大腸がん
がん研有明病院の大腸がん診療の特徴
がん研有明病院の大腸がん診療の特徴
がん研有明病院の症例数
- 大腸がん手術が年間700例以上(大腸外科全体での手術数は1000例以上)、ロボット支援下手術を含めた腹腔鏡手術が97%以上
- 2018年5月より直腸癌に対するロボット支援下手術、2022年4月より結腸癌に対する同手術を導入
- 早期大腸がん、大腸ポリープの内視鏡的治療数は年間 3500例以上、大腸内視鏡検査は年間8500例以上
- 進行がんに対する外来点滴化学療法は、月間のべ約500例
チーム医療による迅速かつ丁寧な治療
- 大腸がん専門の外科医、内視鏡医、消化器化学療法専門医、放射線科医が一緒に診るチーム医療で、2週間以内に方針を決めて直ちに治療を開始する
- 高度に進行した大腸がんでも、化学療法、放射線療法、手術を組み合わせて完治を目指す
患者さんのための体に優しい治療方針
- 大腸がん手術の97%以上がロボット支援下手術を含めた腹腔鏡手術で、体に優しく、入院期間が短い
- 化学療法は専任の医師のもと、大部分が通院治療
大腸がんの治療成績(手術件数・生存率)
手術件数 2005年〜2023年の推移
2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
初発大腸がん | 221 | 356 | 402 | 434 | 452 | 492 | 481 | 602 | 649 | 684 | 671 | 707 | 735 | 729 | 760 | 592 | 623 | 630 | 639 |
再発大腸がん | 24 | 26 | 22 | 16 | 25 | 27 | 48 | 45 | 43 | 35 | 43 | 42 | 59 | 58 | 32 | 29 | 36 | 35 | 47 |
その他悪性腫瘍 | 18 | 31 | 47 | 46 | 26 | 30 | 76 | 61 | 67 | 47 | 84 | 70 | 72 | 49 | 83 | 100 | 38 | 29 | 23 |
良性腫瘍 | 4 | 7 | 6 | 6 | 1 | 4 | 10 | 14 | 13 | 11 | 3 | 10 | 5 | 19 | 11 | 11 | 11 | 2 | 9 |
その他 | 40 | 52 | 42 | 66 | 75 | 80 | 122 | 155 | 170 | 197 | 233 | 280 | 226 | 289 | 325 | 328 | 405 | 388 | 336 |
合計 | 307 | 472 | 519 | 568 | 579 | 633 | 737 | 877 | 942 | 974 | 1034 | 1109 | 1097 | 1144 | 1211 | 1060 | 1113 | 1084 | 1054 |
腹腔鏡手術件数 2005〜2023年の推移(2018年以降はロボット支援下手術も腹腔鏡に含む)
2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
結腸その他 | 51 | 133 | 176 | 206 | 204 | 278 | 316 | 372 | 438 | 413 | 434 | 485 | 453 | 514 | 547 | 493 | 528 | 489 | 542 |
直腸 | 24 | 81 | 111 | 107 | 158 | 181 | 208 | 295 | 303 | 346 | 358 | 333 | 363 | 372 | 378 | 283 | 293 | 301 | 295 |
合計 | 75 | 214 | 287 | 313 | 362 | 459 | 524 | 667 | 741 | 759 | 792 | 818 | 816 | 886 | 925 | 776 | 821 | 790 | 837 |
外科治療の成績
2005年〜2011年に当院で大腸がん手術を受けた患者さん(2858人)
がん研有明病院の大腸がん治療
大腸がんについての知識
大腸がんとは
大腸とは
大腸は、食物の消化吸収を行う消化管の最後の部位を占めます。大腸の始まりは右下腹部にある盲腸で、盲腸の次が右上腹部に向かう部分である上行結腸、その次が右上腹部から左上腹部に向かう横行結腸、その次の部分が左上腹部から左下腹部に向かう下行結腸、さらに左下腹部からSの字の形を描くS状結腸、S状結腸と直腸の間の直腸S状部、大腸の最後の部分である直腸という順に食物は大腸を通過していき、最後に肛門から便となって排泄されます(図1)。
