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診療科・部門紹介
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皮膚腫瘍科

皮膚腫瘍科

最終更新日 : 2022年4月21日

皮膚腫瘍科とは皮膚がんとはメラノーマ(悪性黒色腫)に関する情報有棘細胞癌に関する情報乳房外パジェット病に関する情報|血管肉腫に関する情報|基底細胞癌に関する情報スタッフ紹介

血管肉腫

けっかんにくしゅ Angiosarcoma

頭にあざができていたら要注意 まれではあるが、非常に悪性度の高いがん

どんながん?

  • 発生部位

    肉腫とは、全身の骨や軟部組織(脂肪、筋肉、神経など)から発生するがんの総称です。血管肉腫は、血管内側の細胞(血管内皮細胞)が、がん化したものです。肉腫自体がまれな病気ですが、血管肉腫は全肉腫のなかでも1%程度と非常にまれな病気です。血管肉腫は、肝臓、乳房、心臓など全身どこにでもできますが、なかでも皮膚に生じるものが最も多く、全体の半数を占めます。

  • 新しい治療

    日本人では、1年間に50人くらいがこの病気にかかると推定されています。血管肉腫は進行が早く、日本では以前に5年生存率は9%という報告がありました。しかも患者さんが非常に少ない病気のため、標準的な治療が確立されておらず、医療施設ごとに治療方針が異なっているのが現状です。ただし、ここ数年で血管肉腫の治療方針が劇的に変わり、生存率がかなりあがってきています。以前は、手術と放射線が治療の主体でしたが、最近、放射線に抗がん薬を併用する治療法で良い成績が得られたという研究成果が発表されました。

    日本においても、まだすべての施設でこの治療が行われているとは限りません。治療を行う場合は、どのような方針をとるのか医師に確認する必要があります。

症状と検査

【症 状】

頭にあざができるほかに、リンパ浮腫後の皮膚に起こることも

※下記に実際の写真を掲載しております。不安になられるときは閲覧に注意してください。

  • 初期は、どこかにぶつけたようなあざや内出血のように見えます。病気が進行すると、あざが広がってくるもの(斑状型)のほか、皮膚がえぐれてくるもの(潰瘍型)、患部が盛り上がって潰瘍ができ出血するもの(結節型)など、状態はさまざまです。髪の毛を剃ると頭部全体に病変が広がっていることも少なくありません。初期には自覚症状もなく、病気が進行して出血してくると痛みを伴う場合があります。皮膚に生じる血管肉腫は、発生部位やその要因によって、@頭部に生じる血管肉腫、Aリンパ浮腫が誘因となる血管肉腫、B放射線照射後に生じる血管肉腫の3つに分けられます。

    血管肉腫<
    頭部血管肉腫:斑状型
    血管肉腫<
    頭部血管肉腫:結節型
    血管肉腫<
    頭部血管肉腫:潰瘍型
  • 頭部に生じる血管肉腫

    頭をぶつけたなどの外傷をきっかけに発生することが多いといわれます。血管肉腫のなかで最も発症頻度が高く、特に高齢者の頭の怪我がなかなか治らない場合はこの病気を疑います。皮膚科でもそれほど遭遇する機会がない病気だけに診断がつきにくく、顔に出た場合は帯状疱疹が疑われ、帯状疱疹の治療を行っても治らないため調べてみたら血管肉腫だったということもあります。

  • リンパ浮腫が誘因となる血管肉腫

    ※下記に実際の写真を掲載しております。不安になられるときは閲覧に注意してください。

    別名スチュワート・トレヴス(Stewart-Treves)症候群といって、リンパ浮腫(むくみ)が続くと、そのリンパ管や血管の内皮細胞ががん化して生じる血管肉腫です。

    特殊なタイプで、まれな血管肉腫のなかでも発生が少ないです。乳がんの手術後から生じることがあり、発症までの期間は長く、平均11年と報告されています。乳がん以外でも、子宮がんの手術で骨盤内リンパ節(お腹のなかのリンパ節)を切除したことによる足のリンパ浮腫に続いて起こるものもあります。リンパ浮腫のある部位に生じた腫瘍は、血管肉腫を考える必要があります。

    血管肉腫<
    Stewart-Treves症候群:乳がん術後のリンパ浮腫部位に生じた
  • 放射線照射後に生じる血管肉腫

    ※下記に実際の写真を掲載しております。不安になられるときは閲覧に注意してください。

     非常にまれですが、放射線照射の影響によって生じる血管肉腫です。ただし、近年乳がんの治療で乳房温存治療を選択することが増え、それに伴って放射線照射を受ける患者さんが増加し、患者数が以前より増えています。放射線照射から血管肉腫が発生するまでの期間は、ばらつきはありますが平均10年くらいです。

    血管肉腫<
    放射線照射部位(左乳房)に生じた血管肉腫

【検査】

  • 病理検査で診断する

    患部の組織の一部を採って顕微鏡で見る、病理検査で診断します。血管肉腫は、その大きさが病気の経過に深く関わります。欧米では5cm以上だと予後が悪いといわれています。日本人の場合、髪の毛が黒く、また高齢になっても脱毛する人が少ないため、発見が遅れる傾向があります。診断の際には、患部の広がりを判断するため髪の毛を剃る必要があります。

