頭頸部がん
がん研有明病院の頭頚部がん診療の特徴
がん研有明病院の頭頚部がん診療の特徴
頭頸部カンファレンスによる診断および治療方針の決定
担当医師個人の独断に偏らない体制
頭頸部のがんをもった患者さんを中心に、担当医師のみでなく、診断、治療に関わる頭頸部外科医、放射線治療医、化学療法科医、放射線診断医、形成外科医、病理医などが検討した上で、総合的に診断し、治療法を提案しています。担当医師個人の独断に偏らない、それぞれの専門家によるより高質な医療を提供するのが目的です。がん研有明病院頭頸科では、カンファレンスを通して、頭頸部のがんをもった患者さんの診断や治療法が検討されます。また、各スタッフ間の情報共有のため、電子カルテが用いられています。
多層にわたるカンファレンス
ひとりの患者さんに対し、場合によっては数度にもわたり、話し合われ検討されます。これは診断・治療にかかわる医師たちの一致した意見をつくるほか、さまざまな医師からの指摘をうけることによって、より適切で安全な治療につながると考えています。たとえば、手術治療が適応となるような患者さんに対しては、外来での複数の頭頸科スタッフによる診察、方針決定のカンファレンス(複数回行われる場合があります)、術前に行われる術式に関するカンファレンス、実際に行われた手術内容の検証を主な目的とした術後のカンファレンスなどが実施されます。
専門医師による診断・治療
がんの治療に当たっては、画像診断、病理学的診断が必須です。頭頸部放射線診断学を専門とする医師を擁する放射線診断部門、病理部門、細胞診断部門とのタイアップを密にして、診断の正確性を向上する体制を整えています。
また、治療に関しては、頭頸部外科医、放射線科医、抗がん剤のプロである化学療法科医といった各治療の専門医によって患者さんへの説明や治療がおこなわれています。
専門医による頭頸部がん患者さんへの関与により、以前にもまして安全で適切な治療ができるようになったと考えています。
丁寧な説明
病名、病状、当院での治療方針、治療の効果やリスク、後遺症・副作用など十分な時間をかけてのご説明を心がけています。患者さんにはきちんと正確な病名や病状をお話しします。それをせずに治療のよい面ばかりを強調する説明はおこなっていません。
DVDの活用
病気や術後の状態を一度も見たことのない患者さんやご家族にとって、頭頸部がんの手術はイメージがわきにくいものです。患者さんや看護師、事務の方々、医師などに協力していただき、さまざまな手術のDVDを作成、患者さんにお渡ししています。ほかの患者さんとまったく同じようにはならないものの、術前の心構えの方法のひとつとしてDVDはわかりやすいと好評を得ています。
コミュニケーションに対する努力
たとえば、がんの手術により発声器官である喉頭を摘出せざるを得ない方がおられますが、頭頸科外来看護師が中心になって、電話での応対が難しい喉頭摘出者に対象を限定してE-mailまたはFAXによる対応をしています。
手術後遺症の緩和への介助
頭頸部がんの最大の特徴は、摂食、会話などに直接関与する部位であり、また首から上という衣服に覆われず、常に人目にさらされる場所に生じるがんであるという点にあります。頭頸部がんの治療では、これらの形態機能に多かれ少なかれ障害をもたらすことは避けられませんが、腫瘍が進行していればいるほど、発声機能喪失や、咀嚼・嚥下機能低下、顔面の変形など、治療後の障害は大きくなり、社会生活に大きなハンディキャップを負うことになります。必ずしも十分ではないかもしれませんが、これら手術後遺症を緩和するため努力しています。たとえば、手術前と同様な100%の回復を期待するものではありませんが、頸部手術後の拘縮や運動障害に対しての頸部リハビリテーションや、摂食嚥下障害に対するリハビリテーションを看護師が中心になって入院中の患者さんを対象に積極的に関与しています。
また、がんの治療によって喉頭摘出をせざるを得なかった患者さんに対して、適応を考慮した上で、声帯のかわりに食道と気管の間に発声のためのチューブ(シャントチューブ(プロボックス)など)を留置する治療も積極的に行っております。
