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診療科・部門紹介
診療科・部門紹介

肝・胆・膵外科

肝・胆・膵外科

最終更新日 : 2025年5月23日

診療科の特徴|診療実績スタッフ紹介業績紹介

診療科の特徴

橋 祐
橋 祐
院長補佐
肝胆膵外科部長

はじめに(がん研有明病院胆肝膵外科の体制・手術実績)

肝臓領域(概要)

  • 原発性肝がんの診断と治療
  • 転移性肝腫瘍の手術と成績

胆道領域(概要)

  • 胆道がんの手術と成績
  • PERICANプログラム

膵臓領域(概要)

  • 膵臓がんに対する外科治療
  • 当院が提唱する新しい膵切除式
  • 進行膵癌に対する集学的治療
  • PERICANプログラム

低侵襲手術(腹腔鏡下手術)

  • がん研有明病院の腹腔鏡下肝切除
  • がん研有明病院の腹腔鏡下膵切除
  • がん研有明病院のロボット肝胆膵手術

はじめに

がん研有明病院肝胆膵外科は、高橋祐部長(H7卒)を中心とした、スタッフ6人/医員9人の若く活気あふれるグループです。肝胆膵外科領域は手術の難易度が高く予後も厳しい、いわゆる難治癌が多くを占める領域ですが、豊富な症例数(肝切除:年間約250例、膵切除:年間約250例)と、診療科を越えた院内の緊密な横断的連携を生かしたチーム医療をすべての患者さんに提供しています。従来から行ってきました高度進行癌に対する血行再建や他臓器合併切除を伴う根治を目指した拡大手術と並行して、積極的に低侵襲手術(腹腔鏡手術)を取り入れており、ロボット手術も増えてきました。

肝切除・膵切除・腹腔鏡手術の過去10年間の症例数推移を下にまとめております。コロナ禍における移動制限の影響で、一時的に遠方からの患者数が減少しましたが、感染者数の減少やワクチンの普及、病院の感染対策の整備に伴い、2022年以降は手術件数が増加傾向にあります。特に近年では、集学的治療の普及や低侵襲手術の進展により、より多くの患者さんに迅速かつ適切な治療を提供できる体制が整いつつあります。今後も、一人でも多くのがん患者さんに最適な治療を提供できるよう、引き続き努力を重ねてまいります。

当科の特徴は、@領域横断的な周術期治療、A根治性と安全性を両立した外科治療、そしてB徹底した術後管理です。たとえば、肝両葉に及ぶ多発転移性肝腫瘍に対して、まず切除可否判定を初診時に行い、手術の難易度やリスクに応じて、術前化学療法や、肝動注療法を先行した後に切除を行う、いわゆる集学的治療を実践しています。このためには、化学療法科や肝胆膵内科との連携が不可欠ですが、毎週行っている外科・内科・放射線科合同のグループカンファレンスに加えて、外来も近くのブースで行うように配置されており、横の風通しが非常に良い環境です。術後管理も、休日深夜問わず24時間体制で術後重症患者の管理を行い、ICU専属Dr.(集中治療部 望月俊明医長)や、感染症対策チーム(感染症科 羽山ブライアン副医長)、画像診断・画像下治療(画像診断部 松枝清部長)、さらには疼痛管理グループ、栄養管理科、メンタルサポートチームらの専門グループと常に連携した医療を実践しています。

【肝臓領域】

昨今本邦では、肝切除術は安全な腹部内臓器手術として確立されており、過去5年間における当院での肝腫瘍切除術の周術期死亡率は0.2%(全国平均:約3%)です。肝切除の安全性においては、術前の肝機能評価と、切除プランの徹底した検討が非常に重要です。

当院では、術前に2種類の肝機能評価モダリティ(GSA-肝受容体シンチグラフィーとICG停滞率テスト)を原則として全ての患者さんに施行し、肝機能評価の精度を高めるとともに、切除のプランニングには3-Dシミュレーションソフトを駆使し、毎週の術前検討会で術式を決定しています(図1,2)。

原発性肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌など)に対しては、従来の系統的肝切除をより高精度に行うための工夫として、開腹手術(図1,2)・腹腔鏡手術(図3)ともにICG蛍光法を駆使した技術を開発し、実践しています。また、以前は術前治療の選択肢の乏しかった肝細胞癌に対しても、抗がん剤(レンバチニブなど)や肝動脈注入療法を組み合わせた集学的治療を施して、脈管侵襲を伴う超進行癌でも根治切除を目指しています。

