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診療科・部門紹介
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皮膚腫瘍科

皮膚腫瘍科

最終更新日 : 2022年4月21日

皮膚腫瘍科とは皮膚がんとはメラノーマ(悪性黒色腫)に関する情報有棘細胞癌に関する情報|乳房外パジェット病に関する情報|血管肉腫に関する情報基底細胞癌に関する情報スタッフ紹介

乳房外パジェット病

にゅうぼうがいぱじぇっとびょう Extramammary Paget’s Disease

発見が遅れやすいがん 疑わしいと思ったら早めに皮膚科受診を!

どんながん?

  • 発生・部位

    乳房外パジェット病は、皮膚に分布する汗腺の1つである「アポクリン腺」に由来するといわれる皮膚がんです。「アポクリン腺」は乳頭や乳輪にも多く、乳房に発生すると「乳房パジェット病」と呼ばれ、乳がんの一種とされます。一方、乳房以外の、外陰部や肛門周囲、脇の下などアポクリン腺が多く存在する場所に発生した場合は、「乳房外パジェット病」といわれ、皮膚がんに分類されます。初期の乳房外パジェット病は、赤い斑点や、皮膚の色が白く抜けたような、湿疹の一種のように見えます。かゆみを伴うこともありますが無症状なことも多く、発生の多くが外陰部ということもあり、発見が遅れることも少なくありません。医療機関に行くのをためらい、診断がついたときにはかなり進行していたということもあるがんです。

  • 経過と治療

    がんが表皮内にとどまっているうちは転移もなく、手術だけで治療は終了します。ただし、発見が遅れるとがんが広い範囲に広がるため、切除範囲も大きくなります。見た目にも、機能的にも、広い範囲を切り取ることで障害が起こりやすくなります。また、2個以上のリンパ節転移が見つかると、その後、内臓に転移する確率が高くなるといわれています。内臓に転移があった場合は化学療法を行いますが、内臓などに転移した乳房外パジェット病に対して、抗がん薬の効果はまだ確認されていないのが現状です。

  • 類似疾患(二次性乳房外バジェット病 一肛門がんと肛囲パジェット病を区別して治療を)

    一方、肛門、腟、尿道に発生したがんが、皮膚にまで及んできたものは、「二次性乳房外パジェット病」と呼ばれ、原発性の乳房外パジェット病とは区別し、治療法も異なります。

    腟、尿道、肛門に発生したがんが、皮膚にまで及んできたものは、「二次性乳房外パジェット病」と呼ばれます。問題となるのは、肛門のがんと乳房外パジェット病との区別です。乳房外パジェット病には、肛門のまわりにだけ発生する「肛囲パジェット病」も少なくありません。これが、肛門の外側に乳房外パジェット病(肛囲パジェット病)が発生したものなのか、内側に発生した肛門がんが外側にまで広がってきたものかを区別することが大切です。肛門の内側から発生した肛門がんの場合は、外側の皮膚を切除するだけでは不十分で、肛門を含め、がんが広がっていれば直腸も切除する可能性があります。そのため、必ず大腸内視鏡検査を行い、肛門の内側にがんがないかどうかを確認する必要があります。また、切除したがんの免疫染色を行うことで、皮膚原発の乳房外パジェット病なのか、肛門の内側から発生したがんなのかがわかります。これも肛囲パジェット病の場合は必須の検査です。

  • パンツ型浸潤−リンパ液が足のつけ根で逆流して生じる

    非常にまれですが、乳房外パジェット病では「パンツ型浸潤」という症状を示すことがあります。これは、文字通り、下着のパンツで隠れる部位の皮膚にがんが出てきた症状を指します。通常、がんはリンパ液の流れに沿って転移します。しかし、がんがリンパ節に転移すると、その部分でリンパ液の流れがせき止められ、がん細胞が末梢のリンパ管に逆流することによって、皮膚にがんが及んでくることがあります。乳房外パジェット病は外陰部に生じることが多く、脚のつけ根(鼠径部)に転移したがんがリンパ液の逆流により下腹部に広がり、あたかもパンツをはいたようなかたちで、がんが皮膚へと出てくるのです。パンツ型浸潤はリンパ節を含めた深い組織の変化が皮膚に出てきたものであり、原発巣の単なる再発、拡大ではありません。手術療法の適応ではなく、化学療法か放射線治療が適応となります。進行期のなかでも非常に予後が厳しい状況です。