大腸は軟らかい蛇腹のような管状の臓器で、内視鏡検査の時に折りたたんでいくと肛門から盲腸まで約70cmで到達しますが、空気を入れて引き伸ばすと2mにもなります。
大腸がんの発生
大腸がんの多くは「腺腫」という良性の腫瘍が悪性化して発生します。したがって、悪性化しそうな腺腫を発見したら、その時点で切除してしまえば大腸がんを予防できることになります。腺腫の多くは「ポリープ」という腸の内腔に盛り上がった形をしており、大腸内視鏡で発見でき、内視鏡で観察しながら切除することができます。
大腸がんの一部は、「腺腫」の時期を経ないで、正常な粘膜からいきなり発生してくると考えられています。このようながんの多くは平べったい形をしており、早期発見には注意深い観察が必要になります。
大腸がんの発生部位
大腸がんが最も多く発生するのは直腸とS状結腸で、次いで上行結腸に数多く発生します。2005年3月から2009年12月までの約5年間にがん研有明病院で外科手術を受けた初発大腸がんの患者さん(初めて大腸がんにかかった患者さん)2822名についてみると、盲腸がん7%、上行結腸がん14%、横行結腸がん8%、下行結腸がん4%、S状結腸がん26%、直腸S状部がん12%、直腸がん29%となっています。全国平均と比べるとがん研有明病院では直腸S状部がん・直腸がんが少し多くなっています。
大腸がんの広がり
大腸がんは粘膜の表面から発生し、大腸の壁に次第に深く侵入していきます。進行するにつれ、リンパ管に入り込んでリンパ節転移を起こしたり、血管に入り込んで肝転移や肺転移などの遠隔転移を起こします。リンパ節転移はがんの存在する局所から始まり、だんだん遠方のリンパ節に広がっていきます。しかし、手術で完全に取り除けないほど広範囲に広がる例は多くありません。また、肝転移や肺転移は遠隔転移ですが、手術で完全に取り除ける場合がしばしばあります。
大腸がんにかかりやすい年齢と性別
大腸がんの患者さんの年齢は50〜75歳が多いのですが、発生頻度は高齢の方ほど高くなります。男女別では「男性:女性」が「1.6:1」と男性に多く発生します。
増えている大腸がん
大腸がんは近年急激に増加しており、2017年の統計では、がんの罹患数は大腸がんが最も高く、大腸がんによる死亡は男性では肺がん、胃がんに次いで第3位、女性では第1位となっています。大腸がんは元々日本人には少なかったのですが、食生活が肉食中心の欧米型になったことが、大腸がんの増加の原因と考えられています。
大腸がんとがん家系
一部の大腸がんの発生には遺伝的な体質が強く関与していることが知られています。ご家族(血縁者)に2人以上の大腸がんや胃がんなどの消化器がんの方がおいでになる場合には、大腸がんにかかる危険が大きいと考え、40歳ごろから大腸がんの検診を受けることをお勧めします。その他、婦人科がんや尿路のがんなどでも大腸がんと関係が深い場合があるので注意しましょう。
大腸がんの症状
大腸がんの症状として多く認められるのは、血便、便通異常(便秘や下痢)、腹痛、腹部膨満、貧血などですが、血便は直腸がんやS状結腸がんの症状として非常に頻度の高い重要なもので、痔核の症状に似ていますので要注意です。便に混じった微量の血液を検出する便潜血検査は、大腸がんの早期発見のために健康診断でも広く行われています。
大腸がんの診断
大腸がんの診断のための検査
大腸がんを発見するための検査としては大腸全体をバリウムと空気でうつし出す注腸造影検査が広く行われてきました。しかし、近年では大腸内視鏡検査によって発見される大腸がんが増えてきています。大腸内視鏡は注腸造影よりも技術を必要とする検査で、苦痛をともなうこともありますが、病巣を直接観察できますし、病巣が発見されたら、生検という病巣部から小さな組織を採取する方法によって、がん細胞の有無を調べることができます。
大腸がんの治療方針決定のための検査
