がん治療と食事
がん治療と食事
目次
当院、栄養管理部では、がん専門病院として、食事で体力、免疫力の増強をはかることを重視し、可能な限り個々の患者さんの嗜好を取り入れた食事を提供しております。
そして患者さんたちから寄せていただいた声をもとに、医師、管理栄養士、調理員が協力して食事を調整し、摂食率の向上を目指しています。
当院で行っている食事療法についてご紹介します。
Chapter 1: 消化管術後の食事について
■ 胃術後の食事について
胃は食べ物を貯めて腸が消化吸収しやすく整えるという働きを担っています。手術により胃の機能が低下するため、食べ方を工夫することが大切です。
胃の働きと食事の摂り方のポイント
- 食べ物を細かくし、腸に少しずつ送る働きを補うために、一口ずつ、良く噛んで、30分以上時間をかけて食べましょう。
- 胃の入り口の噴門部は逆流を防ぐ働きをします。食後、すぐに横にならないようにしましょう。
- 胃の容量が小さくなっていますので、1日の食事を5〜6回に分けて摂りましょう。個人差はありますが、3ヶ月程経てば、自然に食べられる量が増えていきます。体重が減らなくなったら、3回食に戻しても良いでしょう。
- 術後は一時的に食欲が落ちることがありますが、時間が経てば少しずつ回復します。食欲がないときは、神経質にならずに「食べたい」と思うものを食べましょう。
- 胃を手術したあと、食べてはいけないものはありません。硬いものや消化しづらいものは量を控えめに食べましょう。1〜3ヶ月後にお腹に不快な症状がなければ、下記の食材を少しずつ試していただいて構いません。
下記の食品は少しずつ増やしていきましょう
食物繊維の多い食品 | きのこ、こんにゃく、海藻、ごぼう、たけのこ、山菜など |
---|---|
油を多く含む食品 | 揚げ物、ジャンクフードなど |
硬い食品 | いか、たこなど |
消化の悪い食品 | 中華麺、餅 |
- 胃酸が減ると食べ物を殺菌する力が落ちるので、刺身やお寿司などは新鮮なものを食べるようにしましょう。
- 水分は、食事と食事の合間に、こまめに摂りましょう。
■食道術後の食事について
食道の手術は食道を切除するため、胃を食道の代わりとなります。
胃の働きが低下するため、食べ方を工夫することが大切です。
- 食べ物を細かくし、腸に少しずつ送る働きを補うために、一口ずつ、良く噛んで、30分以上時間をかけて食べましょう。
- 逆流を防ぐ働きが低下します。食後すぐに横にならないようにしましょう。
- 胃を食道の代わりとしているため、一度にたくさん食物を溜めておけません。1日の食事を5〜6回に分けて摂りましょう。個人差はありますが、3ヶ月程経てば、自然に食べられる量が増えていきます。体重が減らなくなったら、3回食に戻しても良いでしょう。
- 術後は一時的に食欲が落ちることがありますが、時間が経てば少しずつ回復します。食欲がないときは、神経質にならずに「食べたい」と思うものを食べましょう。
- 食道を手術したあと、食べてはいけないものはありません。硬いものや消化しづらいものは量を控えめに食べましょう。1〜3ヶ月後にお腹に不快な症状がなければ、少しずつ試していただいて構いません。
下記の食品は少しずつ増やしていきましょう
食物繊維の多い食品 | きのこ、こんにゃく、海藻、ごぼう、たけのこ、山菜など |
---|---|
油を多く含む食品 | 揚げ物、ジャンクフードなど |
硬い食品 | いか、たこなど |
消化の悪い食品 | 中華麺、餅 |
- 水分は、食事と食事の合間に、こまめに摂りましょう。
- つかえ感がある場合は、消化のよい軟らかいものやのど越しのよいもの(温泉卵やゼリーなど)をゆっくり少しずつ食べましょう。少量で栄養補給できる栄養補助食品の活用もおすすめです。
- 術後は経口摂取量が減るため、体重が減少しやすいです。栄養量確保のために、経口摂取に加えて、腸ろうから栄養剤を投与することで足りない栄養を補充します。経口からの食事で十分な栄養を摂取できれば、腸ろうを抜去します。
