCA変異は、専用の遺伝子検査であるBRACAnalysis® 診断システムによって調べることが可能ですが、BRCA変異は遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の原因遺伝子であり、この異常が見つかった場合、血縁関係のあるご家族の乳がん、卵巣がん、膵がんなどのリスクを考慮する必要がありますので、遺伝カウンセリングが必要です。BRCAやHBOC関連については臨床遺伝医療部のページに詳しい説明がありますので参照ください。


なお、2024年3月現在、がん遺伝子パネル検査等で以下の遺伝子異常が見つかった場合、がん種によらず、保険診療として以下の薬剤が使用可能です。

  1. 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形がん・高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する固形がん:ペムブロリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬、抗PD-1抗体薬)
  2. NTRK融合遺伝子陽性の固形がん:エヌトレクチニブ、ラロトレクチニブ(TRK阻害薬)
  3. BRAF遺伝子変異を有する固形がん:ダブラフェニブ(BRAF阻害薬)+トラメチニブ(MEK阻害薬)

胆管・消化管閉塞に対する内視鏡治療

胆管ステント

膵頭部癌はしばしば胆管に浸潤し、(閉塞性)黄疸の原因となります。一般的には、内視鏡を使って十二指腸乳頭から腫瘍による狭窄を越えた上流胆管までチューブをいれます。病態によって、鼻から体外に胆汁を逃がす経鼻カテーテルやプラスチックステント、さらに形状記憶合金からなる、より口径の太い金属ステントを使い分けています。

胆管ステントを留置した後は、胆汁や食物などによるステントの閉塞やステントを介した十二指腸液の胆管内逆流により、胆管炎(高熱)が生じやすい状態になります。黄疸や胆管炎が生じた場合には交換が必要ですが、病態によっては頻回に胆管炎を繰り返すこともあります。 十二指腸も同時に閉塞した場合など、胆管ステントがうまく機能しない場合には、胆管ステントの先端に逆流防止弁が付いた逆流防止弁付き胆管ステントを留置したり、EUSを用いた経消化管的な方法(例えば、胃から肝臓内の胆管に針を刺して両者をステントでつなぐような治療)で胆管ステントを留置したりしています。それでも胆管ステントがうまく機能しない場合には、体の外から肝臓内の胆管に管を入れて胆汁を体外に逃がす処置(PTBD)を行うこともありますが、PTBDの場合、体外にカテーテルが出たまま日常生活を送ることになります。

消化管ステント

膵臓は十二指腸に接する臓器であり、膵がんにより十二指腸が閉塞することがあります。十二指腸が閉塞すると、食べ物が胃から先に流れなくなりますので、食事が摂れません。このような病態に対しては、胃と小腸(空腸)を外科的につなぐバイパス術(胃空腸吻合術)のほか、内視鏡を用いて十二指腸の狭窄部にステントを留置する内視鏡的ステント留置術が積極的に行われるようになっています。バイパス手術が困難な進行がんにおいては、食事を再開し得る唯一の治療法となります。バイパス術が可能な場合でも、すぐに抗がん剤が開始できるなどのメリットがありますが、ステントの場合は長期的には再閉塞の可能性があります。現在、内視鏡的に胃と空腸をダンベル型のステントでつなぐ内視鏡的バイパス術の開発も進んでいます。

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再発の診断と治療

手術ができた場合、完治が期待できる状況ですが、膵がんは手術後も再発することが少なくありません。再発を予防するための治療を補助療法といいますが、膵がんでは手術後補助療法を行うことで、手術のみで経過をみた場合に比べて明らかに再発率が低下することがわかっています。現在、6ヶ月間のS-1療法が標準的な補助療法と考えられています。

しかしながら、補助療法を行っても手術後の再発を完全に抑えることはできません。したがって、5年間くらいは3-4ヶ月ごとに腫瘍マーカーを含めた血液検査や CT 検査などの画像診断を行い、再発の有無を確認します。再発に対しては、抗がん剤による全身化学療法が行われます。画像上1か所だけの再発であっても実際には多数の可能性が高く、手術では完治が得られないと考えられていますが、化学療法により長期間にわたり転移が十分に制御できている場合には、部位によっては再発に対する手術を行うこともあります。

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治癒率

膵がんは代表的な難治がんであり、あらゆる癌の中で最も生存率が不良です。手術できた方の5年生存率は10-30%くらいです。転移はないが手術できない方(規約第7版のステージV)の1年生存率は30-50%くらい、転移があるため手術ができない方(規約第7版のステージW)の1年生存率は10-30%くらいです。

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