がんに関する情報
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各骨軟部腫瘍

各骨軟部腫瘍

最終更新日 : 2023年5月24日
外来担当医師一覧

がん研有明病院の各骨軟部腫瘍診療の特徴

がん研有明病院の各骨軟部腫瘍診療の特徴

はじめに

整形外科は歴史のある当院の中ではまだ新しい診療科で、1977年に骨軟部腫瘍の診療に特化するために設立されました。骨軟部腫瘍は、主に骨や筋肉・脂肪などにできる腫瘍ですが、小児から高齢者まで幅広い年齢層に発生し、また足の先から頭まであらゆる部位に発生します。骨軟部腫瘍の9割以上は良性なので、その中にわずかに隠れている悪性を確実に診断し治療を行うことは高い専門性を必要とします。当院では、骨軟部腫瘍の診断から治療への迅速化と適正化を図るため、整形外科を中心にして、放射線科、形成外科、腫瘍内科(総合腫瘍科)、病理部、細胞診断部、研究所が一丸となって診療にあたっております。当院の強みは、@迅速細胞診断を用いた即日診断、A最高精度で迅速な遺伝子診断、B腫瘍内科医による安全性と効果の高い専門的薬物療法と新規薬物療法の導入、C1万件を越える詳細な診療情報の蓄積、D当院で開発した新規術式などです。また、患者さんの中には働く世代が多いので、初診-診断確定-手術までの期間を可能な限り短縮し早期に治療開始すること、また通院回数を減らし治療期間を短くする努力を行っております。

診療システム

外来診察は、電話での予約から1週間以内に受診ができるようにしております。これは、悪性であった場合、一刻も早く治療を開始する必要があるからです。初診当日に、画像および針生検の迅速細胞診を用いて9割以上の患者さんで良性悪性の判定が可能です。悪性の場合には、初診の1週後には画像診断と針生検の病理診断結果から手術日を決めることができます。入院に際しては、主治医を阿江、谷澤、早川、齋藤の4グループとし、それぞれに担当医、レジデントを配しています。治療計画はCancer Boardによって決定され、手術前には、主治医から手術法についての詳細な説明があります。手術後は、腫瘍の悪性度に応じて化学療法を行うか否かを決めます。確定診断に遺伝子解析が必要な場合には、がん研究所で短期間に行うことが可能です。2013年に本邦初のサルコーマセンターを設立したことにより、肉腫専門の腫瘍内科医が新規薬物療法を行う体制が確立しております。これまでに、再発を防ぐために必要な切除範囲を明らかにするとともに、新しい切除術式を開発し国内外に報告してきました。日常の臨牀情報を元にして日々技術改善を行い、originalityの高い新しい診断・治療を実践に供することを心がけています。

外来診断システム

患者さんが来院され腫瘍の可能性がある場合、診療手順は骨腫瘍と軟部腫瘍の場合で異なります。

骨腫瘍の場合、X線を撮りその所見から良性・悪性を予測します。悪性の可能性があるか、良性でも手術の必要性を医師が判断する場合にはCT・MRIなど必要な検査を早期に行います。骨折が切迫しているなど緊急性が有る場合は諸検査を1週間以内で実施し、入院治療の体制を整えることが可能です。

軟部腫瘍の場合は、初診時X線(軟部撮影)や超音波検査を行いそのまま直ちに細胞診、針生検を行います。これにより初診日当日に90%以上の患者さんで良性か悪性かがわかります。悪性であれば骨腫瘍の場合と同様1週間以内にCT・MRIなどを終了し、早期治療への体制を整えることが可能です。

悪性腫瘍の場合、術前の腫瘍進行度診断(ステージング)や術後を含めた転移の検索を行うため自院でPET-CTを撮影することも可能で現状では予約までの期間は1週間以内で可能です。

Cancer Board

整形外科医、形成外科医、放射線科医が毎週2回集まり、術前には画像と生検診断から切除範囲と再建法を決定します。術後には手術材料と術前の画像を詳細に比較検討することにより、術前予測と同じように腫瘍が存在したか、切除範囲は適切だったか、再建法は適切であったか、補助療法の追加の必要性などを討論し、治療成績向上、治療法改善の基礎的な資料としています。

治療方針

データに基づいた腫瘍切除

治療法の基本は原発の腫瘍を完全にコントロールすることです。それには、安全な切除縁での腫瘍切除手術が最も重要です。安全な切除縁が確保できれば手足の切断を行う必要はありません。安全な切除縁とは、その部位で切除すれば通常再発が生じない切除範囲であり、当科の長期における研究の蓄積で徐々に解明されてきた切除範囲の指標です。安全な切除縁データは当科の手術資料に全国の専門家有志の新しい資料を加え毎年1回、解析結果を更新し公表しています。安全な切除縁に基づく手術計画により、95%の患者さんで患肢の温存が可能となっております。

さらに、術前の化学療法が著効した場合や悪性度が低い腫瘍には切除範囲が縮小できるので、より優れた機能の患肢を温存する事が出来ます。化学療法の有効性が知られている腫瘍(悪性度の高い腫瘍に多い)では、手術前から化学療法を行います。これにより、切除範囲が縮小出来るだけでなく、転移のリスクも少なくなると考えられています。

また、他施設で安全な切除縁確保が難しく切断を勧められた患者様もしばしば受診されています。切断に同意出来ない患者さんの場合は、放射線や化学療法を組み合わせた集学的治療法と手術方法の工夫により、全力で患者さんの意向に添うように努力しています。

より良い患肢機能のための再建

患肢温存を行う際には、腫瘍切除後の様々な再建術が必要となります。それぞれの再建法には利点・欠点があります。そこで私たちは手術前にその利点・欠点を十分理解して頂いた上で、患者さん自身に治療法を選択して頂きます。

再建法には人工関節置換、血管再建、筋皮弁移植(顕微鏡下手術を含む)、小児への脚延長型人工関節置換術、創外固定器による脚延長術、当科で開発した術中切除縁評価法(ISP)による骨・血管・神経保存法やパスツール処理骨による骨再建、などが行われています。また、切除による大量骨欠損が発生した場合には欧米で標準的に用いられている同種骨を用いることも北里大学bone bank との連携により可能です。

やむなく進行例で切断を行う場合でも、通常の切断ではなくより長い切断端が得られる回転形成やturn up法を行うことで最大限の機能温存を図ることに努力しています。

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各骨軟部腫瘍の治療成績

2013〜2022年度の手術件数は下記のとおりです。

2013
年度
手術件数
2014
年度
手術件数
2015
年度
手術件数
2016
年度
手術件数
2017
年度
手術件数
2018
年度
手術件数
2019
年度
手術件数
2020
年度
手術件数
2021
年度
手術件数
2022
年度
手術件数
良性腫瘍手術 333 348 331 378 415 407 372 300 317 323
悪性腫瘍手術 255 247 253 260 217 218 238 276 271 229
総手術症例 588 595 584 638 632 625 671 626 611 627

2013〜2022年度の骨肉腫など骨原発悪性腫瘍(骨髄腫を除く)と軟部肉腫の症例数は下記のとおりです。

2013
年度
症例数
2014
年度
症例数
2015
年度
症例数
2016
年度
症例数
2017
年度
症例数
201
8年度
症例数
2019
年度
症例数
2020
年度
症例数
2021
年度
症例数
2022
年度
症例数
骨原発悪性
腫瘍
37 45 42 48 29 35 44 52 52 39
軟部肉腫 134 129 134 142 117 117 116 150 166 143
骨良性腫瘍 121 150 131 120 105 113 95 89 96 92

代表的悪性骨腫瘍 疾患別5年累積生存率

初診時遠隔転移なし

5年累積生存率(初診時遠隔転移なし)
(CH.SA) 軟骨肉腫(98例):92.8%
(CHORDOMA) 脊索腫(20例):100% 
(EWING) 骨ユーイング肉腫(8例): 71.1%
(OS) 骨肉腫(239例):75.4%  
    骨肉腫は高齢者、全部位を含む

最近10年間の骨肉腫の5年累積生存率

(MONO) 初診時遠隔転移なし(92例):80.7%
(M1NO) 初診時遠隔転移あり(13例):30.8%
    高齢者・全部位を含む

代表的悪性軟部腫瘍 疾患別5年累積生存率

初診時遠隔転移なし

5年累積生存率(初診時遠隔転移なし)

(ASP.SA) 胞巣状軟部肉腫(10例):100%
(EPITHEL.SA) 類上皮肉腫(22例):72.7%
(EWING) 骨外ユーイング(19例):68.4%
(LEIO.SA) 平滑筋肉腫(51例):84.7%
(LIPO.SA) 脂肪肉腫(186例):91.6% *高分化型を除く
(MFH) 未分化多形肉腫(366例):86.8%
(RHABD.SA) 横紋筋肉腫(22例):60.2%
(SYNOV.SA) 滑膜肉腫(91例):87.3%

