
臨床遺伝医療部
当院で実施している遺伝学的検査の一例(関連する遺伝性腫瘍)
- BRCA1/2 遺伝学的検査(遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC))
- MLH1/MSH2/PMS2/MSH6 遺伝学的検査(リンチ症候群)
- APC 遺伝学的検査(家族性大腸腺腫症(FAP))
- MEN1 遺伝学的検査(多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1))
- RET 遺伝学的検査(多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2))
- PTEN 遺伝学的検査(カウデン症候群/PTEN過誤腫症候群)
- TP53 遺伝学的検査(リー・フラウメニ症候群)
- RB1遺伝学的検査(網膜芽細胞腫)等
がんの発生に遺伝要因が関係していることが明らかとなっているものは複数あります。上に記載したものはその一部です。
まずはご本人の病歴やご家族のがんの既往歴から最も疑われる遺伝性腫瘍を絞り込んだ上で、その遺伝性腫瘍の原因となる遺伝子を調べることが一般的です。ただし、ご家族の状況によっては最初の検査の候補遺伝子が複数ある場合があります。このような時、これまでは候補遺伝子を順番に検査していくしかありませんでしたが、現在は「多遺伝子パネル検査*」を用いることで複数の遺伝子を同時に調べることも可能となり、当院でも、ご本人の既往歴、ご家族の状況に合わせて、多遺伝子パネル検査も含めてご提案いたします。(ご家族のがんの発生が遺伝子の変化によるものだということがわかると、その得られた結果を使って血縁者の方の検査を検討します。)
*多遺伝子パネル検査:複数の遺伝子を一度に調べる検査。例えば、乳がんの患者さんの中ではBRCA1/2遺伝子の変化(遺伝性乳がん卵巣がん)が原因となる方の頻度が最も高いですが、ご家族の状況からBRCA1/2以外の遺伝子も候補となる場合、多遺伝子パネル検査を使うことでBRCA1/2遺伝子と同時に他の遺伝子も調べることができます。
当院で実施している多遺伝子パネル検査の例については、遺伝カウンセリングにてご紹介いたします。
保険収載されている遺伝学的検査
下記の遺伝学的検査は一部の方が保険適用で実施可能です。
検査名 | 遺伝性腫瘍 | 対象者 |
---|---|---|
BRCA1/2遺伝子検査 (BRACAnalysis®) |
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC) | 一部の方* * 詳細は下記をご覧ください |
RET遺伝子検査 | 多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2) | 甲状腺髄様がんの既往がある方 |
MEN1遺伝子検査 | 多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1) | MEN1が疑われる方 |
RB1遺伝子検査 | 遺伝性網膜芽細胞腫 | 網膜芽細胞腫の既往がある方 |
マイクロサテライト 不安定性(MSI)検査 |
リンチ症候群 *確定診断ではありません |
リンチ症候群が疑われる方 |
BRCA1/2遺伝学的検査(保険適用となる対象があります)
乳がんの患者さんの3〜5%、卵巣がんの患者さんの10〜15%は、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)であると報告されています。血液検査にてBRCA1もしくはBRCA2遺伝子のどちらかにがんの発症に関連する変化を持っている場合にHBOCと診断されます。BRCA1/2遺伝学的検査は、乳がん、卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんの治療薬、PARP阻害薬(オラパリブ)の適応となるかどうかを判断するために行う他に、乳がんや卵巣がんの患者さんを対象に、HBOCの診断を目的に、保険診療として実施されることになりました。条件にあてはあまらない場合は、自費診療で行っています。
<BRCA1/2遺伝学的検査の保険適用の対象者>
乳がんと 診断された方 |
遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)である可能性を疑う特徴(いずれかに当てはまる方):
|
---|---|
卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと 診断された方 |
すべての方 |
膵臓がんと診断された方 | PARP阻害薬オラパリブに対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合 |
前立腺がんと診断された方 | PARP阻害薬オラパリブに対するコンパニオン診断の適格基準を満たす場合 |
遺伝カウンセリングでは、ご本人や血縁者のがんの経験などを伺い、遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)やBRCA1/2遺伝学的検査について詳しくご説明します。
- 2020年4月から一部の対象者のリスク低減手術も保険収載になりました。リスク低減手術に関してはこちらから
マイクロサテライト不安定性(MSI)検査と免疫組織化学検査(MMR-IHC検査)
マイクロサテライト不安定性(MSI)検査と免疫組織化学検査(MMR-IHC検査)は、遺伝性腫瘍の1つであるリンチ症候群*の可能性を調べる検査です。いずれの検査も、手術で切除した腫瘍組織や内視鏡検査で採取した生検材料を用いますので、採血などは不要です。
遺伝学的検査によってリンチ症候群と確定した方には、より適切な対策を受けられるように、関連する診療科の受診について話し合い、調整を行います。
また、これら2つの検査は免疫チェックポイント阻害薬の適応を判定するために実施することがあります。検査の結果、この治療薬の適応があると判断された方の一部にリンチ症候群である方がいらっしゃいます。よって、治療薬を選択する目的でこれらの検査を受けた場合であっても、リンチ症候群に関して詳しい説明を提案させていただく場合があります。
*リンチ症候群:大腸がんや子宮体がんなどのがんを発症しやすい遺伝性腫瘍です。詳細はこちら
甲状腺髄様がんに対するRET遺伝学的検査
甲状腺髄様がんの約3割は遺伝性であることがわかっており、治療前にこの情報があることにより、手術術式の決定やその後のフォローアップに重要な情報となることがわかってきました。
その原因であるRET遺伝子の遺伝学的検査は、2016年4月より甲状腺髄様がんと診断された方に対しては保険診療で行う事が可能になりました。遺伝学的検査および遺伝カウンセリングのみ当院で受診されることも可能です。
※甲状腺髄様がんと診断されていない方のRET遺伝学的検査は自費診療となります。