転移性肝腫瘍においては、両葉を埋め尽くすような多発肝転移や、癌種によって黄疸をきたしている場合、また他の施設で切除不能と診断された患者さんも含めて、少しでも可能性があれば、粘り強く術前治療を行ったうえでの切除を実現しています。一般病院で切除不能と診断される転移性肝腫瘍の中にも、肝胆膵外科・消化器化学療法科・画像診断部と、各領域のエキスパートがそれぞれの役割を最大限に発揮し、かつ緊密に連携することで、切除の実現が可能となる場合が少なからず存在します。がん研肝胆膵外科は、そんな患者さんの最後の砦として「あきらめない外科」をモットーに診療を行っています。

◇詳細情報

【胆道領域】

胆道にできる癌は肝臓内から胆汁の流れの順番に@肝内胆管癌、A肝門部領域胆管癌、B胆嚢癌、C遠位側胆管癌、D十二指腸乳頭部癌(Vater乳頭部癌)、ならびに広い範囲の胆管に広がるE広範囲胆管癌に分類されます(図6)。

なかでも、肝門部領域胆管癌は肝臓を半分以上切除するいわゆる大量肝切除や、肝に流入する血管の合併切除再建等を要する、非常に手術の難しい領域です。当院では、肝門部領域胆管癌にも積極的に取り組んでおり、3Dシミュレーションソフトを用いた綿密な手術プランニングと、胆道ドレナージ、門脈枝塞栓術などを駆使した万端の準備を患者さんに実践し、片肝切除+膵頭十二指腸切除や、左三区域+肝動脈再建など、腹部悪性腫瘍手術で最も難度が高い術式を毎年安定的に施行しています(図7)。

また胆道癌の外科治療には、高度な手術手技はもちろんのこと、周術期の徹底した全身管理が必須です。当院では、大侵襲手術の安全性を高めるため、術前から体力づくりのリハビリ療法、齲歯(虫歯・歯周病)治療による口腔内清潔化による肺炎の予防、腸管免疫強化等の準備を総合的に実践しています(PERICANプログラム)。がん研有明病院での肝門部胆管癌の手術関連死亡率は 2.3%と、全国平均を大きく下回っています。

◇詳細情報と関連項目

【膵臓領域】

本邦における膵癌は現在増加の一途をたどっており、あらゆる癌の中で最も治療の難治度が高いことから、癌の王様と呼ばれています。がん研では、この難治癌に対して外科的アプローチと内科的アプローチの両輪で取組み、一人でも多くの膵癌患者さんを救うべく尽力しています。

当院では、かねてから主要血管浸潤を伴うような進行膵癌に対しても血管合併切除と血行再建を伴う拡大手術を積極的に行うことで根治切除に努め、その術式や成績を世界に発信してきました。2021年の膵切除件数は211件で、うち膵癌切除数は112件に及びます。膵臓の手術は、その根治度と安全性を両立させる必要があります。当科では、代表的術式である膵頭十二指腸切除および膵体尾部切除の新術式(図4,5)を提唱・実践し、高い評価を得ています。

このように発展的かつ定型化された切除術式の徹底により、手術の根治性と安全性を追求すると同時に、周術期の体調管理・栄養管理・手術に関する知識付けを包括的に行うプログラム(PERICANプログラム)を2015年より導入し、患者さんが最良の状態で手術に臨めるように努めています。

以上の努力により、現在年間約200例前後の膵切除で術関連死亡率0.5%以下を保っています。

【集学的治療による進行膵癌への取り組み】

手術療法は唯一の根治治療ですが、残念ながら現在でもその効果は十分とは言えません。そのため、手術後に補助化学療法(再発予防のための抗がん剤治療)を併用するのが一般的ですが、さらに近年の化学療法の進歩により、以前なら根治が難しいとされていた進行膵癌であっても、術前の化学療法と組み合わせることで根治的切除が可能となる場合があります。

主要血管に浸潤のある膵癌を切除可能境界域膵癌(Borderline resectable pancreatic cancer)と呼びます。切除可能膵癌と比べてその長期成績は非常に悪く、5年生存率は20%に満たないのが現状であり、予後の向上のためには、切除と周術期治療とを組み合わせた集学的治療が必要であるといわれています。当院では、2015年よりジェムザール+ナブパクリタキセル療法4コースによる術前化学療法を行っています。