代表的悪性骨腫瘍手術の局所制御率(非再発率)

初診時転移例を含む

(EWING) ユーイング:96.4%
(CH.SA) 軟骨肉腫:87.4%
(OS) 骨肉腫:91.5%
(CHORDOMA) 脊索腫:63.3%

代表的軟部肉腫の局所制御率(非再発率)

初診時転移例を含む

(EWING) 骨外ユーイング(23例):100%
(LEIO.SA) 平滑筋肉腫(50例):96.8%
(LIPO.SA) 脂肪肉腫(188例): 94.6%
(MFH) 未分化多形肉腫(356例) 77.7%
(SYNOV.SA) 滑膜肉腫(95例):94.6%

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各骨軟部腫瘍についての知識

骨軟部腫瘍とは

骨組織や筋肉や脂肪などの軟部組織に生じた腫瘍を総称した名称です。また骨組織と軟部組織に生じた腫瘍を分けてそれぞれ骨腫瘍、軟部腫瘍と言います。

骨腫瘍と軟部腫瘍はそれぞれ良性、悪性に分類します。様々な骨腫瘍のうち良性の腫瘍を一括して良性骨腫瘍と呼び、一方悪性の骨腫瘍を一括して悪性骨腫瘍と言うこともあります。同様に軟部腫瘍でも良性腫瘍を総称して良性軟部腫瘍、悪性を悪性軟部腫瘍と分類します。

悪性腫瘍が、骨組織と軟部組織に原発したものを肉腫と言い、その発生した組織により骨の肉腫と軟部肉腫に分類されます。

一方、悪性の骨軟部腫瘍の中には発生した母組織が骨や軟部組織ではなく他の臓器(例えば消化器や肺など)のがんが飛んできて(転移という)腫瘍を形成する場合があります。このような骨や軟部の悪性腫瘍を続発性(転移性)骨・軟部腫瘍と言い、逆に骨軟部組織に最初から発生したものを原発性骨・軟部腫瘍と言います。続発性骨腫瘍の場合、肉腫が転移することもありますが頻度的には内臓がんの転移が圧倒的に多いのでこの場合がんの骨転移ということもあります。

 

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良性と悪性の違い

良性腫瘍とは、発生した部位から離れた部位へ転移することのほとんどない腫瘍を言います。また、手術で腫瘍内にメスが入っても腫瘍が散らばる(播種する)ことは希です。

逆に悪性腫瘍とは、転移を起こし得る腫瘍を言います。また手術で誤ってメスを腫瘍に切り込むと容易に腫瘍が散らばり、その後の治療を大変困難にします。また腫瘍は周囲の組織に深く浸潤する傾向があるため、より大きな切除を必要とします。悪性腫瘍には肉腫とがんがあります。肉腫とは骨や筋肉・脂肪・神経などの軟部組織に生じる悪性腫瘍で体表と交通のない部位に生じますので非上皮性腫瘍とも言います。肉腫は肺転移を起こしやすい腫瘍ですが、一部の肉腫ではリンパ節転移やスキップ転移を起こしやすいことが知られています。一方、皮膚がん・消化器がん、子宮がん、乳がん、肺がんなどは体表につながる管の上皮細胞や腺細胞に生じることから上皮性腫瘍と言い、むしろリンパ節転移を起こしやすい傾向があります。

実際の腫瘍では、悪性の中でも悪性度の高いものから悪性度の低いものまで幅があり、良性でも悪性のような浸潤性を示す腫瘍があります。そのため一部の腫瘍では悪性か良性かの診断は困難で、治療に際しては実際の手術に先立ち経験豊富な治療医と病理医による正確な判断が必要となってきます。
このような良悪性の境界に位置する腫瘍(良悪性中間的腫瘍)として、骨巨細胞腫、デスモイド、乳児型線維肉腫、孤立性線維性腫瘍などがあります。

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症状と自己診断法

骨軟部に発生する腫瘍類似の病変は少なくありませんが、肉腫の頻度は決して高いものではありません。そのため、一般には患者も医師もあまり悪性腫瘍を考えることなく、腫瘤を放置していることが多いようです。診断の遅れや良性と間違って行った治療が肉腫の治療成績を不良にしているのが現実です。

そこで、以下のような症状が有りましたら一度がん研を受診してください。

骨腫瘍の症状

  1. 手足の一部が腫れている。その部を押さえても痛みはない。触ると熱を持っている。
  2. 手足の関節が曲がらなくなる。
  3. 些細な外傷で骨折が起こる。骨折が起こりそうになると痛みが生じる。
  4. 他の病院で骨腫瘍の疑いが指摘された。

軟部腫瘍の症状

  1. 手足の筋肉にくるみ大以上の無痛性腫瘤を触れる。進行したものではこぶし大からバレーボール大に達するものもある。
  2. 腫瘍部は腫れて、触ると熱を持っているが通常押さえても痛みがない。
  3. 大きくなると表面がテカテカと光沢を示し、静脈が浮き出てくる。
  4. 腫瘍は触るとよく動くが基底の骨や筋肉に浸潤すると動きにくくなる。

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診断の上手な受け方

外来は腫瘍を心配されている多くの患者さんを短時間に診察し、腫瘍か腫瘍でないか、腫瘍であれば良性か悪性かを決めるところです。その際患者さんが要領よく医師の質問に答えていただくと診断が容易となります。そこで受診前に以下の質問について記憶を整理していただいていると助かります。

  1. 気になる症状?
  2. 腫瘤を触れるか否か?
  3. 誰かに腫瘍かもと言われたか?
  4. いつから症状に気づいたか?
  5. 大きくなっているか?
  6. これまで特別な病気にかかったことがあるか?いつ?どんな治療を受けたか?

診察では、腫れた部を見せていただき、大きさや表面の色、表面がスムーズに触れるかゴツゴツしているか、腫瘤の堅さや温度、周囲とよく動くか、リンパ節を触れるか否かなどをチェックします。そのため気になる場所が露出しやすい服装で受診されることをお勧めします。

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診断の手順と検査法

患者さんが来院され腫瘍の可能性がある場合、診療手順は骨腫瘍と軟部腫瘍の場合で多少異なります。

骨腫瘍の場合、レントゲン撮影(CR=computed radiography)を行い、この所見から良性・悪性を予測し、悪性の可能性があるか良性でも手術の必要性がある場合にはCT・MRIなどを適宜行います。緊急性がある場合は1週間以内で実施し入院治療の体制を整えます。

軟部腫瘍の場合は、CR後、超音波検査を行い直ちに針生検を行います。これにより約95%の方でその日の内に良性か悪性かが決まります。悪性であれば骨腫瘍と同様に、1週間以内にCT、MRIなどを終了し治療への体制を整えます。

このような迅速な対応は、遠方からの来院や学業仕事と診療の両立のためには不可欠と考えております。

検査法と目的

1.レントゲン検査(CR=computed radiography)

CRでは骨の変化ばかりでなく筋肉や脂肪の変化から腫瘍の性格を診断します。この検査により、骨腫瘍の9割で良悪性の診断が可能です。軟部腫瘍では、骨への浸潤の有無、腫瘍の存在診断部や性格診断を行います。より情報量が多いMRIやCTが出現した現在でも、CRは全体像を把握するのに不可欠な検査法です。

2.超音波検査

外来で行う簡便な検査法であり、主に軟部腫瘍に行います。CRで判らない腫瘍の発見や腫瘍の性格を予測することを目的としています。また手術後の再発のチェックに大きな役割を果たしています。

3.針生検

局所麻酔を行い、腫瘍に直接針を刺して、その一部を採取する検査です。針生検で得られた材料で細胞診断(細胞診)と病理診断を行います。細胞診は採取した組織を潰して細胞の形や配列から診断を付けます。診断までに約40分を必要とします。細胞診の診断率は一般的には60%と言われていますが、当院の専門診断士による良性悪性の正診率は90%を越えており極めて高い信頼性を得ています。病理診断では、様々な染色が可能であり、形態のみでは判断が難しい細胞の性格を明かにすることができますが、診断には数日必要です。

4.CT

体を断面像として描出するX線検査です。CRよりさらに詳細に腫瘍の部位や構造、骨破壊の様子が明かになります。造影剤を使用すると、腫瘍内の壊死、血管の分布や腫瘍と血管との関係が判ります。造影を行う際には、食事制限があります。また、悪性腫瘍では、肺に転移を生じることが多いのでCTによる肺の検査は不可欠です。

