がんに関する情報
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がんの痛みの治療

がんの痛みの治療

最終更新日 : 2015年4月23日

目次

Chapter.1:がんの痛み

痛みは必要な感覚?

トイレやゴミ置き場など、不快な臭いがするところでは息を止めたくなりますが、しばらくそこにいるとその臭いにある程度慣れてしまします。大きな音やまぶしい光、非常に辛い味なども同様であり、多くの感覚には順応性があります。

しかし、痛みは例外です。例えば皮膚に一定の強さで針を刺すと痛みを感じますが、これを何度も繰り返しても慣れることはなく、むしろ痛みは増強していきます。痛み刺激に対し順応性がないのは、生体を危険から守るための警告信号であるためと考えられています。熱いものに手が触れたとき、熱いと感じ無意識のうちに手を引っ込めることにより、大やけどをしないですむわけです。

先天性無痛覚症のように生まれたときから痛みを感じない患者さんは、身体中けがや火傷だらけで、これらが原因となり多くは成人になる前に亡くなってしまいます。このように、痛みは私たちにとって実は必要なものなのです。

しかしがんの患者さんにとって、痛みは不必要なものといえるでしょう。目覚まし時計がなることにより、朝起きられるのですが、起きた後もアラームが鳴っていては困るのです。痛みは警告で、これにより病気や体内で起こっている変化が分かるのですが、がんが原因とすでに分かっている状況では、この警告はもう必要ないのです。

つまり、がんの痛みを軽減してあげることが患者さんのストレスを少なくし、ひいては生きる希望を持つことにつながるのです。

がんの痛みとはどういうものか

がんはある程度進むと痛みが発生し、末期には約7割の患者さんが主なる症状として痛みを体験し、その約8割は激痛であると言われています。

また、がん自体が臓器などに浸潤したことによる直接な痛みのほか、手術、放射線治療、化学療法などの治療に伴う痛みや入院生活中におこる筋肉痛や褥瘡なども広い意味でがんの痛みといえます。

これらの痛みに対して、はじめは麻薬でない鎮痛剤や鎮痛補助剤で効果が得られますが、多くの場合、病状の進展と共に痛みのコントロールが難しくなっていきます。このような場合、モルヒネ等の麻薬が使用されたり、放射線療法や抗がん剤療法が行われたり、神経ブロックが行われます。

どの程度まで痛みはなくなるか

全く痛みがなくなるのが理想的ですが、現実的には徐々に痛みを取り除いていくということになります。私たちは3段階のステップを目安にしています。

第1段階は「夜間、痛みに妨げられず良眠できる」ということです。夜間ぐっすり眠れることは精神的にも肉体的にもストレス軽減になります。

この目標が達成されたら、第2段階は「昼間、安静時の痛みが消失している」を目指します。これが達成されると家庭復帰が可能となります。

第3段階は「身体を動かしても痛みがない」というもので、このようになれば日常生活は問題なく行うことが出来、社会復帰も可能となります。

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Chapter.2:WHO方式がん疼痛治療法マニュアル

WHOがん疼痛治療法の趣旨

がんの痛みに対して神経ブロックは非常に有効ですが、適応が限られ、またどの施設でも行えるものではありません。一方、がん患者は非常に多いため、どの医師でも簡単に行える鎮痛法が普及することが望まれるようになりました。

そこで、WHO(世界保健機関)は「2000年までにすべての人に健康を」という健康対策を打ち立て、「WHO方式がん疼痛治療法」を1986年に発表しました。

この趣旨は「がんの痛みは治療可能であり、また治療しなくてはいけないものであり、がん患者はこの痛みの治療を十分に受けるべきである」というものです。近年、WHOのマニュアルが一般医師の間にもかなり普及し、多くの施設でがんの痛みがかなりコントロールされるようになってきました。

WHOがん疼痛治療法の内容

WHOがん疼痛治療法による鎮痛剤使用の基本方針のなかで特に重要な項目は以下のものです。

  1. 鎮痛剤は内服薬を第一選択とする。
  2. 効力の弱い薬から段階的に使用し、効果が不十分なら、効力が明らかに強い薬に切り替える。
  3. 時刻を決めて規則正しく投与する。

注射は効きますが、いつでもどこでも出来るものではありません。しかし内服薬であれば、患者さん自身がどこでも服用できるのです。

効果のない弱い薬を使用しているのは良いことではありません。「薬を使用している」という自己満足だけであり、痛みは緩和されないのです。それどころか、弱い薬を大量に使用すると「痛みは良くならないうえ、副作用ばかり出現する」と言う状況になってしまいます。このような時には、一段効果の強い薬を使う必要があります。

頭痛や歯痛なら、痛みが出たときに鎮痛剤を使用すればよいのですが、がんの痛みは根本的に治療が行われない限り、痛みが持続するものであるため、鎮痛剤も定期的に使用する必要があります。「痛みがでたら鎮痛剤を飲む」というのでは、患者さんは痛みの恐怖から開放されません。「つぎの痛みがでる前に鎮痛剤を使用する」ことが大事です。

