がんに関する情報
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リンパ腫

各疾患別の放射線治療

放射線治療の概要

悪性リンパ腫の初期には、腫れ・こぶ(腫瘤)がみられますが、症状に乏しいことが多いため、早期発見されにくいがんの一つとされています。リンパ腫の組織検体を採取して、顕微鏡を用いた病理学の検査や、最近進歩してきた遺伝子学や分子生物学の診断方法を用いた検査をしたところ、悪性リンパ腫には様々な種類があることが分かってきました。日本人には『びまん性大細胞型B細胞リンパ腫』という種類のリンパ腫が最も多いと報告されています。その他に『MALTリンパ腫』、『ろほう性リンパ腫』、『ホジキンリンパ腫』、『NK/T細胞リンパ腫』という種類のリンパ腫があることが分かっています。これらのリンパ腫を根絶するには、それぞれに合わせた放射線治療が必要となります。

スケジュール

通常、リンパ腫に対する放射線治療では、放射線治療計画に用いるCTの撮影から照射開始まで約1~2週間を必要とします。リンパ腫の治療方法は種類ごとに異なりますが、他のがんに比べて少ない照射線量(照射回数)で治療効果が得られるのが一般的です。放射線治療計画に用いるCTの撮影は通常1日で終わりますが、腫瘍が呼吸などによって動く部位に存在する場合は、その評価と十分な対策を行うために、2日間に分けてCTの撮影を行うことがあります。

治療計画

リンパ腫は、リンパ節などリンパ系の組織がある全身の様々な部位に発生するため、腫瘍が出来た部位に応じて、適切な方法で照射を行います。下の図は、縦隔(胸部)に発生したホジキンリンパ腫の一例です。色がついている照射範囲に心臓が近接していますが、息を深く吸って止めることで、横隔膜が足側に下がり、心臓が照射範囲から遠ざかる方向へ縦長に引き延ばされるため、心臓に照射される線量を低くすることができます。また、呼吸により動く部位が、息を止めると動かなくなるため、呼吸をしながら照射する場合よりも照射範囲を狭く絞ることができ、肺など周囲の正常組織に照射される線量を低く抑えることができます。

図. 縦隔ホジキンリンパ腫に対する深吸気息止め照射の一例
図. 縦隔ホジキンリンパ腫に対する深吸気息止め照射の一例(ピンクのライン:心臓)

放射線治療

放射線治療の主な副作用は、治療する部位によって異なります。扁桃腺に発生したリンパ腫に対する照射では、口の中や咽頭(のど)の粘膜炎、唾液減少による口の渇きなどが問題となります。治療の前後では、うがいや歯磨きをしっかりと行いながら、口腔内の衛生に気をつけることが大切になります。また、どの部位へ照射しても、軽度の疲労感・だるさや、貧血、白血球減少、血小板減少が生じる可能性がありますが、これらの副作用は通常一時的であり、放射線治療を全て受け終わると、徐々に回復していきます。

主な悪性リンパ腫について

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

「びまん性」の名が示すように、リンパ腫の細胞が散らばりやすく、病巣部が限局しているように見えても、目に見えない転移が全身に拡がりやすい傾向があります。そのため、病巣が限られた範囲にあっても、全身的な治療手段としての薬物療法を併用することが重要です。
年齢や、全身状態(体力)、病巣の広がり(病期、リンパ節以外の臓器の病巣数)、血液検査の結果(血清LDH値)などを考慮して、どの程度強い薬物療法を何回行うか、いつ頃にどの程度の放射線治療を行うかを検討します。このような検討項目を予後因子と言い、治療効果を予測して、さじ加減を決める尺度となります。これまでの臨床研究により、数回の薬物療法後に放射線治療を加えることで、少ない副作用で優れた治療効果が期待できます。
現在の標準的な薬物療法は、CHOP療法と抗体治療薬リツキシマブの併用療法です。薬物療法によってリンパ腫が消えてしまったかのように見えても、目に見えない細胞が病巣部に残っている可能性がある場合は、放射線治療を加える必要があります。薬物療法でリンパ腫が残存した場合にも放射線治療を行います。薬物療法の治療効果に応じて30~50Gyを15~25回程度に分割して、3~5週間かけて休日以外は毎日(週に4~5日)治療を行います。1~2期で、薬物療法の効果が良好であれば高い治癒率が期待できます。

MALTリンパ腫

おとなしいリンパ腫であり、急に全身に拡がることはありません。胃ではピロリ菌が原因である場合があり、ピロリ菌を除菌すると治癒する場合もあります。他には、目の周囲、咽頭(のど)、唾液腺、甲状腺、乳腺などに発生することがあります。
1~2期であれば、比較的少ない線量である24Gyを12回程度に分割し、3~4週間かけて放射線治療を行うことにより、高い治癒率が期待できます。1~2期では放射線治療だけで治る可能性が高く、放射線治療の後に薬物療法は行われず、経過観察が行われます。治癒率を低下させずに、どれだけやさしい治療ができるか研究がなされています。

ろほう性リンパ腫

このリンパ腫の多くは、リンパ節から発症します。「ろほう性」の名は、リンパ腫の細胞がかたまっていることを意味しています。1~2期であれば、比較的少ない線量である24Gyを12回程度に分割して3~4週間かけて放射線治療を行うことにより、高い確率で照射部位のリンパ腫を消失させることが可能です。しかし、このタイプのリンパ腫は病巣部が限局しているように見えても、目に見えない転移が全身のリンパ組織に拡がりやすい傾向があり、長期にわたって経過観察が必要です。全身のリンパ組織に拡がった場合は、全身的な治療手段としての薬物療法が行われます。

ホジキンリンパ腫

このリンパ腫は、欧米人に多く日本人には稀です。リンパ節から発生し連続してリンパ節に拡がっていきます。1~2期のように限られた範囲に病巣がある場合の治療として、薬物療法後に病巣が消失した場合は、薬物療法前に病巣が存在していた範囲(領域)を照射します。薬物療法後でも病巣が残存している場合は、薬物療法前に病巣が存在していた範囲(領域)と残存病巣を合わせて照射します。1~2期で、薬物療法の効果が良好であれば高い治癒率が期待できます。

NK/T細胞リンパ腫など、その他のリンパ腫

まだ病気の状態が十分に解明されていなかったり、最適な治療法が確立されていなかったりする、発生頻度の低い特殊なリンパ腫がいくつかあります。鼻や脳、睾丸、結核後の膿胸、免疫不全に関連したリンパ腫、臓器移植に関連したリンパ腫などは、主治医からの説明をよく聞いて治療を受けてください。

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