症状と検査

【症 状】

  • 外陰部の赤みやただれ。湿疹や感染症と見分けにくい

    ※下記に実際の写真を掲載しております。不安になられるときは閲覧に注意してください。

     最初は、赤い斑点や皮膚の色が白く抜けたような湿疹に見えます。やがて赤い斑点が大きく広がってきて、表面がただれたようになることもあります。さらにがんが進行すると、結節(皮膚が固く盛り上がること)を生じることもあります。発生場所は、その大半が外陰部ということもあり、発見や、受診が遅れることも少なくありません。また、無症状のことも多いですが、かゆみを伴うこともあります。市販のかゆみ止めなどで治まることもあるため、それが受診を遅らせる一因ともなります。皮膚科にかかったとしても、感染症や湿疹との鑑別が難しく、それらの治療を行っても治らないという経過を経て、最終的に乳房外パジェット病を疑い、診断されることも少なくありません。乳房外パジェット病は、60歳以上の高齢者に発生することが多いがんです。外陰部に湿疹ができて、市販の薬を使っても2週間以上治らなければ、皮膚科を受診しましょう。

    乳房外パジェット病<
    乳房外パジェット病:陰茎基部に紅色局面(初期)
    乳房外パジェット病<
    乳房外パジェット病:表面にびらんが生じ、病状が進んでいる
    乳房外パジェット病<
    乳房外パジェット病:結節が現れ、進行期の病状

【検 査】

  • 皮膚生検で診断が確定すれば、CT検査とセンチネルリンパ節生検を
    • 皮膚生検とCT検査

      まず病理検査を行います。局所麻酔をして、がんだと思われる場所の組織を、3mmほど丸くくり抜いて採取し、顕微鏡で検査します。その結果、乳房外パジェット病と診断されれば、CT検査を行ってリンパ節や内臓に転移がないかを確認します。

    • センチネルリンパ節生検

      乳房外パジェット病において、センチネルリンパ節生検を行い、リンパ節への転移の有無を明らかにすることは、病気の経過を見通すうえで重要な因子となります。治療方針を決定するうえでも、重要です。センチネルリンパ節に転移がない、もしくは転移があっても1個だけなら、5年生存率はほぼ100%です。その他の所属リンパ節への転移も否定できるので、予防的リンパ節郭清は不要です。一方、2個以上のリンパ節に転移があると、その後内臓に転移を起こす確率は高いと考えられ、注意が必要です。最近発表された研究によると、乳房外パジェット病が見つかったときにリンパ節が腫れていなかったとしても、センチネルリンパ節生検を行うと、少ないながらも転移が見つかる可能性があるということが示されました。

治 療

  • 手術と、リンパ節転移があればリンパ節郭清を考慮

    遠隔転移例は化学療法になりますが、乳房外パジェット病の治療は、基本的に手術が主体となります。がんが皮膚の表面だけにとどまっている場合、また真皮まで進行していてもリンパ節転移がない場合は、手術でがんを切除した後は、経過観察となります。リンパ節に転移があっても内臓などへの遠隔転移がない場合は、がんを切除するとともにリンパ節郭清を考慮します。ただし、高齢者に多い疾患であることから、患者さんの状況を加味した治療方針となります。遠隔転移があれば、手術はせず、化学療法や場合により放射線治療を行います。

【手 術】

  • 事前のマッピング生検により、広がったがんをもれなく切除する

    乳房外パジェット病の手術に際しては、マッピング生検が非常に重要となります。通常、がんはひとかたまりとなっているものですが、乳房外パジェット病は、かたまりがいくつも発生し、離れた位置にある(スキップしている)ことが多いからです。また、がんと正常な皮膚の境界がわかりにくく、正常にみえる周辺部分にもがん細胞が存在していることがあることも、このがんの特徴です。そのため、がんがあるところを把握し、その場所を確実に切除することが必要で、がんを残してしまうと、再発や転移につながります。そこで、乳房外パジェット病は、手術の前にがんのありそうな場所を生検してがんの境界を見極めて、切除のための地図(マップ)を作ってから手術を行います。