大腸がんと診断され、内視鏡で切除できない進行がんの場合には、外科手術の前段階として、病巣の広がりや転移の状況を調べる検査が必要になります。病巣の局所での広がりを調べるためには大腸内視鏡や注腸造影、CT検査を行います。また、直腸がんの場合は、局所の広がりをより詳しく調べるために骨盤MRI検査を行います。大腸がんの転移(リンパ節や肝臓、肺など)の有無を調べるためには腹部超音波検査やCT検査、肝臓MRI検査を行います。全身の転移をより詳しく調べる目的でPET検査を追加することもあります。このように、大腸がんの局所の広がりと転移を詳細に調べることによって、適切な治療方針を検討していきます。
大腸がんの病期診断、ステージ分類
大腸がんの進行程度の分類
大腸がんの進行程度は、大腸の壁に浸潤している深さと、リンパ節転移の有無や程度、遠隔転移の有無によって決定されます。大腸がんの進行度の分類法には、日本の大腸がん取扱い規約分類や、国際的に用いられているTNM分類がありますが、原則は共通です。
0期 | がんが粘膜内にとどまる |
---|---|
I期 | がんが筋層にとどまる |
U期 | がんが筋層の外まで浸潤している |
V期 | リンパ節転移がある |
W期 | 血行性転移(肝転移、肺転移)または腹膜播種がある |
大腸がん切除後の病理組織検査によって決定される組織学的進行度は、術後の再発率や生存率に密接な関連があります。がん研有明病院における、おのおのの進行度別の術後生存率については、治療成績の項目をごらん下さい。
大腸がんの治療法
大腸がんの治療
早期の大腸がんの中には、内視鏡切除で治療が完了する病巣も多く、がん研有明病院では毎年約300例の大腸がんを内視鏡で切除しています。粘膜表面にとどまる病巣や、粘膜下の浅い層(1mmまで)の進展で、リンパ管や血管に侵入していないがんでは、がん細胞が通常のタイプのものであれば内視鏡切除のみで根治が可能です。
外科手術の方法には、通常の開腹手術と腹腔鏡手術、経肛門的または経仙骨的な局所切除術の3つの方法があります。このうち、局所切除術は肛門近くに発生した直腸がんでリンパ節転移の危険性がないものに対して、内視鏡切除と同様にがん病巣のみを切除する手術です。一方、開腹切除術や腹腔鏡手術では、がん病巣と一緒に転移を起こしやすいリンパ節を一緒に切除するのが一般的です。
直腸がん、特に肛門に近い部位に発生したがんは、リンパ節転移の広がり方や手術後の局所再発など結腸がんとは異なる特徴を持っており、局所再発を起こさないような確実な切除が重要です。がん研有明病院では、@肛門近くにできた直腸がんに対しても肛門を温存する手術(トピックス(肛門温存手術))、Aがんの根治性を高めつつ、術後の排尿機能や男性性機能障害を軽くするための自律神経温存手術、Bより進行した直腸がんに対する、抗癌剤治療や放射線治療と手術を組み合わせた最新の治療戦略(トピックス(進行直腸がんに対する抗がん剤、放射線治療を駆使した最新の外科治療))、C直腸がん術後の局所再発に対する外科治療(トピックス(直腸がん術後局所再発に対する外科治療))など、直腸がんの治療成績向上を目指した様々な取り組みを行っています。さらに、直腸がんに対して放射線治療や抗がん剤治療を行い、腫瘍が消失した患者さんには、手術を行わずに経過をみるWatch & Wait療法を導入しています(トピックス(直腸がんに対するWatch & Wait療法))。
大腸がんの腹腔鏡手術
腹腔鏡手術は最近10年間の大腸がん手術の進歩で最も大きなものといえるでしょう。
以前は大腸がんに対する手術では病気の進行度にかかわらず、腹部を大きく切開し(通常は15cm以上)、病変部位の大腸とリンパ節を摘出して、腸と腸とをつなぎ合わせる操作を行っていました。しかし、腹腔鏡手術では、腹部にできる創は、腹腔鏡を挿入するための穴、手術器具を挿入するための穴、切除した大腸を摘出するための小切開(通常は3-5cm程度)だけになりました。
がん研有明病院では現在、がんの大きさが極端に大きくはない・主要臓器に広がっていない・広範囲のリンパ節転移がない場合には、進行がんに対しても積極的に腹腔鏡手術を行うことが多く、2020年では初発大腸がんの約98%が腹腔鏡手術で切除されました。詳しくはトピックス(大腸がんに対する腹腔鏡下手術)をご覧下さい。
また2018年5月からは直腸癌に対するロボット支援下手術も導入しました。人間の手以上によく曲がる鉗子と3Dモニターによる立体視によって、深い骨盤の中でも正確で繊細な手術が行えることが期待されています。詳しくはトピックス(ロボット支援下手術)をご覧ください。
大腸がん治療後の定期検査