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Chapter.3:モルヒネについて

モルヒネは末期の患者さんに使用するのか

従来は「麻薬は末期の患者さんに使用するもの」という考えがありましたが、現在では麻薬を使用するかどうかは痛みの強さにより決められています。今後、がんの初期でも激しい痛みにはモルヒネなどの麻薬が使用され、一方、がんの末期で残された命が短くても、痛みが激しくなければ麻薬は使用されません。 また、がんの手術に限らず、大きな手術の後にはモルヒネなどの麻薬系の鎮痛剤が使用されています。

モルヒネを使用するのは危険ではないか

「モルヒネ=麻薬=危険な薬=廃人」と連想される方が多いように、モルヒネは麻薬であり覚醒剤やコカインと同様、不適切な使用をすると非常に危険な薬になります。

しかし、医師の指示通り、適切な使用をすれば全く問題はなく、痛みの治療にとって最高の薬となります。現在、モルヒネは注射薬のほかに、内服薬(錠剤、水溶液、顆粒、カプセル)と坐薬があり、1日1〜2回内服すればよいMSコンチン、カディアン、ピーガードのほか、モルヒネの親戚であるオキシコンチンが使用されています。また、やはりモルヒネの親戚であり、皮膚に貼ると3日間効果が持続する、デュロテップ・パッチも使用されています。

モルヒネには依存性があるのではないか

モルヒネには耐性や依存性があります。薬を使用しているうちに徐々に慣れが生じ、効果が弱くなることを耐性といい、多くの薬には耐性があります。

依存には身体的依存と精神的依存があります。身体的依存とは、薬の長期投与により身体が薬の存在している状態に慣れ、その薬の効果が急に消失した時に禁断症状が出現する状態をいいます。精神的依存とは、特定の薬の作用を体験するために薬を摂取することに強い欲求を持つ状態をいいます。不正使用が続くと精神的依存が発生すると言われていますが、正しい医療目的の使用では起こりません。また、痛みのある患者さんに使用した場合は、依存性は起こりにくいことが分かっています。

モルヒネ系の鎮痛薬の副作用はどのようなものか

ほぼ全例に便秘が起こりますので、下剤を併用します。モルヒネの服用量と下剤の必要量とは必ずしも相関しませんし個人差もかなりあります。また、飲み薬に比較すると、貼り薬の方が便秘は軽度です。

また吐き気や嘔吐が1/3程度の患者さんに発生するため、通常モルヒネの服用開始とともに、制吐薬も服用します。この際、多くの患者さんはモルヒネ服用開始から2週間程度で、吐き気はほとんどなくなります。

これらの鎮痛剤を使用し始めたときや、増量時・過量投与時、高齢者や全身衰弱の強い患者さんでは一時的に眠気が出現することもあります。この眠気も時間と共に慣れてきますが、個人差があります。なお、どうしても眠気がとれない患者さんには眠気を取る薬を服用してもらいます。

モルヒネ系の鎮痛剤を使用するときの注意点はどのようなものか

モルヒネ系の内服薬の外観は通常の内服薬と同じですが、麻薬ですので注意が必要です。

どの薬でも言えることですが、患者さんの自己判断で勝手に服薬を中止したり、多量に服用したりしないようにして下さい。突然服用を中止すると禁断症状(麻薬をしばらく使用していた患者さんが突然使用を中止すると、その変化に身体が対応できず、イライラ感、脈がはやくなる、呼吸がはやくなる、異常に汗がでる、吐き気、意識がもうろうとする、唾液が多くでる、腹痛などが出現する)が出現したり、多量に服用すると中毒症状が現れることがあります。

鎮痛剤の種類や量は個々の患者さんにあったもので、他の人に合うとは限りませんので、決して他人の痛みに使用しないで下さい。また、子供が服用しないように保管場所も注意して下さい。そして薬が残った場合には病院に持参するようにして下さい。

モルヒネ系の鎮痛薬薬はいろいろあるのか

従来のモルヒネの内服薬は4時間しか効果がないため、患者さんは4時間おきに薬を服用する必要があり、大きな負担を強いられていました。そのため、徐放性剤という徐々に薬の成分が放出される薬剤が開発され、この負担は一気に解消されました。 現在使用されているモルヒネ系の内服薬には、1日1回服用するピーガードなど、1日2回服用するオキシコンチンなどのほか、痛いときに頓服として使用するオキノームやオプソがあります。また貼付薬のデユロテップ・パッチやフェントス・テープなどは皮膚に貼るだけで鎮痛が得られ、便秘も起こりにくいものです。

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Chapter.4:神経ブロックについて

がんの痛みに対して行われる神経ブロックはどのようなものか

神経ブロックは局所麻酔剤を使用して行う場合と、神経破壊剤を使用する場合があります。良性疾患に対しては、通常局所麻酔剤が使用されますが、がんの痛みをコントロールする場合には神経破壊剤が使用されます。