深い場所に生じ、表面から触れない腫瘍では、通常の針生検は困難であるため、CTで腫瘍の位置を確認して針生検を行います。これをCTガイド下針生検と言います。

5.MRI

体に強力な磁場をかけ、体の内部の水素原子から発生する電磁信号を感知しコンピュター処理で撮像する検査法です。水素原子の多い水を多く含む組織に信号が多く水分の少ない組織では信号は少なくなります。造影を含むいくつか条件下で撮影します。腫瘍の内部構造や辺縁への広がりを最も明瞭に描出するので、診断や手術計画、治療効果の判定に不可欠です。

6.核医学(アイソトープ)検査

骨シンチは、テクネシウム(Tc)燐酸化合物を静脈注射し、2−3時間後に画像を撮影する検査です。がんの骨転移など多発性の骨病巣がどこまで広がっているのかを知るのに有用です。また、骨病巣が活動性か否かの判定にも有効です。FDG-PET検査は、骨軟部肉腫の治療効果判定や転移巣の検索に有用であり、食事制限が必要です。サイズが小さくてもエネルギー消費が高い病変を見つけることが可能であり、類上皮肉腫や血管肉腫など軟部組織に多発転移を来しやすい肉腫においては必須の検査です。

7.動脈造影

動脈に造影剤を注入し腫瘍部の血管量や大きな血管との関係を知るのに応用します。化学療法が有効な場合には腫瘍部の血管が減少するので、腫瘍の治療への反応を知る目的や手術計画を立てる際に実施します。また、血管が豊富な腫瘍では、手術前に栄養血管を閉塞させて、手術中の出血を減らすという治療目的で行います。これを塞栓術と言います。脊椎に生じた骨巨細胞腫では、塞栓術を繰り返し行うことがあります。診断目的のみであれば、静脈に造影剤を急速注入して撮影するCT検査で代用されます。

8.遺伝子検査

一部の肉腫では、キメラ遺伝子と呼ばれる特異的な遺伝子異常を示すことが判ってきました。従来の病理組織検査だけでは診断が困難な場合に有用な検査法です。キメラ遺伝子は、従来知られていたユーイング肉腫、滑膜肉腫、粘液/円形細胞型脂肪肉腫、胞巣型横紋筋肉腫のほか、最近になって多数の腫瘍で次々と新しい報告がなされています。当院では併設のがん研究所で網羅的に高い感度でキメラ遺伝子診断結果が短時間で得られるので、早期に診断を確定し治療を開始することができます。このことは、細胞の形に特徴がなく、しかも悪性度が極めて高い円形細胞肉腫の診断治療を迅速に行うのに極めて有用です。

骨軟部腫瘍の悪性度分類

骨軟部腫瘍は、便宜上悪性と良性に分けられています。しかし、実際には、明確に良性悪性というふたつのグループに分けられるのものではありません。その中間に位置する腫瘍もあり、また、良性悪性の各グループの中でも性格が異なる疾患が含まれています。

良性腫瘍

腫瘍の播種や転移が無い腫瘍です。すなわち、腫瘍に切り込んでも肉眼的に腫瘍の残存がなければ、腫瘍が散らばって増殖する(播種する)事は希で、また遠隔転移することもありません。術後の再発は希であり、その治療としては骨腫瘍では掻爬、軟部腫瘍では単純な摘出を行います。

良悪性中間的腫瘍

腫瘍の局所での発育は盛んですが遠隔転移をしない腫瘍や希に転移する腫瘍が含まれます。骨腫瘍では、骨巨細胞腫が含まれます。軟部腫瘍では、デスモイド、孤立性線維性腫瘍や乳児型線維肉腫などが含まれます。その治療は組織型によって異なりますが、一般的に骨腫瘍では徹底した掻爬、あるいは一部周囲組織を含めて切除します。軟部腫瘍では、デスモイドを除き多くの場合周囲の組織を含めた広範切除が必要となります。

悪性腫瘍

3つのグループに分けて考えることができます。

グループ1.転移を生じる頻度が低いため、安全な切除縁で確実に広範切除する事が基本であり、転移がなければ手術後に化学療法は行いません。

グループ2.組織学的に悪性度(*1)が高く、転移や再発性高い腫瘍です。画像ではっきりした転移が無くても、小さな転移がすでに存在している可能性が高いので、化学療法が必要です。化学療法には、術前から行う場合と術後に開始する場合があります。術前化学療法が有効であれば切除範囲を縮小する事ができます。

グループ3.組織学的悪性度に関係なくすでに遠隔転移を生じている腫瘍です。 転移先としては、 リンパ節、肺、骨などがあります。化学療法を長期に行い、原発巣と転移巣の切除を行います。病巣の切除が難しい場合には、放射線治療を併用します。

(*1)組織学的悪性度とは、生検あるいは手術材料の顕微鏡所見から類推される腫瘍の転移し易さのことです。

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治療手順と治療法

入院してからの手順は腫瘍により異なります。

悪性骨腫瘍では、骨肉腫やユーイング肉腫など手術前から化学療法を行う腫瘍では、本手術の前に切開生検術を行います。その理由は、手術前に化学療法などの術前療法を行うと腫瘍組織や遺伝子に変化が生じるため、診断治療に必要な情報が得られなくなるからです。

一方良性骨腫瘍や軟骨肉腫・傍骨性骨肉腫などの腫瘍では術前療法を行わないので、画像や針生検で組織診断が決まれば切開生検を行わず一期的に手術を行います。(表1PDF38KB)

軟部腫瘍の場合も同様な考え方で切開生検を行うか否かを決定します。

円形細胞肉腫グループ(横紋筋肉腫、軟部ユーイング肉腫など)や腫瘍が巨大あるいは血管や神経に接し術前に化学療法や放射線療法を行う時には切開生検を行います。一方、良性あるいは術前療法を行わない大部分の軟部肉腫では、針生検の診断だけで手術を行います。(表2PDF45KB)

手術療法

骨軟部腫瘍の治療法は、手術が基本です。良性では、患者さんが美容的にも機能的にも障害がなければ様子を見るだけでも良いものもあります。しかし、悪性の可能性が少しでもあれば、診断を確認するためにも手術をおすすめします。悪性では手術が治癒を得るために最も確実な手段です。さらに、悪性でも転移しやすい腫瘍や化学療法の効果が期待できる腫瘍では手術前に化学療法を行うことがあります。

1.良性腫瘍の手術

a)骨腫瘍

  • 切除
    肉眼的に見える病巣部を残さないように正常骨から切除します。
    対象となる腫瘍:外骨腫、類骨骨腫など
  • 掻爬
    病巣が肉眼的に見えなくなるまで掻爬します。掻爬後自分の骨盤骨からの骨移植あるいは人工骨移植を行います。
    対象となる腫瘍:骨巨細胞腫、骨嚢腫、内軟骨腫など。
    骨嚢腫では、病巣が骨の成長線に接しているとシャント療法のみ行います(骨嚢腫の項参照)。
  • ラジオ波焼灼術
    ラジオ波を用いて高熱で病巣部を焼く治療です。類骨骨腫や一部の転移性骨腫瘍に用いられます。当院では、放射線診断部と共同で行っております。

b)軟部腫瘍

  • 切除、摘出
    腫瘍を周囲の組織から剥離して肉眼的に腫瘍が無くなるまで取り除きます(辺縁切除)。
    神経鞘腫などで病巣を完全に切除すると大きな機能障害が生じる場合には、病巣の主な部分のみ切除し機能を保存する場合があります(病巣内切除)。
    切除・摘出の対象となる腫瘍には脂肪腫、神経鞘腫、腱鞘巨細胞腫などがあります。
2.悪性腫瘍の手術

a)広範切除
広範切除とは、腫瘍が露出しないように正常組織で包むようにして切除する方法です。身体の中には、骨膜、軟骨、筋膜などを腫瘍の浸潤に対して抵抗性を示す組織(バリアー)があり、このバリアーの機能を利用して切除計画を立てます(治癒的広切法)。バリアーの無い部位では腫瘍から必要な距離を離して切除します。 また、腫瘍の発育様式には、腫瘍と正常組織との境目が明瞭なタイプと不明瞭なタイプ(浸潤性)のタイプがあり、浸潤性を示す場合には、より広範囲な切除を必要とします。腫瘍切除に際しては、腫瘍の組織型によって異なる安全な切除縁を考慮しながら、再発を防ぎ、かつ最小限の切除で患肢機能をできるだけ温存する必要があります。安全な切除縁とは、転移によらない術後再発率を10%未満にする切除範囲です。この安全な切除縁を確立するために、@手術単独の場合、A術前化学療法や術前放射線療法を併用した場合、における実際の切除範囲と予後についての解析を行い、毎年3月に公表しています。