切除可能境界域膵癌よりもさらに進行し、初診時点では手術が適応とならない膵癌を「切除不能膵癌(Unresectable pancreatic cancer)」と呼びます。これまで切除不能膵癌に対する有効な治療法は限られていましたが、近年の化学療法の進歩により、長期奏効によって腫瘍が縮小した場合や、遠隔転移が消失することで、手術が可能となる症例が増えてきています。このように、化学療法を経て切除可能となった膵癌に対して行われる手術を「Conversion手術」と呼びます。このデータは、初診時に切除不能と診断された患者さんにとって、集学的治療を継続することで切除の可能性を得られるという大きな希望となっています。

当院では、遠隔転移を伴う膵癌や局所進行性膵癌に対しても、厳密な適応基準に基づき手術を検討しており、その適応は当院が報告した「ABCD基準(Omiya, Oba et al. 2024, BJS)」に則っています。この基準に基づくことで、化学療法後に適切に手術適応を判断し、安全で根治性の高い手術を行う機会が増えています。今後も、最新のエビデンスに基づいた治療戦略を取り入れ、患者さんにとって最適な治療を提供できるよう努めてまいります。

◇詳細情報と関連項目

低侵襲手術

癌を根治するためには、正確な画像診断による切除適応の決定、癌の進展に応じた正確なリンパ節郭清を行うと同時に、患者さんの術後回復をスムーズにする努力も必要です。周術期のリハビリプログラム、栄養管理、Artery-first approach(動脈先行処理法)などによる出血量の低減といった取り組みとともに、近年当院でも力を入れているのが、鏡視下手術による手術の低侵襲化です。がん研有明病院では、2005年から腹腔鏡下肝切除術(小範囲切除)と腹腔鏡下膵切除術(良性疾患)を開始し、疾患や術式ごとの保険収載に則って適応を拡大してきました。肝切除では、病変周囲をくりぬく部分切除はもちろん、肝内亜区域を系統的に切除する解剖学的切除、区域切除や葉切除にも適応を拡大しています。2022年までに累計で570件の腹腔鏡下肝切除を実施しております。膵切除では、2016年の膵頭十二指腸切除(良性・低悪性度疾患)、膵癌に対する膵体尾部切除への保険適応拡大に伴い、現在ではどちらも腹腔鏡/ロボット手術が標準となっています。2020年にはリンパ節郭清を必要とする患者さんに対しても腹腔鏡下膵頭十二指腸切除が保険適応となりました。2022年までに累計で327件の腹腔鏡下/ロボット補助下膵切除を実施しております。患者さんごとに腫瘍の進展具合が異なるため、すべての悪性疾患の患者さんに腹腔鏡下手術を実施できているわけではありませんが、一人一人の患者さんに対する手術の方法(切除術式・腹腔鏡/ロボット手術が良いか開腹手術の方が良いか)についてまずグループカンファレンスで協議し、必要があれば消化器センター全体の会議(キャンサーボード)でも検討することで、個々の患者さんにとって至適な術式を選択しています。

癌の患者さんが大半を占める当院の特性から、まずは根治性と安全性を重視しておりますが、保険適応の拡大と同時に腹腔鏡下手術技術と機器の発展により、従来は開腹しないと難しかったような手術でも鏡視下に安全に実施できるようになってきました。当院では、肝切除・膵切除ともに鏡視下手術の割合が増加傾向にあります。膵切除に関してはロボット支援下手術も2020年に保険収載されたため、当院でも導入しており、2024年までに約200例のロボット膵切除を行っています。

肝切除手術件数

膵切除手術件数

腹腔鏡下手術の割合

腹腔鏡下肝切除

転移性肝腫瘍、肝細胞癌、その他肝良性腫瘍が主な適応となります。5mmから12mmのポート創(穴)を5か所程度設置し、高解像度カメラスコープ、腹腔鏡用鉗子、エネルギーデバイスを用いて肝離断を行います。保険適応の拡大に伴い、より大きな肝切除や高難度症例に対しても腹腔鏡下での実施が可能となり、再発時の再肝切除なども積極的に行っています。開腹手術と比較すると、創の総延長は3分の1以下に抑えられ、術後の疼痛が少なく、回復が早いことから、当院でも積極的に導入しています。また、複数回の肝切除を要する患者さんにおいては、術後の癒着が少ないことも大きな利点となります。一方で、肝切除の術中診断に重要な触診ができない点が課題ですが、これを補うために、当科では術中造影超音波を全例施行し、ICG蛍光法も併用することで、より正確な術中診断を追求しています。ただし、多発肝転移や大きな肝腫瘍を持つ患者さんに対しては、依然として歴史の長い開腹術に利点があり、根治性・安全性・低侵襲性のバランスを見極めながら、患者さんごとに最適な治療法を提供できるよう努めています。