治 療

基本の考え方

  • 生存期間を大きく延ばす新しい治療 「放射線治療+化学療法」を行う

    血管肉腫は、目に見えるかたちでがんが頭などの皮膚に存在していますが、治療の本当のターゲットは、血管を通って全身に広がる恐れのあるがん細胞です。血管の内側の組織ががん化する病気だけに、血管を通じてがん細胞が体中に流れてしまうからです。従来行われてきた治療は、患部を切除し植皮をして、そこに放射線を照射するというものでした。しかし、治療成績は非常に悪く、1年以内に転移を起こして亡くなる方がほとんどでした。2012年、抗がん薬のパクリタキセルが血管肉腫に保険適用となり、放射線照射と同時に抗がん薬を投与する治療が行われるようになりました。また、放射線治療後は、「パクリタキセル」を定期的に投与することで転移を防ぐ維持療法が大切であることがわかってきました。治療成績は非常に良く、7〜8割の方が1年半を超えて生存しており、長い人だと4年近く治療を受けている方もいます。

【放射線治療+化学療法】

  • 放射線治療

    放射線治療では、患部に総照射線量70Gyという、治療に使う最大限の量を照射します。血管肉腫は皮膚の下にも広がっていることがあるため、見た目よりも広い範囲に照射することがあります。患部がまぶたに到達している場合、眼球に放射線が当たると白内障や失明のリスクがあります。ただし、治療を行わないと命にかかわるため、治療のリスクを十分医師と話し合ったうえで治療を決定する必要があります。血管肉腫では、頭部という弯曲した部位に生じた、面積の比較的広い病変に放射線を当てることになります。こうした病変に向いているのが、「トモセラピー」という放射線治療装置です。「トモセラピー」は、複雑な病巣や、一度に複数の腫瘍に対応できるメリットがあります。しかし、導入されている医療施設は限られています。「トモセラピー」のほか、放射線治療装置はさまざまな種類があります。放射線治療を受ける際には、その施設ではどのような機器を使って治療をするのか、そのメリット、デメリットなどについて説明を受けて、理解してから治療を行ったほうが良いでしょう。照射回数は、2Gyを5日間連続(月曜〜金曜)+2日休み(土曜・日曜)を1週間とし、7〜8週間で35回行います。照射量が多いため、最終週ころになると皮膚へのダメージによって強い痛みが生じます。感染症に配慮して保湿を含めた皮膚ケアをしても、照射終了後、落ち着くまでに2〜3週間かかります。

【化学療法】

  • タキサン系薬剤を中心とした治療へ

    基本的には、週1回(例えば、月曜)の「パクリタキセル」投与を3週連続して行い、1週休むというペースで投与します。高齢者や肝機能障害などで副作用が心配される場合は、2週連続投与で1週休み、もしくは1週投与して2週休みという変則的な投与法を選択することもあります。放射線治療が終わっても、化学療法は続けます。悪化しない状態を維持するためにはパクリタキセルの投与を続けていく必要があり(維持療法)、投与を止めると再発や転移を起こす危険性が否定できないからです。現在のところどれくらいの期間続けたら、抗がん薬治療を止めてもいいのかについては、まだわかっていません。

    また、「パクリタキセル」等のタキサン系抗がん薬で効果が得られなかった方の2次治療に「エリブリン」も治療選択肢の一つになります。「エリブリン」を2週連続投与して、1週休むという方法です。国内の多施設が集まって「パクリタキセル」で効果が得られず、「エリブリン」を使用した場合の効果と安全性を目的とした臨床試験が行われ、2次治療として十分な効果があると報告されています。

【分子標的薬治療】

  • パゾパニブによる2次治療へ

    放射線治療+化学療法の治療でも、残念ながら2〜3割の患者さんは効果がないという結果が出ています。しかし、その次の手として、「パゾパニブ」という分子標的薬が血管肉腫の治療として保険適用になっています。副作用として、高血圧、肝機能障害、倦怠感、下痢があり、高齢者に投与する場合は注意が必要です。現在、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)で、「パクリタキセル」等のタキサン系抗がん薬で効果が得られなかった方の2次治療として「パゾパニブ」の効果ならびに安全性を評価する臨床試験が行われています。

【手術療法】

  • 行われなくなりつつある治療

    以前は血管肉腫に対して手術を行っていましたが、最近は手術をしないという考え方が主流になりつつあります。医療施設によっては、手術という方針をとっているところもありますが、現在のところ切除よりも「放射線治療+化学療法」のほうが奏効率、生存率ともに良い成績が出ています。主治医から手術という方針を出されたときには、「放射線治療+化学療法」という方法もあるがその治療は行わないのか、などよく相談することが重要です。

再発・転移に備える

  • 肺への転移で引き起こされる「気胸」「血気胸」に注意

    血管肉腫は、肺や肝臓、リンパ節に転移を起こしやすく、特に肺に転移すると、嚢胞という風船のような袋を作ります。これが破綻すると、風船に穴が開くのと同じように、肺の空気が抜けてしぼんでしまう「気胸」になります。「気胸」では、空気を取り込めないため呼吸困難となりますし、血流が豊富な嚢胞が破綻すると、血液が胸腔内にたまる「血気胸」となり、止血困難のため亡くなることもあります。肺の表面に嚢胞がある状態で「パゾパニブ」を使い、治療効果が得られた場合、肺のがん細胞が死滅するので気胸を起こすことがあります。「パゾパニブ」を服用していて、胸が急に苦しくなった、胸の痛みなどが起こったら、早急な治療が必要です。気胸が起きた場合は、肺に管を入れて肺を膨らませる処置をとります。

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