b)患肢温存手術
安全な切除縁の概念に基づいて腫瘍を切除した後には、失われた組織や機能をいかに再建するかが重要な課題になります。良好な機能が維持できれば患肢を温存することが可能となります。良好な機能を持つ患肢温存のためには多くの再建の選択肢を提供できるかどうかが大切になります。この目的のために、当院では人工関節置換、パスツール処理骨移植、同種骨移植、(血管柄付)自家骨移植、自家静脈あるいは人工血管を用いた血行再建、皮弁移植など様々な選択肢を準備しています。

c)切断、離断
患肢を温存した場合に安全な切除縁の確保できないか、様々な再建法を駆使しても役立つ手足とならないときに選択します。仮に切断となった場合でも、従来の単純な切断以外にできるだけ長い患肢を保存し義肢で良好な歩行ができるような回転形成や(※1)turn up法(※2)も選択できます。
(※1)回転形成
大腿骨の腫瘍を切除した後、残った末梢の下腿を前後180°回転して切断部に接合する方法です。断端に義足をつけますが、足の関節をあたかも膝のように動かせるので激しい運動が可能です。欠点は、大腿の先に足が逆についた状態なので、美容的にはturn up法より劣ります。幻肢痛はありません。
(※2)turn up法(折り返し法)
大腿骨の腫瘍の切除後、残った下腿を足関節近くで切断し、この部を大腿骨の切断端に折り返して接合する方法です。回転形成が選択されない場合で、感染した人工関節の除去後に処方されます。単なる切断より長い断端が確保されるため義足装着が容易で、歩く姿も良好です。しかし、膝関節機能が失われるので、機能的には回転形成より劣ります。

再発の危険が高くなっても手足を残すことを希望される患者さんには患肢温存を行わざるを得ませんが、その場合は少しでも再発を予防するため放射線治療を併用します。

化学療法

原則として点滴で行います。使う薬剤には アドリアマイシン(ADM)・イフォスファミド(IFM)、シスプラチン(CDDP)、カルボプラチン (CBDCA)、メトトレキサート(MTX)、エトポシド、ゲムシタビン、ドセタキセル、アクチノマイシンD、シクロフォスファミド(CPM)、トラベクテジン、エリブリン、パゾパニブ(内服)、などがあり、いくつかの薬剤を組み合わせて使用します。

  1. 術前に化学療法を行う目的には
    ・腫瘍を縮小させ、より安全に機能的な手足を残す
    ・画像に写らないような小さな転移巣を早期から治療する
    ・どの薬剤が有効かの判定に利用する
  2. 術後に化学療法を行う目的は転移の予防です。回数や期間は、年齢、疾患、術前化学療法の効果などを考慮して決定します。おおよその目安としては、1ヶ月から1ヶ月半に一度、転移が出なければ3-6回程度です。使用する薬剤によって入院あるいは外来で行います。成人の軟部肉腫では、なるべく外来での化学療法を行うようにしています。
  3. 患者さんが小さいお子さんの場合には、聖路加国際病院小児科と連携して化学療法を行っております。
  4. 標準的な抗がん剤の効果が不十分で新規薬剤による治療が必要な場合には、当院の総合腫瘍科で治療を行います。新しい薬物の使用に習熟した腫瘍内科医による治療がより良い効果をあげることができるからです。
  5. 5. 新規薬剤には、保険使用が承認されたパゾパニブやトラベクテジンやエリブリンの他に、治験中の未承認薬もあります。現在、肉腫に対する新しい薬剤の開発が勢いを増しており、肉腫の治療体系が大きく変わる可能性があります。
  6. 化学療法には、白血球や血小板が減少する骨髄抑制、脱毛、吐気、食欲不振、腎臓機能の低下など様々な副作用があります。欠点と利点を良く検討した上で実施することが大切です。

リハビリテーション

術後の良好な機能を確保するには、できるだけ早い時期からリハビリテーションを始める必要があります。これは入院期間を短くし社会復帰を促す上でも重要です。当院では腫瘍の患者さんのための専門の理学療法士や作業療法士が治療開始の時点から一人一人の患者さんへリハビリテーション・プランを立て最良の機能確保のために努力しています

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骨腫瘍の種類と特徴

骨腫瘍には原発性と続発性があり、原発性骨腫瘍には良性と悪性があります。(表3)ここでは、主な腫瘍について簡略に説明します。

良性骨腫瘍

播種、転移のリスクの無い腫瘍です。

1.骨軟骨腫(外骨腫とも言う)

小児期頃から気付くことの多い腫瘍です。

手足の長い骨(長管骨)の両端にキノコ状〜台形の骨の膨隆を示します。病巣の表面を軟骨組織が覆い、この部を軟骨帽と呼びます。軟骨帽の下には骨髄があり基底の骨髄とつながっています。身長が伸びている間は腫瘍も大きくなりますが、成長の停止と共に腫瘍の発育は止まり、軟骨帽は薄くなります。多発性で全身骨に生じる場合と単発の場合があります。 まれに軟骨肉腫や骨肉腫が生じます。 成人で軟骨帽が2センチ以上あったり、腫瘤が大きくなったりする場合は悪性化が疑われ手術が必要です。

悪性の疑いがない場合には、患者さんの日常生活が制限されているか制限される可能性がある時に手術を行います。手術を行う際には軟骨帽を全て切除することが大切です。

2.内軟骨腫

主に、手足の小さな長い骨(短管骨)に生じる軟骨の腫瘍です。レントゲン像では、骨が円形〜楕円形に吸収されて見えます。手術は、痛みや骨折が生じた場合に、掻爬、骨移植を行います。大きな長管骨に生じ、内部に石灰化を示すこともあります。病巣が大きく、レントゲン像で軟骨肉腫と区別が難しい場合には、症状が無くとも手術が必要です。

3.軟骨芽細胞腫・軟骨粘液線維腫

肩の近くの上腕骨、股関節近くの骨盤、大腿骨に骨吸収を伴った境界明瞭な病巣を形成します。

前者では内部に石灰化を示すことがあります。通常痛みなどの症状が生じて発見されるので、骨折の予防と診断確定のために手術を行います。治療は掻爬と自家骨あるいは人工骨移植です。

4.類骨骨腫

肩の近くの上腕骨、股関節近くの骨盤、大腿骨に骨吸収を伴った境界明瞭な病巣(nidus)を形成します。nidus周囲では、骨の肥厚や軟部組織に炎症性変化が見られます。通常痛みなどの症状が生じて発見されますので、疼痛のコントロールと診断確定のために手術を行います。治療は、nidusの掻爬やラジオ波での焼灼です。掻爬後に骨折の危険があれば骨移植や金属による補強(内固定)を行います。ラジオ波焼灼術では骨移植や内固定が不要であり、早期に退院可能ですが、安全に実施可能な部位が限定されます。

5.骨芽細胞腫

小児の背骨に生じることの多い腫瘍です。

頻度は少なく病巣部では骨が膨らみ内部は骨が吸収されて見えます。類骨腫よりも大きく骨膨隆像を認めますが、顕微鏡の所見では類骨腫と区別できません。治療は病巣部の十分な掻爬か切除を行います。骨欠損が生じれば適宜自家骨や人工骨移植が必要となります。

6.線維性骨皮質欠損・非骨化性線維腫

前者は小児にみられる骨皮質内病変で膝関節から少し離れた骨幹端部に生じる径1センチくらいの泡状の小さな骨吸収性病変です。多くは自然に治癒するため、手術せずに定期的に診察を受けるだけで様子を見ます。

後者は骨髄内に広がり、時間と共にゆっくり大きくなります。痛みがでてくると骨折の前兆ですから掻爬、骨移植が必要です。

7.孤立性骨嚢腫

小児に発生する骨内に黄色い漿液のたまる病変です。最初は骨の成長線に接していますが、年齢とともに成長線から離れ、骨の中心部に移動します。上腕骨発生例ではしばしば腫瘍の存在に気づかず、野球などで腕を使った時に骨折を起こし、医師を受診します。治療は、成長線に病巣が接しているときには減圧(シャント)療法を行います。この時期に十分な掻爬を行うと骨の成長障害を起こします。逆に成長障害を避けようとして掻爬が不徹底だと再発を繰り返すことになります。そこで選択されるのが、減圧療法です。これは、中空のネジを病巣の中に留置して、骨内に貯まった組織液を骨外に誘導する治療です。中空のネジが詰まらなければ病巣部に次第に骨が形成され治癒します。しかし、一部の症例では、一時的に骨吸収は改善しますが、やがて中空のネジ閉鎖し再度骨の吸収が進んできます。幸い減圧療法では、傷跡が小さく再度同じ手術を繰り返してもさほど問題はありません。また、骨吸収はある程度改善されますので、骨折の危惧も少なくなります。そのため同じ手術を繰り返し、病巣が成長線から離れる時期を待つ事ができます。