当院では、これまでに500例以上の患者さんに腹腔鏡下肝切除術を実施しており、全国でも有数の実績を有する施設の一つとなっています。2022年からはロボット支援肝切除が保険適応となり、現在までに100例以上の患者さんにロボット支援下での肝切除を実施しました。ロボット手術は関節機能を持つアームによる精密な操作が可能であり、高難度肝切除の新たな選択肢として注目されています。現在、ロボット支援手術の適応を慎重に検討し、安全性を確保しながら高難度症例にも徐々に対応しており、今後も技術向上を図りながら、安全で低侵襲な肝切除を提供できるよう取り組んでまいります。

 

腹腔鏡下肝切除

腹腔鏡下膵切除

当院では、これまで腹腔鏡下膵頭十二指腸切除を積極的に導入し、患者さんの負担を軽減する治療を行ってまいりました。従来はリンパ節郭清を必要としない疾患(膵頭部の良性腫瘍、境界域悪性病変、早期の胆道癌)を中心に適応としていましたが、現在では腫瘍の状況に応じて、膵癌を含む悪性疾患の患者さんにも適応を拡大しています。当院では、2013年に全国に先駆けて腹腔鏡下膵頭十二指腸切除を外科Phase I臨床試験として導入し、開腹手術と同等の安全性があることを報告しました。

2020年には、リンパ節郭清を必要とする膵癌の患者さんに対しても、腹腔鏡下膵頭十二指腸切除が保険適応となりました。また、同年にロボット支援膵頭十二指腸切除も保険収載され、より精度の高い手術が可能となりました。ロボット手術は、従来の腹腔鏡手術に比べて多関節機能を持つロボットアームによる繊細な操作が可能であり、高精細3D画像を活用した視野のもとで、安全に精密な手術を行うことができます。

現在、日本においてロボット支援膵頭十二指腸切除の導入が進んでおり、当院はその分野で先進的な施設の一つとなっています。これまでに150例以上の患者さんにロボット支援手術を実施しており、日本有数の実績を有しています。開腹、ロボットで行うかどうかは適応症例を慎重に検討したうえで、最も安全で有効な治療法を選択しています。今後も、ロボット支援手術の技術向上に努め、より多くの患者さんに負担の少ない、安全で質の高い手術を提供できるよう取り組んでまいります。

腹腔鏡下膵体尾部切除は、以前より良性疾患や低悪性度疾患に対して行っていましたが、保険適用の拡大を受け、2018年から膵体部癌・膵尾部癌に対するリンパ節郭清・後腹膜一括郭清を伴う手術を開始しました。低侵襲であることから術後の痛みが軽減され、回復が早く、術後在院日数の短縮が実現しています。また、補助化学療法の早期導入につながることで、膵癌切除後の予後向上も期待される術式です。年々症例数は増加しており、安全性と治療成績の向上に努めています。

 

腹腔鏡下膵切除

ロボット支援下手術

2020年4月にロボット支援腹腔鏡下膵切除が保険収載され、当院でも綿密な準備の上、2020年9月より導入いたしました。多関節機能と高精細3D画像を備えたロボット支援下の腹腔鏡手術環境は、従来の鏡視下手術を超える精密な剥離操作と吻合操作を可能にします。当院は国および学会が定める施設基準を満たしており、さらに膵切除のプロクターが4名在籍しているため、高度な技術指導体制を整えています。そのため、ロボット支援腹腔鏡下膵切除術(膵頭十二指腸切除/膵体尾部切除)を保険診療として安全に提供することが可能です。

近年、当院でのロボット支援膵切除の症例数は年々増加しており、国内有数の実績を有する施設の一つとなっています。しかしながら、すべての患者さんにロボット手術を適用するわけではなく、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット支援手術のいずれが最適であるかを、病状や解剖学的条件を踏まえたうえで慎重に検討しております。また、4台の手術用ロボットを全診療科で共有して使用しているため、ロボット手術の適応についても総合的に判断し、より安全で最適な治療法を選択できるよう努めています。現在、ロボット支援手術の適応症例を慎重に見極めたうえで、開腹手術・低侵襲手術(腹腔鏡・ロボット)を適切に使い分け、患者さんにとって最良の治療法を提供することを重視しています。今後も、低侵襲かつ高精度な手術技術のさらなる発展に取り組み、より多くの患者さんに安全で負担の少ない治療を提供できるよう努めてまいります。

◇詳細情報と関連項目

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