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膵管内乳頭状粘液性腫瘍の治療

最終更新日 : 2018年7月11日

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とは

この腫瘍は、1982年に世界に先駆けて当院から提唱された"予後の良い膵がん"で、臨床的に膵管内にできた”ポリープ”から"ドロッとした粘液"がたくさんつくられて、色々な部位の膵管が拡張する病気です(図1)。当初はこの腫瘍は"粘液産生膵がん"と呼ばれました。よほど病気が進んで膵管の外側へ飛び散っていない限りは、100%近く治せる"予後の良い膵がん"として世界中の医師から注目され、その後、"IPMN(膵管の中に出来る乳頭状(ポリープのような)の粘液を作る性質をもった腫瘍)"と呼ばれるようになりました。

この病気になると"ドロッとした粘液"で膵管がふくらむため、お腹や背中が痛くなることがありますが、最近は、超音波やCTスキャンで症状が出る前に見つかることが多くなってきました。この腫瘍は膵管内にできた”ポリープ”の場所から大きく二つに分かれます。一つはちょうど膵臓の背骨にあたる"主膵管"にできる場合で、もう一つは主膵管から分かれた"膵管の枝(分枝膵管といいます)"にできる場合です。一般に主膵管にできたIPMNはがんであることが多く、分枝膵管のIPMNは、がんの一歩手前の"腺腫"か、がんでも"腺腫に混じったがん"であることが多いといわれています。このようにIPMNは、がん化していても膵管の中にがんがとどまっていることが多いため、”ポリープ”を残さないように切除すれば100%近く治すことができて、これが"予後が良い膵がん"といわれているゆえんです。

一方、近年の画像診断の進歩、特にMRI(MRCP)の登場により、膵管内の”ポリープ”が出現するよりもはるかに前、すなわち、膵管が少しだけ膨らんでいる、という時点で異常所見としてとらえられるケースが増えてきています。特に分枝膵管が少し膨らんでいる状態は、いわゆる膵のう胞(水のたまった“袋”)と区別がつかないため、膵のう胞もIPMNの初期病変の可能性があると考えて、経過を観察することが推奨されています。このように、IPMNといっても、3cmを越えてぶどうの房状に分枝膵管が拡張しているもの(図2)から、膵のう胞と区別のつかない非常に小さなもの(図3)まで幅広い病態があります。

一般には、膵管内の“ポリープ”が育つにつれて、産生される粘液の量が増えるため、膵管の膨らみ(のう胞の大きさ)が大きい(3cmをこえる)場合には内部に“ポリープ”が出てこないか注意する必要があります。逆に、膨らみが小さいうちに、内部に“ポリープ”が出てくることは極めて稀です。小さなIPMNが大きく育ってがん化するのには数十年かかるとも言われており、ご高齢の方に見られる小さなIPMNは寿命を左右しないことがほとんどです。

しかしながら、最近、IPMNを持っている方では、その大きさに関わらず、IPMNとは別の部位に通常の膵臓がんが出ることがある(1年あたり0.3%程度)との報告が複数あり、IPMNが小さくても経過観察が必要とされています。がんになる頻度は決して非常に高いわけではありませんので過度の心配は不要ですが、一般の人が膵臓がんになる確率は、かなりおおざっぱに年率0.05%程度ですので、一般人と比較すると、数倍程度膵臓がんになりやすい、ということになります。

IPMNの治療法

IPMNの進行を食い止めるような特効薬はなく、手術が唯一の治療となります。がん化するまでのIPMNは非常にゆっくりと変化するものである一方、膵臓の手術は比較的大きな手術ですので、小さなIPMNのうちに予防的に手術するのはお勧めしません。手術の最も良いタイミングは、ちょうどがんになり始めたとき、ということになります。がんになっても膵管の外にしみでるまでに手術すればよいので、多少の時間的余裕があります。若い方には、そろそろがん化しそうだというやや早めのタイミング、すなわち、小さな”ポリープ”ができ始めたとき、もしくはそろそろ出てくるかもしれないというとき、に少し先手を打って手術をお勧めしています。一方、ご高齢の方には、大きな手術で体力が落ちてしまうことが懸念されるため、がん化したかな?というタイミング、すなわち、小さなポリープが育ち始め、これ以上経過を見ると膵管の外にしみ出し、命取りになるかもしれない、というときに手術をお勧めしています。

また、IPMNでも主膵管にできたものは、すでにがん化していることが多いため、手術を受けた方がいいと言われています。膵液を採取してがん化の有無を調べる検査として、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査)があり、主膵管型のIPMNに対しては、当院でも積極的に行っています。

当院におけるIPMNの切除数と治療成績

当院におけるIPMNの切除数は、1979年の第1例以後、年に3〜4例程度でしたが、最近では超音波やCTスキャンが普及して無症状でみつかることが多くなり、年に6〜7例ペースで切除されるようになり、もはや総切除数は120例を超えました。IPMNのがん症例の治療成績を病気の進み具合から、膵管の中に“とどまったがん(上皮内がん)”・膵管の外に“少ししみ出たがん(微小浸潤がん)”・膵管の外に“かなりしみ出たがん(浸潤がん)”の3つに分けてみると表のようになります。手術のあと5年生きた患者さんの割合をみると、膵管の中に“とどまったがん(上皮内がん)”と膵管の外に“少ししみ出たがん(微小浸潤がん)”はそれぞれ82%・100%でしたが、“かなりしみ出たがん(浸潤がん)”は41%で、通常みられるたちの悪い膵がんとあまり変わらない治療成績になっておりました。このことからIPMNの診断と治療に際して、われわれは、膵管の中に“とどまったがん(上皮内がん)”と膵管の外に“少ししみ出たがん(微小浸潤がん)”の段階でみつけて、膵管の外に“かなりしみ出たがん(浸潤がん)”にならないうちに手術することをモットウにしております。

  • 図1 ドロッとした膵液が十二指腸の出口から出ている所見
  • 図2 分枝膵管がぶどうの房状に拡張したIPMN,
  • 図3 わずかな分枝膵管の拡張
表1 IPMNの治療成績

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