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診療科・部門紹介
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胃外科

胃外科

最終更新日 : 2022年4月26日

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※ こちらのページは医療機関向けとなりますが、一般の方もご覧いただけます。 


がん研有明病院・胃がんグループは、
コロナに負けないがん医療を貫徹します!

病院長よりごあいさつ

皆様、こんにちは。病院長の佐野です。

私はずっと胃がんの外科ひとすじでやってきまして、国立がんセンター中央病院で15年間、がん研有明病院で14年間、皆様からご紹介いただいた大勢の患者さんを手術して参りました。ここ数年は病院長としてコロナ対策に奔走していてすっかり手術からは遠ざかっておりますが、なにしろ今の胃がん手術はどんどん近代化、低侵襲化しており、古い私の出る幕はもうなくなりつつあります。最近は、「専門は?」と問われると、「新型コロナ感染症対策です」と答えるしまつです。

コロナには本当に参りました。幸いがん研有明病院内には充実した感染症専門チームがあって、がん患者さんの感染性合併症の治療に当たっていましたので、このチームが中心となって的確な対策を打つことができ、患者さんと職員をコロナから守りながら今日に至っています。

それにしてもがん診療に対するコロナの影響は甚大で、がん検診や医療機関の受診抑制のためにがんの発見数が大きく減りました。全国がんセンター協議会が集計した「院内がん登録」の全国集計では、2019年に比べて2020年の新規登録数が平均4.6%減少しています。都市部の大規模専門病院ほど影響が大きく、がん研有明病院では16%も減りました。特に内視鏡検査数の激減から、胃がんの減少が顕著です。グラフは当院の胃腺癌の手術件数の推移ですが、2019年から20年にかけて30%減りました。病理学的ステージでは、IA(リンパ節転移のない、粘膜下層までの胃がん:棒グラフ内の最下段)の手術数が半減しています。2021年は少し戻りましたが、まだまだです。

心配なのは、本来なら検診や外来検査で見つかったはずの早期胃がんが、今も見つからずに少しずつ大きくなっているであろうことで、これから数年の間に次々と姿を現すのではないかと思います。ご存知のように、胃がんは発見が早ければ早いほど小さい治療で治ります。これができないのは本当にもったいない。悔しいです。

私たちはこれからもがんの早期発見の重要性を訴え続けるつもりです。がん研有明病院胃がんグループは、コロナに負けないがん医療を貫徹します。  

(病院長 佐野 武)

薬物療法に関する最近の話題

2021年11月25日にニボルマブの保険適用拡大が認められ、胃癌学会からもガイドライン速報版が発表されました。これにより、未治療HER2陰性切除不能進行・再発胃がんの1次化学療法の標準治療は、フッ化ピリミジン+オキサリプラチンとニボルマブの併用療法になりました。1次治療の枠組みが変わるのは、2010年のトラスツヅマブ登場以来で、胃がん薬物治療開発の歴史においては意義深いことです。日韓台で行われたATTRACTION-4試験ではニボルマブ併用によるOSの延長がみられなかったものの、PFSには有意な延長を認め、本邦でどのような承認要件となるか注目されておりました。欧米ではPD-L1低発現(CPS<5%)では推奨されていませんが、本邦ではPD-L1の発現に関わらず使用可能となりました。PD-L1測定はComplementary diagnosisとして推奨され、保険が適用されます。がん研有明病院では、できるだけ多くの患者さんに新しい治療の恩恵を届けられるように原則ニボルマブ併用療法を検討しますが、有害事象の発現割合が10%程度増えるなどのデメリットも考慮して、個々の患者さんに最適な治療選択を提案しております。PD-L1測定も積極的に行い、診断の一助とすると共に将来のより良い治療開発に役立つ研究も推進しています。

(消化器化学療法科 中山 厳馬)

PERICANの取り組み: 歯科のご紹介

がん治療の内容や患者さんの状態等によっては、歯科的な介入による口腔管理の必要性が高まります。胃がん治療に関して、当院歯科は、全身麻酔下の手術に伴う感染性の合併症の頻度を下げ、薬物療法などで生じる口腔に関連した有害事象に対処することを主たる目的として、がん治療の口腔支持療法を担当しています。

手術前には、術後の誤嚥性肺炎のリスクを低減させるため、患者さんの歯垢や歯石を除去して口腔衛生環境を整えます(図1)。ただし、何らかの理由で唾液分泌や嚥下機能が低下すると口腔の自浄作用は下がり、唾液中の細菌数は急増します。したがって、術後の絶飲食期間も念頭に、口腔内の保湿、かみ合わせの維持についても対応しています(図2)。 

また、全身麻酔時の歯のトラブル(歯の破折、脱臼)予防にも注意を払っています。

図1.歯石除去
歯石は口腔常在菌が増殖するための足場になります
図2.義歯によるかみ合わせ回復
不安定なかみ合わせのままでは、誤嚥のリスクが上がります

(歯科 富塚 健)

Dr.平澤

Dr.平澤の内視鏡クイズ

Q: この症例のピロリ感染は? 白色の粘液は何?
A: ピロリ感染状況⇒未感染 
    白色粘液⇒ボノプラザンの内服による粘液

【解説】
前庭部、胃体部に萎縮の所見はなく、胃角でRACを認めることから、ピロリ未感染を疑うが、体部、穹隆部に存在する粘液が、ピロリ現感染の所見である白濁粘液ではないかと迷ってしまう。しかし、この症例の粘液は、白濁粘液のような汚い感じではなく、白色調でやや透明感がある。このような粘液はボノプラザンを内服している症例でよく経験する。洗浄しても除去が困難であり、クモの巣様の外観であることから”web like mucus”と報告されている*。なお、粘液が発生する機序に関しては不明である。
* Gastroenterological Endoscopy vol.61 suppl.2 2016

比較
比較!ピロリ現感染の白濁粘液
ピロリ現感染の白濁粘液は、混濁した汚い感じの粘液である。また、背景にびまん性発赤を認めることから、タケキャブ®内服による粘液と鑑別することができる。
ボノプラザン内服により
クモの巣様の粘液が出現することがある!

がん研有明病院 消化器外科座談会の動画を公開しています

がん研消化器外科は食道外科・胃外科・大腸外科・肝胆膵外科で構成されています。全手術症例は各診療科で検討された後、週2回開かれる消化器外科全体カンファレンスでさらに討議された上で手術に臨む体制をとっています。この度、医療者を対象に病院長・消化器外科各診療科部長による座談会の動画を作成しました。動画はYouTubeで閲覧出来ます。
(https://www.youtube.com/watch?v=Ns6LTRDWS8k)

胃粘膜下腫瘍に対する治療

当院では、胃GISTをはじめとする胃粘膜下腫瘍 (SMT) に対する手術を積極的に行っております。なかでも、胃SMTに対する低侵襲手術として行っている腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS: Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)は当院で開発された胃切離を最小限にすることができる手術方法です (文献1, 図1)。
コロナ禍での検診利用者の低下により、無症状の胃SMTの患者数は減少しており、手術件数は伸び悩んではいますが (図2)、今後も個々の症例において必要最小限の胃切除範囲・変形ですむ、より安全で低侵襲な手術を追及し、患者さんの人生に優しい手術を模索しつづけてまいります。

文献1)Hiki et al. Laparoscopic and endoscopic cooperative surgery for gastrointestinal stromal tumor dissection. Surg Endosc. 2008;22(7):1729-35.

図1.腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)
図2.胃粘膜下腫瘍の手術件数

(胃外科 原田宏輝)