腫瘍が骨成長線から離れてからの手術は、掻爬を徹底し十分な自家骨や人工骨で骨欠損部を充填します。

8.線維性骨異形成

スリガラス状のレントゲン所見を示す骨病巣を形成します。多発性に生じることもあります。多発骨病巣に、皮膚のカフェオレ色の母班、ホルモンの異常(多くは性早熟)を伴って発現するとアルブライト症候群と呼ばれます。

病巣部の骨は、砂消しゴム様の固さとなるため、大腿骨に生じると荷重のストレスにより大腿骨頸部の弯曲が次第に増強してきます。この変化は羊飼いの杖に似た骨変形で、“羊飼いの杖変形”として有名です。

治療は骨変形が生じる前に行う事が大切で、その手段として骨の弱い部分を髄内釘やプレートで補強します。病巣部を除去することは必ずしも必要ありません。 成長が終了した後も、骨変形や二次的悪性腫瘍(骨肉腫など)が生じることがありますので定期的な診察が大切です。

9.骨線維異形成

下腿骨特に脛骨の皮質に線維性骨異形成と同じような画像所見を示す疾患です。組織像は線維性骨異形成と少し異なっており、時にアダマンチノーマと言う悪性度の低い肉腫成分を認めることがあります。自然治癒することもありますが、病巣が大きな場合には生検を行います。

10.ヒスチオサイトージスX

主に、小児に生じる骨変化です。頭の骨や骨盤の骨に単発あるいは多発性の穴があいたような骨吸収像を示す病変ですが、手足に生じることも少なくありません。骨が折れそうな場合は掻爬骨移植を行いますが、手術の難しいときは生検を兼ね簡単な掻爬を行うだけでも多くは自然治癒します。

孤立性と多発性の場合があり骨病変だけであれば骨好酸球性肉芽腫とよびます。骨以外の症状として、ホルモン異常や尿崩症、さらに重篤な内臓障害を伴うことがあります。

11.骨内ガングリオン

関節近くの骨が円形に欠けた所見を示します。偶然、レントゲン撮影をして発見されることが多い病変です。骨吸収部には薄い膜がありその中にはゼリー状の粘稠な液体が溜まっています。多くは無症状であり、治療をせず様子を見ますが、痛みの原因と思われる場合には、掻爬骨移植術を行います。

12.骨巨細胞腫

大腿骨・脛骨・上腕骨・骨盤などに大きな骨吸収と破壊を生じてくる比較的頻度の高い腫瘍です。大部分は良性で転移することはありませんが、約10%に転移を生じ良悪性の境界に位置する腫瘍とされています。再発しやすいため、徹底した掻爬と追加処置(アルコール処理など)を行います。掻爬後の骨欠損部には、骨セメント、自家骨や人工骨を充填します。

骨の破壊が広い範囲におよぶと罹患骨部の温存が困難となり、人工関節で置換せざるを得なくなります。部位によっては血管柄付き腓骨移植を実施することもあります。掻爬術後の再発率は約10-15%で、再発した場合には、再度の手術が必要となりますが最終的には完治します。最近では、デノスマブという薬物投与によって巨細胞腫の増殖を制御できることが分かってきました。骨盤や脊椎などに生じた大きな病変で手術が困難な場合には、デノスマブを投与して腫瘍を小さくしてから手術する方法も行われています。また、従来であれば関節切除と人工関節置換を要するような大きな病変に対しても、デノスマブで病巣を縮小して、関節温存する方法も試みられています。

悪性骨腫瘍

播種・転移のリスクのある腫瘍です。
表4表5表6は主な腫瘍の好発部位頻度・年齢分布を示します。

1.骨肉腫

小児から思春期に発生する代表的な悪性腫瘍で膝周囲に好発します。腫瘍細胞が骨を作る性質があるため骨形成が強いと病巣部がレントゲンで白く見えます。また罹患骨が不規則に吸収されることもあります。病巣の表面に霜柱状あるいは細い針のような骨膜反応(スピクラ)を示すと診断は容易です。肺転移を生じる可能性が高く、初診時すでに80%の患者さんには隠れた転移があると言われています。そのため、診断がついたらできるだけ早く化学療法を行い、潜在性の微小転移巣を撲滅する治療が必要です。

化学療法の成果は、時代と共に向上しており現在75%の方が長期生存可能となっています。さらに、最近の研究では化学療法が著効した場合の生存率は約90%に達しますが、無効例では約60%です。患肢温存は約90%の患者さんに実施されています。化学療法の効果は、画像検査と手術材料の組織検査によって評価しています。化学療法が有効だと骨外に出ている病巣は小さくなり骨形成が進んで、レントゲンでは白く、腫瘍境界が明瞭となってきます。治療に際してはCTやMRIで効果判定を行いつつ手術の時期を決めます。

手術に際しては、腫瘍の広がりと化学療法の効果を画像で総合的に判定し切除範囲を決定します。同時に患者さんに最も適した再建法の選別も必要になってきます。しかし、治療の基本は病巣が進行する前に早く治療を開始することです。そのためには、膝の周囲に痛みが続く時、早い時期に近医でレントゲン検査を受けて、異常なしと診断されても痛みが続けば繰り返し検査を受けるかさらに詳しい検査を受けることが大切です。

2.傍骨性骨肉腫・骨膜性骨肉腫

骨の表面に発育する悪性腫瘍で成人から中年に発生します。前者では骨周囲に累々とした骨の塊が存在するような所見を示します。後者では一見すると骨肉腫に似た所見を示します。しかし、両者とも骨髄内に病巣がなく、CTやMRIを行えば通常の骨肉腫との区別は容易です。前者では転移がない限り化学療法を行うことはありません。後者では化学療法を行うこともあります。手術では通常の骨肉腫よりやや狭い範囲の切除で再発を予防できます。

3.未分化多形肉腫(悪性線維性組織球種)

骨肉腫より頻度は少ない腫瘍で、成人に発生します。治療は骨肉腫に準じた治療を行います。ただし、高齢者では、化学療法を十分に行うことができず、術前療法で原発巣の縮小を期待できないことが多いので、手術を先行する場合があります。

4.脊索腫

中年以降の仙骨に生じる希な悪性腫瘍です。症状に乏しいため、来院時にはしばしば巨大な腫瘍なっています。治療は、仙骨部の広範切除ですが仙骨神経の障害が強い場合は人工肛門が必要となります。最近では、特殊な放射線を使用する重粒子線治療がとても有効であることが判ってきましたので、治療法の選択肢が増えました。できるだけ早期に発見し治療を行うことが大切なので、お尻の周りにいつも痛みやしびれを感じる場合はCTやMRIで検査することをお勧めします。

5.ユーイング肉腫/未熟神経外胚葉性腫瘍(PNET)

10歳以下から10代に発生することの多い悪性腫瘍です。骨の外に大きな腫瘤を形成することありますが、化学療法の効果が期待できるため、術前療法を十分に行った後に手術を実施します。術後にも化学療法を行います。また、この腫瘍は放射線治療にもよく反応します。しかし、放射線治療は、骨の壊死や放射線照射後肉腫が後日生じる可能性があるため、限られた例にのみ行います。

手術法は骨肉腫に準じます。小児の手足の腫瘍を手術すると、患側の成長が障害され健側に比べて短くなる(脚長差)がでることがあります。この問題を解決するために、延長可能な人工関節や成長軟骨付きに腓骨移植による再建などの工夫を行っています。遺伝子診断が不可欠です。

6.アダマンチノーマ

脛骨に生じる比較的おとなしい悪性腫瘍です。多くは広範囲切除と骨移植で治療します。通常、化学療法は行いません。

7.軟骨肉腫

中年以後の悪性腫瘍です。 骨肉腫ほど転移を起こしませんが、ひとたび転移が生じると化学療法の効果は期待できないので治療は困難です。それだけに、最初の手術が大切で多少の機能的な犠牲を払っても根治的手術を目指す必要があります。またこの腫瘍は骨盤、仙骨や背骨にもしばしば発生します。この部位は、安全な切除縁の確保が困難なことが多いので、重粒子線治療を行うことがあります。

軟骨肉腫の中には間葉性軟骨肉腫、淡明細胞型軟骨肉腫、脱分化型軟骨肉腫などいくつかの異なったタイプのものがあります。特に間葉性軟骨肉腫、脱分化型軟骨肉腫は悪性度が高く転移しやすい傾向があるので、術後の化学療法を行います。

 