■ 大腸切除後の食事
大腸の手術後1ヶ月くらいは腸の動きが弱く、腸閉塞が起こりやすい状態です。腸の動きが安定するまでの間は、食べ方に注意しながら、食べてはいけないものはありませんが、食物繊維の少ない食事を摂ることが勧められます。
術後は腸の動きが不安定で下痢や便秘を起こしやすいため、水分補給を心がけましょう。
食事のポイント
- よく噛んでゆっくり食べましょう。
- 腸の動きが安定するまでの間は食物繊維が多いものを食べ過ぎないようにしましょう。
- 下痢をしているときは、水分を十分に補給しましょう。
- 便秘のときは、水分の摂取と適度な運動を心がけましょう。
手術後1ヶ月は下記の食品は控えましょう
食物繊維の多い食品 | きのこ、こんにゃく、海藻、ごぼう、たけのこ、山菜など |
---|
■ 膵臓切除後の食事について
膵臓の手術後は消化吸収機能が低下しやすい状態です。少しずつ手術前の食事に戻していきましょう。また、胃や腸も部分的に切除した場合は、これらの臓器に負担をかけない食べ方が大切です。
膵臓の働きと食事の摂り方のポイント
- 消化吸収を助けるために、一口ずつ、よく噛んで、30分以上時間をかけて食べましょう。
- 手術直後は胃や腸の動きが低下していることで、吐き気や胃もたれを感じることが少なくありません。無理せず食事を残しましょう。
- 吐き気や胃もたれなどの症状で食事量が少ないときは、1日5〜6食に分けることで栄養を確保しましょう。
- 下痢の回数が多いときは、水分を十分に補給しましょう。
- 血糖が上昇することがあります。手術直後で食事量が少ないときは食事制限の必要はありませんが、甘いジュースやお菓子の食べ過ぎは避けましょう。手術前と同じくらい食事量が増え血糖を指摘された場合は医師や管理栄養士から適正な食事量の指導を受けましょう。
- 膵臓の手術の後に食べてはいけないものはありません。少しずつ手術前の食事に戻していきましょう。
下記の食品は少しずつ増やしていきましょう
食物繊維の多い食品 | きのこ、こんにゃく、海藻、ごぼう、たけのこ、山菜など |
---|---|
油を多く含む食品 | 揚げ物、ジャンクフードなど |
Chapter 2: 頭頸部手術後の食事について
■ 嚥下調整食
嚥下(飲み込み)が困難になると、飲み物や食べ物が食道に入らず、気管に入ってしまう恐れがあります。これらが気管から肺に入ると肺炎を起こすことがありますので、特に注意が必要です。
嚥下が困難な方には、医師、看護師、言語聴覚士と管理栄養士が一緒に患者さんひとりひとりの咀嚼・嚥下機能を評価しながら、次のような食事を提供しております。
食事の種類
名称 | 形態 |
---|---|
ゼリー食 | ゼリー |
サラサラ食 | 料理をミキサーにかけて、コップで飲める程度に粘度を調整したもの |
ペースト食 | 料理をミキサーにかけて、スプーンですくえる程度に調整したもの |
ソフト食 | 料理をミキサーにかけて、軟らかい固さで再形成したもの |
軟菜食 | おかずを軟らかく調理したもの |
Chapter 3: 化学療法中の食事について
■ 化学療法食
化学療法中の患者さんは、治療に伴い、「味覚異常」「嗅覚異常」「吐き気」「食欲低下」「口内炎」等の理由で食欲不振を訴える方がいます。
そのような症状への対応は、料理の味付けを調整、食べやすい食品への調整(ゼリー、麺類など)高栄養の飲料や食品付加などを行っています。
また、少量でも食べられる喜びを保つために当院では食欲不振時の食事として1品を選択できる食事も用意しています。
食欲不振時に1品を選択できる食事
- フルーツ盛り合わせ
- カレーライス
- うどん
- 焼きそば
- お好み焼き
- いなり寿司
- スープ(コンソメ・冷製ヴィシソワーズ)
- ゼリー
- ヨーグルト
- プリン
- アイスクリーム
- シャーベット
