胃がんの化学療法と成績
胃がんの化学療法と成績
化学療法とは薬を使った治療です。抗がん剤治療・薬物療法ともいわれます。
当院での胃癌化学療法の特徴
- 長年、多くの胃癌患者さんに胃癌化学療法を行ってきた実績があります
- 治療にあたるスタッフ医師は薬物療法専門医です
- 複数のスタッフが治療方針決定に参加しています
- 外科など他の専門医との緊密に連携し診療にあたります
- 医師・看護師・薬剤師・栄養士・ソーシャルワーカーなどがチームで患者さんを支えます
- 標準治療以外にも条件があえば臨床試験や治験に参加できる可能性があります
- 患者さんへの親切な対応に心がけています
当科の診療実績
当院での実際
初診から化学療法開始への流れ

下記のような治療が選択されます。現在はバイオマーカーと呼ばれる、がんの顔つき・特徴や治療効果を予測する指標をもとに最適な薬剤を選ぶことが非常に重要です。1次化学療法を決める際には、HER2・ミスマッチ修復遺伝子・クローディン18・PD-L1の4つのバイオマーカーを事前に調べて薬剤の決定に役立てます。

1次治療は抗がん剤の副作用の確認や、様々な症状が出現した際の対応や過ごし方について医療スタッフが対応しますので、1週間ほど入院で体調を確認することが勧められます。
当院での主な化学療法の内容
化学療法は1次化学療法からまず行いますが、効果がない場合や、副作用等で続けられない場合に、2次・3次化学療法を行います。
初回(1次)化学療法 (頻度が高い抗がん剤)
- HER2陽性の場合
- トラスツズマブ+SOX/CAPOX/FOLFOX療法
- HER2陰性の場合
- ニボルマブ+SOX/CAPOX/FOLFOX療法
- ペムブロリズマブ+SOX/CAPOX療法
- ゾルベツキシマブ+CAPOX/FOLFOX療法(クローディン18陽性の場合)
2次化学療法
1次化学療法が無効な場合、以下薬剤が選択されます。通院での点滴治療です。
- パクリタキセル(orアルブミン懸濁型パクリタキセル) +ラムシルマブ療法
- トラスツズマブ+パクリタキセル療法(抗HER2薬が1次化学療法で使用されなかった場合)
- ペムブロリズマブ療法(マイクロサテライト不安定性陽性の場合かつ、免疫チェックポイント阻害剤が1次化学療法で使用されなかった場合)
3次化学療法以降
これまでの治療で使われていない系統の薬剤を選択します。
- トラスツズマブデルクステカン療法(HER2陽性の場合)
- ニボルマブ療法(免疫チェックポイント阻害剤が未使用の場合)
- トリフルリジン・チピラシル療法
- イリノテカン療法
2024年の主な治療導入数
| トラスツズマブ+SOX/CAPOX/FOLFOX療法 | 7件 |
| ニボルマブ/ペムブロリズマブ+化学療法 | 57件 |
| ゾルベツキシマブ+化学療法 | 26件 |
| パクリタキセル(アルブミン懸濁型含む)+/-ラムシルマブ療法 | 59件 |
| トラスツズマブデルクステカン療法 | 11件 |
外来での化学療法
副作用のコントロールが以前より良好となったため、多くの化学療法は初回導入時を除き外来で実施可能となっています。より日常生活と治療が両立しやすくなってきています。
治療の効果
初回化学療法でがんの大きさ(CTでの断面積)が30%以上小さくなる割合(奏効率といいます)は10人中5-6人です。化学療法を行った場合の生存期間中央値(平均的な治療成績)は、1次治療開始から約1年で、化学療法をしない場合に比べ生存期間の延長が期待されます。このように化学療法によって一定の効果は認められますが、まだ満足できるものではありません。
新薬開発に力をいれています
当院では、条件が揃った患者さんにおいて、標準治療以外に新薬の治験(薬剤の承認申請を目指すための試験)の参加をお勧めすることもあります。新規薬剤の臨床試験(医師主導治験や、医師主導臨床試験)も増えています。詳しくは担当医にお尋ねください。
よくある質問
化学療法とは?
よく「がん」は芝生に生えた成長の早い雑草に例えられます。芝生があなたの体で雑草が「がん」にあたります。放っておくと雑草は根を張らせ種をばら撒いて広がり芝生を枯らしてしまうことになります。化学療法は雑草に対する除草剤にあたります。広い範囲に雑草が広がる(転移)と見える範囲で雑草を抜いて(手術)も取り除くことができない上、芝生が痛んできます。除草剤は広がった雑草全体への効果が期待できます。胃がんでは、胃から離れた部位に転移したステージ4や遠隔転移再発した方には化学療法が最も信頼できる治療です。また、手術後でもステージ2-3の病期の方には目に見えないがん細胞が体に残っている可能性がありそれらを死滅させ再発を抑える目的でも使われます。
主な薬剤はどのようなものがありますか?
胃がんの化学療法に使われる薬剤は主に10種類あります。
- フッ化ピリミジン系:S-1、カペシタビン、5-FU
- プラチナ系:オキサリプラチン、シスプラチン
- タキサン系:パクリタキセル・アルブミン懸濁型パクリタキセル・ドセタキセル
- 抗HER2抗体:トラスツズマブ(HER2陽性胃がんのみ)
- 抗PD-1抗体:ニボルマブ・ペムブロリズマブ
- 抗クローディン18.2抗体:ゾルベツキシマブ
- 血管新生阻害薬:ラムシルマブ
- 抗体薬物複合体:トラスツズマブデルクステカン(HER2陽性胃がんのみ)
- トリフルリジン・チピラシル
- トポイソメラーゼI阻害剤:イリノテカン
化学療法を受けるためにはどれほどの体力が必要ですか?
おおまかに下記の程度の体調が化学療法を受けるためには必要です
- 食事が十分に摂取でき、外来通院が可能な体力。
- 採血結果で骨髄や肝臓・腎臓機能など主要な臓器機能に大きな異常値を認めない。
- 手術の影響やこれまでの副作用が落ち着いている。
- その他の病気(糖尿病、高血圧、心疾患など)が落ち着いている。
元気な人程化学療法は効果がでやすいとされており、体力や内臓の機能が保たれていることが重要です。状態が悪い場合(抗がん剤の副作用を受け止める体力がない場合)は、副作用を伴う化学療法を行うよりも症状を和らげる緩和ケア治療を主体に行った方が良い場合もありますので、担当医とよく相談しながら治療を進めていきましょう。



