
胃外科
診療科の特徴
@残せる胃は残す
布部創也
院長補佐
胃外科部長
胃切除後には体重が10-20%程度減少することが知られています。とくに胃全摘では、大きな手術であることや術後に食事量が減ることなどにより、体重が著明に減少し術後の生活の質に大きく影響することが報告されています。そこで当科では可能な限り「胃全摘を避ける」ことを一つの大きな目標として診療に当たっており、通常胃全摘が必要と判断されるような症例でも、胃亜全摘術や噴門側胃切除術にて胃を温存することが可能となっています (図1)。しかし、胃の温存のためには、外科医の手術手技だけでなく、消化器内科医による的確な術前診断や手術中の内視鏡検査などもきわめて重要であり、外科・内視鏡科・化学療法科によるカンファレンスを毎週行い、胃がんチームとして力を合わせ取り組んでいます。
DPCデータを用いた2021年度の全国統計では、胃悪性腫瘍手術に占める胃全摘術の割合は25.2%と報告されていますが、当科では2023年に施行した胃切除術に占める胃全摘術の割合は約15%であり、特に早期胃がんでは2.6%にとどまっていました。可能な限り胃全摘を避けることを目標に掲げたチーム医療の取り組みの成果が挙がっていると考えられます。「胃を残して欲しい」ということは当科にセカンドオピニオンを求めて受診される患者さんの強い要望であり、この要望に少しでも多く答えることができるように更なる努力を重ねています。
詳細は、「機能温存を目指した胃を残す取り組み」の項目をご覧ください。
図1. 胃を残す工夫


A 大きなリンパ節転移を伴う胃がんや、切除不能な胃がんの治療もあきらめない
【術前化学療法】
胃から少し離れた場所に、大きなリンパ節転移が存在する症例は手術のみで治すことが困難と考えられており、手術と抗がん剤治療を組み合わせた治療を行います。そこで、新たな取り組みとして、手術前に抗がん剤治療を行い、がんの勢いを抑えてから手術を行う術前化学療法も積極的に行っています。
【切除不能胃がんに対するコンバージョン(conversion)手術】
診断時に既に胃以外の臓器への転移(肝転移や腹膜播種といった遠隔転移)がみられる症例は切除不能とされ、治癒は断念して化学療法を行い、できるだけの延命を目指すことになります。しかし、近年、延命のためと考えていた化学療法がとても良く効いて遠隔転移が消え、諦めていた切除が可能になる患者さんに遭遇するようになりました。このように外科と化学療法科が力を合わせて、治癒が困難とされてきた胃がんに対しても積極的に治療に取り組んでいます。
- 詳細は、「切除不能胃がんに対するコンバージョン手術」の項目をご覧ください。
【初診から入院・手術までの流れ】
迅速な治療開始のため、初診日から検査が行えるよう、食事を摂らずに来院していただいています。治療方針を決めるために重要な胃がんの病期診断では、がんの広がりと深さの診断にもっとも重要な上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)、さらにはがんの深さに加えて他の臓器(リンパ節や肝臓、腹膜など)への転移の有無を確認するCT検査が行われますが、当科では受診後に速やかにこれらの検査を受けて頂きます。また、全身麻酔の手術に必要な検査も行います。紹介元で撮影されたCT画像をCD-ROM等の形で持参頂ければ、当院での検査を省略することもできます。また、大腸がんのスクリーニング検査として、下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)を行うことがありますが、これも紹介元の医療機関で施行済みであれば当院での検査を省略することができます。
手術までの1〜2週間に、がんの広がりや深さの診断に有用な上部消化管造影検査(X線バリウム検査)、がんの深さをさらに詳しく調べるための超音波内視鏡検査、手術の際に胃を切除する範囲の指標となるクリップを胃につけための上部消化管内視鏡等が追加で行われることもあります。また、追加で心臓の評価が必要である方や、既往に糖尿病がある方などは、心臓超音波検査や循環器内科受診、糖尿病内科受診のために、何回か来院していただく必要があります。
このように、がん研有明病院胃外科では手術前に必要な検査を、初診日を含めた数回の来院で終え、患者さんによっては2回目の外来受診日に入院・手術日が決定する場合もあります。
【入院・手術】
入院は通常手術の1日前にしていただきますが、もう少し早めに入院していただくこともあります。入院期間は手術の内容や術後経過によって異なりますが、順調に経過した場合、10日間程度で退院していただけています。退院後、最初の外来を受診されるまでは、自宅で療養していただくことになります。
【退院後初回外来】
術後経過が順調であった場合、手術から約1ヶ月後に退院後最初の外来にお越しいただきます。この際にがんの深さ、リンパ節転移などの病理検査結果と病期の診断をお伝えします。病期によっては再発予防を目的とした抗がん剤治療をお勧めすることがあります。多くの方は、この退院後初回外来の後に仕事に復帰されています。