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軟部腫瘍の種類と特徴

良性軟部腫瘍

良性腫瘍は、一般に発育が遅く知覚、運動機能障害が無ければ放置しても問題はあまり有りません。増大により痛みやしびれといった知覚障害や四肢関節の運動障害がでたり、大きくなると手術が難しくなりそうな場合には手術が必要になります。手術では取り残しが無いように確実に腫瘍を摘出する必要があります。しかし、悪性ではないので、機能を温存するために、腫瘍をいくつかに分割して切除することもあります。以下に主な良性腫瘍の性格と治療法を簡略に説明します。

1.血管腫

生まれつきの血管の異常による疾患がほとんどです。皮膚や皮下など浅い部位の病巣は発見が早く乳児・小児期に発見され赤〜紫色の皮膚変化を伴う病巣を形成します。筋肉など深い部位の病巣では、痛みがでてきて外来を受診し初めて診断がつきます。したがって発見は10代から成人になってからが多くなします。病巣部は柔らかく腫瘤として触れにくく全体が腫れて見えます。腫れや腫瘤の大きさが日によって変化するのもこの疾患の特徴です。美容上あるいは機能的に問題がなければ湿布、弾性ストッキング、鎮痛剤などの保存的治療で十分です。強い痛みが持続したり、関節可動域が制限されるなどの機能障害が生じた場合には、手術を行います。

2.脂肪腫

成人に多い柔らかい腫瘍です。腫瘍が浅いところに生じた場合は柔らかに触れますが、深いところに生じると固く触れることがあります。腫瘍はレントゲン検査やCTで脂肪独特のX線透過性を示します。手術材料では、腫瘍は正常の脂肪と同様に黄色の組織からなり、多くは被膜で覆われています。神経の近傍に発生し圧迫により知覚障害や麻痺を起こす場合は手術適応です。その他美容的に問題がなければ必ずしも手術の必要はありませんが、腫瘍が短期間に大きくなる場合は高分化型脂肪肉腫の可能性があります。脂肪腫と高分化型脂肪肉腫を画像で鑑別することはできないので、針生検を行って診断を確かめることが必要です。

3.脂肪芽細胞腫

幼児や小児の脂肪腫と似ている良性腫瘍です。特に大きくなければ様子をみていると通常の脂肪腫と同じ経過を示し、手術の適応も脂肪腫に準じます。

4.神経鞘腫

成人に生じる球状の腫瘍で多くは圧迫すると神経に沿って放散痛が生じます。腫瘍には1cmくらいの小さいものから10 cm 以上のものまであります。腫瘍は細い神経線維に連続しています。手術で神経を障害しないためには、腫瘍を取り巻く神経を保存し腫瘍に連続する神経線維のみを切離する腫瘍摘出をすることがポイントとなります。多くの場合、腫瘍周囲の神経は紙のように薄くなり腫瘍と癒着しているため、手術により一時的に、シビレや麻痺などが生じるリスクがあります。そのため部位によっては、障害が無いか軽微な間は手術しないで様子をみる事もあります。この腫瘍の約60%は、MRIで特徴的所見を示すことから画像だけで診断ができますが、残り40%では画像だけで診断することはできません。本症は、神経に生じるため、針生検が困難な場合が多く、診断に確信が持てない場合には、手術を行って組織診断を確実にする方が安全です。

5.神経線維腫

成人に生じる球状の腫瘍です。1 cm以下の小さな腫瘤から10 cmを越えるものもあります。多発性の神経線維腫と皮膚色素斑(カフェオレ様斑点)がある場合をレックリングハウゼン氏病と呼びます。レックリングハウゼン氏病では、神経線維腫が悪性化することがあり、増大傾向を自覚する腫瘤を放置しないことと、自分で触ることのできない深い部位を定期的に検査することが勧められます。

6.滑膜骨軟骨腫

関節内に大小様々な球状の軟骨組織が増殖している病変です。滑膜組織の中から発生し関節の中であたかも真珠の様に大きくなります。この固まりが関節の間に挟まると強い痛みが生じます。しかし、そのような症状が無ければその存在に気づくことなく多数の軟骨病巣が集まり大きな固まりとなることもあります。治療は摘出です。良性ですから痛みがなく関節の動きが制限されていなければ手術を急ぐ必要はありません。まれに悪性化し、軟骨肉腫を発症することがありますので急激に大きくなる場合には注意が必要です。

7.平滑筋腫

深部に生じると、組織検査なしで診断は困難です。一方、皮下の脂肪組織に生じた血管平滑筋腫は数mmから数cmの大きさで発見されます。腫瘍はわずかな刺激で周囲に電気が走るような特有の痛みを示すことがあります。類似の症状はグロームス腫瘍でも生じますがこの場合は指の爪の下に多く、大きさは数mmの小さい腫瘍です。

8.腱鞘巨細胞腫・色素性結節性絨毛滑膜炎

手や足の腱周囲の腱鞘滑膜内に生じたものには前者の名称、膝や股関節など大きな関節内に生じているものには後者の名称が使われます。しかし、本態は同じ病変と考えられています。前者の触診所見は、固いものからクリクリしたもの、フワフワした柔らかいものまであります。進行性の病変で長期の経過で骨関節破壊を伴ってくるため手術が必要です。後者の場合は関節全体が柔らかに腫れて触れます。症状は長期間継続する関節内血腫が多く、このような場合は一度専門医を受診することをお勧めします。診断がつくまで時間がかかると、腫瘍が靭帯の付着部から骨内に及んでいることが少なくありません。このような場合には、腫瘍摘出後に骨移植の必要性が生じます。摘出した腫瘍は、通常固い黄色い塊であたかもアン肝の様な外観を呈します。膝や股関節などの病変は、黄色い塊状の病巣とヘモジデリン(血液中の色素)が貯まり暗紫色に増殖した滑膜からなるモズク様の病巣とで構成されます。

9. デスモイド

良性悪性の中間に分類される腫瘍です。若年者から40歳くらいまでの患者さんに発症し、白く固い線維組織からなる病巣です。発育は比較的ゆっくりしていますが、触ると腫瘍は固く岩を触るようなごつごつした感じがあります。また腫瘍部を強く押さえると痛みを伴うことがあります。発育が緩徐なため気づくのも遅く発見時に10〜20 cmの大きさに達していることも少なくありません。診断の決め手は病理組織検査です。最近では、初めから手術を行わずに経過観察をする方法が選択されることが多くなっています。しかし、その場合には、診断がデスモイドであるという確証が必要です。小さな生検の材料では、デスモイドと転移しやすい肉腫の鑑別が困難な場合があります。また、経過観察をしているうちに腫瘍が大きくなり過ぎて、切除後に大きな機能損傷を伴うことがありますので、見極めが重要です。手術では機能に重大な影響を生じない程度での広い範囲の切除を行います。しかし、腫瘍は転移しないので、一塊にして広範切除を行う必要はありません。そのため、血管や神経など重要な組織が腫瘍に接する場合はまずそれら組織を腫瘍から剥離し、その保存を図った上で腫瘍の取り残しが無いような切除手術を行います。この腫瘍では、しばしば再発を繰り返すことがあります。再発した場合は、様子を見て、痛みや拘縮が生じた場合には、再度手術を行います。手術によって失うものが大きい場合には、薬物療法や放射線療法など他の治療法も検討します。それぞれ利点欠点がありますので、患者さんの年齢、腫瘍のできた部位などを考慮して治療法を選択します。

10. 結節性筋膜炎

皮下あるいは筋肉内に発生する良性病変です。一定期間たつと自然に縮小することが多いことから、以前は、腫瘍というより反応性の病変と考えられていました。しかし、最近キメラ遺伝子が発見され腫瘍との位置づけがはっきりしました。筋肉内に発生した場合、画像や針材料の小さな材料では、低悪性の肉腫との鑑別が難しい場合があります。我々は、当院の強みである遺伝子診断を併用して、正確な診断を行っております。

悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)

播種や転移のリスクの高い腫瘍です。そのため初期治療が不適切な場合には、患者さんの命に重大な影響を与えることになり、専門的治療を要する疾患と言えましょう。ここに含まれる腫瘍には様々な発育様式と悪性度の腫瘍が含まれているため、その性格に応じた切除範囲や化学療法設定などきめ細かな対応が必要です。手術は安全な切除縁の原則に従って行います。

表7表8表9は主な軟部肉腫の好発部位・頻度・年齢分布を示します。

1.未分化多形肉腫(悪性線維性組織球種)・粘液線維肉腫

軟部肉腫の中で頻度の高い腫瘍です。中年以降に好発します。 高齢者の軟部肉腫で針生検の細胞診で多形型肉腫と診断された場合、おおむねこの腫瘍です。粘液成分が多い場合には粘液線維肉腫と診断されます。悪性度の低いものから高いものまであります。しばしば腫瘍周囲の組織に浸潤傾向が強い発育を示す場合があり、より広範囲の切除が必要です。