大腸がんの根治手術を受けたあとは定期検査のための通院が必要になります。それは、たとえ手術の時点ではがんの取り残しがないと考えられても、術後経過中に再発が起こる場合があるからです。
術後1年間は3ヶ月ごとの採血、6ヶ月ごとの胸部〜骨盤部CTを行い、遠隔転移や局所再発の有無を確認します。また1年〜2年ごとの内視鏡検査も行います。1年経過後は進行度(ステージ)に応じて検査の間隔が変わってきますが、原則として手術して5年間は3ヶ月から6ヶ月に1回の外来通院をしていただきます。
大腸がんの再発の治療
大腸がんの再発とその治療
大腸がんの再発として最も多いのは肝転移再発です。直腸がんの場合には局所再発がこれに続き、肺転移も比較的多く発生します。結腸がんでは、肝転移以外では肺転移がときに発生し、腹腔内にがん細胞が種をまかれたように発生してくる腹膜播腫が発生することがあります。
肝転移や肺転移、局所再発では、再度の外科的切除でがん病巣全部を取り除ける場合には外科的切除が第一選択の治療となります(トピックス(直腸がん術後局所再発に対する外科治療))。外科的切除が不可能な再発病巣に対しては抗がん剤を用いての全身化学療法を行います。また、外科的切除が不可能な局所再発に対しては放射線照射、または抗がん剤を併用しての放射線照射が有効である場合が少なくありません。
近年では大腸がんに有効な薬物治療が次々に開発されています(抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など)。一種類の薬剤のみで治療されることは少なく、通常は2種類以上の薬剤を組み合わせて治療します。外科的切除が不可能な大腸がんの再発に対する薬物治療は、それだけでがんを根治するほどの効果は残念ながらまだありませんが、治療後の生存期間は年々長くなっており、やがては長期間にわたってがんの進行を抑えることが可能になることが期待されます。
再発大腸がんは、手術と放射線療法、薬物治療の3つを上手に組み合わせて治療していく必要があります。また、積極的ながん治療ではありませんが、痛みを抑制する治療も重要です。がん研有明病院では、キャンサーボードという、外科、腫瘍内科、放射線科その他多数の診療科の多数の医師による症例検討会を毎週1回開催しており、単純な治療では対応が困難な大腸がんの患者さんの治療方針の検討を行っております。
大腸がん治療後の生活
内視鏡切除だけで治療が完了すれば後遺症は全くありません。結腸がんの手術後には、術後しばらく便通異常の症状が残ることがありますが、長引く後遺症はほとんどありません。
大腸内のうちでも直腸は、便を一時的にためて、タイミングよく排泄するという重要な機能を持っています。したがって、肛門に近い直腸がんの場合には、直腸のこのような機能が失われ、便通のコントロールに問題を生じることがしばしばあります。具体的には、少量ずつ頻回の排便、便意の我慢の困難、少量の便失禁、排便困難などが術後の症状としてしばしば見られます。多くの場合には術後の時間経過にともなって症状が改善していきますが、術前の健康な状態に戻ることは原則としてありません。また、直腸の周囲には膀胱や性器に分布する自律神経が存在し、直腸切除の際にやむを得ず同時に切除することがあります。最近は自律神経を完全に切除する手術はほとんど行いませんが、部分的な切除が必要になることは時々あります。このような場合、排尿機能が長期間に渡って障害されることはありませんが、元々前立腺肥大で排尿が困難な方では、術後の排尿症状が長引くことがあります。また、男性の性生活の機能は排尿機能よりも障害されやいのが実情です。
食事に関しては特別な注意は必要ありませんが、術後約3ヶ月間は繊維分の少ない消化の良い食物が奨められます。この時期には、腹部手術後の合併症の1つである腸閉塞が起こることが時にありますので、海藻のような消化の悪い食物が、腸管の通過状態があまりよくない部位にひっかかって腸閉塞の引き金になることがあります。
また、過食も禁物です。大腸の主な機能は、腸内容を運搬しつつ水分を吸収することですので、もし大腸が全部切除されたとしても、栄養面の問題はありません。術後の体力回復のためにと食事量を増やす患者さんがいらっしゃいますが、大腸がんの術後の患者さんの多くは、術後2年もすると体重は手術前、あるいは手術前以上になります。体重の増加は、高血圧や糖尿病などのがん以外の成人病にとっても良いことではありません。
文責:大腸外科 日吉幸晴