
皮膚腫瘍科
皮膚腫瘍科
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悪性黒色腫(メラノーマ)
あくせいこくしょくしゅ Malignant Melanoma
悪性度の高いがんではあるが 新薬登場で治療に期待
どんながん?
- 特徴
メラノーマは、皮膚のメラニン色素を作る色素細胞ががん化した腫瘍と考えられており、一見、ほくろのように見えます。「悪性黒色腫」とも呼ばれ、非常に悪性度の高いがんです。
病気の進行が極めて早く、手術をしても早い時期に再発や転移することが少なくありません。1〜2ヵ月で全身状態が変わるため、メラノーマが疑われる皮膚の異常を見つけたらすぐに受診することが大切です。
- 発症頻度・発症年齢
以前は欧米人に多く、日本人にはまれながんだといわれていましたが、日本人のメラノーマによる死亡数は、この40年間で4倍ほども増加しています。これは、紫外線による影響に加えて、高齢化も要因の1つだと考えられています。ただし、発症が多い年齢には、30〜50歳代と60〜70歳代の2つのピークがあります。ほかの皮膚がんが高齢者の発症が多いのに対して、メラノーマは若い人の発症も多いのが特徴です。
- 治療
治療は手術による切除が基本です。所属リンパ節以外のリンパ節転移や内臓転移があった場合は薬物療法となりますが、日本では、長い間「インターフェロンβ」と化学療法の「ダカルバジン」を用いた治療しかありませんでした。しかし、日本で開発され世界に先駆けて発売された抗PD-1抗体薬「ニボルマブ」をはじめとして、抗PD-1抗体「ペムブロリズマブ」や抗CTLA-4抗体「イピリムマブ」、またBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」など新しい薬物が次々に出てきており、進行期メラノーマや術後補助療法に対する治療は大きく変化しはじめています。
症状と検査
【症 状】
- 次第に大きくなるほくろ様のふくらみ。足の裏にできることも
一見ほくろに見えますが、メラノーマはほくろとは異なり、次のような特徴があります。
- 初期はほとんど盛り上がりがなくシミのように見える
- 大きさは6mm以上
- 非対称性で境界がギザギザと不規則になっている
- 1つの病変のなかで、淡褐色から真っ黒まで、さまざまな色調が混在している
「ほくろが急にできた」、「ほくろだと思っていたものが、1〜2ヵ月で急に大きく広がってきた」というときに、メラノーマが疑われる場合があります。発症部位で日本人に最も多いのは足の裏で、約30%が足の裏に発症します。そのほか、顔や体幹にできることもあります。
- メラノーマの病型は4タイプ
※下記に実際の写真を掲載しております。不安になられるときは閲覧に注意してください。
メラノーマは、形やできやすい部位によって、4つのタイプに分類されます。
- 結節型
固く盛り上がった塊がだんだん大きくなってくるタイプです。 40〜50歳代の発症が多く、全身のどこにでも発生します。
- 表在拡大型
全身のどこにでも発生する、平たく広がったタイプです。幅広い年齢で発生します。
- 悪性黒子型
不規則な形のシミが徐々に拡大し、やがて中央が膨らんで大きくなってきます。高齢者の顔面に発生しやすいタイプです。
- 末端黒子型
足の裏や手足の爪に発生する、日本人に最も多いタイプです。シミの中央に盛り上がった塊ができます。一般に40〜50歳代に多く発生するといわれています。
- 粘膜型
4タイプには含まれませんが、数%の頻度で粘膜に生じることがあります。症状が現れて初めて診断されるので進行していることが多いとされています。
- 結節型






【検 査】
- ダーモスコピーで診断がつかなければ生検を
診断の基本は視診です。ダーモスコピーで患部を拡大して症状を見て診断します。ダーモスコピーで診断がつかないものは生検します。メラノーマの文献には、「転移を助長する恐れがあるため、生検には注意を要する」と記載されているものもありますが、その根拠は明らかではなく、生検を必要とすることも少なくありません。
またこのほか、「生検を行う場合は、患部全体を切除した上で行うべき」とする文献もあります。しかし、顔に大きな病変がある場合、ほくろや基底細胞がんとの区別がつきにくい場合など、単なるシミかメラノーマかを調べるために、病変全体を切除して調べるのは、現実的ではありません。そこで、部分生検を行うにしても、万一、メラノーマと判明したら、すぐに全体を切除できるよう準備を整えておく必要があります。
メラノーマと診断されたら、CTやMRIでリンパ節や内臓への転移の有無を調べます。
- リンパ節への転移を調べるためにセンチネルリンパ節生検を行う
メラノーマは、センチネルリンパ節への転移の有無が生存期間に影響を及ぼす重要な因子であることが明らかになっています。「皮膚悪性腫瘍ガイドライン」によれば、CTでリンパ節腫大がないことが確認されている、原発巣の厚さが0.8mm以上のメラノーマに対しては、センチネルリンパ節生検を実施することが推奨されています。センチネルリンパ節生検によって、顕微鏡で見ないとわからない早期の転移が発見できた場合は、現在はリンパ節郭清を行わず、術後補助療法として抗PD-1抗体「ニボルマブ」「ペムブロリズマブ」、またはBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」の使用を検討します。
- BRAF遺伝子変異を調べる