2.脂肪肉腫

中年以後に頻度の高い腫瘍で、高分化型、粘液/円形細胞型、多形型など異なった性格の腫瘍があります。

高分化型脂肪肉腫には、画像的に脂肪腫と鑑別できない例や病理組織でみても形態的に脂肪腫と見分けが難しい例があります。さらに、良性として切除され、術後長期間して再発し初めて悪性と判ることもあります。そうは言っても、可能な限り手術前に脂肪腫と鑑別することが切除範囲を決めるのに重要です。術前の針生検では採取できる材料が少ないため、病理診断よりも沢山の細胞を見ることができる細胞診による診断は有用です。また近年免疫染色でMDM2やCDK4の陽性所見により高分化型脂肪肉腫の診断は容易になってきました。このように診断が難しい例はありますが、手足に出来た場合には、幸い周囲組織との境目が明瞭なことが多く、再発することは希です。一方、後腹膜に生じた場合には、腫瘍周囲の脂肪組織と区別することが難しいため、局所再発率は高くなります。本症は他の肉腫に比較して緩徐に増殖するため、手術後は10年以上経過を見る必要があります。また、高分化型脂肪肉腫の一部に悪性度の高い脱分化型脂肪肉腫が発生することがあります。しばしば画像所見から脱分化を類推することができます。

粘液/円形型では、円形細胞の割合が増えると悪性度が増して転移し易くなるため、化学療法が必要になります。また、肺転移よりも、肺以外の部位への転移(肺外転移)が多く見られるため、胸部CT以外の画像検査を定期的に行うことが必要です。多形型は悪性度が高いので化学療法が必要です。

3.滑膜肉腫

関節の近くに生じることの多い軟部肉腫です。レントゲンで腫瘍内に石灰化を認めたり、内部がほとんど血液だけの例など様々な内部構造を示します。また、急激に大きくなるものから、数年かけて大きくなる例、手術して数年後にリンパ節に転移する例など経過も様々です。悪性度の高い腫瘍で化学療法の対象となることが多い腫瘍です。

4.平滑筋肉腫

大きな静脈壁に生じた場合、腫瘤が小さなうちに静脈閉塞の症状がでることがあります。さらに隣の動脈を完全に取り囲むように発育するので、広範切除と血行再建が必要になります。大きな静脈と関係なく発生した場合には、他の肉腫と同じように広範切除を行います。悪性度の高いものから低いものまであるので、切除材料の組織像を十分検討して化学療法するかどうかを決めます。

5.横紋筋肉腫

成人に発生する多形型と小児に多い胎児型・胞巣型に分かれます。小児例では、リンパ節転移や肺転移の頻度が高く、悪性度の高い腫瘍で手術前から化学療法を行い、手術療法に放射線治療も組み合わせた集学的治療が標準治療となっています。化学療法の効果が期待できるので、リンパ節転移がなければ治療成績は良好ですが、リンパ節転移のある場合はより長期の術前化学療法が必要です。手術では原発巣手術と合わせてリンパ節転移の切除、検索を行います。成人例は、同じように高悪性ですが、化学療法の効果が限られているので手術が重要となります。

6.血管肉腫

臨床的な特徴はなく、悪性度が高い腫瘍です。皮膚に多発性に生じる皮膚血管肉腫では、患肢温存手術後の再発・転移率が高いので、切断術がもっとも安全な手術と考えています。また、乳がんや子宮がんでのリンパ節郭清や放射線照射後に上肢や下肢が腫れて浮腫状となることがあります。このリンパ浮腫が長期に続いた場所に腫瘍が発生した場合まずこの腫瘍を疑うべきです。

7.神経肉腫

神経線維維腫(レックリングハウゼン氏病)に合併するものと、全く関係なく生じてくるものがあります。後者の場合、神経との連続性や組織所見上の診断根拠が得られるまで診断は困難です。レックリングハウゼン氏病の患者さんで急に大きくなる腫瘍が生じたらまずこの疾患を疑うべきです。

8.未熟神経外胚葉性腫瘍(PNET)・軟部ユーイング肉腫

遺伝子診断が有用な腫瘍であり、両者は同一の病変と考えられています。悪性度が高いため、手術療法に加えて化学療法が必須です。

9.骨外性軟骨肉腫

幾つかのタイプに分けられます。レントゲンで腫瘍内の石灰化所見は間葉型軟骨肉腫と通常型の軟骨肉腫に認められ、粘液型軟骨肉腫では認めません。間葉型軟骨肉腫は、悪性度が高く、化学療法の対象となります。粘液型軟骨肉腫は、経過が緩徐でリンパ節転移などを起こしますが、転移がなければ術後の化学療法は行いません。

10.骨外性骨肉腫

レントゲンで腫瘍内に明瞭な骨化像を認めた場合にこの腫瘍を疑いますが、画像的に骨化の判らない例も存在します。診断は組織学的に腫瘍細胞が骨形成する所見があることで確定します。悪性度は高く十分な術後の化学療法が必要です。

11.胞巣状軟部肉腫

血管の豊富な腫瘍で、しばしば腫瘍が拍動して触れます。聴診器などを腫瘍に当てるとザー、ザーと血液の流れる音が聞こえることがあります。発見時にすでに肺や脳に転移していることもありますが、最初に転移がなければ、術後に転移を生じることは比較的少ない腫瘍です。また、肺に転移しても緩徐に発育し、破れて血胸になることは希です。従来、化学療法は効果が乏しいため行っていませんでしたが近年パゾパニブなどの新規薬剤で有効性が認められ、転移症例で適用されています。

12.類上皮肉腫

四肢末梢に好発する遠位型と体幹部に発生する近位型に分けられます。両者は組織学的な特徴が若干異なっています。遠位型の臨床像が本症に特徴的で、手足に血豆状の病巣を形成し、時に自壊を示します。肺転移の他にリンパ節転移も起こしやすく、同一肢に多発性の病巣を生じてくることがあります。化学療法や放射線療法はあまり有効ではなく、根治的な手術が重要です。軟部に病変が多発する場合には、患者さんの了解が得られれば切断が勧められます。治療が難しい腫瘍ですので、早期診断が重要です。手足に治りにくい潰瘍ができたら、必ず病理組織検査を受けてください。

13.明細胞肉腫

深部に生じたメラニン産生細胞への分化を示す肉腫です。皮膚悪性黒色腫とは全く別の腫瘍です。再発や転移の傾向は類上皮肉腫に類似しており、早期に根治的な手術をすることが大切です。術後に予防的な抗癌剤治療を行う場合もあります。

14.隆起性皮膚線維肉腫

皮膚が光沢のある赤紫に腫れ上がった腫瘤を形成する低悪性の腫瘍です。大きくなると皮膚が破れザクロの様に腫瘍が飛び出し出血してきます。低悪性の肉腫なので転移はごくまれですが、広範切除を行わないと再発を繰り返すことになります。放置すると悪性度が増して、腫瘍は巨大になり転移するようになるので、腫瘍が小さい時期に確実な手術を行うことが大切です。

15.孤立性線維性腫瘍

中高年に発生する比較的希な腫瘍です。以前には血管周皮腫と分類されていました。免疫組織化学でCD34 が陽性になるという特徴があります。良性に近いものから遠隔転移を示す高悪性のものまで幅広い生物学的態度を示します。

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転移性腫瘍の特徴と治療

他臓器のがんや他の部位の肉腫が骨に転移した場合を転移性腫瘍と呼びます。原発部としては乳がん、腎がん、前立腺がん、子宮がん、消化器がん、甲状腺がんなど、どこのがんでも骨に転移する可能性が有ります。また、乳がんや腎がんでは原発巣の治療が終わって何年もたってから骨転移が明らかになることも珍しくありません。そのためがんに罹患している方、あるいは既往がある方で手足や躯幹に頑固な痛みが続く場合は、主治医と相談して骨転移の検査をしてください。

整形外科的な骨転移の治療を大別すると、骨折に対する治療と麻痺に対する治療に分けられます。すなわち、骨転移により骨折が生じるか、生じそうなときに骨折予防のための手術を行います。手術ではできるだけ早く元の生活に戻れるように、髄内釘、人工関節、骨セメントなどで骨の補強を行い、切除縁が不安な場合は、術後に放射線治療を追加します。整形外科の治療は、あくまでも局所的な治療であるため、原発病巣の主治医から各がんの治療に準じた、化学療法やホルモン療法、ビスフォスフォネート製剤、デノスマブなどの薬物療法を受けることが大切です。