頭頸部がんの治療成績
がん研有明病院で実施される頭頸部腫瘍関連の年間の手術件数は約650件(甲状腺疾患含む)です。そのうちマイクロサージャリーによる再建手術は約120件におこなわれ、口腔や咽頭の欠損に皮弁を移植したり、下顎骨の切除後に肩甲骨や腓骨、肋骨を移植するなど困難な手術に取り組んでいます。その結果、従来は社会復帰が難しかったような患者さんのQOLも向上しました。
がん研有明病院頭頸科でおこなったマイクロサージャリーによる再建手術は、これまでに4000例を超え、その成功率は97%に達しています。これだけの数の再建手術を経験している施設は世界でも多くはありません。拡大切除ばかりでなく、喉頭がんや下咽頭がんに対する音声保存手術にも、再建手術のテクニックはいかされています。
手術以外の治療にも力を入れています。放射線科とチームを組み、副作用を極力少なくするように照射範囲を検討したり、化学療法を併用した放射線治療など臓器温存治療も取り入れています。難治性のがんに対しての抗がん剤治療を導入するなどです。
診断の分野でも近年の進歩はめざましく、CT、MRI、エコーを駆使して、腫瘍の拡がりを的確に知ることができます。検査に要する日数の短縮にも努力しています。主な疾患の5年粗生存率は、舌がん68%、喉頭がん71%、下咽頭がん44%、上顎がん58%となっています。
頭頸部がんについての知識
頭頸部がんとは
頭頸部がんの頭頸部とは脳より下方で、鎖骨より上方の領域をさし、顔面頭部から頸部全体がここに含まれます。
従来の耳鼻咽喉科、口腔外科領域が中心となり、ここに生じるがんを総称して頭頸部がんとよびます。頭という字があるため、脳内の病気も含まれると思われやすい名称ですが、脳腫瘍や脳血管障害などの頭の中(頭蓋内)の疾患は頭頸部には含まれません。
解剖学的には、口腔、咽頭、喉頭、鼻腔、副鼻腔、甲状腺、唾液腺、頸部食道などが主な領域となります。これらの部位は、さらに細かな部位に分けられそこに生じた腫瘍はその部位の名称をとって喉頭がん、舌がんなどとよばれています。
口腔、咽頭、喉頭、鼻腔、副鼻腔、頸部食道のほとんどが扁平上皮がんと呼ばれる組織型です。主な部位の説明がこのがん研有明病院の「がんの知識」のコーナーにありますが、これらの部位の説明に関しては、主に扁平上皮がんについての説明が書かれています。
- 頭頸部がんの患者さんでは、喫煙をやめることが重要になります。 喫煙を続けた場合には、回復が遅れ、さらに頭頸部がんの再発リスクや二次がんの発生リスクが高まってしまいます。
主な部位
口腔(舌、歯肉、口腔底、頬粘膜、口蓋) | 口腔がんについて |
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咽頭(上咽頭、中咽頭、下咽頭) | 咽頭がんについて |
喉頭 | 喉頭がんについて |
鼻腔 | |
副鼻腔(上顎洞、篩骨洞、蝶形骨洞) | 上顎がんについて |
唾液腺(耳下腺、顎下腺、舌下腺) | 唾液腺がんについて |
甲状腺 | 甲状腺がんについて |
頸部食道 | |
気管 |
症状
頭頸部がんの症状は、がんの発生した場所によって異なります。個々のがんの症状は、それぞれの疾患の項を参照していただきたいと思います。
頭頸部は体表にも近い場所であり、舌がんのように、ものがしみる、舌が痛いなどの異常に気が付き易いものも少なくありませんが、ほとんど自覚症状の見られない場合もあります。このような場合にも、首に硬いしこりを触れる、のどになんとなく違和感がある、すこし食べ物が引っかかる感じなど何か普段と異なる症状があることがほとんどです。
首のしこりが、リンパ節への転移であったり、のどの違和感が咽頭の腫瘍のためであったりすることがあります。
診断
頭頸部がんは、他部位と比べて体表に近い部位にあり、口腔がんのように直接目でみることのできるものもあり、がんの診断も比較的容易です。多くの場合初診で診断がつけられることが少なくありません。