進行期にBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」、または術後補助療法「ダブラフェニブ+トラメチニブ」を使用する場合、BRAF遺伝子変異が陽性であることが条件となります。このため、手術後にセンチネルリンパ節転移が判明したときに、検体からBRAF遺伝子変異有無を検査する必要があります。
【ステージ分類】
腫瘍(がん)の厚さ、潰瘍の有無、リンパ節や内臓への転移によるステージTからWに分けられます。以下に簡便に記載します。
・ステージT | 腫瘍の厚さが2mm以下で潰瘍に有無は問わない |
・ステージUA | 腫瘍の厚さが1〜2mm、潰瘍あり |
腫瘍の厚さが2〜4mm、潰瘍なし | |
UB | 腫瘍の厚さが2〜4mm、潰瘍あり |
腫瘍の厚さが4mm以上、潰瘍なし | |
UC | 腫瘍の厚さが4mm以上、潰瘍あり |
・ステージV | 腫瘍の厚さに関わらず、リンパ節や皮膚転移がある |
・ステージW | 腫瘍の厚さに関わらず、内臓への転移がある |
【治 療】
- リンパ節転移があるステージVでは術後補助療法へ
手術後、リンパ節や皮膚転移があるステージVに対して、術後補助療法としてBRAF遺伝子変異が陰性なときに抗PD-1抗体「ニボルマブ」「ペムブロリズマブ」、またはBRAF遺伝子変異が陽性であれば抗PD-1抗体もしくはBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」を1年間使用することになります。メラノーマの進行度は、がんの横への広がりでなく厚さで評価します。大きく広がったメラノーマでも、がんが薄く表皮内にとどまっていれば、転移がないことが多く、切除だけで治療は終了します。一方、小指の頭くらいの大きさのメラノーマでも、盛り上がっているような場合は、かなりの確率でリンパ節転移を起こしているといわれています。
- ステージUB、UCにも術後補助療法が拡大
上記に記載したようにステージVに対して術後補助療法が行われていますが、近年リンパ節や皮膚転移のないステージUBならびにUCに対して、「ペムブロリズマブ」が術後補助療法として1年間の投与となりますが承認をされました。このように悪性黒色腫の治療はステージの早い段階から薬物療法を行う方向性になっています。
- 進行期の治療は新薬を
内臓への転移があったとき、今までは「ダカルバジン」が使用されていました。しかし、「ダカルバジン」の効果については、単剤での奏効率は5〜20%とされているものの、ほとんどが部分奏効(PR)であり、生存期間の延長効果もほとんど認められていません。化学療法に大きな効果は望めない状態が長年続いていました。そうしたなか、2014年9月に抗PD-1抗体薬「ニボルマブ」が世界に先駆けて本邦で承認され、その後様々な新薬が登場してきました。現在、免疫チェックポイント阻害は「ニボルマブ」以外に、抗PD-1抗体「ペムブロリズマブ」、CTLA-4抗体「イピリムマブ」が使用され、現在では抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体「ニボルマブ+イピリムマブ」も投与できます。一方、BRAF遺伝子変異が陽性であれば、分子標的薬のBRAF阻害薬+MEK阻害薬「ダブラフェニブ+トラメチニブ」「エンコラフェニブ+ビニメチニブ」が切除不能進行例に使用されています。
BRAF遺伝子変異が陽性であれば免疫チェックポイント阻害薬ならびに分子標的薬の両方が治療選択肢となりますが、どちらを先に使用するかについては議論があり、個々の患者さんの状況を参考に治療方針を決めていきます。
悪性黒色腫で使用される薬剤の適正使用
【放射線治療】
- 脳転移や骨転移が生じたときに活用
メラノーマが脳に転移している場合は、放射線治療が選択されます。脳の血管には血液脳関門といういわば関所があって、薬剤などが到達しにくくなっているのです。しかし、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の脳転移への効果が報告されており、放射線治療と合わせた治療法なども検討されます。また骨に転移した場合も、放射線治療が行われます。脳転移や骨転移に対しての放射線治療は、局所の症状を制御するという症状緩和の目的をもちます。脳転移によって現れた頭痛や吐き気、またしびれや麻痺といった神経症状や、骨転移で起きる痛みなどを軽減します。
再発・転移に備える
- 小さくても転移する確率が高いので、早め早めの対処でより納得のいく治療を
メラノーマは、血管を通ってがんが転移する「血行性転移」と、リンパ管を介して転移する「リンパ行性転移」が同時に起きやすいという性格をもっています。治療にあたってはセンチネルリンパ節生検を行い、転移があれば薬物を使用した術後補助療法も行います。しかしリンパ節転移が見つからなかったら安心なのかといえば、手放しでは喜ぶことはできません。がんの厚さがある程度(3.0mm以上)厚いと、血管を通って内臓に転移する確率が高くなるためです。メラノーマは、ほかの皮膚がんと異なり、診断された時点で厳しい状況を覚悟しなければならないがんです。ですから、その認識をもって治療や生活への対処をしていかないと、対応が間に合わないということもあります。たとえば、治療効果が思う以上に期待できなかったとき、いずれは緩和ケア病棟で療養したいという希望をもっていたとしても、緩和ケア病棟に入るには時間がかかります。手続きを進める間に病状が進み、希望する緩和ケアを受けられないまま亡くなるということもあります。しかし、メラノーマと診断されたからといって悲観することはありませんが、病状がほかのがんと比べて急速に進むことがあるため、先へ先へと対応を考えておくことが必要です。