また脊椎に転移が生じた際には、支持性が失われ痛みのために体を起こすことが困難になったり、腫瘍が脊髄を圧迫すると四肢の痛みや麻痺などの神経障害が生じ、重大なQOL(生活の質)低下を引き起こします。特に頸髄、胸髄レベルで麻痺が完成すると不可逆となるため、麻痺の兆候が出現した場合は早急にMRI検査を行い、圧迫部が判れば腫瘍による脊髄圧迫を除去する必要があります。これには、手術と放射線療法があります。手術は、麻痺が急激に進行し重度の場合に選択されます。脊椎の手術は出血が多く、心肺機能への負担や神経機能障害のリスクも高いものですが、脊椎手術専門スタッフを配置し、積極的に手術を行っています。麻痺が緩徐に進んでいる場合は、放射線療法が選択されます。放射線療法で腫瘍の発育を押さえることができれば、手術をしなくても麻痺は回復します。手術を行った場合でも、麻痺再発予防のため放射線治療が大切です。

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肉腫切除の最近のガイドライン

2011年報告によると腫瘍切除のガイドラインは以下のようになります。悪性度の高い肉腫を切除する際には、少なくとも腫瘍の境界部から2cm離れた部位で切除することが必要です。手術前に化学療法などを行った際には、様々な検査で効果を評価しますが、有効であれば1cmまでは切除を縮小しても安全です。十分な化学療法が実施できて効果が顕著な場合は、切除する範囲を1cmに縮小できることが判りました。悪性度の低く境界が明瞭な肉腫では、1cmの切除で安全です。浸潤傾向のない肉腫では、バリアーの有る部位では腫瘍に近くてもバリアーの外で切除すれば安全ですが、浸潤傾向がある肉腫では腫瘍細胞がバリアーを貫通することがあるので、腫瘍境界と切除線との距離が重要になります。最初に不完全な手術が実施されている場合は、前の手術の影響を排除するためそれだけ大きな切除が必要となります。ただし、ここでセンチとして表した数字は、実測値とは異なりバリアーを一定のスコアで換算した数字です。従ってここで述べたガイドラインを実際の手術で達成するにはMRIやCT像を基にバリアーの存在部位を診断して綿密に手術計画を立てる必要があります。バリアーとは、腫瘍の浸潤を阻む事が知られている軟骨や筋膜、骨膜、関節包、神経外膜などの膜様の組織を指します。

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機能肢を確保するための最近の再建法

悪性腫瘍で健常組織を含め腫瘍切除を行いますと有る程度の組織欠損が生じるのはやむを得ません。良好な患肢を保存するためには、失った組織をいかに再建するかも大切な課題です。そこで以下に再建法と成績の概略を示します。

人工関節置換

骨欠損の補填に一般的に使用する最も安定した骨関節の再建法です。素材はチタンやコバルトクロムでできており、錆びることはありません。体の部位や残った筋肉の度合いにより異なったデザインの関節を使います。利点は早く社会復帰できることです。欠点として感染や長期的に人工物の破損や金属と骨の接合部でゆるみの問題があります。しかし、破損ゆるみはデザインの工夫、感染は術式の改良によって、明らかに減少しています。

血管柄付き骨移植(腓骨、肩甲骨)

血管のついた骨を採取し、顕微鏡を使用して骨欠損部に近い血管と吻合し、生きた骨を移植する手術です。移植した骨が癒合するまでに時間がかかり社会復帰は人工関節置換に比べるとかなり遅れます。しかし、いったん骨癒合が完成しますと感染などの合併症がなく、耐久性の問題も無いという利点があります。同種骨や各種処理骨の骨癒合を促進する目的でこれらと併用することもあります。小児の上腕骨では、腓骨を成長軟骨と共に移植することにより、手術後も腕が伸びるので脚長差を少なくすることができます。

パスツール処理骨

当院で開発した方法です。病巣部の骨を60℃で処理し再利用する方法です。この方法を報告した頃は、同種骨の採取が困難なアジア各国で広く本法が採用されました。骨癒合に半年くらいを要しますが、上肢などの体重のかからない部位の再建に適しています。ただ、長期に見ていると大きな移植骨で正常骨との接触面が狭い場合には、移植骨の吸収が生じます。また、骨腫瘍の場合には、手術材料の評価を十分に行うことが困難です。この欠点は、各種処理骨に共通です。そこで、現在では、原則として軟部肉腫で骨を合併切除した場合にパスツール処理骨を使用するようにしています。

同種骨移植

欧米では、標準的な方法です。現在では、韓国や中国でも骨バンクが整備されてきており、同種骨移植が行われる頻度が高くなっています。本邦では、骨バンクの整備が遅れていることが、未だに処理骨使用が多い要因となっています。我々は北里大学の骨バンクより供与を受けて骨悪性腫瘍の再建に同種骨移植を行っております。これにより、切除材料の詳細な評価が可能となり、切除範囲の縮小に向けた情報を蓄積することができています。

血管移植

大きな血管を腫瘍と一緒に切除した場合に行います。人工血管や別の部位から自分の静脈を採取して移植します。血管外科のエキスパートと連携をとることにより、従来血行再建が困難であった膝より遠位でも安定した動脈再建が可能となり、患肢温存の範囲が飛躍的に広がりました。その場合術後の抗凝固剤を使用しなくても済むことにより出血を最少にしています。

血管・神経・骨に対する術中切除縁評価法 (In Situ Preparation=ISP)

当院で開発した方法です。腫瘍が血管・神経・骨に接している場合、実際に腫瘍の浸潤が及んでいるか否かは、MRIやCTで知ることは困難です。その際、あらかじめ腫瘍とこれら血管・神経を一緒にして周囲組織から切り離し(血管・神経・骨の連続性は保って)、シートを用いてこの塊を創部から隔離します。その状態で、血管・神経を腫瘍部から剥離し、腫瘍を切除します。腫瘍摘出後残った血管・神経の表面を観察(切除縁評価)し、浸潤が無ければその表面をアルコールまたは蒸留水で処理し元に戻します。一方、血管・神経の表面に腫瘍が残る場合には、血管・神経を切除し機能再建をします。この方法を適確に行えば、画像では切除が必要と思われた血管・神経を温存できることが多く、またISPを行った部位からの再発はごく僅かです(2%以下)。この操作での再発は、血管や神経の表面を肉眼的観察あるは術中迅速診断でも分からない程度の腫瘍浸潤が存在する場合です。これまで、200件を越える手術でISPを行っておりますが、大部分がアルコール処理のみで十分な場合が多く、不必要な血管・神経の犠牲を防ぐことが可能となり、患者さんに大変喜ばれる結果になっています。

皮弁移植

腫瘍切除で皮膚に大きな欠損が生じた場合、背中やお腹、大腿部の皮膚を血管と共に採取し、これで皮膚欠損部を覆います。欠損部と皮膚採取部が近ければ血管を切らずに移動させて欠損を覆うことができますが、離れている場合には、血管は顕微鏡下に吻合します。さらに筋皮弁移植に骨移植を複合して行ったり、関節置換と皮弁移植を行ったり最近の技術的進歩には目を見張るものがあります。当院形成外科の応援を得て、これまでの450人を越える患者さんに行っており、今後その需要はますます増加すると考えています。術後の合併症としては約5%に移植皮膚の様々な程度の壊死が生じ、再手術が必要となりますが、最終的には、患肢の機能は温存され満足のいく結果となっています。

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最近の研究テーマ

安全な切除縁の解明

自験例と有志の専門医からの切除縁登録資料を解析し、手術だけの場合、術前療法を行った場合の効果と再発性を検討し、様々な条件下での安全な切除縁を毎年1回更新しています。現在約2567件の資料がありますが、このような充実した資料は海外も含め他にありません。

骨軟部肉腫患肢温存率の向上

切除範囲の縮小、各種再建法の開発と成績の解析により、一歩一歩患肢温存率の向上に努めています。対象が人間ですから、一足飛びで実験的な試みは行えませんが、1例1例の反省と改良こそが成果を上げるための要であると考えています。また、早期発見も重要なポイントです。そのため、一般整形外科の先生方の協力を得て腫瘍の疑いのある時点で直ちに紹介していただき、悪性腫瘍を早く選別できるようなシステム作りを進めています。

骨軟部腫瘍の迅速な診断精度の向上

画像所見、細胞診、針生検、病理切り出し標本の比較検討を通し、高い実績を上げています。豊富な新鮮材料の蓄積があり、この資料は患者さんの同意のもとに染色体、DNA解析の研究に利用しています。一部の結果はすでに患者さんの診断に役立っていますが、近い将来に治療法にも応用できると期待してください。また、より良い手術法を作るため四肢の解剖学的研究も行っています。

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