診断の流れとしては、初診時に症状をお聞きした後、口腔・咽頭・喉頭・鼻腔を視診と鼻腔を経由して細いファイバースコープで観察し病変の有無を確認します。同時に触診によって、頸部のリンパ節腫脹、甲状腺腫脹、唾液腺腫瘤、その他の頸部腫瘤などの有無を判断します。
これだけで大部分の例で、がんないしがんの疑いのあるものの判断ができます。そして多くの場合、その日のうちにがんと思われるものや疑いのあるものについては、組織の小片を切除する組織生検や注射針による穿刺吸引細胞診とよばれる検査まで進むことができます。一見してがんと判断できるものについては、治療予定や、予後の見通しまでお話することができます。
病期診断
頭頸部の固形がんの病期は、病変の大きさと周囲組織への浸潤の状態、転移の状況などによって決定されます。実際には正確な病期分類を行なうために充分な視診や触診の他、CT、MRIなどの画像診断が必要です。
一般に日本を含め世界中の医療機関で共通な病期分類が使われます。原発腫瘍、頸部転移、遠隔転移の三要素をそれぞれの大きさや広がりにより数字で分類し、それを組み合わせてI期からIV期の病期に分類しています。その基準は口腔や上咽頭、上顎洞などといった部位によって異なりますので、それぞれの部位による説明を参照してください。
治療法
治療法は原則的には頭頸部のどの領域に発生したか、病理組織型は何か、どの程度の進行度かなどにより決定されます。それに、年齢、既往歴、合併症、臓器の機能や一般的な健康状態に基づいて、慎重に治療の方法を選択します。一般に頭頸部固形がんの治療法には、外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法、痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療(緩和治療)などがあります。
手術療法
固形がんでは広く手術治療(外科的な手法でがんを取り除く治療法)が適応されています。手術法には以下のようなものがあります。
局所切除術
がん全体と周囲の正常組織の一部を切除する手術法。がんが骨まで拡がっている場合には、浸潤した骨組織の切除も行われることがあります。
頸部郭清術
頸部リンパ節と頸部のそのほかの組織を切除する手術法。最近では術後の後遺症を低減させるため、 これらの組織を可能な限り温存する外科療法が工夫されるようになってきています。
再建手術
体の一部の再建を行う手術。口腔や咽頭、頸部などを修復するために組織移植などを行うことがあります。組織の欠損に対しては、通常その患者さんの体の別の部分(腕の皮膚―前腕皮弁やお腹の皮膚― 腹直筋皮弁、足の皮膚―前外側大腿皮弁など)を使って再建します。この際、術後の機能低下をできるだけ軽減するために、 さまざまな再建外科の技術が駆使されます。
- *術後補助療法とは
- 手術の際に確認できる全てのがんを切除したとしても、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させることを目的として、術後に化学療法や放射線療法が実施される場合があります。治癒の可能性を高めるために手術の後に行われる治療を術後補助療法と呼びます。主に進行したがんに対して術後補助療法は考慮されます。
放射線療法
X線や他の高エネルギーの放射線を使ってがん細胞を殺すものです。治療期間は、がんの種類や広がりによって異なりますが6〜8週程度です。
発声をつかさどる器官である喉頭およびその周囲のがん(中咽頭がん、下咽頭がんなど)に対して、喉頭機能を温存するために放射線治療が適応されることがあります。
上咽頭がんは、解剖学的に手術が難しく、放射線治療が第一に行われ、必要に応じて化学療法を併用します。また、進行した頭頸部がんで、手術ができない場合にも放射線治療が行われることがあります。
これらは、放射線療法の効果を高めるために、化学療法と組み合わせて行われることもあります。
化学療法
薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。
化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。一般に口腔がんに化学療法を行う場合、全身化学療法が実施されます。外科療法や放射線療法が局所治療であるのに対し、抗がん剤による化学療法は全身治療となります。