神経ブロックをする神経にもよりますが、神経破壊剤を使用すると数ヶ月から1年程度の効果を得ることができます。膵臓がんや胃がんなどが原因の内臓の痛みに対して行われる腹腔神経叢ブロック(内臓神経ブロック)、舌がんや上顎がんなどの痛みに対して行われる三叉神経ブロック、胸壁の痛みなどに行われるクモ膜下ブロックなどは、麻薬系の鎮痛剤の使用と共に行われる有効な鎮痛手段です。

神経破壊剤を使用した神経ブロックは危険ではないか

神経破壊剤を使用した神経ブロックが上手く行われると痛みが劇的に軽減され、鎮痛剤を全く使用しなくてもすむようになったり、鎮痛剤の使用量を軽減することができます。

しかし、この神経ブロックは鎮痛剤の内服のように、誰でもどこでも行えるものではありません。他の神経も破壊された場合には運動障害を起こす可能性も起こりうるため、適応を厳密に考慮しこの手法に習熟した医師により行われるものです。この際、その施設が日本ペインクリニック学会研修指定病院であるかは一つの目安になるでしょう。

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Chapter.5:よく使用される鎮痛薬

痛みが軽い場合にはどういう鎮痛剤が使用されるか

がんの痛みでも、その痛みが軽い場合には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と呼ばれるものが使用されます。これは頭痛や歯痛の時に飲むものと同じであり、よく使用されるものとしてロキソニン、セレコックスがあります。これらの鎮痛薬には程度の差はありますが、鎮痛作用、消炎作用(炎症を抑える作用)、解熱作用、抗血小板作用があります。そのため、消炎鎮痛薬、解熱鎮痛薬、鎮痛解熱薬などの呼び名もあります。抗血小板作用とは血小板の作用を抑える作用のこと、つまり血液を固まりづらくしサラサラ状態にするもので、脳梗塞や心筋梗塞などの予防効果もあります。

副作用として胃腸障害、腎障害、肝障害などがあり、もっとも多い副作用は胃腸障害です。そのため消炎鎮痛薬は胃の中に食物が残っている食後に服用することが勧められ、通常胃腸薬と共に処方されます。

この鎮痛剤は発痛物質であるプロスタグランジンを減らすことにより痛みを和らげるので、発痛物質があまり出ていない段階に使用した方が当然効果的です。つまり、痛みは我慢せずに、軽いうちに鎮痛薬を使用した方が良いのです。

オキシコンチンについて

モルヒネの親戚(オキシコドン)です。5mg、10mg、20mg、40mgの錠剤がありますが、すべて小さな剤形のため服用が容易です。効果は12時間持続するため、通常1日2回服用します。この5mg錠は効果があまり強くないため、麻薬使用の最初の薬として使用が増えています。

痛みの強さに応じ、使用量が決まります。5mg錠を1日に2回服用するだけで痛みがなくなる方から、40mg錠を1度に10錠以上服用する方までいます。常に自己判断で増減せずに、必ず医師の指示通り服用してください。特殊な構造ですので、割ったり砕いたりせず、そのまま服用してください。なお、便中に錠剤の残骸が残ることがありますが、効果には問題ありません。

麻薬系の貼付薬について

デュロテップ・パッチはモルヒネの親戚であるフェンタニルの貼付剤で、2.5mg、5mg、7.5mg、10mgがあります。

皮膚に貼ると3日間効果が持続し、モルヒネ製剤と比較して便秘が軽度であり、内服する必要がないのが特徴です。

腎機能障害の患者さんにも安心して使用できますが、患者さんによって3日間効果が持続せず、2日ごとの貼付を必要とする場合があります。

痛みの強さに応じ、使用量が決まります。2.5mgのパッチ1枚を3日ごとに張り替えるだけで痛みがなくなる方から、10mgのパッチ1度に数枚貼る方までいます。常に自己判断で増減せずに、必ず医師の指示通り使用してください。

また、同様な貼付薬で、毎日張り替えるフェントス・テープやワンデュロ・パッチもあります。

それぞれ、メリット・デメリットがありますので、主治医と相談してください。

オプソ、オキノームについて

オキシコンチンやデュロテップ・パッチを使用していても痛みが強い場合や、突然に痛みが発生する場合には、すぐに効く鎮痛剤も必要になります。

オプソはモルヒネの水溶液で、5mgと10mgがあります。スティック状の袋に入っているため、服用も容易で長期保存も可能です。服用後、15分程度で鎮痛効果出現し、最大効果は30〜60分以内に現れます。突然の痛みなどに対応できる速効製剤です。

痛みが強い場合には、1時間ごとに服用が可能ですが、1回の服用量、次の服用までの間隔は個人によりかなり異なりますので、自己判断せずに主治医の指示に従ってください。

オキノームはオキシコンチンの速効製剤で、2.5mg、5mg、10mg、20mgがあります。



がんについての疑問・不安をお持ちの方は、お気軽にご相談ください。

自己判断で迷わず、まずは専門家である医師の検診を受けることをお勧めします

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