手術後の身体

  • 女性 ―排尿時の工夫や皮膚の保護が大切

    乳房外パジェット病は、がんが広範囲に広がることが多く、それに応じて切除範囲も大きくなります。女性の場合、尿道のまわりまでがんが及んでいたときには、腟粘膜や陰唇を合めて切除する必要があります。そうすると術後は、尿道口や腟口が露出しますが、陰唇がないために、排尿時に尿がシャワーのように広がってしまいます(放散尿)。慣れるまでは、太ももにかかったり、下着を濡らすなどの不便が生じます。これは、トイレットペーパーを丸めて尿道口に当てながら排尿することで防ぐことができます。また、腟が露出することで下着とこすれて痛みが生じたり、腟炎になることもあります。ワセリンを塗って緩衝材にすることで、症状を軽減できます。腟や陰唇の切除により、腹圧をかけることでまれに膀胱脱や子宮脱を起こします。そのような場合は、症状に応じてサポート用のガードルを着用して対処したり、手術をする場合もあります。

  • 男性 ―リンパ液を滞らせないため、切除や植皮に工夫

    がんが陰嚢から陰茎の根元に存在する場合、その周辺の皮膚を切除するだけでなく、亀頭の環状溝のところから皮膚を切除します。陰茎のリンパ液の流れは、亀頭の先端から陰茎の根元に向かって流れています。そのため、陰茎の根元で皮膚を切除するとリンパ液がたまって陰茎の皮膚がブクブクと膨らむほどむくみます。それらを防ぐため、がんの存在しない部分の皮膚も切除します。また、陰茎への植皮によって、放散尿や勃起障害を起こすことがあります。

分層植皮

  • メッシュ状に伸ばした皮膚で広範囲をカバー

    小さながんならば、切除のあとは縫い合わせるだけで終わりますが、乳房外パジェット病では広範囲を切除することも少なくありません。その場合、太ももなどから皮膚を薄く剥いできて植皮する「分層植皮」を行います。ただ剥いだ皮膚を植皮するだけでなく、1枚の皮膚にメッシュ状に切り込みを入れて伸ばして使用します。これは、1枚の皮膚を効率的に使えることと、メッシュ状にした皮膚は非常に生着しやすいためです。ただし、生着後にメッシュ状の痕が残るため、人目につく部分には使いづらい再建法です。ただし、陰茎はメッシュを入れない皮膚を植皮します。皮膚が固く締まり、陰茎に用いると痛みが生じることがあるためです。分層植皮で広い部分を植皮した場合、5日間はベッド上で安静にする必要があると言われています、高齢者の場合は、足腰が弱ってしまうのを防ぐために翌日から歩行するようにしています。

【放射線治療】

  • 手術ができない人、望ましくない部位に行う

    乳房外パジェット病は基本的には手術療法を中心とした治療法が選択されます。しかし、高齢者が多い疾患だけに、合併症のために切除ができない場合、機能や整容面において切除が望ましくない場合、手術後の再発例などでは、放射線治療が選択される場合もあります。

    放射線治療は、20〜94%の症例で治癒が期待できるという報告がある一方、真皮まで進行した段階のがんに対しては、放射線治療の治癒率は約20%であるという報告もあります。化学療法との併用なども試みられていますが、その有益性は明らかではないのが現状です。

    一方、痛みや神経症状、皮膚浸潤などの改善を目的に、放射線治療を行うことは意義があるとされています。

【化学療法】

  • 遠隔転移のある場合にタキサン系薬剤が効果的

    内臓転移など遠隔転移があった場合は、化学療法が選択されます。ただし、乳房外パジェット病に保険適用となっている化学療法はありません。これは乳房外パジェット病の患者さんが少ないために臨床試験を行うことができず、申請のためのデータが集まらないことが一因です。実際の治療では、「5-FU+シスプラチン」や「ドセタキセル」が使われていましたが、最近の解析結果により、「ドセタキセル」のほうが腫瘍を小さくする効果(奏効率)が高く、生存期間を延ばす効果(全生存期間中央値)も大きいという結果が出ています。

再発に備える

  • 再発しやすいがんとして、手術後は頻繁な検査を

    乳房外パジェット病は、同じ場所にいくつものがんが発生するという特徴があります。そのため手術の取り残しも少なくなく、また再発しやすいがんといえます。手術で治療してから5年以上経過した後に、外陰部や脇の下に新たながんが現れることがあるため、注意が必要です。

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