頭頸部がんに対して病変を栄養する動脈内に直接薬剤を注入する化学療法を行っている施設もあります。薬はその領域にあるがん細胞に集中的に作用することが期待されます(局所化学療法)。
再発の診断と治療
再発頭頸部がんとは、治療後に再び発生(再発)したがんのことをいいます。
再発はもともとの部位(口腔がんの再発ならば口腔やその近傍の咽頭)に起こることもあれば、身体の別の部位におこることもあります。再発が疑われた場合、視触診や画像検査などで診断されます。
治療は再発病変の位置や大きさ、先行治療によっても左右されます。
一般的には、以下のことが検討されます。
- 最初に放射線療法が行われていれば、再び同じ方法で放射線治療を行われることは一般にはありません。
- その病変を治療するために最初に手術を施行していれば、手術や放射線療法またはこれらの併用が考慮されます。
- 化学療法が効果的である場合もあり、検討されます。
治療の副作用と対策
がんに対する積極的な治療で苦痛や副作用を伴わない治療はほとんどないといってよいくらいです。
栄養支援について
頭頸部がんの治療では、摂食・嚥下、構語(言葉を発すること)などの機能をつかさどる口腔や咽頭に悪影響を与える治療であることが少なくありません。とくに摂食・嚥下は生命を維持する上で不可欠ですので、これらの障害に対してはその程度によって栄養支援が考慮されます。栄養支援の方法には流動食と経腸栄養があります。栄養支援は手術療法、放射線療法、化学療法の各治療に広く応用されています。
経腸栄養とは
液体で消化器系に投与される栄養補給の方式のことです。
栄養補給飲料などを飲んだり、また経管栄養といって細い管を鼻から通して胃などに配置したり、腹部に作った開口部を通して胃や腸管に配置して、その管から栄養を補給することをいいます。
手術療法
手術による副作用(後遺症)は主に切除した部位と範囲、その患者さんが持っているもともとの身体の能力によって、その種類と重症度が異なります。
切除する部位と範囲によっては言葉や食事に悪影響が出ることがあります。その場合、各種リハビリテーションが提案される場合があります。たとえば、各種の摂食嚥下訓練、頸部運動訓練などです。
放射線療法
放射線治療中の副作用には、照射される部位にもよりますが、咽頭や口腔、唾液腺などに照射された場合は、のどの痛みや味覚障害、唾液の出にくさなどが出現することは少なくありません。
のどの痛みは、治療終了後は徐々によくなっていきますが、その間、うがいや痛み止めの薬を使用したり、上記の栄養支援を含め、食事内容を工夫したりすること(軟らかい食事にする、刺激のある食物は食べないなど)で対応します。症状が強い場合は点滴などでの栄養管理が必要になることがあります。
味覚障害や唾液の出にくさは治療終了後も残る場合が少なくありません。ガムをかんで唾液を促したり、水などを携帯して口を潤したりしている方も多いようです。市販の口腔保湿剤や薬などを使う場合もあります。
口腔内環境が悪くなるので、虫歯ができやすくなります。口腔内を清潔に保つ必要があります。歯科医師により虫歯の治療を照射前からしてもらうなど口腔衛生管理が薦められます。
化学療法
病期の種類や患者さんの年令、全身状態、これまでに受けられた治療法などで使われる薬剤は異なってきます。副作用は薬剤の種類などによっても異なりますが、主に吐き気や、腎機能の低下、造血機能の低下、口内炎などがあります。これらに対して、制吐剤ほか薬剤や点滴、各種感染対策などが対策として考慮されます。化学療法の副作用はさまざまです。担当医師より十分にお話をお聞きください。
治癒率
一般的にはがんの治癒率は個々の病変の大きさや広がり、またがん細胞のもつ性質によって左右されます。腫瘍が割と小さく頚部のリンパ節転移のないものは通常良好ですが、より大きい腫瘍や頚部リンパ節転移のあるものはそれだけ治癒率が悪くなります。各部位の説明で治癒率について触れていますので、それぞれの部位による説明を参照してください。