- ジュース
●食欲不振時に、好まれる料理の代表例
酢味の物(お寿司、酢の物)、ソース味の物(焼きそば、お好み焼き)、味がしっかりとした物(カレー、ラーメン)、薄味の物(茶碗蒸し、奴豆腐)、麺類(うどん、素麺)、パン類(サンドイッチ、ピザ)、フルーツ盛り合わせ
※化学療法中で食欲が低下しているときは、食べたいものを少しでも食べて、水分はしっかりと摂るように心がけてください。
Chapter 4: 乳癌の方の食事について
■ 適正体重維持の必要性について
乳癌診断時の肥満や診断後の体重増加は乳癌再発率を上昇させるとの報告があります。また、肥満はリンパ浮腫悪化のリスク因子でもあります。
そのため、適正体重を保ち、肥満、体重増加があれば体重のコントロールを行うことが勧められています。BMI(Body Mass Index)はご自身の体重を評価できます。
〇BMI計算方法 (肥満症診療ガイドライン2022から抜粋)
BMI(kg/m2)=体重(s)÷身長(m)÷身長(m)
BMI | 判定 |
---|---|
18.5未満 | 低体重 |
18.5〜25未満 | 普通体重 (BMI 22:標準体重) |
25〜30未満 | 肥満(1度) |
30〜35未満 | 肥満(2度) |
35〜40未満 | 肥満(3度) |
40以上 | 肥満(4度) |
食事の摂り方のポイント
- ゆっくりよく噛んで食べましょう。
- 食べ物や飲み物をいつもそばに置かないようにしましょう。減量に向いた環境作りも大切です。
- 空腹感の時間を作りましょう。我慢できないときは歯磨きなど別の行動で気分を変えたり、温かいスープやカロリーの少ない食品で代替したりしてみましょう。
- 体重測定を行い、記録してみましょう。
※減量の栄養相談を受け付けております。主治医または看護師にご相談ください。
■ 参考書籍
患者さん向けに、当院の医師、管理栄養士が中心となり関連スタッフと協力し、なるべく分かりやすいように具体的な食事のとり方やレシピを掲載しています。
■ 臨床栄養と食事サービス
●臨床栄養
入院中だけでなく外来でも栄養相談を実施しています。
体重や体組成、検査値などから評価して栄養管理を行っています。
食欲が低下した患者さんには管理栄養士がベッドサイドで相談しながら、食事調整を行っています。
患者さんに術後の食事指導を行なっています。
術後の患者さんの摂食状況を確認しながら食事の調整を行なっています。
検査結果や介入計画を医師、看護師、言語聴覚士と確認しています(右から3番目:管理栄養士)。
患者さんの栄養管理や食事について看護師と情報を共有しています(左:管理栄養士)。
ICUでは日々変化する患者さんの状態で医師、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士とカンファで相談しながら栄養療法を行っています(左端:管理栄養士)。
●栄養サポートチーム
- 毎週、医師、看護師、薬剤師(栄養サポートチーム)が集まり、病棟からの患者さんの栄養に関する相談について提案を行なっています。
●食事サービス
- 医師の指導の下、管理栄養士と調理員が協働で、患者さんの食事検討や新しいメニュー開発に努めています。
- 調理員も管理栄養士と一緒に入院中の患者さんを訪問して食事を検討しています。
●行事食
季節感を楽しんで頂くために、行事食も提供しています。
ひな祭りの行事食。右は嚥下障害のある方でも食べやすいように作製した「ソフト食」です
七夕の行事食。右は同日の「ソフト食」です。
※「ソフト食」は見た目がよく、飲み込みやすい形態に調理加工したものです。
同じ行事食を一緒に楽しんで頂きたいとの願いから、管理栄養士と調理員が心をこめて作成しています。
●特別食(選択メニュー)
- 常食の方には、2種類の食事から選択できるメニューを実施しています。
- 12階西病棟の特別個室の常食の方には夕食に選択できるメニューも用意しています。