印刷

診療科・部門紹介
診療科・部門紹介

胃外科

胃外科

最終更新日 : 2019年1月17日

バックナンバー

※ こちらのページは医療機関向けとなりますが、一般の方もご覧いただけます。 


胃外科通信

ごあいさつ

平素より大変お世話になっております。

近年、胃がんの治療は大きく変わってきております。手術療法は最強のがん治療であることには違いありませんが、手術だけでは肉眼や画像診断では見えないがん細胞を取り除くことはできません。ところが、それらの微小転移や血液中の循環がん細胞に対しても効き目のある化学療法と手術と組み合わせることで、今まででは期待できなかった長期生存や、あり得なかった治癒が得られるようになりました。

本号では、「がんを治す強力な2本柱:手術と薬物療法の強力なタッグ」と題して、今までは治癒不能とされていた病態に対する外科&化学療法科の強力なタッグによる治療法をがん研の新しい取り組みのひとつとしてご紹介いたします。がん研では毎週、全ての手術症例を化学療法科、内視鏡科、外科の全メンバーで治療法を相談して、治療を選択しています。

(胃外科部長:比企 直樹)


切除不能胃癌に対する外科の取り組み

胃癌を治癒させるためには、内視鏡(ESD)、あるいは手術で病巣を完全切除することが必要です。診断時に既に遠隔に転移していて切除が不可能であれば、治癒は断念して化学療法を行い、できるだけの延命を目指すことになります。しかし、近年、延命のためと考えていた化学療法がとても良く効いて転移が消え、諦めていた切除が可能になる患者さんに遭遇するようになりました。つまり、私達外科の手の内を超えて蔓延していた敵を、強力な化学療法で手の内に戻し、一網打尽にできるようになりました。まだまだ少ない経験しかありませんが、これをコンバージョンと呼んでいます。

実際の症例を提示します。内視鏡では胃体上部小弯から前庭部にかけて存在する10cm大の胃癌を認めました。CTでは漿膜へ露出した大きな腫瘤影として描出されました。門脈の中へ腫瘍が入り込んでいたため(門脈腫瘍栓)、切除不能と診断しました。HER2陽性であり、カペシタビン、シスプラチン、ハーセプチン療法を行ったところ、3コースで原発巣は著明に縮小し、門脈腫瘍栓は消失しました。胃全摘術により治癒切除を行うことができました。

このように、手術と化学療法が手を組めば、治癒できないと思われていた胃癌に治癒のチャンスを与えられるようになってきました。コンバージョンは手術と薬物療法の強力なタッグ」を象徴する期待の治療戦略です。

(胃外科副部長 大橋 学)

進行胃癌に対する周術期化学療法 :化学療法科の新たな取り組み

漿膜に浸潤し、リンパ節に転移のある胃癌に対する標準治療は手術+術後補助化学療法ですが、胃切除後は術後経過により抗がん剤を予定通りに行えないことがあります。このため最近では手術後だけでなく、手術前にも抗がん剤を投与する周術期化学療法の検討が行われています。術前に必要十分な薬剤が投与できることで、抗腫瘍効果が高まるのではないかという考え方です。ここでは当院が主導している医師主導治験(APOLLO:アポロ試験)についてご紹介します。

本治験の特徴は、未承認薬であるTAS-118を治療薬のひとつに採用している点です。TAS-118は、胃癌の標準治療薬であるテガフールにフルオロウラシルの抗腫瘍効果を高めるロイコボリンカルシウムを加えた配合薬であり、TS-1よりも治療効果が高いことが期待されます。さらにTAS-118にオキサリプラチンをくわえる化学療法もより強力な治療法と考えられますが、これらの治療が周術期にどのような影響を及ぼすのかまだ分かっていません。このため本治験は、切除可能な胃癌症例を対象に術前のTAS-118/オキサリプラチン療法術後のTAS-118>療法またはTAS-118/オキサリプラチン療法の効果と安全性を確認することを目的としています。

本治験は当院、国立がん研究センター中央病院、聖マリアンナ医科大学附属病院の3病院で、最大45人の患者さんに参加して頂く予定で2016年11月から実施中です。

(消化器化学療法科医長 高張 大亮)

 

胃がんカンファレンスの様子

化学療法科、内視鏡科、外科が集まり、週一回全症例を検討しています。

Dr.平澤の内視鏡クイズ

50歳代 男性、 既往なし
近医で多発胃腫瘍を指摘され紹介となった。

Q: 胃炎の状態および多発胃腫瘍の診断を考えてください。

A: A型胃炎を背景とする多発カルチノイド腫瘍

  • 胃底腺に対する自己抗体(抗胃壁細胞抗体、抗内因子抗体)による胃底腺の破壊により、胃体部は強い萎縮をきたす
  • 幽門腺に対する自己抗体はないため、前庭部には萎縮はない。
  • 体部の萎縮により胃酸分泌低下をきたし、フィードバック機序により幽門腺領域のG細胞が過形成をきたし、ガストリンが過剰に分泌される
  • ガストリンの刺激により胃底腺領域の内分泌細胞(ECL細胞)が過形成をきたし、さらに 集簇すると内分泌細胞微小胞巣(Endocrine cell micronest, ECM)となり、これが腫瘍化し  カルチノイド腫瘍となる。

最近のトピックス:臨床研究のご紹介

【進行胃癌に対する腹腔鏡下胃切除術】

胃切除術では、腫瘍から十分離れた部位で胃を切離する必要があります。しかし腹腔鏡手術では、開腹手術と異なり胃に直接触れて腫瘍の範囲を確認し、切離線を決めることができません。進行した大きな腫瘍では、さらに注意が必要です。そこで当院では、進行胃癌において腹腔鏡でも開腹と同様に腫瘍からの距離を確保できるかを検証する臨床試験を行っています。

術前日までに内視鏡を用いて胃の切離予定部にクリップで目印をつけておきます。術中内視鏡で腫瘍とマーキングクリップの距離を最終確認したのち、胃切離を行います。さらに術中迅速病理診断を行い、切離断端に癌細胞が存在しないことを確認します。このような工夫を全例に行うことで進行癌に対しても安全な胃切除が可能になっています。

胃外科スタッフ紹介

平成30年度の胃外科はスタッフ7名、レジデント11名の計18名で診療に当たっております。

スタッフ

レジデント
(上段左から) 李,田島,大竹,大橋(拓),磯崎,西,高橋
(下段左から) 加納,新垣,庄司,八木

このページのTOPへ